幸せに生きる(笑顔のレシピ) & ロゴセラピー 

幸せに生きるには幸せな考え方をすること 笑顔のレシピは自分が創ることだと思います。笑顔が周りを幸せにし自分も幸せに!

「いのちのそばで 野の花診療所からの最終便」徳永進著 ”最後を迎える人間模様”

2024-07-09 04:08:38 | 本の紹介
・どうしよう
「キスしていいですか?」
ドキッとした。7号室、個室。患者さんは73歳の女性、末期。シングルで通された。この診療所のことは20年も前から知っていて、ボランティアで来たこともある、とおっしゃっていた。診察が済んで病室を出ようとした矢先のひと言だった。臨床にはいろんなことが起こる。思いがけないこと、うれしいこと、悲しいこと、申し訳ないこと腹立つこと。そういう場だ、と十分理解しているつもりだったが虚をつかれた。受け止めないといけない場前か、いやそれだけは断るべきか。・・・
 「夫も子どももいませんし、キスしていいですか?」。さあどうしよう。額なら、いや頬なら、いやどこでもと答えようか。彼女は病名も病状も知っている。にもかかわらず明るい。廊下の遠くでナースの声がする。「キスしていいですか?」。決心すべきだ。一歩ベッドに近づいたとき、彼女が乾いていた唇を舌で潤し、音量を上げてもう一度言った。「キフしていいですか? 何かのお役に」「えっ? キフ?」。このごろ耳が少し遠くなってきた。

・赤コーナー
 米子市の大学病院から16歳の高校生が紹介になった。5年前からの治療も限界を迎え、地元で緩和ケアを受ける時期、とあった。歩けない、立てない、しゃべれる、食べられる。呼吸が時々苦しくなる。アパートへ往診するとWebで授業を受けていた。学校も力を入れている。こちらもがんばらねば。そうだお風呂。アパートのお風呂は狭いしシャワーも一苦労。診療所の車で送迎し、寝たまま湯船につかれる風呂に入ろう。
 3月上旬の夜の10時、訪問看護師から電話。「息苦しさを訴えられます。お母さんも不安そう」。救急車で診療所に入院してもらった。点滴とO2吸入で落ち着いた。「助かりました」とお母さん。翌日の回診。「知人からもらった」とお母さんがプロレスのチケットを見せる。「無理かも、お母さん」と彼。この状況でプロレス?マジ?と思った。その日が来た。「生きたいです」と彼。携帯用のO2ボンベに点滴セットを車椅子に取り憑け出発。ぼくは一足先に会場の体育館の受付に白衣でかけつける。「分かりました、その子のためにドクターとナースに無料チケット2枚、どうぞ」とマネジャー。同時に彼とお母さんを乗せた車が会場に着いた。担当の若い男性看護師もぼくも、生のプロレスは初めて。音楽もガンガン、司会者の声も甲高い。「赤コーナー、〇△×、青コーナー、×△〇」。一組3人の闘い。身体と体がぶつかる。歓声が上がる。「ワン、ツウ、ス・・・」、タッチで交代。迫力ある。彼も笑っている。ぼくは途中で診療所に呼び戻される。
 翌日の回診。「よかった!」と彼とお母さんうれしそう。選手たちとは彼と握手してくれ、試合後全員が彼を取り囲んで記念の写真を撮ってくれていた。緩和ケアの一端にプロレスもあうんだと初めて知った。

感想
 自宅で最期を迎えたい。
そのためには自宅での医療を支える医師や看護師など、そして悪くなると診療所で入院などの対応。
 まさにそんな診療所での人と人とのエピソードが紹介されています。

 自分が最後を迎えるのは自分は初めてになります、多くの人のことを知ることで、自分は最後をどう迎えるか、どのような態度で過ごすか、ヒントをたくさん与えてくれる一冊です。