京都童心の会

ほっこりあそぼ 京都洛西の俳句の会
代表 金澤 ひろあき
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宇治拾遺物語 亀を買ひて放つ事

2021-04-09 07:54:23 | 俳句
宇治拾遺物語 亀を買ひて放つ事
【本文】1
①昔、天竺の人、宝を買はんために、銭五十貫を子に持たせてやる。②大きなる川の端を行くに、舟に乗りたる人あり。③舟の方を見やれば、舟より亀、首を差し出だしたり。④銭持ちたる人立ち止まりて、その亀をば、「何の料ぞ。」と問へば、⑤「殺して物にせんずる。」と言ふ。⑥「その亀買はん。」と言へば、⑦この舟の人いはく、「いみじき大切のことありて、まうけたる亀なれば、いみじき値なりとも、売るまじき」よしを言へば、⑧なほあながちに、手をすりて、この五十貫の銭にて亀を買ひ取りて、放ちつ。
(口語訳)1
①昔、インドの人が、宝を買うようなことのために、銭五十貫を子に持たせて行かせた。②大きな川のそばを行くと、舟に乗っている人がいる。③舟のほうを見ると、舟より亀が、首を差し出している。④銭を持っている人は立ち止まって、その亀を、「何に使うものか」と問うと、⑤「殺して役に立てようと思う。」と舟の人が言う。⑥「その亀を買おう。」と銭を持った人が言うと、⑦この舟の人が言う、「非常に大切なことがあって、用意した亀であるので、非常に高い値段であっても、売らない」ことを言うと、⑧なお無理矢理に、手をすりあわせ拝み、この五十貫の銭で亀を買い取って、水に放した。
(語句説明)
①・天竺・・インド
・「ん」・・助動詞 意味3つ 1推量(だろう) 2意志(しよう) 3婉曲(ような)
・「せ」 使役助動詞「す」 させる
・やる・・行かせる
②③・「たる」 完了助動詞「たり」 「たる」は連体形
④・「何の料ぞ」・・何に使うものなのか。
⑤・んずる・・助動詞「んず」連体形 意味は「ん」と同じ。1推量 2意志 
3婉曲
⑦・いはく・・言う
・いみじく・・(形容詞 いみじ)・・非常に 
・まうけ(下二段動詞「まうく」)・・用意する
・亀なれの「なれ」 値なりの「なり」・・(断定助動詞「なり」 名詞・連体形接続)
・まじき(打消意志「まじ」) 
※「まじ」は「べし」(意志 推量 可能 当然 命令 適当 「スイカとめての意志」と覚える)の反意語
・よし・・こと
⑧・あながちに(ナリ活用形容動詞 あながちなり)・・無理矢理に

【本文】2
⑨心に思ふやう、親の、宝買ひに隣の国へやりつる銭を、亀にかへてやみぬれば、親いかに腹立ち給はんずらん。⑩さりとてまた、親のもとへ行かであるべきにあらねば、⑪親のもとへ帰り行くに、道に人会ひて言ふやう、⑫「ここに亀売りつる人は、この下の渡りにて、舟うち返して死ぬ。」となん語るを聞きて、⑬親の家に帰り行きて、銭は亀にかへつるよし語らんと思ふほどに、⑭親の言ふやう、「何とてこの銭をば返しおこせたるぞ。」と問へば、⑮子の言ふ、「さることなし。⑯その銭にては、しかしか亀にかへて許しつれば、そのよしを申さんとて参りつるなり。」と言へば、⑰親の言ふやう、「黒き衣着たる人、同じやうなるが五人、おのおの十貫づつ持ちて来たりつる。⑱これ、そなり。」とて見せければ、⑲この銭いまだ濡れながらあり。
(口語訳)2
⑨心の中で思うことには、親が、宝を買うために隣の国へもって行かせた銭を、亀にとりかえて終わってしまったので、親はどんなに腹をお立てになるだろう。
⑩そうだからといって、親のところに行かないでいるべきではないので、⑪親のところへ帰って行く時に、道で人に会いその人が言うことには、⑫「あなたに亀を売った人は、この下の渡し場で、舟がひっくり返って死んだ。」と語るのを聞いて、⑬親の家に帰って行って、銭は亀に取り替えたことを語ろうと思った時に、
⑭親が言うことには、「どうしてこの銭を返してよこしたのだ。」と問うと、⑮子が言う、「そのようなことはない。⑯その銭は、かくかくしかじか亀に取り替えて放してやったので、そのことを申し上げようと思って参上したのだ。」と言うと、⑰親が言うことには、「黒い衣を着ている人が、同じようなのが五人、おのおの十貫ずつ持って来ていた。⑱これは、それだ。」といって見せたので、⑲この銭はまだ濡れたままであった。
(語句説明)
⑨・やう・・ことには
・やみ(四段動詞 やむ)・・終わる
・いかに・・どんなに
・給は (四段補助動詞 給ふ) 尊敬語
・んず (推量助動詞 んず)
・らん(現在推量助動詞 らん)
⑩・さりとて・・そうだからといって、
・で・・打消の意味 ないで
・べき(推量助動詞「べし」)
・「あらね」の「ね」・・打消助動詞「ず」已然形
※「あら」はラ変動詞「あり」未然形 「ず」は未然形接続
⑫・ここ・・あなた
・つる(完了助動詞「つ」連体形)
・渡り・・渡し場
・なん・・係り助詞 強調の意味
⑬・ほど・・時
⑭おこせ(下二段動詞「おこす」)・・よこす
⑮さること・・そのようなこと=銭を返してよこしたこと
⑯・しかしか・・かくかくしかじか 事情を説明するようす
・申さ(謙譲語 四段動詞 申す)・・申し上げる
・とて・・と思って
・参り(謙譲語 四段動詞 「参る」)・・参上する

⑰・やうなる・・ようである
⑱・そ・・それ
⑲・いまだ・・まだ
【本文】3
⑳はや、買ひて放しつる亀の、その銭、川に落ち入るを見て、取り持ちて、親のもとに子の帰らぬ先にやりけるなり。
(口語訳)3
⑩実は、買って放した亀が、その銭が、川に落ちて入るのを見て、取って持って、親のところに子が帰らない先に送ったのだ。
(語句説明)
⑳・帰らぬ・・「帰ら」・・四段動詞「帰る」未然形。
未然形接続の「ぬ」は、打消助動詞「ず」連体形
・やり(四段動詞「やる」)・・送る  

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