エルソル飛脚ブログ ~Run 4 Fun~

四万十川周辺をチョロチョロしている飛脚の記録です。

エルソル大阪物語■48■「出張散髪」

2018年01月27日 | エルソル大阪物語

■48■

「出張散髪をお願いしてもいいでしょうか~?」
電話の向こうの若い女性看護師の声に思わず顔がほころびます。

お店の近くに大きな病院があり、ときどき出張理容に行きました。

「電話を受けた人が行く」きまりになっていて、
紙袋に散髪道具を入れて出発します。

「大阪〇生病院」は7階建の大きな病院でした。
3階から上にはたくさんの入院患者がいました。

半日かけて病院中を廻ります。

「3階」は整形外科のお客さんでした。
整形外科は「骨折」などしばらくの安静が必要な人達が退屈していて、
「待ってました」と言わんばかりに喋ります。
散髪は「処置室」と呼ばれる物置のようなところでやりました。
精神的には元気な人達で、散髪中も多くの笑いに包まれます。

「4階」は皮膚科のお客さんでした。
アトピーの重症患者の個室の前で、
看護師が専用エプロン・手袋・マスクと重装備で病室に入ります。
看護師「どうぞ」

 上田「え?僕に手袋とかは無いんですか?」

看護師「素手で大丈夫ですよ」

 上田「・・・」(じゃあお前は何や)

部屋に入るといきなり強い刺激臭に襲われ、体中がチクチクと反応しました。
患者さんは髪の毛も薬でネチョネチョとしていて、クシが全く通りません。
髪があると薬が塗れないそうで、仕方なく指で挟んで切る作業で出来るだけ頑張りました。

「5階」は婦人科のオバサンがお客さんでした。
オバ「ん~~ブルーアイ」
  「あなた神経質ね」

上田「・・・」(ただの寝不足や)

オバ「ん~~ウェーブヘアー」
  「あなたひとクセあるわね」

上田「・・・」(ただの天パーや)

「6階」は内科のお客さんでした。
前回来た時に糖尿の壊疽により片足を切断されたオジサンは、
既にもう片方を切断され、車椅子に乗っていました。

リュウマチがひどく、手がグニャグニャに曲がったお婆さんは、
自分で顔も洗うことができません。

ガン宣告されたオジサンは終始うつむき加減です。

「寝たきり」になったおじいさんは、
ベッドに乗り、上にまたがって散髪しました。

どの患者さんも長い入院生活の中、「散髪」は気休めになるようで、
「また来てよ」と寂しそうにいいました。

「7階」は特別病棟の個室でした。
会社の社長さん、ヤクザの組長、どこかの令嬢、
広~い部屋はワンルームマンションのようです。
若い綺麗な女性がお客さんでした。
長い黒髪をバッサリと肩くらいに切るのだそうです。
パジャマ姿の若い女性と2人きりの個室・・・、
イカン、イカン、雑念を消さねば・・

上田「では切りますね」

女性「お願いします」
  「もう長い髪に飽き飽きしてたんです」
  「思い切ってバッサリやっちゃってください!」

上田「僕は床屋ですけど、一気に30cmも切るのは初めてです」

女性「ふふふ、いいのよ、やっちゃって~」

順序通りの作業をたんたんと進めていました。
しだいに綺麗な女性は無口になり、背中を丸め、揺れはじめました。

女性「帰って・・」

上田「え?まだ途中ですけど・・」

女性「いいから帰って・・」

上田「・・・」(どうしたものか)

女性「早く帰りなさい!あなたの顔なんかもう二度と見たく無いわ!!」

立ち上がり、鬼の形相になりました。

道具を素早く紙袋に入れながらベッドのプレートに目をやりました。

「精神科」

お金ももらわず立ち去りました。(後日もらいました)

「大阪〇生病院」にはその後も何回も行きました。
「病院」というところは「いろんな病」の人達がいるのは当然で、
とてもいい経験・勉強になりました。


『理容ラッキー』での修行は、当初の予定の2年を過ぎようとしていました。

年の暮れ、
店のテレビの夕方のニュースで学校同期の『恐竜辻神』が逮捕されたのを知りました。

容疑は「売春斡旋」でした。

たいして驚きもしませんでした。

「理容ラッシー」での最後の冬を迎えていました。

■48■


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