トランプは経済をどうしたい? やっと見えてきた「方向性」…「最悪の状態」は脱したと言える理由
Yahoo news 2025/4/4(金) ニューズウィーク日本版 加谷珪一
<大統領選当時から互いに矛盾する公約や方針を掲げてきたトランプ氏によって市場に漂っていた「不確実性」は、やっと排除されてきたとみてよいだろう>【加谷珪一(経済評論家)】
何が飛び出すか分からないと各国を不安に陥れていたトランプ米大統領だが、経済政策に関しておおよその方向性が見えてきた。トランプ氏は選挙対策もあり、相互に矛盾する公約や方針を掲げることも珍しくなかった。だが政権運営が始まれば、いずれかを犠牲にせざるを得なくなる。
現状では、関税の実施に伴う景気後退を防ぐため利下げを行う一方で、インフレは甘受する方向性になる可能性が高い。
トランプ氏は選挙戦を通じて、輸入関税と不法移民の強制退去を公約として掲げてきた。これらを実施すればアメリカのインフレが激しくなる可能性が高い。インフレを抑制するには中央銀行が積極的に利上げを行う必要が出てくるが、金利を上げれば景気後退リスクが高まってしまう。
トランプ氏はインフレ抑制を最優先するFRB(米連邦準備理事会)のパウエル議長を度々批判しており、大統領に就任した後は、利下げを求めるとも述べていた。インフレが進むなか、利下げを行えば、さらにインフレが加速する可能性があり、このあたりについてトランプ氏がどう考えているのか、各国の専門家は考えあぐねていた。
■輸入物価の上昇圧力でインフレが進行する可能性
トランプ氏は就任早々、各国に対して関税を発動する大統領令に署名したことから、関税は単なる脅し文句ではなく、交渉材料の1つとして実際に発動する流れであることが明らかとなった。日本を含む各国は今後、具体的な通商交渉に臨むことになるが、関税の交渉は厄介なものであり長丁場が予想される。
そうなると、アメリカ経済には輸入物価の上昇圧力がかかることになり、当初の予想どおり、インフレが進行する可能性がより高まったといえるだろう。
このタイミングでトランプ氏はFRBに対し、やはり利下げを要請する発言を行った。関税発動と利下げ要求という2つの言動を考え合わせると、トランプ氏は、関税を実施しつつ景気拡大を最優先する方向性を選択したと判断してよい。関税発動による景気悪化を防ぐため、FRBが利下げを行えば景気は何とか失速せずに済むかもしれない。
一方でインフレはさらに悪化する可能性が高く、庶民の生活が苦しくなることで支持率の低下も予想される。だが、今のところアメリカ経済は好調であり、インフレによる弊害が政権批判に結び付くまでには時間的余裕がある。
トランプ氏はこのあたりを考え合わせ、当面は物価を犠牲にすることで、公約だった関税を実施しつつ、景気の維持を狙ったものと考えられる。
■市場が最も嫌う「不確実性」が排除されたのは朗報
世界経済には、引き続き景気後退やインフレのリスクが残ることになるが、少なくともトランプ政権の経済政策の方向性が全く見えないという不確実性だけは排除されたとみてよいだろう。
市場が最も嫌うのは先が読めないことであり、たとえ悪い材料であったとしても方向性が定まりつつあることは良いニュースともいえる。各国政府もトランプ政権の方針がハッキリしてきたことを受けて、交渉を本格化してくると予想される。
今後の世界経済はトランプ氏による不確実性への対処から、トランプ経済への具体的な対処にシフトすることになる。日本についていえば、関税が発動されれば輸出に打撃となるのはほぼ間違いない。日本企業の現地生産強化など、より具体的な提案が必要となるだろう。