ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

宮島訪問税

2022年01月07日 00時42分30秒 | 法律学

 私は、地方財務協会が発行している「地方税」という雑誌を購読しています。

 昨日(2022年1月6日)、雪が降る川崎市の自宅に「地方税」の2021年12月号が届き、目を通していたら、「法定外税を巡る最近の動きについて」という記事の中に、広島県廿日市市の「宮島訪問税」について書かれているのを見つけました。

 この「宮島訪問税」は法定外普通税ですが、かなり特殊な地方税です。

 上に記した記事にも書かれていますが、これまで、沖縄県の4村(伊是名村、伊平屋村、渡嘉敷村、座間味村)で入域税というべきものが施行されています。これらはいずれも法定外目的税で、村の領域に入る者であれば住民であろうがなかろうが一回につき100円が課されることとなります。

 これに対し、「宮島訪問税」は法定外普通税であり、しかも宮島に居住する者などには課税されません。2021年3月16日に公布された廿日市市宮島訪問税条例(条例第1号。以下、単に条例と記します)の第4条は「宮島訪問税は、訪問者に課する」と定めています。ここで「訪問」は条例第3条第2項第4号において「宮島町以外の区域(公有水面を除く。)から宮島町の区域(公有水面を除く。)に入域することをいう」と定義され、「訪問者」は条例第2項第5号において次のように定義されています。

 「訪問者 旅客船舶により訪問をする旅客その他の者(旅客船舶の乗員を除く。第10条において同じ。)又は旅客船舶以外の船舶により訪問をする者であって、宮島町の区域の住民(住民票に記載されている住所が宮島町の区域内である者をいう。)その他これに準ずる者として次に掲げるもの以外のものをいう。

 ア 宮島町の区域内にある事務所又は事業所に通勤する者

 イ 宮島町の区域内にある学校(学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する学校をいう。第5条第2号において同じ。)若しくは就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(平成18年法律第77号)第2条第7項に規定する幼保連携型認定こども園又は児童福祉法(昭和22年法律第164号)第6条の3第9項に規定する家庭的保育事業を行う場所、同条第10項に規定する小規模保育事業若しくは同条第12項に規定する事業所内保育事業を行う施設、同法第39条第1項に規定する保育所若しくは同法第59条の2第1項に規定する施設(同項の規定による届出がされたものに限る。)に通う学生、生徒、児童、幼児又は乳児」

 (ちなみに、宮島町は、現在でこそ廿日市市の一部ですが、2005年に廿日市市に編入合併されるまでは独立した地方公共団体でした。)

 要は宮島へ観光に訪れる者に対して課される地方税である、ということになります。但し、条例第5条に定められる事由に該当する場合には課税されません。

 税率は、条例第7条により「訪問者が訪問をするごとに1人100円とする。ただし、1年分を一時に納付する場合にあっては、訪問者1人1年ごとに500円とする」とされています。また、徴収方法は、条例第8条により、申告納付が原則となっていますが、条例第10条に該当する場合(旅客船舶によって訪問する者の場合)および第12条に該当する場合(旅客船舶以外の船舶によって桟橋または浮桟橋を利用して訪問する者の場合)については特別徴収によることとなっています。つまり、条例第10条に該当する場合には旅客運送事業者が運賃に上乗せする形で「宮島訪問税」を徴収し、第12条に該当する場合には桟橋または浮桟橋の管理者が料金に上乗せする形で徴収することとなります。

 普通税・目的税の別を問わず、法定外税については地方財政審議会が審議することとなっています。やはり、地方税法第671条第3号にいう「国の経済施策に照らして適当でないこと」という総務大臣の不同意要件に該当するか否かが議論されたようです。ここでは詳しく記しませんが、課税の公平性という点では疑問がないとも言えません。「宮島訪問税」は、訪れる者に課するという点では前記の沖縄県4村の入域税や東京都などの宿泊税とも似ています。しかし、入域税は住民・非住民を問いませんし、宿泊税も同様です(例えば、東京都民であっても都内のホテルに宿泊すれば宿泊税を徴収される可能性はあります)。これに対し、「宮島訪問税」は宮島町の住民または宮島町に通勤・通学などのために訪れる者を対象から除外しています。この点については見解が分かれることでしょう。また、廿日市市民でも住所によって課税対象者とそうでない者とに分かれますし、特別徴収によるとしても旅客運送事業者などに余計な負担をかけることになるでしょう。宮島町の住民にとっても、住民であることを示す公的証明書(自動車運転免許証やマイナンバーカードなど)を携帯し、船舶の運賃を支払う度に提示しなければならないのでしょうか。まさか、この税でマイナンバーカードの普及率を高めようとしている訳でもないでしょうが……。

 今後、この「宮島訪問税」については詳細に検討してみたいと考えています。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« かつては東武東上線で運用さ... | トップ | やはり増えてきた »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

法律学」カテゴリの最新記事