ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

廃止基準の見直し(?)か

2022年07月24日 12時01分00秒 | 社会・経済

 このところ、1980年代の再来というような事態が各地で生じています。長らく衰退している公共交通網ですが、止めを刺される、とまでは言えなくとも、追い討ちをかけられた、とは言えるでしょう。朝日新聞2022年7月21日付朝刊6面13版Sに「鉄道の赤字路線 見直し条件 『輸送密度1000人未満』 国の検討会が提言案」という記事が掲載されており、同新聞のサイトには同日6時30分付で「ローカル線『1千人未満』などで見直し協議入り 国の検討会が提案へ」(https://digital.asahi.com/articles/ASQ7N6WNCQ7NULFA01K.html)として掲載されています。

 1980年代、日本国有鉄道の各鉄道路線を幹線と地方交通線とに分けるという作業が行われました。また、地方交通線のうち、輸送密度が一定の数値を下回る路線については特定地方交通線として廃止することが決定されました。実際に、そのほとんどがバス路線に転換されたか第三セクター鉄道に移管されました(一部例外があります)。

 さて、およそ40年が経過して、国土交通省におかれている有識者検討会が動いており、赤字鉄道路線の見直しについて議論を重ね、方針が打ち出されています。それによると、輸送密度(1キロメートルあたりの1日の平均乗客数)が1000人未満となっている、などの条件を満たした場合にはバス転換なども含めた協議ができる、というものです。

 これだけを見ると、1980年代の特定地方交通線よりも数値が甘く、かつ、強権的でないという印象を受けます。特定地方交通線は、輸送密度が4000人未満である、などの条件を満たした線区について、バス路線などへの転換が行われるべきであるとされた路線です。指定は3回に分けて行われており、第一次特定地方交通線は営業キロが30キロメートル以下である場合には輸送密度2000人未満、営業キロが30キロメートルを超えて50キロメートル以下である場合には輸送密度500人未満であるときに指定されていました。第二次特定地方交通線は輸送密度2000人未満で、かつ第一次特定地方交通線として指定されなかった路線でした。また、第三次特定地方交通線は輸送密度4000人未満の路線です。なお、いくつか除外のための条件があり、輸送密度の面では特定地方交通線として指定されるべきですが除外されて鉄道路線として存続したところもあります。しかし、深名線、三江線、岩泉線など、JRグループになってから全線廃止となったところもありますし、留萌本線、札沼線、日高本線など、一部が廃止されたところもあります。

 特定地方交通線として指定された路線については、沿線自治体などが協議を行ったりしていましたが、当時の国鉄などの態度は廃止(第三セクターなど他社ヘの転換も、国鉄路線としては廃止であることに変わりはありません)の選択肢一択というものでした。勿論、転換交付金などの策も怠られてはいません。だから、10年程の間に廃止・転換が比較的スムーズに行われたと言えます。

 時間を現在に戻すと、国土交通省の有識者検討会は、鉄道路線の廃止を前提としていないようです。存廃協議に入るための条件は、輸送密度1000人未満であることの他に、複数の都道府県や経済圏に跨がっているために「広い範囲での調整が必要な場合など」とされています。一方で「1時間あたりの最大の乗客数が500人を超える場合は含まれない」とのことです。

 なお、時代の変化とともに、選択肢は増えています。BRT、上下分離方式などです。ただ、輸送密度が2000人未満となっている路線は、JRグループ全体で4割程度となっています(2020年度の数値です。この点は注意が必要かもしれません)。上記朝日新聞記事には「国鉄が民営化した1987年度から倍以上に増えた。人口減に加え、高速道路網の整備が進み、地方での移動が自動車に置き換わったことも影響している」と書かれています。全国的な傾向としてはこの記述のとおりです。従来の様々な議論を詳細に検証しなければならないと考えていますが、少なくとも、COVID-19の感染拡大は、鉄道路線の存続にではなく、廃止、整理統合こそに日本社会が歩むべき方向性があるということを教えてくれているのかもしれません。あの東京メトロが大打撃を受け、現在も完全に回復しておらず、8月27日に銀座線、丸ノ内線、東西線および千代田線で減便を行うダイヤ改正を行います。首都圏も、自家用車社会の他地方・地域に追い付かざるをえないということでしょう。


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