ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

熊本市の政令指定都市入りについて思う

2011年10月21日 09時18分58秒 | 国際・政治

  〔昨日(10月20日)に書いたことですが、ここに転載します。なお、若干修正しています。〕

 10月18日の閣議で、熊本市が来年の4月1日に政令指定都市となることが決定されました。九州では北九州市、福岡市に次いで3番目で、全国では20番目の政令指定都市となります。

 熊本市は、以前から政令指定都市入りを目指して動いていました。いわば悲願が達成された、ということになるのでしょう。歴史的にみても、熊本市が九州を代表する都市であった時期は確実にあった訳ですし、現在でも南九州を代表する都市です。九州を統括する国の機関も、一部は熊本市に置かれています。

 しかし、この政令指定都市入りは、手放しで喜べるものでもないようです。私は仕事などで何回か熊本市を訪れたことがあるに過ぎないので詳しい事情は知りませんが、最近政令指定都市となった所と同じように、何か過大な期待を抱いているように見えるのです。

 そもそも、熊本市が政令指定都市となることができたのは、平成の大合併と密接な関係があります。地方自治法第252の19第1項は「政令で指定する人口五十万以上の市(以下『指定都市』という。)は、次に掲げる事務のうち都道府県が法律又はこれに基づく政令の定めるところにより処理することとされているものの全部又は一部で政令で定めるものを、政令で定めるところにより、処理することができる」と定めていますが、実際には長らく人口100万人以上が基準とされていました〔これは、おそらく戦後まもなくの五大都市(横浜市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市)と関係があるのでしょう〕。人口要件が若干緩和されたのは、千葉市が政令指定都市となった時でしたが、それでも或る程度の人口増加を見込めなければ、政令指定都市にはなれなかったのです。

 しかし、平成の大合併から、風向きが変わってきました。人口70万人以上であれば政令指定都市となることが可能とされたのですが、要するに合併を進めやすくするための策であると言うべきものです。21世紀になってから政令指定都市となった所は、ほとんどが合併によって政令指定都市になっています。さいたま市(浦和市、与野市、大宮市。その後に岩槻市も)、静岡市(旧静岡市、清水市)、浜松市(旧浜松市、浜北町など10以上の市町村が合併)、堺市(旧堺市と美原町)、相模原市(旧相模原市と相模湖町などの町)、といったところをあげておけばよいでしょう。熊本市も、まさに合併によって政令指定都市になることができたのです。

 それだけに、熊本市は、政令指定都市となることで多くの課題を背負うことになるのではないでしょうか。

 そもそも、政令指定都市に生まれ育った私(川崎市は1972年に政令指定都市となっています)が、行政法学から離れた所で感ずるのは、市と県との関係であり、政令指定都市の位置づけです。政令指定都市は、他の市であれば県が扱うような事務も手がけます。しかし、だからといって県と同じではありません。事務権限の配分などの点からすれば、いかに大都市であっても扱えないものがあります。大都市を一つの県として扱うというのであればすっきりするのですが、政令指定都市は妥協の産物であるのか、地方分権改革でもキーワードとなっている「役割分担」についても曖昧なままの位置づけとなっています。これは財源についても言えます。大都市であるからといって県税を徴収できる訳でもないのです。

 また、行政区の意味も問われるでしょう。便宜的に区分けするに過ぎませんので、自治をどのように発展させるかについては難しい課題があるものと思われます。また、横浜市や川崎市のように、住民の意識が市全体に向かわないということもあります。

 そして、熊本市の場合、特別な事情があります。九州は以前から道州制に積極的な姿勢を見せています。大分県の知事であった平松氏がそうですし、九州知事会も明確に道州制の導入を目指しています。九州の経済界も同様です。あたかも、九州全体が一つの県にならなければ未来がないとでも言いたいかのようです。それなら道州制の前に九州7県が、または7県と沖縄県が合併すれば話は済んでしまうと思われるのですが、そういうことでもないようです。

 仮に道州制が導入され、九州が一つの州、それこそ九州という名の州になれば、おそらく州都は福岡市となるのが妥当なところでしょう。しかし、熊本市は州都を狙っています。そのためにも政令指定都市となることが必要だったのでしょう。よそ者が冷や水を浴びせるようで悪いのですが、今の熊本市が九州の州都になるのは非常に難しいと思います。

 今年8月、およそ7年半ぶりに熊本市を訪れましたが、福岡市と比較しても公共交通機関の事情はそれほど良くないと見受けられました。熊本市電は便利ですが、それ以外が不便なのです。そのため、利便性は非常に限られた狭い地域にしかないと感じます。また、上通、下通、新市街などの中心街に空洞化の傾向が見受けられる点も気になりました。熊本県全体が自動車社会であると言えますが、熊本市も全く同様です。

 ともあれ、来年4月1日から熊本市は政令指定都市となります。


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