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イリアーデの言霊

  ★心に浮かぶ想いのピースのひとかけら★

銀のレクイエム(2) セレムの離宮に眠る永遠の恋

2007年11月09日 09時11分15秒 | 小説

この世では結ばれない愛がある★KAREN文庫Mシリーズ★「ぼくとルシアンさまの絆はあのとき断ち切られてしまいました…」
 
愛が憎しみに、光が闇に。青年王ルシアンの寵愛を一身に受けていた小姓キラが、王の妹と関係をしたという誤解から、まっさかさまに転落しゆく運命を描いた哀感のメルヘン。

 ジオの新しい夜明けを告げる皇帝の婚姻の鐘が鳴り響くと書かれていますが、実際にはキラ・カムスの最初で最後の恋を引き裂き彼の命を19年目の春に断ち切った罪が終焉を齎すジオの黄昏を告げる葬儀の鐘です

 15歳ジオ帝国(或いは皇国)の帝位に就いた皇帝ルシアン・ゾルバ・レ・ソレル暴走するだけの猪であり思慮分別に欠けていて逸材とはお世辞にも言えないですね。ソレル皇家が世継ぎを得られずキラがそばに侍っている限りルシアンは女の肌に触れようとさえしない事実を危惧した重臣たちにキラを癌だと思わせた元凶は次代に皇家の血を繋ぐ責務を果たそうとしなかったルシアン自身であることは確かです。それ故に、キラ死に追いやってしまったのです。ところで、キラルシアンの想いはキラが追放された2年前の16歳の時までは《恋》であって《愛》ではありません。皮肉にも2人の想いが《愛》に成長したのは次の夏を望めぬ余命幾ばくも無い身となった心の臓を病むキラがジオに戻り、紆余曲折の末に2年前の事件が激情ゆえの誤解だとルシアンが知った時です。

 5年前17歳の誕生祝いにと13歳のキラ“おまえの操を貰おうか。”と寝所に召して契りを交わして以来、ルシアンは人目も憚らずキラをの肌を求め縁談を蹴散らしていた。自分は世継ぎをなす種馬ではないと、これ見よがしにキラの部屋に入り浸る日々が繰り返されるばかり!重臣たちが妾妃腹でも良いから世継ぎを…或いは正妃を娶る気にさせようと異性であり子を産める女を伽(とぎ)にと差し出しても突っ返され、“このままでは代々直系の男子をもって帝位を継ぐソレル皇家の血が絶える”と恐怖したのは無理もありません!僅かなりともクズの重臣どもにも同情の余地がありそうです。如何に節度を持ってルシアンに尽くすとはいえ、やはり誰にも嫁ぐことなくキラに父が誰かを告げずに死んだ母アーシアが元凶ゆえの何処の馬の骨とも知れぬ輩と後ろ指さされルシアン以外に寄る辺無き我が身ゆえに恋に溺れていることに違いはないキラですが、ルシアンが聞く耳持たないだろうけれどお世継ぎをと心を切り裂かれるような痛みを堪えてでもキラは告げるべきでした。しかし、まだ10代のルシアンに口煩く“お世継を”と吠え立てる重臣たちはどうかしている。もっと先でも良いのに、年寄りはせっかちだ。

 ジオの皇帝はすげ替えが出来るけれど、皇帝である前にルシアンという一人の人間は唯一無二です。皇帝である前に一人の男なのに、サマラルシアンさまはひとりの青年(おとこ)である前に、ジオの帝王でもあられるのだ。そのどちらが重きをなすのかと問われれば、我らは、ためらいもなく“帝王”としてのルシアンさまだと答えるだろう。ジオの帝王の座は唯一無二だが、愛情の対象などいくらでもすげ替えがきく……そう思ったからだ。我らジオの臣下にとって、おまえは、まさに目の上のコブだったのだ、キラ……。しかしな、我らはそのことのみに汲々(きゅうきゅう)とするあまり、無理やりねじ曲げたものは、いつか、どこかで亀裂が生ずるものだと、気付きもしなかったのだ。いや、憎しみも心の傷も、時が立てば癒えるものだと、そう、たかをくくっていたのかもしれぬ。”自分を裏切ったと思い込んで目を覆うばかりの拷問を繰り返し背を切り裂いて2度と人目に晒せぬ傷を刻んだルシアンの誤解を事実だと思い込ませたままにしたことが間違いだと罪を犯した2年後になって罪の重さを悟ったのかと思えば自分たちが罪を償うべき相手である被害者のキラにジオから出て行ってくれと金を渡そうとするなんて腐っています、この男は。深夜、皇妹イリスと一緒にいただけで不義密通をしでかし、キラが自分を裏切った と思い込んだルシアンが一番悪いのですが。

 キラルシアンの魂の半身であり、ルシアンキラを失って生きていける人間ではありません。生涯ただ一度の恋さえ自ら壊してしまうほどに激しくも脆く弱い男だからキラの死を葬り去り、キラは生きていると思い込んでしまうラストには、そうでなくては死んだキラが単なる被害者にされてしまうから良かったと思います。健常体の女というだけで誰に憚ることなく皇后となり世継の男子を成すことが出来るのだと優越感に溺れルシアンの永遠となったキラをこえられるとふんぞり返るルシアンの正妃マイラが我が世の春を謳歌するのは束の間であり、それが自惚れゆえの錯覚でしかないと悟るのはすぐです!世継ぎが生まれたらルシアンはセレムの離宮に籠り“キラ”と2人だけで愛に生きていくでしょうから…そして、ジオは滅ぶのです。

 画像は、不細工な絵のKAREN文庫Mシリーズの『銀の鎮魂歌(レクイエム)』です。ドラマCD脚本も収録されていますが、絵に問題あり 同じ波津彬子さんの描いた絵なのに、角川ルビー文庫のモノより『小説JUNE』掲載時の方が儚げで美しいキラが描かれていて、雲泥の差なのは謎です。



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