ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

メモ:「AとBとの合計額」の読み方

2022年03月04日 01時16分15秒 | 租税法講義ノート〔第3版〕

 2021年度の講義のために準備していたメモのファイルを基にして、掲載しておきます。

 

 租税法の条文においては、よく「AとBとの合計額」という表現が用いられる。意味はA+B=合計額ということである。

 しかし、「AとBとの合計額」という表現が登場すると、Aに該当する部分は短く、Bに該当する部分は長すぎるという場合が非常に多いため、Bに該当する部分を読んで意味がわからなくなるという方も少なくなかろう。例は後に示すとして、ここでは読み方を解説する。

 どなたかの著作で述べられていたと記憶しているが、とかく租税法の条文は難解になりがちである。いや、悪文と評価してよい。租税特別措置法がその代表であろう。無理矢理に一つの段落(つまり一つの項)、一つの文章に落ち着けようとするため、文章が長くなり、括弧、さらに二重括弧が多用される。息が長すぎる文章であるとも言える。難解な哲学書もかくやと思われる奇怪な文章ばかりが目立つ。

 このように記すと、「これだから租税法は……!」などという声が飛んできそうである。私も、時折、講義の後に受ける質問などでそのように言われる。だから、私は「制度、条文を作った人が悪い」と答えることもある(冗談ではなく、本気である。勿論、私の説明が下手であることを否定はしない)。

 文句ばかり書いては何も始まらないので、本題である。租税法の条文を読む際には、或る文字に注目すれば理解しやすくなる。こういう場合が多い。今回の「Aとの合計額」が代表例である。まずは太字の箇所に注目しよう。「Aと」という部分を見つけたら、必ず、その後に「との」がある。だいぶ先にあるかもしれないが、とにかく「との」を見つけていただきたい。

 「と」、「との」が見つかれば、「と」の前がA、「と」と「との」との間はいかに長くともBであるということがわかる。こうして「Aとの合計額」の意味がわかり、A+B=合計額として計算を進めればよい。

 それでは、所得税法の規定を例にして、解いてみることとしよう。

 例1.給与所得控除の計算方法

 以下、収入金額をXとする。

 ①X≦1,800,000の場合

 所得税法第28条第⒊項第1号は「収入金額が百八十万円以下である場合」であれば給与所得控除の金額は「当該収入金額の百分の四十に相当する金額から十万円を控除した残額(当該残額が五十五万円に満たない場合には、五十五万円)」であると定める。

 同号には「と」→「との」の関係が見当たらない。したがって、

 給与所得控除額=0.4X-100,000≧550,000

 ②1,800,000<X≦3,600,000の場合

 同第2号は「収入金額が百八十万円を超え三百六十万円以下である場合」であれば給与所得控除の金額は「六十二万円当該収入金額から百八十万円を控除した金額の百分の三十に相当する金額との合計額」であると定める。

 ここで「と」(下線部)→「との」(下線部)の関係を見つけることができる。そうすれば「と」の前の赤字の部分がAで、「と」と「との」との間にある青字の部分がBであることがわかるであろう。先程も記したところからおわかりかもしれないが、Bが長くなっているのは租税法の常である。それでも「と」→「との」の対応関係がわかれば「AとBとの合計額」の形になってこともすぐにわかる。したがって、

 給与所得控除額=620,000+0.3 (X-1,800,000)

  ③3,600,000<X≦6,600,000の場合

 同第3号は「収入金額が三百六十万円を超え六百六十万円以下である場合」であれば給与所得控除の金額は「百十六万円当該収入金額から三百六十万円を控除した金額の百分の二十に相当する金額との合計額」であると定める。

 ここでも「と」(下線部)→「との」(下線部)の関係を見つけることができる。やはり「と」の前の赤字の部分がAで、「と」と「との」との間にある青字の部分がBであることがわかり、「AとBとの合計額」の形になってこともすぐにわかる。したがって、

 給与所得控除額=1,160,000+0.2(Y-3,600,000)

 ④6,600,000<X≦8,500,000の場合

 同第4号は「収入金額が六百六十万円を超え八百五十万円以下である場合」であれば給与所得控除の金額は「百七十六万円当該収入金額から六百六十万円を控除した金額の百分の十に相当する金額との合計額」であると定める。

 ここでも「と」(下線部)→「との」(下線部)の関係を見つけることができる。やはり「と」の前の赤字の部分がAで、「と」と「との」との間にある青字の部分がBであることがわかり、「AとBとの合計額」の形になってこともすぐにわかる。したがって、

 給与所得控除額=1,760,000+0.1(X-6,600,000)

  ⑤X>8,500,000の場合

 同第5号は「収入金額が八百五十万円を超える場合」であれば給与所得控除の金額は195万円であると定める。説明の必要も何もないが、第28条第⒊項第1号もあげたので記した。

 例2.退職所得控除の計算方法

 以下、勤続年数をYとする。

 ①Y≦20の場合

 所得税法第30条第3項第1号は「政令で定める勤続年数(以下この項及び第六項において「勤続年数」という。)が二十年以下である場合」であれば退職所得控除額は「四十万円に当該勤続年数を乗じて計算した金額」であると定める。

 これは特に難しい訳でもない。単に退職所得控除額=400,000Y であるというにすぎない。

 ②Y>20

 同第2号は「勤続年数が二十年を超える場合」であれば退職所得控除額は「八百万円と七十万円に当該勤続年数から二十年を控除した年数を乗じて計算した金額との合計額」と定める。

 ここでは赤字、青字、下線という加工をしないので、退職所得控除額の算出方法を条文から見出していただきたい。

 退職所得控除額=8,000,000+700,000×(Y−20)


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