制度改正Watch

自立支援法・後期高齢者医療制度の「廃止」に伴う混乱を防ぐために

年金照合の経費789億円を減額、照合件数を約2億件に引き下げ

2009年12月14日 09時58分19秒 | 情報化・IT化
概算要求が始まるまで、「宙に浮いた年金記録問題」の解決は、年金への不安を解消するための国家プロジェクトであり、これからの2年間を集中的に取り組む期間と位置づけていた。マニフェストに掲げたことなので、これまで「聖域」のように別枠で扱われてきたが、財源確保のためにはそうも言っていられなくなったようである。

旧政権下で厚生労働省は、年金記録の照合には、「7000人を投入しても10年はかかる」と説明してきた。それに対して、長妻大臣は、これからの2年間で集中的に取り組む。4年後には全件の照合を完了する方針を打ち出し、そのために必要な予算を優先的に注ぎ込む(当初は、プロジェクト全体で2000億円)と説明してきた。
財政状況がこれだけ苦しくなると、何かに取り組むならば、別の何かを諦めなければならない。このブログにそのように書いたのは数日前のことである。

長妻大臣は、次年度の概算要求に盛り込んだ経費789億円について「減る可能性がある」と述べ、これからの2年間の照合件数の目標を6億件から2億件程度に引き下げ、年金を受給中の世代に絞り込んで実施するなどの新たな方針を打ち出した。具体的には、取り組みの初年度は、70歳以上の国民年金受給者の約4000万件。その次の年度に1億数千万件に増やして対応。残る約6億件は、3年目以降に、必要性を判断して取り組むか否かを決めるとしている。
新聞各社が「後退」と表現しているが、政権与党として「現実的」になったともいえる。照合して確認しなければならない=ミスが多いと思われるケースと、それほどミスがないと思われるケースを区別せずに全件の照合に取り組むよりも、ミスが多いと思われるケースに絞り込んで取り組むほうが、投じた予算に対する成果を出しやすい。証拠(ミスがあった件数)を積み上げ、成果(回復した年金額と国民の安心)をアピールしていかないと、これだけの予算を投じた説明がつかない。

年金「4年で全件照合」断念、半分以下に後退
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20091212-OYT1T01229.htm

厚労相、年金照合経費の減額検討 10年度予算
http://www.47news.jp/CN/200912/CN2009121301000178.html


そもそも、コンピュータの記録と紙台帳の記録を照合するのは、国民の不安や不信を払拭するためである。
1件ずつ照合作業を進めると同時に、記録管理の実態を国民に知らせ、照合により回復したことを知らせる。ミスが多いと思われるケースから取り組み、国民から「予算を使って、もっと急いでほしい」という声が上がるのを待って事業=プロジェクトを拡大する。ほどほどのところでバランスをとって落ち着かせる(きちんと管理されていないのではないかという不安や不信を払拭できれば、所期の目的は達成される)のが現実的な進め方だろう。
社会保険庁や市町村の職員がコンピュータに記録を打ち込んでいた頃は、すべてにおいて「申請主義」が基本だった。コンピュータに打ち込んだデータに抜けがあったり、ミスがあったりすれば、年金受給開始の手続き時に本人が気づくだろう、本人から確認と修正の依頼=申請があれば直せばよい、という考え方である。今日でも「申請主義」は基本だが、あまりに杜撰な管理がなされていることが明らかになってからは、広く情報提供して申請があるまで待つという姿勢では駄目。社会保険庁から「ミスと思われるので確認してほしい」と情報を届け、指示を待つぐらいにしないと、国民の理解が得られないだろう。

国民年金、28万人に支給額ミスか サンプル調査
http://www.asahi.com/national/update/1211/TKY200912110476.html

市町村が国民年金の事務を行っていた頃の記録 1.4億件のうち、2159件のサンプルを抜き出して紙の台帳(市町村)と電子データ(社会保険庁)の不一致率が0.3%。単純推計すると、42万件のデータが間違えており、そのうち年金受給額が回復するのは、28万件ということになる。
これまで、市町村が管理していた国民年金よりも厚生年金のほうがミスが少ないだろうと思われてきた。サンプル調査では、不一致率は、1.4%。年金受給額が回復するのは、256万人(0.4%)と国民年金を上回るとのこと。少々意外だが、何となくわからなくもない。