2023年12月 京都童心の会 通信句会結果
【選評】後半
○青島巡紅選
特選 26 戦争のない町プレゼントしたい今年のクリスマス 金澤ひろあき
現在世界で60近い武力紛争がある。そこに「戦争のない町」を贈れたらどれほど良いだろう。「クリスマス」近くになると心のどこかで誰もが思うことでもあるだろう。作者は声を上げた。「今年のクリスマス」には、届けたい、と。これはもはや一人だけの願いや祈りではなく、戦争に憂いを持つ人全てのものだろう。今、出来ることを、こつこつと。小さな一歩が大きな歩みになると信じて。大きな声にしていきましょう。
並選
1 マフラー膨らむ風の色彩 野谷真治
風は目に見えません。でもイタズラはしてくれます。今は冬。交差点で信号待ちでしょうか。皆んな色とりどりのマフラーを巻いている。吹きつけてマフラーが揺れます。色が目の中で混ざり合う。一瞬の出来事でも印象に残る光景です。
8 目が見えぬ友が見抜くは私のずるさ 遠藤修司
目が見えてないから大丈夫だろうという油断をきっちり捉える友人。自分が思わぬ形で揚げ足を取られる。これは、見える見えないに拘らず、気を許した友人に対して、気を許していない友人にはしないことをしてギャフンと言わせられることがある。友人はしっかり自分を見ているのですね。
10 高倉健さんに私は学ぶ「不器用ですから」 遠藤修司
仕事は決して疎かにしなかったし、関係者への気配りも忘れなかった人物だった。寡黙さをトレードマークにしていたから、そのイメージが一人歩きしている。そのイメージは「不器用ですから」自分は自分の生き方をするだけですと、世間の風潮や割り切った時代に迎合することなく、マイペースで生きるスタイルは見事だった。その知恵を自分の人生の規範にするのも悪くない。
27 学徒出陣八十年同じ場所の平和な野球 金澤ひろあき
「同じ場所」でありながら、太平洋戦争中には学徒出陣の式典が行われ、80年後の今日では野球の試合が行われる。戦争と平和が重なり合っている。ある意味、大政奉還が行われた二条城二の丸御殿大広間に通じるものがある。どちらも歴史的通過儀礼。vその事件があって現在が成立する要因となっている。目を逸らさず、汚いものに蓋をすることなく、悲しいから目を瞑ることなく、過去を振り返り、より良い未来の創造の糧にしなければならない。そんなことを投げかける作品です。
29 冬の蝶爆発音が止まらない 金澤ひろあき
どこに作者がいて状況はどうこう詮索するのは野暮。ネット社会がもたらした副産物の作品の代表例とでも言える作品。時間帯を超えてリアルタイムで配信される悲惨な事件、事故、戦場の映像音声はノンストップだ。作者は二つの現実を同時に生きているような錯覚さえ覚えるだろう。空想するまでもなく世界のどこかの紛争状況を感じることができる世界が展開しています。
32 冬菊日和このままどこか行きたいね 金澤ひろあき
冬の菊も味わいがある。じっと耐えているが凛としているような趣きがある。そんな花が暖かな陽射しに揺れている様はほっこりとするような、或いは心の緊張が緩むような気持ちになる。手を休め、息抜きにどこかへ出かけたくなる。冬の菊が動けない自分たちの代わりに行ってきてと誘っているかのようである。
40 吊るし柿母を思いて作りたし 野原加代子
懐かしい思い出から亡くなったあの人にようにしてみたいと思うことがある。自分のことを言えば、生前、母が何を思ったのか梅干しや梅酒を作り出した。そして息子も気休めに真似て梅干しや梅酒を作り、今では自家製蜂蜜酒を作っている。自分の一部だったものが欠けてそれを埋めたいと始めると言うか、始めたいと思うのである。思うまま出来ぬこともある。しかし、思い出すだけでは足りない影響力を持つ人の存在感を、真似る、或いは真似てみようと思うことで、自らを慰めているのかも知れません。
49 ある日はっと気が付けば年の暮れ 蔭山辰子
仕事に、或いは生活に追われていると、他のことが見えなくなって、目の前のこと以外には気が向かなくなる。そんな状況にいて、自分は何をしているのだろうと眼をよそに向けると景色が違っている。時間の流れが変わっていることに気づき、自分の内なる時間を外の時間に合わせようとする。日付の変化さえ意識していなかったことが可笑しく思える程に慌てる。日々の繰り返しに飲まれていると起こる現象ですね。
52 勝ち負けは横に置いときありがとう 蔭山辰子
この感覚は西洋人には分かりづらい感覚でしょう。白黒をはっきりさせないといけない思考パターンから離れた感覚ですから。自分の応援するチームでなく、相手チームが勝っていても、試合運びが双方精一杯頑張ってもので勝敗を超えた感動シーンがあれば、思わず良いものを見せて貰ったありがとうとなる。勝敗よりも感動させてくれた場面や双方の選手のプレーに拍手するのであって、より秀でたプレーをした側に賛辞を送る拍手ではない。この感覚は無くして欲しくないですね。
56 自家用の冬至カボチャをドンと据え 三村須美子
これから南瓜料理が始まるのでしょうか。夏が旬の野菜ですから保存が効くからと言っても冬至までが限界。「冬至南瓜に年を取らせるな」とも言います。本格的な冬を迎える前の節目の日に、これからやって来る厳しい冬に備えるだけでなく幸運や金運(色的に)を引き寄せる意味合いもあるのだとか。健康に金運にバッチリの野菜と言う訳ですから、御利益のある南瓜を皆さんの家でもどうぞ。
64 枇杷の花人伝に聞く訃報かな 三村須美子
11月か12月に咲く枇杷の花、その頃になって今まで耳に入って来なかった知り合いの死を風の便りに聞く。冬に咲く、思いもよらない花の驚きと同様に心に刺さる知らせである。しかも、高齢になればなるほど増すというのは、自分も身支度しろという自然の知らせであるのだろうか。
66 柿店の並ぶ馬籠の軒低し 中野硯池
馬籠は島崎藤村の出身地(岐阜県中津川市)であり、彼の小説「夜明け前」の舞台ですね。小説や映画の関連する土地を巡ることも、今では聖地巡礼と言い方で呼ぶことがある。作者はそういう機会を得たのだろう。「柿店の並ぶ」「軒低し」に地域感が出ており、旅情を感じさせます。見事な俳句スケッチです。
67 捥ぐ柿をズボンに拭いて喰みにけり 中野硯池
子供の頃に同じことをした経験があるので懐かしくなった。と同時に、僕(64歳)よりも年配の人がこれを出来るのなら羨ましい限りです。歯を丈夫に保つ秘訣を教わりたいです。
70 ばあちゃんがサンタだデーのクリスマス 中野硯池
こちらまで楽しくなるような生き生きした感じというか、思いがけない趣向があってそれを皆で楽しんでいる様というか、そういうものが良く出ています。
74 箍外しかつての闘士忘年会 中野硯池
会社の同僚と老いてからの忘年会、肉体を置いて精神はあの頃へ戻っている。言えなかった言葉、聞けなかった言葉飛び交って、酒が一層美味いものになっていることでしょう。
○遠藤修司特選
73 一刀両断大玉白菜真二つ 中野硯池
気持ちの良い句です。スカッとします。高値だった白菜、私にとって白菜はしっかり鍋の主役です。
○岡畠真理子特選
47 秋風はさよならも云わず冬を呼び 蔭山辰子
「さよならも云わず」というフレーズが、秋が急いで立ち去った様子をよく表していると思います。春夏秋冬、本当に春秋は短くなってきていますね。
○三村須美子特選
27 学徒出陣八十年同じ場所の平和な野球 金澤ひろあき
私は団塊の世代です。明治神宮外苑競技場の学徒出陣壮行会の写真は見た事があります。八十年が経ち、現在は同じ場所で野球を楽しんでいる。国家総動員の戦争、敗戦いう苦難を乗り越えて、平和な今日がある。平和な社会を再認識させる句だと思います。2023年もあとわずかになりました。新しい年を迎えるにあたって、一刻も早くウクライナ、パレスチナの悲惨な戦争が終わりますように祈ります。
【大岳次郎さん選】
※大岳次郎さんから、選を頂きましたので、紹介させて頂きます。
大岳次郎 特選 8 目が見えぬ友が見抜くは私のずるさ 遠藤修司
私は、その昔、点訳ボランティアをしておりました。そのさいに、彼らの感性のするどさを、しっかり理解し、感じとらせていただきました。それでです。彼らには、色すら、見えているのです。ずるさぐらいは、かんたんに、見抜くと思います。
彼らは、命懸けなのですから。
【お知らせ】
1月句会
日時 1月28日(日)午後2時
場所 阪急長岡天神駅東口 喫茶 アーバンにて
投句 毎月第2週まで 10句前後ですが、少なくても可です。
84円切手3枚同封下さい。
選評 月末までに頂けるとありがたいです。
京都童心の会 年会費 3000円
月句会参加の方は句会で頂いておりますので、不要です。
記念号原稿募集
来春発行予定です。
2月15日頃までに、作品をお寄せ下さい。
40句 20句 10句 いずれも可 一行目に題 二行目に氏名
参加料 40句 200円 20句 10句は1000円
長岡天神の対面句会参加の方は、参加料は不要です。
原則自選です。もし、金澤選を希望される方は、お知らせ下さい。
【選評】後半
○青島巡紅選
特選 26 戦争のない町プレゼントしたい今年のクリスマス 金澤ひろあき
現在世界で60近い武力紛争がある。そこに「戦争のない町」を贈れたらどれほど良いだろう。「クリスマス」近くになると心のどこかで誰もが思うことでもあるだろう。作者は声を上げた。「今年のクリスマス」には、届けたい、と。これはもはや一人だけの願いや祈りではなく、戦争に憂いを持つ人全てのものだろう。今、出来ることを、こつこつと。小さな一歩が大きな歩みになると信じて。大きな声にしていきましょう。
並選
1 マフラー膨らむ風の色彩 野谷真治
風は目に見えません。でもイタズラはしてくれます。今は冬。交差点で信号待ちでしょうか。皆んな色とりどりのマフラーを巻いている。吹きつけてマフラーが揺れます。色が目の中で混ざり合う。一瞬の出来事でも印象に残る光景です。
8 目が見えぬ友が見抜くは私のずるさ 遠藤修司
目が見えてないから大丈夫だろうという油断をきっちり捉える友人。自分が思わぬ形で揚げ足を取られる。これは、見える見えないに拘らず、気を許した友人に対して、気を許していない友人にはしないことをしてギャフンと言わせられることがある。友人はしっかり自分を見ているのですね。
10 高倉健さんに私は学ぶ「不器用ですから」 遠藤修司
仕事は決して疎かにしなかったし、関係者への気配りも忘れなかった人物だった。寡黙さをトレードマークにしていたから、そのイメージが一人歩きしている。そのイメージは「不器用ですから」自分は自分の生き方をするだけですと、世間の風潮や割り切った時代に迎合することなく、マイペースで生きるスタイルは見事だった。その知恵を自分の人生の規範にするのも悪くない。
27 学徒出陣八十年同じ場所の平和な野球 金澤ひろあき
「同じ場所」でありながら、太平洋戦争中には学徒出陣の式典が行われ、80年後の今日では野球の試合が行われる。戦争と平和が重なり合っている。ある意味、大政奉還が行われた二条城二の丸御殿大広間に通じるものがある。どちらも歴史的通過儀礼。vその事件があって現在が成立する要因となっている。目を逸らさず、汚いものに蓋をすることなく、悲しいから目を瞑ることなく、過去を振り返り、より良い未来の創造の糧にしなければならない。そんなことを投げかける作品です。
29 冬の蝶爆発音が止まらない 金澤ひろあき
どこに作者がいて状況はどうこう詮索するのは野暮。ネット社会がもたらした副産物の作品の代表例とでも言える作品。時間帯を超えてリアルタイムで配信される悲惨な事件、事故、戦場の映像音声はノンストップだ。作者は二つの現実を同時に生きているような錯覚さえ覚えるだろう。空想するまでもなく世界のどこかの紛争状況を感じることができる世界が展開しています。
32 冬菊日和このままどこか行きたいね 金澤ひろあき
冬の菊も味わいがある。じっと耐えているが凛としているような趣きがある。そんな花が暖かな陽射しに揺れている様はほっこりとするような、或いは心の緊張が緩むような気持ちになる。手を休め、息抜きにどこかへ出かけたくなる。冬の菊が動けない自分たちの代わりに行ってきてと誘っているかのようである。
40 吊るし柿母を思いて作りたし 野原加代子
懐かしい思い出から亡くなったあの人にようにしてみたいと思うことがある。自分のことを言えば、生前、母が何を思ったのか梅干しや梅酒を作り出した。そして息子も気休めに真似て梅干しや梅酒を作り、今では自家製蜂蜜酒を作っている。自分の一部だったものが欠けてそれを埋めたいと始めると言うか、始めたいと思うのである。思うまま出来ぬこともある。しかし、思い出すだけでは足りない影響力を持つ人の存在感を、真似る、或いは真似てみようと思うことで、自らを慰めているのかも知れません。
49 ある日はっと気が付けば年の暮れ 蔭山辰子
仕事に、或いは生活に追われていると、他のことが見えなくなって、目の前のこと以外には気が向かなくなる。そんな状況にいて、自分は何をしているのだろうと眼をよそに向けると景色が違っている。時間の流れが変わっていることに気づき、自分の内なる時間を外の時間に合わせようとする。日付の変化さえ意識していなかったことが可笑しく思える程に慌てる。日々の繰り返しに飲まれていると起こる現象ですね。
52 勝ち負けは横に置いときありがとう 蔭山辰子
この感覚は西洋人には分かりづらい感覚でしょう。白黒をはっきりさせないといけない思考パターンから離れた感覚ですから。自分の応援するチームでなく、相手チームが勝っていても、試合運びが双方精一杯頑張ってもので勝敗を超えた感動シーンがあれば、思わず良いものを見せて貰ったありがとうとなる。勝敗よりも感動させてくれた場面や双方の選手のプレーに拍手するのであって、より秀でたプレーをした側に賛辞を送る拍手ではない。この感覚は無くして欲しくないですね。
56 自家用の冬至カボチャをドンと据え 三村須美子
これから南瓜料理が始まるのでしょうか。夏が旬の野菜ですから保存が効くからと言っても冬至までが限界。「冬至南瓜に年を取らせるな」とも言います。本格的な冬を迎える前の節目の日に、これからやって来る厳しい冬に備えるだけでなく幸運や金運(色的に)を引き寄せる意味合いもあるのだとか。健康に金運にバッチリの野菜と言う訳ですから、御利益のある南瓜を皆さんの家でもどうぞ。
64 枇杷の花人伝に聞く訃報かな 三村須美子
11月か12月に咲く枇杷の花、その頃になって今まで耳に入って来なかった知り合いの死を風の便りに聞く。冬に咲く、思いもよらない花の驚きと同様に心に刺さる知らせである。しかも、高齢になればなるほど増すというのは、自分も身支度しろという自然の知らせであるのだろうか。
66 柿店の並ぶ馬籠の軒低し 中野硯池
馬籠は島崎藤村の出身地(岐阜県中津川市)であり、彼の小説「夜明け前」の舞台ですね。小説や映画の関連する土地を巡ることも、今では聖地巡礼と言い方で呼ぶことがある。作者はそういう機会を得たのだろう。「柿店の並ぶ」「軒低し」に地域感が出ており、旅情を感じさせます。見事な俳句スケッチです。
67 捥ぐ柿をズボンに拭いて喰みにけり 中野硯池
子供の頃に同じことをした経験があるので懐かしくなった。と同時に、僕(64歳)よりも年配の人がこれを出来るのなら羨ましい限りです。歯を丈夫に保つ秘訣を教わりたいです。
70 ばあちゃんがサンタだデーのクリスマス 中野硯池
こちらまで楽しくなるような生き生きした感じというか、思いがけない趣向があってそれを皆で楽しんでいる様というか、そういうものが良く出ています。
74 箍外しかつての闘士忘年会 中野硯池
会社の同僚と老いてからの忘年会、肉体を置いて精神はあの頃へ戻っている。言えなかった言葉、聞けなかった言葉飛び交って、酒が一層美味いものになっていることでしょう。
○遠藤修司特選
73 一刀両断大玉白菜真二つ 中野硯池
気持ちの良い句です。スカッとします。高値だった白菜、私にとって白菜はしっかり鍋の主役です。
○岡畠真理子特選
47 秋風はさよならも云わず冬を呼び 蔭山辰子
「さよならも云わず」というフレーズが、秋が急いで立ち去った様子をよく表していると思います。春夏秋冬、本当に春秋は短くなってきていますね。
○三村須美子特選
27 学徒出陣八十年同じ場所の平和な野球 金澤ひろあき
私は団塊の世代です。明治神宮外苑競技場の学徒出陣壮行会の写真は見た事があります。八十年が経ち、現在は同じ場所で野球を楽しんでいる。国家総動員の戦争、敗戦いう苦難を乗り越えて、平和な今日がある。平和な社会を再認識させる句だと思います。2023年もあとわずかになりました。新しい年を迎えるにあたって、一刻も早くウクライナ、パレスチナの悲惨な戦争が終わりますように祈ります。
【大岳次郎さん選】
※大岳次郎さんから、選を頂きましたので、紹介させて頂きます。
大岳次郎 特選 8 目が見えぬ友が見抜くは私のずるさ 遠藤修司
私は、その昔、点訳ボランティアをしておりました。そのさいに、彼らの感性のするどさを、しっかり理解し、感じとらせていただきました。それでです。彼らには、色すら、見えているのです。ずるさぐらいは、かんたんに、見抜くと思います。
彼らは、命懸けなのですから。
【お知らせ】
1月句会
日時 1月28日(日)午後2時
場所 阪急長岡天神駅東口 喫茶 アーバンにて
投句 毎月第2週まで 10句前後ですが、少なくても可です。
84円切手3枚同封下さい。
選評 月末までに頂けるとありがたいです。
京都童心の会 年会費 3000円
月句会参加の方は句会で頂いておりますので、不要です。
記念号原稿募集
来春発行予定です。
2月15日頃までに、作品をお寄せ下さい。
40句 20句 10句 いずれも可 一行目に題 二行目に氏名
参加料 40句 200円 20句 10句は1000円
長岡天神の対面句会参加の方は、参加料は不要です。
原則自選です。もし、金澤選を希望される方は、お知らせ下さい。