以前、関西のあるブランド企業の子会社で、VDT労働についたことがある。やはり、派遣会社から派遣されてのことだった。それも、数えてみたら全部で5重派遣だった。2ヶ月の契約だった。
そこでの仕事は、CCDカメラに使うムカデ型の半導体が正常に作動するかどうかを見分ける検品作業だった。
それを、労働論のなかではVD労働ということを、労働運動関係者から知らされた。おそらく VDとはview disprayの略だろう。
また、公衆衛生学のテキストを見ると、VDT(ビジュアル・ディスプレイ・ターミナル)作業と記されていた。
ひとりで机の前に座り、1センチ四方かそれよりも小さな半導体を、機械にセットして、正常かそうでないかによりわけていく。未来学者のA・トフラーがかなり前に「セル生産方式」というのを紹介していた。第二の波の工業化社会では重厚長大におおがかりな装置を使って大人数でやっていた作業が、第三の波のコンピューター化社会では個人がひとつの工場のような仕事をやることになるだろうというものだ。おかしいことに、個人でやれる作業なのに、みなほとんど同じ時間に出勤して朝礼をやっている。制服もある。ひとりひとりばらばらに仕事場に出てきて、自分のペースで仕事をやってもよさそうなものなのに、そうしていない。
具体的に一時間でいくつ、といったノルマは示されない。教えてもらおうとすると、嫌がられるので聴かないことにする。だけど、もっと早くたくさんやれと一日に何度も正社員らからせかされる。
で、問題は作業のすすめかただ。わたしは9:00~15:30までのシフトだった。お昼に45分休憩があるほか、午前と午後に一回ずつ5-10分の小休憩がつく。単純作業ではよくある小休止で、パンフレットのおりこみ、封筒へのシールばり、宅急便の荷物運びなどで経験したことがある。
さて、公衆衛生のテキストにはなんと記されていたか。クイズ方式の国家試験のテストに出た問題を改編した形で、VDT労働による障害の予防対策を選ぶようになっている。
その解説によると、一定の指針がある。
ポイントをかいつまんで紹介しよう。
*1「・視力検査は、(中略)配置前健康診断・定期健康診断に含まれている。
・一連作業時間が一時間を越えないようにし、次の連続作業までの間に10~15分の作業休止時間を設けるよう配慮が必要。
・いすや机の高さが個人的に調節できるようにする。
・画面の輝度調節はVDT作業従事者が容易に調節できることが望ましい。」
これら4つの産業保険上の注意事項は、少なくとも自分の働いたその同族企業ーー華麗な閨閥を誇り、天皇家とも家レベルでのつながりがあるーーでは、ひとつも実施されてはいなかった。
長い期間その仕事についた人は、目を壊してその仕事ができないレベルにまでなっていた。その障害者はひとり、荷物を運ぶ部署に配置換えされていた。また、多重請け負い会社から事情を説明されずにつれてこられる若い労働者は、あまりの目のいたさ、それに周囲の正社員の冷たさに耐えられず、1日2日でやめるものが後を絶たないのだ。もし他に仕事のない状態でなかったなら、わたしだって一ヶ月もつとめられなかったと思う。
自分も、ものを見るだけで目が痛くてかなわなくて、神経が破壊されたような尋常でない疲労を味わった。また、痛みが治まった時期には、モノがいつもの1.5倍とか2倍に見えた。もののサイズや遠近感がつかめない状態になっていた。眼医者に相談しても、疲れ目の目薬を処方して、「どんな仕事にもつらいことくらいあるがな」と家父長的な温情主義によって、半分怒鳴るように説教をたれるだけだった。その目薬も、職場の休憩時間に指していると、白い目で見られた。リストラの口実にされても困るので、トイレでこっそり指すようになった。
なお、あるオルタナティブ塾の塾長にこのことを報告・相談すると、「ワタリさんはもうダメな人だから」と嘲笑していた。別のフリースクール主催者に相談してみると、「自立心がないから」「親をはじめすべてのものに感謝しないから」と責められ、精神的価値を破壊し物質的利益のみを追い求める労働組合などに一切かかわらないようにとの助言をいただいた。また、本を読むのをやめるようにとも言われた。
やっと失業から抜け出せた安心感がすべて吹っ飛ぶような、生きているのがイヤになるような作業だった。なるほど、一日や二日でやめる人がいるわけだ。一週間でやめる人もいるはずだ。
たった一日で逃げるように会社を辞めてゆく人が当たり前だということをある労働組合アクテイヴィストに話した。すると、「それは無理もない。ある意味健全な反応だと思いますよ」とコメントをいただいた。読者はどうお考えだろうか?
若い世代に必要なのは、合宿や根性きたえなおしではない。力動精神医学でもない。
適切な仕事、適切な労務管理、産業医の助言、素人の学び。それらが真に必要なものではないだろうか?
*1 「QUESTION BANK 保険医療論・公衆衛生学 1998年度版」国試対策問題集委員会 MEDIC MEDIA 1997 375P
お断り 2006/8/31 誤解を受けやすい箇所にわずかに訂正を入れました。大意に変わりありません。
トラックバック用URL:http://d.hatena.ne.jp/a_katu/20061207
そこでの仕事は、CCDカメラに使うムカデ型の半導体が正常に作動するかどうかを見分ける検品作業だった。
それを、労働論のなかではVD労働ということを、労働運動関係者から知らされた。おそらく VDとはview disprayの略だろう。
また、公衆衛生学のテキストを見ると、VDT(ビジュアル・ディスプレイ・ターミナル)作業と記されていた。
ひとりで机の前に座り、1センチ四方かそれよりも小さな半導体を、機械にセットして、正常かそうでないかによりわけていく。未来学者のA・トフラーがかなり前に「セル生産方式」というのを紹介していた。第二の波の工業化社会では重厚長大におおがかりな装置を使って大人数でやっていた作業が、第三の波のコンピューター化社会では個人がひとつの工場のような仕事をやることになるだろうというものだ。おかしいことに、個人でやれる作業なのに、みなほとんど同じ時間に出勤して朝礼をやっている。制服もある。ひとりひとりばらばらに仕事場に出てきて、自分のペースで仕事をやってもよさそうなものなのに、そうしていない。
具体的に一時間でいくつ、といったノルマは示されない。教えてもらおうとすると、嫌がられるので聴かないことにする。だけど、もっと早くたくさんやれと一日に何度も正社員らからせかされる。
で、問題は作業のすすめかただ。わたしは9:00~15:30までのシフトだった。お昼に45分休憩があるほか、午前と午後に一回ずつ5-10分の小休憩がつく。単純作業ではよくある小休止で、パンフレットのおりこみ、封筒へのシールばり、宅急便の荷物運びなどで経験したことがある。
さて、公衆衛生のテキストにはなんと記されていたか。クイズ方式の国家試験のテストに出た問題を改編した形で、VDT労働による障害の予防対策を選ぶようになっている。
その解説によると、一定の指針がある。
ポイントをかいつまんで紹介しよう。
*1「・視力検査は、(中略)配置前健康診断・定期健康診断に含まれている。
・一連作業時間が一時間を越えないようにし、次の連続作業までの間に10~15分の作業休止時間を設けるよう配慮が必要。
・いすや机の高さが個人的に調節できるようにする。
・画面の輝度調節はVDT作業従事者が容易に調節できることが望ましい。」
これら4つの産業保険上の注意事項は、少なくとも自分の働いたその同族企業ーー華麗な閨閥を誇り、天皇家とも家レベルでのつながりがあるーーでは、ひとつも実施されてはいなかった。
長い期間その仕事についた人は、目を壊してその仕事ができないレベルにまでなっていた。その障害者はひとり、荷物を運ぶ部署に配置換えされていた。また、多重請け負い会社から事情を説明されずにつれてこられる若い労働者は、あまりの目のいたさ、それに周囲の正社員の冷たさに耐えられず、1日2日でやめるものが後を絶たないのだ。もし他に仕事のない状態でなかったなら、わたしだって一ヶ月もつとめられなかったと思う。
自分も、ものを見るだけで目が痛くてかなわなくて、神経が破壊されたような尋常でない疲労を味わった。また、痛みが治まった時期には、モノがいつもの1.5倍とか2倍に見えた。もののサイズや遠近感がつかめない状態になっていた。眼医者に相談しても、疲れ目の目薬を処方して、「どんな仕事にもつらいことくらいあるがな」と家父長的な温情主義によって、半分怒鳴るように説教をたれるだけだった。その目薬も、職場の休憩時間に指していると、白い目で見られた。リストラの口実にされても困るので、トイレでこっそり指すようになった。
なお、あるオルタナティブ塾の塾長にこのことを報告・相談すると、「ワタリさんはもうダメな人だから」と嘲笑していた。別のフリースクール主催者に相談してみると、「自立心がないから」「親をはじめすべてのものに感謝しないから」と責められ、精神的価値を破壊し物質的利益のみを追い求める労働組合などに一切かかわらないようにとの助言をいただいた。また、本を読むのをやめるようにとも言われた。
やっと失業から抜け出せた安心感がすべて吹っ飛ぶような、生きているのがイヤになるような作業だった。なるほど、一日や二日でやめる人がいるわけだ。一週間でやめる人もいるはずだ。
たった一日で逃げるように会社を辞めてゆく人が当たり前だということをある労働組合アクテイヴィストに話した。すると、「それは無理もない。ある意味健全な反応だと思いますよ」とコメントをいただいた。読者はどうお考えだろうか?
若い世代に必要なのは、合宿や根性きたえなおしではない。力動精神医学でもない。
適切な仕事、適切な労務管理、産業医の助言、素人の学び。それらが真に必要なものではないだろうか?
*1 「QUESTION BANK 保険医療論・公衆衛生学 1998年度版」国試対策問題集委員会 MEDIC MEDIA 1997 375P
お断り 2006/8/31 誤解を受けやすい箇所にわずかに訂正を入れました。大意に変わりありません。
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