しかしどうして今秘鍵の真言分などが、薄明の世界にイメージとしてマントラの音と共に幻のように浮かんだのだろうか。
そもそもどうしてぼくはこのような状態にあるのだろうか。
薄明の中にぼんやりとイメージが浮かんでは消えていく。
子供の頃、塾からに帰り道自転車に載って家路に急ぐぼく。田舎の小都市の夜は早く、町並みには人影も通行する車も無い。
シャッターの下ろされた町並みを鈍く照らす薄暗い街灯に映し出されて、この年最初の雪が舞い下りてくる。中学生になって、始めて買って貰ったウールのコートに落ちてくる雪を片手で払いのけながら、ぼくは歌を歌い始める。“Tombe la neige Tu ne viendras pas ce soir” 。
どうにもおかしなイメージだ。そのころぼくはフランス語など知りはしなかった。ぼくが歌っていたのは“雪が降る。あなたは来ない。” いや。 違う。
多分ぼくがその頃歌っていたのは“雪が降ってきた。ほんのすこしだけれど、私の心の中に積もりそうな雪だった。”
火鉢の上で薬缶がシュンシュン音を立てている。
厚い綿の掛け布団とその下の小夜着にくるまったぼく。体はとても熱いのにふるえが止まらない。枕元で父と医者とが話している。「今日越せるかどうか五分五分です。」
昼間のはずなのにひどく暗い。廊下の障子を前足で開けてミヤがはいってくる。
「ねえ寝てないで遊ぼう。ねえ。」
不意に体が軽くなったぼくは立ち上がり、ミヤと遊びに廊下へ出て行く。
これも可笑しい。6キロもある巨大な猫だったミヤは、ぼくが病気になる前の年に死んだはず。それに猫が喋るわけもない。
そもそもどうしてぼくはこのような状態にあるのだろうか。
薄明の中にぼんやりとイメージが浮かんでは消えていく。
子供の頃、塾からに帰り道自転車に載って家路に急ぐぼく。田舎の小都市の夜は早く、町並みには人影も通行する車も無い。
シャッターの下ろされた町並みを鈍く照らす薄暗い街灯に映し出されて、この年最初の雪が舞い下りてくる。中学生になって、始めて買って貰ったウールのコートに落ちてくる雪を片手で払いのけながら、ぼくは歌を歌い始める。“Tombe la neige Tu ne viendras pas ce soir” 。
どうにもおかしなイメージだ。そのころぼくはフランス語など知りはしなかった。ぼくが歌っていたのは“雪が降る。あなたは来ない。” いや。 違う。
多分ぼくがその頃歌っていたのは“雪が降ってきた。ほんのすこしだけれど、私の心の中に積もりそうな雪だった。”
火鉢の上で薬缶がシュンシュン音を立てている。
厚い綿の掛け布団とその下の小夜着にくるまったぼく。体はとても熱いのにふるえが止まらない。枕元で父と医者とが話している。「今日越せるかどうか五分五分です。」
昼間のはずなのにひどく暗い。廊下の障子を前足で開けてミヤがはいってくる。
「ねえ寝てないで遊ぼう。ねえ。」
不意に体が軽くなったぼくは立ち上がり、ミヤと遊びに廊下へ出て行く。
これも可笑しい。6キロもある巨大な猫だったミヤは、ぼくが病気になる前の年に死んだはず。それに猫が喋るわけもない。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます