どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ322

2008-10-26 23:49:43 | 剥離人
 総面積1,000m2ものガラスフレークの剥離工事だったが、思いの他順調に工事が進んで行った。

「田中さん、この調子なら、明日にはほぼ剥離作業は完了出来ますよ。明後日は最終チェックと塔内からの機材の撤収、足場上の剥離ガラの清掃までは終わります。で、明々後日にはタンクに移動できますけど」
 一日200m2の面積を剥離し、予定の工期にきっちりと間に合わせる事が出来たので、私は自信に満ち溢れた顔で、TG工業の田中に現況を説明した。
「あ、うん、予定通りですね、ありがとうございます。これで予定通りに次のサンドブラストに入れます…」
 嬉しそうではあるが、田中の表情がやや硬い。
「次のタンクですけど、そろそろ中は見られますか?」
「・・・」
 急に田中の表情が曇る。
「あれ?続けてやるんですよね?」
「それがねぇ、タンクがまだ開いてないって…」
「開いてない?」
「…うん、実はそうなんだ」
「えーと…、どういう意味ですか?開いてないっていうのは、今は中を見られない状態って意味ですか?」
「えーとね、そのぉ、中身も抜いてないし、マンホールも開いてないし、足場も組んでない状態なんだ…」
「はぁあああああ?」
 私は思わず大声を出した。今回の工事では、S社に手伝って貰い、排煙脱硫装置吸収塔のガラスフレークを1,000m2剥離した後、R社のチームだけで、小さなタンクを三基剥離する予定だったのだ。
「あの、どうするんですか?タンク三基は…。吸収塔が終わったら、すぐに構内移動をして、作業に取り掛かる事になっていましたよね」
「うん、そうなんだけど…」
「今から大至急タンクを開けて貰えませんか?」
「それが無理みたいなんだ。足場を組み終わるまで二週間掛かるって…」
「に、二週間!?本気で言ってます?それなら残りのタンク三基は、キャンセルってことでイイですか?」
「いや、それは困るんだよ、本当に!」
「ほ、本当にって、田中さん、ここはY県ですよ?二週間の間、我々はどうするんですか!?」
 田中は本当に困り果てた顔をしている。
「一度戻って貰って、もう一度来て貰うって訳には…」
「もう一度って…、機材も一度引き上げてって事ですか?」
「あ、機材はね、タンクヤードに置けるからね」
「置けるって言われても、僕らに、二週間ここに機材を置きっ放しにして、M県でブラブラしてろって事ですか?」
「いやぁ、うーんとねぇ…、僕もねぇ、困ってるんだよぉ、本当にぃ…」
 田中はぷくぷくの白くて丸い顔を、悲しげに歪ませている。
「どうしてそんな事になってるんですか?こんな話は聞いた事がありませんよ」
「それは僕もだよ、どうもこの辺の人たちの人柄というか、物凄くのんびりとしているんだよね」
「TG工業さんは、事前にこの日までにタンクを開放して貰いたいという要望は、きちんと出しているんですよね」
 下請の分際で偉そうだが、誰が悪いのかはハッキリと知って置かなければならない。
「もちろんそれは、工事に入る前にきちんと書類で伝えてあるし、ここに入ってからも確認したんだよ」
「あのTH電力の人ですか?」
 私は鼻のデカイTH電力の責任者を思い出していた。
「まあ、そうなんだけど…」
 田中は苦しげに頷く。

 私はため息を吐くと、上司の渡に確認を取る為に携帯電話を手に取り、R社の事務所の番号を呼び出した。




最新の画像もっと見る

コメントを投稿