既に国税としての森林環境税を定める森林環境税法(正式には「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」)が施行されていますが、森林環境譲与税が先行しており、森林環境税は2024年度から賦課徴収されることとなっています。
論文(地方自治関連立法動向第7集)にも書きましたが、森林環境税法は国会において圧倒的多数で可決されたものの、2019年度税制改正の産物でこの法律ほど様々な議論が活発に行われ、賛否両論入り乱れたものはありません(大東法学のほうもお読みいただければ幸いです)。
国税としての森林環境税はまだ賦課徴収されていませんが、ややこしいことに、37府県と横浜市が独自に「森林環境税」を賦課徴収しています。正式な名称は地方自治体によって異なりますし、仕組みにも違いがあるのですが、概略的にみれば個人住民税の均等割について超過課税を行う点が共通しています(法人住民税の均等割への超過課税については、行っているところとそうでないところがあります)。国税としての森林環境税は個人住民税の均等割への超過課税という形を取るので、37府県および横浜市の「森林環境税」と課税要件などが同じとなります。仮に地方の「森林環境税」が今後も続けられるならば(現在のところ、最長でも2022年度までの期間限定です)、二重課税になるのではないかと思われるのですが、今後も継続するという地方自治体もあるようです。9月3日10時付で朝日新聞社のサイトに「大分)森林環境税5年間継続へ 有識者委が知事に報告書」という記事が掲載されています(https://digital.asahi.com/articles/ASN926T89N8XTPJB00S.html)。
大分県の「森林環境税」は通称で「森林環境の保全のための県民税の特例に関する条例」(平成17年3月31日大分県条例第12号)に定められており、正式には県の個人住民税の均等割の超過課税です。同条例の規定を引用しておきます。
第1条(趣旨):「この条例は、森林資源の確保並びに現在及び将来の県民が享受する県土の保全、水源のかん養、地球温暖化の防止等の森林の有する多面的かつ公益的な機能の重要性にかんがみ、県民の理解と協力の下に、森林環境を保全し、及び森林をすべての県民で守り育てる意識を醸成するための施策に要する経費の財源を確保するため、県民税の均等割の税率に関し、大分県税条例(昭和二十五年大分県条例第四十五号。以下「県民条例」という。)の特例を定めるものとする。」
第2条(個人の県民税の均等割の税率の特例):「平成十八年度から平成三十二年度までの各年度分の個人の県民税の均等割の税率は、県税条例第二十六条の規定にかかわらず、同条に定める額に五百円を加算した額とする。」
第3条(法人の県民税の均等割の税率の特例)第1項:「平成十八年四月一日から平成三十三年三月三十一日までの間(以下この項において「特例期間」という。)に開始する各事業年度若しくは各連結事業年度又は特例期間における地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第五十二条第二項第四号の期間に係る法人の県民税の均等割の税率は、県税条例第三十三条第一項の規定にかかわらず、同項の表の上欄に掲げる法人の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に定める額に、当該額に百分の五を乗じて得た額を加算した額とする。」
同条第2項:「前項の規定の適用がある場合における県税条例第三十三条第二項の規定の適用については、同項中『前項』とあるのは、『森林環境の保全のための県民税の特例に関する条例(平成十七年大分県条例第十二号)第三条第一項』とする。」
第4条(基金への積立て):「知事は、この条例の規定による加算額に係る収納額に相当する額から徴収に要する費用を控除して得た額を、森林環境の保全のための基金に積み立てるものとする。」
この条例は何度か改正されており、上に示した第1条から第3条までを読めばわかるように、現在は2020年度(末日は2021年3月31日)まで施行されることとなっています。これをさらに5年間延長するというのが、大分県森林づくり委員会による報告書の内容で、8月28日に大分県知事に提出されました。大分県は、これから改正案を検討し、年内を目処にまとめるようです。
大分県の「森林環境税」による収入は3億3,000億円ほどで、内訳は個人が2億6,000億円、法人が7,000万円ということです。上記記事によると「3期目の16年度~今年度は、大雨の際に流木となる危険性がある河川沿いのスギなどの人工林を伐採し、根を深く張る広葉樹を植えるなど災害に強い森林づくりを進めた。また、増えている放置竹林を伐採したり作業道をつくったりすることで管理。増えたシカが木の芽を食べたり樹木の幹の皮をはいだりする被害を防ぐため、捕獲報奨金の上乗せの財源にも充てた」とのことです。また、アンケートが行われたようで、この「森林環境税」の継続に大分県民の8割(と言っても全県民の8割ではないと思われます)が賛成している、というのです。
そして、国税としての森林環境税とは「互いに連携した取り組みを進めることが重要」であるということで、併存させる方針です。
このあたりのことは、地方の独自課税権の問題もあるので難しいところですが、法人住民税の均等割への超過課税は国税としての森林環境税にないのでよいとしても、個人住民税の均等割への超過課税は重複するので、大分県民については、毎年、国税としての森林環境税1,000円と県税としての「森林環境税」500円が課されることとなります。均等割なので課税物件や課税標準という表現は馴染まないのですが、敢えてこれらの表現を使うならば国税と県税は重複します。これが森林環境税法の想定範囲内にあることなのかと疑問になるところです。しかし、私が上記の2論文を書く際に国会の審議録を参照したところ、両税の使途が重複することも認めつつ「関係府県等におきまして超過課税の取扱いを検討していただける」という総務大臣政務官の答弁があり、それ以上の内容は見出せません。国会で十分に検討されなかったと表現してよい訳で、法律案を作成した省庁も十分に検討したのかどうかは疑問とせざるをえないでしょう。
今後、改めて国税と地方独自課税との調整が問題となると思われます。しかし、それは森林環境税法の制定過程において済ませるべき話でした。まして、この法律の場合、2019年度税制改正において制定されたものの、2018年度税制改正の時点においても与党の税制改正大綱でそれなりの頁を割かれた上に、国会においても議論されているのです。
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