予想はしていたが、渡の答えは至極簡単だった。
「そりゃあお前、しゃーないやろ」
「そう言うと思ってましたよ。二週間ここにハスキーをブン投げて置いてもイイんですね」
「えらい面倒やろけど、頼むわな」
私は携帯電話を切ると、田中に承諾の意思を伝え、現場に戻った。
「佐野さん、ハスキーを置いて行けって!」
コンテナの前で、マンホール周りに張る防炎シートを用意していた佐野に、不満をぶつける。
「ほー、どうして?」
「タンクが開いてないって」
「連続で工事するっていう見積じゃ無かったの?」
「そうですよ」
「それが分かっていて、タンクを開けてないんだ」
「ええ、これって発電所じゃよくある話なんですか?」
佐野は満面の笑みを浮かべると、力強く言った。
「いんにゃ、あり得ないね!」
「…ですよねぇ、こんな話、聞いたこともないですよね」
その時、私の視界に構内道路を歩いて来るTH電力の制服が見えた。でかい顔と、顔の中央にでんと居座るでかい鼻が、私の距離感を微妙に狂わせる。
「いんやぁ、悪いねぇ、予定では今頃は足場を組み終わっている頃だったんだけど、申し訳ねぇなぁ」
長谷川というこの工事責任者、本気で悪いなぁという顔をしているが、その反面、本気でどうにかしようとした様にも見えないという、相反する雰囲気を醸し出している。
「あの、本当に二週間後には工事に入れるんですよね」
「そうだなぁ、そのつもりなんだけどなぁ、二週間でなんとかなるといいなぁ」
(い、いいなぁって何だよそりゃ…)
私は心の中で突っ込み、同時に口頭では丁寧に釘を刺した。
「あの、いつ始まるのか分からない状況では、我々も機材を置いたまま、M県へは帰れません。せめて工事の開始日を決めて頂けませんか?」
長谷川は私の意見を聞くと、なるほどと言う顔をする。
「そうだな、君の言う通りだな、うん」
長谷川は神妙な顔で頷き、一人で納得をしている。
(そこまで真剣に受け止めるのなら、最初からタンクの開放を間に合わせればイイのに…)
私はまたしても心の中で突っ込んだ。
「TG工業の田中さんには、工事の開始日を必ず連絡しておくから、とりあえずここが終わったら、機材をタンクヤードへ移動して欲しいなぁ」
「分かりました。工事の開始日の確定だけは、くれぐれもお願いしますね」
「大丈夫、大丈夫だと思うよぉ」
「・・・」
長谷川は、私の呆れ顔を気にするでも無く、スルリとお気楽な笑顔に戻ると、何事も無かった様に、スタスタと現場から歩き去って行った。
「佐野さん、あれってこの地方の人達の性格なんですかね?」
「うーん、どうもそれっぽいな。人は良いけど、のんびりしていてマイペースって感じだし。この状況で全然緊迫感も無いしな」
佐野は苦笑いをしながら、防炎シートを肩に担ぎ上げ、階段を上り始めた。
全工程を二週間で終わらせて帰るはずだった私の算段は、ここに来て完全に崩れ去ったのだった。
「そりゃあお前、しゃーないやろ」
「そう言うと思ってましたよ。二週間ここにハスキーをブン投げて置いてもイイんですね」
「えらい面倒やろけど、頼むわな」
私は携帯電話を切ると、田中に承諾の意思を伝え、現場に戻った。
「佐野さん、ハスキーを置いて行けって!」
コンテナの前で、マンホール周りに張る防炎シートを用意していた佐野に、不満をぶつける。
「ほー、どうして?」
「タンクが開いてないって」
「連続で工事するっていう見積じゃ無かったの?」
「そうですよ」
「それが分かっていて、タンクを開けてないんだ」
「ええ、これって発電所じゃよくある話なんですか?」
佐野は満面の笑みを浮かべると、力強く言った。
「いんにゃ、あり得ないね!」
「…ですよねぇ、こんな話、聞いたこともないですよね」
その時、私の視界に構内道路を歩いて来るTH電力の制服が見えた。でかい顔と、顔の中央にでんと居座るでかい鼻が、私の距離感を微妙に狂わせる。
「いんやぁ、悪いねぇ、予定では今頃は足場を組み終わっている頃だったんだけど、申し訳ねぇなぁ」
長谷川というこの工事責任者、本気で悪いなぁという顔をしているが、その反面、本気でどうにかしようとした様にも見えないという、相反する雰囲気を醸し出している。
「あの、本当に二週間後には工事に入れるんですよね」
「そうだなぁ、そのつもりなんだけどなぁ、二週間でなんとかなるといいなぁ」
(い、いいなぁって何だよそりゃ…)
私は心の中で突っ込み、同時に口頭では丁寧に釘を刺した。
「あの、いつ始まるのか分からない状況では、我々も機材を置いたまま、M県へは帰れません。せめて工事の開始日を決めて頂けませんか?」
長谷川は私の意見を聞くと、なるほどと言う顔をする。
「そうだな、君の言う通りだな、うん」
長谷川は神妙な顔で頷き、一人で納得をしている。
(そこまで真剣に受け止めるのなら、最初からタンクの開放を間に合わせればイイのに…)
私はまたしても心の中で突っ込んだ。
「TG工業の田中さんには、工事の開始日を必ず連絡しておくから、とりあえずここが終わったら、機材をタンクヤードへ移動して欲しいなぁ」
「分かりました。工事の開始日の確定だけは、くれぐれもお願いしますね」
「大丈夫、大丈夫だと思うよぉ」
「・・・」
長谷川は、私の呆れ顔を気にするでも無く、スルリとお気楽な笑顔に戻ると、何事も無かった様に、スタスタと現場から歩き去って行った。
「佐野さん、あれってこの地方の人達の性格なんですかね?」
「うーん、どうもそれっぽいな。人は良いけど、のんびりしていてマイペースって感じだし。この状況で全然緊迫感も無いしな」
佐野は苦笑いをしながら、防炎シートを肩に担ぎ上げ、階段を上り始めた。
全工程を二週間で終わらせて帰るはずだった私の算段は、ここに来て完全に崩れ去ったのだった。
このままでは、アパートメントを舐めて喉を潤し、さわやかな声で上司に電話をして、
「部長、○○町の築25年のアポイントメントの件ですが、家主の方とメントスが取れましたので、これから先方に伺いたいと思います!」
と連絡してしまいそうです。
こんな私は、明日からブログのタイトルを、『どんぴ帳』改め『どんひ。帳』にしようかと、思案中です。