インタールード 手記❻

　余は必ずレヴィンスキー家を訪れる事を約束すると、講和会議の取材を兼ね、アメリカを訪問する事とし、上海経由でアメリカへと向かった。
　新聞記者としての取材の方は兎も角、文書探索の件は結果から言えば、ポーツマス行では直接的な成果はなにもなかった。暇をみてアイヴィーリーグの大学をダートマスからプリンストンまで行脚したのだが事実上の門前払いであった。一般図書へのアクセスは出来るのだが、手稿本や古印刷本の書庫へのドアは閉じられたままであった。日本人のジャーナリストだと言えば極東の蛮族に何が読めるのかと鼻であしらわれた。
　ならば彼らが深刻な劣等感を持っているフランス文化の権威を借りてフランス語を使えば安南人か、パリに行けと言われ。鉱山学校卒の冶金学者だと言えば、「東洋人にそんな勉強が出来る訳がない。どうせ騙りだろう。悔しかったら学位証明書でも持って来い。」と言われる始末。まったく取り付く島も無かった。
　講和会議の取材中親しくなった、ドイツ人記者からウィリアム・ヘンリーのジェイムス兄弟と親交があり、ハーバードの教授であるウィリアムへの紹介状を出しても良いとの申し出を受けた時は虚を突かれた。心理学者・プラグマティズムの哲学者としての盛名と余の関心事との関連が皆目見当がたたなかったが故であった。