コロナ1年体内から消えず、再発繰り返し寝たきりに…治療のネックになったのは国策定の「手引き」
Yahoo news 2024/8/27(火) 読売新聞オンライン(中田智香子)
約1年の闘病を経てようやくコロナが完治した男性患者(左)と妻。「患者が取り残されないようにしてほしい」と訴える(大阪府守口市の関西医科大総合医療センターで)
免疫力が弱いため昨春感染した新型コロナウイルスが1年近く体内から消えず、3度の症状再発に見舞われた大阪府の男性患者と妻(いずれも70歳代)が読売新聞の取材に応じた。異例の長期に及んだのは、国が有効な対処法を示していないためだ。同様のケースは他にもあり、患者らは「早急に対策を講じてほしい」と求める。
入退院繰り返す
「50日も入院してやっと治ったのに、また?」
昨年9月、男性の受診に付き添った妻は、2度目の「コロナ陽性」の診断に耳を疑った。5月に初めてかかり、入院での投薬治療を経て抗原検査で陰性となったが、退院から2か月弱でウイルスが再び増えていたのだ。その後も今春にかけて2度、再発による入退院を繰り返した。
コロナは、投薬治療をすれば体内のウイルスが大幅に減り、わずかに残ったものも体の免疫力で撃退できる。だが、がんで免疫が弱った人のほかリウマチや臓器移植後などで免疫抑制剤を使う人は自力でウイルスを根絶する力が弱く、コロナが再発することがある。
男性にも悪性リンパ腫の持病がある。ウイルスなどから体を守る免疫細胞ががん化しているため、コロナを治すのに通常よりも時間を要する。そのことは妻も医師から聞いていたが、「何度も陽性になるのは予想外だった」と語る。
転倒、せん妄
深刻だったのは長期入院の影響だ。持続感染は男性から食欲や体力を奪い、体重が20キロも落ちた。長くベッドにいるせいで足腰も次第に弱っていった。
年末に退院した時は何とか自力で歩けていたが、その後、妻が目を離した間に室内で何度も転倒。めっきり口数が減り、うわごとを言う「せん妄」の症状も出た。妻は「1年前は、見た目にはどこが病気かわからないくらいだったのに、あっという間に歩けなくなってしまった」と振り返る。
別の薬に効果
転機は今年2月、関西医科大総合医療センター(大阪府守口市)で夫と同じ症例を多数診ていると、新聞記事で読んだことだ。「夫のコロナを治せるのでは」。4月、妻は転院を決めた。
同センターで改めて調べると、昨春に感染したとみられるウイルスが体内で変異し、特定の薬が効きにくくなる「耐性」が生じている可能性が浮上した。
以前は入院するたびに同じ薬を使っていたが、同センターは、この薬は耐性のため効きにくいと判断。別の2種類の飲み薬を投与し、5月にはウイルスの「完全排除」に持ち込んだ。以来、再発はしていない。
コロナからは解放されたが男性はほぼ寝たきりの状態で、入院生活が続いている。妻は「もっと早くコロナを治せていればここまで弱らずにすんだのでは。免疫に問題がある人の治療法を考えてほしい」と訴える。
免疫不全の患者への対応、今秋にも公開
感染症の治療では一般に、感染が長引くケースに対しては薬を変えて対処する方法が有効とされる。だが、標準的な治療法を示した国策定のコロナの「診療の手引き」にはこの対処法が書かれていない。
コロナの薬は複数あるが、「手引き」は1種類で治ることを前提としている。複数の薬を使う治療を盛り込むには臨床試験(治験)が必要で、改訂には時間がかかるという。持続感染に関する記述がないため、保険適用外となる恐れがあり、多くの病院が二の足を踏んでいるとみられる。
関西医科大総合医療センターでは8月25日までの直近1年間だけでも免疫不全のコロナ患者を84例治療。薬代の一部を病院の研究費でまかなう。中森靖副病院長は「感染が長引く間に持病が悪化し、亡くなる事例も見てきた。手引きがネックとなって命を救えないのは問題だ」と指摘する。
この現状に対し、国立感染症研究所の鈴木忠樹・感染病理部長らのチームは今春、免疫不全の患者への対応をまとめた「診療指針案」を作成。今秋にも公開し、問題を周知したい考えだ。