フリーターが語る渡り奉公人事情

ターミネイターにならないために--フリーターの本当の姿を知ってください!

派遣・請負のVDT作業--眼が壊される!

2006-08-25 22:47:02 | 現状
以前、関西のあるブランド企業の子会社で、VDT労働についたことがある。やはり、派遣会社から派遣されてのことだった。それも、数えてみたら全部で5重派遣だった。2ヶ月の契約だった。
そこでの仕事は、CCDカメラに使うムカデ型の半導体が正常に作動するかどうかを見分ける検品作業だった。
それを、労働論のなかではVD労働ということを、労働運動関係者から知らされた。おそらく VDとはview disprayの略だろう。
また、公衆衛生学のテキストを見ると、VDT(ビジュアル・ディスプレイ・ターミナル)作業と記されていた。
ひとりで机の前に座り、1センチ四方かそれよりも小さな半導体を、機械にセットして、正常かそうでないかによりわけていく。未来学者のA・トフラーがかなり前に「セル生産方式」というのを紹介していた。第二の波の工業化社会では重厚長大におおがかりな装置を使って大人数でやっていた作業が、第三の波のコンピューター化社会では個人がひとつの工場のような仕事をやることになるだろうというものだ。おかしいことに、個人でやれる作業なのに、みなほとんど同じ時間に出勤して朝礼をやっている。制服もある。ひとりひとりばらばらに仕事場に出てきて、自分のペースで仕事をやってもよさそうなものなのに、そうしていない。
具体的に一時間でいくつ、といったノルマは示されない。教えてもらおうとすると、嫌がられるので聴かないことにする。だけど、もっと早くたくさんやれと一日に何度も正社員らからせかされる。

で、問題は作業のすすめかただ。わたしは9:00~15:30までのシフトだった。お昼に45分休憩があるほか、午前と午後に一回ずつ5-10分の小休憩がつく。単純作業ではよくある小休止で、パンフレットのおりこみ、封筒へのシールばり、宅急便の荷物運びなどで経験したことがある。

さて、公衆衛生のテキストにはなんと記されていたか。クイズ方式の国家試験のテストに出た問題を改編した形で、VDT労働による障害の予防対策を選ぶようになっている。
その解説によると、一定の指針がある。
ポイントをかいつまんで紹介しよう。
*1「・視力検査は、(中略)配置前健康診断・定期健康診断に含まれている。
・一連作業時間が一時間を越えないようにし、次の連続作業までの間に10~15分の作業休止時間を設けるよう配慮が必要。
・いすや机の高さが個人的に調節できるようにする。
・画面の輝度調節はVDT作業従事者が容易に調節できることが望ましい。」

これら4つの産業保険上の注意事項は、少なくとも自分の働いたその同族企業ーー華麗な閨閥を誇り、天皇家とも家レベルでのつながりがあるーーでは、ひとつも実施されてはいなかった。
長い期間その仕事についた人は、目を壊してその仕事ができないレベルにまでなっていた。その障害者はひとり、荷物を運ぶ部署に配置換えされていた。また、多重請け負い会社から事情を説明されずにつれてこられる若い労働者は、あまりの目のいたさ、それに周囲の正社員の冷たさに耐えられず、1日2日でやめるものが後を絶たないのだ。もし他に仕事のない状態でなかったなら、わたしだって一ヶ月もつとめられなかったと思う。
自分も、ものを見るだけで目が痛くてかなわなくて、神経が破壊されたような尋常でない疲労を味わった。また、痛みが治まった時期には、モノがいつもの1.5倍とか2倍に見えた。もののサイズや遠近感がつかめない状態になっていた。眼医者に相談しても、疲れ目の目薬を処方して、「どんな仕事にもつらいことくらいあるがな」と家父長的な温情主義によって、半分怒鳴るように説教をたれるだけだった。その目薬も、職場の休憩時間に指していると、白い目で見られた。リストラの口実にされても困るので、トイレでこっそり指すようになった。
なお、あるオルタナティブ塾の塾長にこのことを報告・相談すると、「ワタリさんはもうダメな人だから」と嘲笑していた。別のフリースクール主催者に相談してみると、「自立心がないから」「親をはじめすべてのものに感謝しないから」と責められ、精神的価値を破壊し物質的利益のみを追い求める労働組合などに一切かかわらないようにとの助言をいただいた。また、本を読むのをやめるようにとも言われた。
やっと失業から抜け出せた安心感がすべて吹っ飛ぶような、生きているのがイヤになるような作業だった。なるほど、一日や二日でやめる人がいるわけだ。一週間でやめる人もいるはずだ。

たった一日で逃げるように会社を辞めてゆく人が当たり前だということをある労働組合アクテイヴィストに話した。すると、「それは無理もない。ある意味健全な反応だと思いますよ」とコメントをいただいた。読者はどうお考えだろうか?

若い世代に必要なのは、合宿や根性きたえなおしではない。力動精神医学でもない。
適切な仕事、適切な労務管理、産業医の助言、素人の学び。それらが真に必要なものではないだろうか?


*1 「QUESTION BANK 保険医療論・公衆衛生学 1998年度版」国試対策問題集委員会 MEDIC MEDIA 1997 375P



お断り 2006/8/31 誤解を受けやすい箇所にわずかに訂正を入れました。大意に変わりありません。

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自動車工場への派遣

2006-08-25 21:01:15 | 現状
大阪北部のある派遣・請負会社から派遣先企業に送られて、自動車の部品の溶接にたずさわった20代男性から話をうかがった。
彼は自分でも聞きとりをすすめており、相互取材になった。
そこで知らされたのは、人間を犠牲にして進んでいく科学技術と産業の姿だった。
同時に、そこにこそ人間工学のフロンティアが開けている。
くつづれしない安全靴、人にばね指を起こさないで操作できる溶接ロボットの開発が待たれる。
労働者をいたぶらない技術が求められているのだ。

また、若い世代に必要なのは軍隊型の共同生活や道徳的な説教やカウンセリングではないことも、彼の話から明らかだ。それよりも適当な休憩が必要なのだ。いや、こうした労働は、すべての人間にとって過酷で不適切と言えるのではないだろうか? こうした現場ラインでの人間の使い捨てをはじめから組み込んだ自動車というものを、これ以上作る必要はあるのか? もしも人が手を切ったり、老後耳なりに悩まされたりするリスクの低い、振動が小さくて体を痛めにくい自動車製造装置ができたとしたら、採算にあわないのだろうか?

科学技術は、20世紀に大きく進歩をとげた。テイラーの「科学的管理法」、フォードのコンベア・システム採用、さらに電子兵器の開発、フェルミによる原子炉の設計、広島・長崎の原爆。
その流れを見ていれば、どこかで人類は、自分たちが作ってはいけないものを作り、普及させたとしか思えない。人類の一部を犠牲にし、他の一部を豊かにして栄えさせる点では、戦争のための兵器も、自動車絶望工場も同じ構図を描くのだから。

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2000年代なかば。スポット・バイトを主にうけおう派遣会社に登録した青年Aは、2ヶ月の契約を結んだ。「大変そうな仕事だけれど、それくらいなら耐えられるかな?」と思って契約書にサインしたのだ。

派遣先は、とある同族経営の会社の子会社だった。そこではだいたい10代おわり~40台くらいまでの男女が働いている。
まず仕事場に入るための装備が重い。建築現場用ヘルメットを頭にかぶる。ゴーグルもかける。これは、溶接のさい飛び散る高温の鉄粉から目を保護するためだ。耳栓もする。これがなければ老後、耳なりに悩むことになるという。いったい何ヘルツの騒音なのか。つなぎの作業服の上には厚手のコットン製のエプロンを着用。腕には厚手のコットン製の小手をまく。手は軍手を二重にしてはめる。さらに足元には安全靴だ。「ひたすら重く、靴ズレの元」だという。「だけど機能はちゃんとはたしている」、ともAさんはつけくわえた。

これほどたくさんの“防具”を身につけてスポット溶接という作業に入るわけだ。
鋼板製の板状の部品を機械にくべる。運ぶときには、注意が必要だ。角度によっては手を切ってしまうからだ。それも、下手をすると二重にしてはめた軍手の上からでも手を切ってしまうことがあるという。
二つ以上の部品を、上と下から挟み撃ちのようにして、溶接をすすめていくのだ。そのほか部品にはゴム板もあるとか。少しの空き時間には、ヤスリがけや機械のメンテナンスも入る。そのため、お昼の45分休憩のほか、午前に1度、午後に1-2度ある5-10分の小休憩時間のほとんどがないに等しい。

LEAN生産方式といって、ムダをそぎ落とす方法が職場を支配する。もち時間はタクト・タイムと呼ばれている。Aさんの場合、3分20秒で14-16種の作業をこなさねばならなかった。
この仕事の“キモ”は、Aさんの言葉によると、「資格なしで使える。けれど危険」だ。資格というものの性質について考えさせられる。今の日本の資格の場合、それほど大変ではない仕事にハクをつけたり、教育資金のない層を排除する機能のほうが大きいのかもしれない。かつてわたしが派遣・請負から送り込まれた別の同族会社の子会社でも、「どうしてこういう危ない作業を、資格も研修もなくやっているの?」という例はあった(くわしくはちかぢか別の記事で)。そのへんのところがどうなっているかはこれから改めて調べてゆきたい。
そこではかなりの数の人たちが、二重の軍手をはめた手でボタンを押すだけの作業をやっている。その作業を2-3日も続けると、さっそく「ばね指」にかかってしまう。経験的に言っておおむね仕事をやめてから2-3日でその症状はとれるとAさんは言う。
その職場では、何よりも長時間労働で体を壊す人が多いともAさんは言っていた。
「うわあ、これ、キツイ仕事だねー。それでも、よく2ヶ月も持ちましたね」とわたしは驚いて見せた。そうすると、こんな答えがかえってきた。
「自分が2ヶ月間も続けられたのは、運がよかったから。たまたまタイミングの関係で機械のメンテナンスをやらずにすんだ。なので他の人よりも少しでも多く休憩をとれたからですよ。」「もしそうでなかったら、とても2ヶ月も勤めるなんてムリだったと思う。」


その後、Aさんとわたしは連れ立って、近くにある大型書店に入った。お互いに、労働・失業・ならびにファシズムに関する本に関心が高い。互いに重要と思える書物を紹介しあい、「この本が○○図書館に入っている」「この人(著者)はどちらかといえば右(左)」などと刺激的なおしゃべりをして楽しい時をすごした。
彼が今仕事に入ることの多い請負・派遣の会社ーー以前わたしもそこで働いたことがあるーーでは、マスコミの偽装請負バッシングについてどう対処しているか、聞いてみた。「会社は大した処置はとってませんよ」というのが答えだった。「やっぱり。アルバイトだから、若いからってナメているんだね」とわたしは答えた。
Aさんは無言でうなずいた。

当ブログ内関連記事 自動車工場への派遣シリーズ

派遣のバス発着場
寮ーーこの辺鄙なところ


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