ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

地方議会のデジタルトランスフォーメーション化は

2023年03月14日 12時40分00秒 | 国際・政治

 2020年にCOVID-19が拡大することで、日本でもオンライン会議、オンライン授業などといったものが当たり前の存在になっている。

 このようにお考えの方も多いと思われます。実際、私も2020年度からオンライン授業を行っております。2021年度から教室で行うことが増えましたが、オンデマンドも行いましたし(あまり好きになれませんが)、併用も行っています。

 しかし、こと政治の世界では当たり前でも何でもないことのようです。朝日新聞社のサイトに「2023統一地方選・衆参補選」という企画連載があり、その一つの記事として今日(2023年3月14日)の8時付で「『議員が操作に不慣れ』『紙を廃止できず』 地方議会、DXを阻む壁」(https://www.asahi.com/articles/ASR3B7RQ8R37OXIE00K.html)が掲載されました。

 以前から指摘されている問題として、日本ではデジタルトランスフォーメーション(DX)化が進まない、少なくとも分野によってはDX化が進んでいないことがあげられます。このブログでも「オンライン授業の格差」および「小学校、中学校および高校のデジタル化はどこまで進んでいるのだろうか」として意見を記したりしました。しかし、問題は学校教育に限られません。或る意味で最も深刻であるのが政治の世界でしょう。日本以外の国ではオンライン議会が当然のように行われ、法律の解釈が問題にされることもなかったという所もあるようなのですが、日本ではそのように問屋が卸してくれなかったのです。

 そもそも、社会全体のDX化が進めばよいというものでもないのですが、COVID-19によってDX化が必要な場合が少なくないことが明らかになったとも言えるでしょう。そうでなければ、2021年にデジタル改革関連六法が制定される訳がないのです。しかし、日本ではオンライン議会が当然の選択肢になっておらず、デジタル社会形成基本法の趣旨も生かされていないと言わざるをえない状況が厳然としてあります。

 〈なお、ここでお断りをしておきますが、私は、可能である限りにおいてオンライン開催ではなく議場での開催を原則とすべきであるという立場を採ります。それでもオンライン議会を当然とするのは、COVID-19のような強力な感染症の拡大への対処など、必要な場合が少なくないと考えるからです。〉

 さて、地方議会(各地方公共団体の議会)はどのような状況になっているのでしょうか。

 上記朝日新聞社記事によると「朝日新聞の全国アンケートで、委員会をオンラインで開いたことがあると答えたのは、全1788議会のうち117議会(6・5%)にとどまった」とのことです(記事を読むと、無回答であった地方議会はなかったようです)。「117議会(6・5%)」は模擬開催などを除いたものです。各議会の本会議や全員協議会であれば総議員の出席が前提であるため、場合によってはオンライン開催が難しいこともありえますが、委員会であればそれほど困難でもないとも考えられますが、あくまでも思考の上での話であり、実際は別であるということでしょう。

 COVID-19が日本で爆発的に拡がり、緊急事態宣言も出された2020年、地方議会のオンライン化が課題とされたのですが、総務省が否定的な見解を出しました。同省の「地方議会における委員会のオンライン開催の状況」という文書には「総務省は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、令和2年4月に、『各団体の条例や会議規則等について必要に応じて改正等の措置を講じ、新型コロナウイルス感染症のまん延防止措置の観点等から委員会の開催場所への参集が困難と判断される実情がある場合に、いわゆる「オンライン出席」により委員会を開催することは差し支えない』旨を通知」したと旨が書かれています。

 さらに検索をかけると、2020年4月30日付で総務省自治行政局行政課長名で各都道府県総務部長、各都道府県議会事務局長、各指定都市総務局長および各指定都市議会事務局長宛てに出された「新型コロナウイルス感染症対策に係る地方公共団体における議会の委員会の開催方法について」(総行行第117号)という通知がみつかりました。そこには「新型コロナウイルス感染症対策に係る地方公共団体における議会の委員会の開催方法について問い合わせがありましたので、参考のためお知らせします」、「地域の元気創造プラットフォームにおける調査・照会システムを通じて、各市区町村に対して、本通知についての情報提供を行っていること、及び本通知は法第245条の4第1項に基づく技術的な助言であることを申し添えます」とあり(ここでの法は地方自治法のこと。以下も同様です)、さらに、次のように書かれています。

 「問 新型コロナウイルス感染症対策のため、委員会をいわゆるオンライン会議により開催することは差し支えないか。

 答 議会の議員が委員会に出席することは不要不急の外出には当らないものと考えられるが、各団体の条例や会議規則等について必要に応じて改正等の措置を講じ、新型コロナウイルス感染症のまん延防止措置の観点等から委員会の開催場所への参集が困難と判断される実情がある場合に、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法を活用することで委員会を開催することは差し支えないと考えられる。

 その際には、現に会議室にいる状態と同様の環境をできる限り確保するため、議事の公開の要請への配慮、議員の本人確認や自由な意思表明の確保等に十分留意するとともに、情報セキュリティ対策を適切に講じる必要がある。

 なお、法第113条及び法第116条第1項における本会議への『出席』については、現に議場にいることと解されているので、念のため申し添える。」

 議会の本会議への出席について引用文の通りに解釈すべきか否かについては議論があるものと考えられるのですが、総務省は「出席」=「現に議場にいること」という解釈を、今年の2月7日に新たな通知を出すまで変えていませんでした(後に取り上げます)。しかし、この解釈は本会議であれ委員会であれ妥当するはずですから、本会議についてはオンライン開催を全く認めず、委員会については条例や会議規則などの改正によってオンライン開催を認めることの根拠が明らかにされる必要があります。換言すれば、本会議であろうが委員会であろうが、わざわざ条例などを改正する必要もなく、オンライン開催は可能であるとも解釈できるはずなのです(回線など技術的な問題は脇に置いておくこととします)。ただ、オンライン開催の場合には会議の公開方法が問われるでしょうが、これもやり方次第でしょう。例えば、ZoomやWebexのコメント機能をオフにするか、オンのままで使用されても無視するか、といったところです。

 総務省の解釈の妥当性についてここで終わるとして、総務省の通知を受けてオンラインでの委員会の開催を可能とした地方議会はどの程度であったでしょうか。

 上記朝日新聞社記事によると「朝日新聞のアンケートで、全国1788の地方議会に今年1月1日時点の状況を尋ねたところ、295議会(16・5%)が改正したと答えた」とのことです。読んだ瞬間に「低すぎる」と感じました。実際に行う、行わないの問題ではないと考えるべきであるのですが、予算も絡む話であるからという理由があるのでしょう。

 また、オンライン委員会を実際に開催した117の地方議会の内訳は、都道府県および政令指定都市が17、政令指定都市を除く市と特別区が62、町村が38であったとのことです。従って「都道府県・政令指定市議会では4分の1で開催していたが、一般市と特別区では7・8%、町村では4・1%と、自治体の規模による『格差』が大きかった」ということになります。また、上記朝日新聞記事には「全国アンケートで『議会においてDXは進んでいると思うか』と聞いたところ、『進んでいる方だ』と答えたのは259議会(14・5%)で、772議会(43・2%)は『進んでいない方だ』と答えた。残り757議会(42・3%)は『どちらとも言えない』だった」とのことです。

 DX化が進まないことの原因の一つとしてすぐにあげられるのは予算でしょう。どのような開催の方法を採るかにもよりますが、議場などに機材を導入することが必要でしょうし、オンライン設備の設置なり拡充なりも必要でしょう。また、ZoomやWebexなどの場合であれば使用料金という負担もあります。議員の側にも一定の出費なり手間なりが必要で、勿論、ZoomやWebexなどについて、またパソコン、スマートフォン、タブレットについての或る程度の知識も必要です。

 そして、日本独自なのかどうかは全くわかりませんが、地方議会の「悩み」として次のような課題がアンケートに書かれていたそうです。

 「平均年齢が高い現状では議員が(DXに)ついてこられない可能性が高い」

 「端末の操作について、議員により得意・不得意の差が大きい」

 「機器の操作に不慣れな議員が多く、紙媒体の資料を廃止するのが困難」

 万人に対応しうる機材などないであろうとは思いますが、私の経験などからしても端末機器の操作については慣れ、あるいは覚える気が必要であることは当然です。別に端末機器に限った話ではないのですが、端末機器の場合は慣れ以前の問題で頭から拒否する人が少なくないということなのでしょう。上記朝日新聞社記事には「アンケートによると、地方議会の平均年齢は、都道府県と政令指定市が58・7歳、一般市(政令指定市を除く)と特別区が60・5歳、町村が65・2歳。地方議員が高齢層に偏っていることの弊害が、デジタル化の面でも現れていると言えそうだ」と書かれています。端末機器の操作と高齢化は必ずしも結びつく訳ではありませんし、結びつくとしても比例関係にはないと考えられるのですが、やはり高齢者が端末機器を受け付けないという傾向は見受けられるようです。私が実際に聞いた言葉ですが、フィーチュアフォンやスマートフォンは重いから持ち歩かないと言う高齢者がいます。私は「こんなものが重かったら何も持って歩けないだろう」と返しました。要するに、自分はどうせ覚えられないから使いたくない、ということでしょう。

 地方議会のDX化が進まない現状に業を煮やしたのかどうかはわかりませんが、先に記したように、総務省は今年の2月7日に新たな通知を出しました。やはり総務省自治行政局行政課長名で、各都道府県総務部長、各都道府県議会事務局長、各指定都市総務局長および各指定都市議会事務局長宛ての「新型コロナウイルス感染症対策等に係る地方公共団体における議会の開催方法に関するQ&Aについて」(総行行第40号)です。この通知には「今般、第33次地方制度調査会における議論等を踏まえ、Q&Aを作成しました」、「本通知は地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項に基づく技術的な助言であることを申し添えます」と書かれており、二つの「問」が書かれています。全文引用の形になってしまいますが、重要と考えられますのでここに示しておきましょう。

 「問」の1は、次のとおりです。

「本会議に出席が困難な事情を抱える議員がおり、欠席事由に該当する場合、議場に出席している議員数が定足数を満たしていれば、 議場にいない欠席議員がオンラインによる方法で執行機関に対し質問を行うことは可能か。」

 「答」は、次のとおりです。

 「○本会議において団体意思を最終的に確定させる上で、議員本人による自由な意思表明は、疑義の生じる余地のない形で行われる必要がある。」

 「○地方自治法第113条における本会議への『出席』は、現に議場にいることと解されているところ、議場に出席している議員数が同条に規定する定足数を満たしている場合は、会議を開くことができる。なお、議員が欠席する場合には、各団体の会議規則等に定められた手続をとることが必要となる。」

 「○その上で、第116条第1項において、本会議における議事は『出席議員の過半数』で決することとされており、表決は議員が議場において行わなければならない。このため、表決に対する賛否の意見の開陳として行われる討論や、表決・討論の前提として議題となっている事件の内容を明確にするために行われる質疑は、議員が議場において行わなければならないと考えられる。したがって、これらに該当する発言を、欠席議員が映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法(以下『オンラインによる方法』という。)で行うことはできないと考えられる。」

 「○他方、これらに該当せず、団体の事務全般について執行機関の見解をただす趣旨での『質問』として行われる発言については、その形式に係る法律の定めはない。このような『質問』は、各団体の会議規則等に定められた手続に基づき行われるものであることから、ご質問のような場合 に、各団体において所要の手続(条例や会議規則、要綱等の根拠規定の整備や議決又は申し合わ せ等)を講じた上で、出席が困難な事情により議場にいない欠席議員がオンラインによる方法で 『質問』をすることは差し支えないと考えられる。」

 表決の場合(およびそれに伴う討論や質疑)にはオンラインでの出席は認められないということです。方法次第ではオンラインでの投票なども可能であろうと考えられるのですが、現状ではやむをえないでしょう。その他の面については一歩前進というところでしょうか。

 次に、「問」の2は、次のとおりです。

 「委員会への出席が困難な事情がある場合として、例えば、災害の発 生や、育児・介護等の事由をもって、議員が、いわゆるオンラインによる方法で委員会に出席することは可能か。」

 「答」は、次のとおりです。

 「○地方自治法第109条第9項において、委員会に関し必要な事項は条例で定めることとされており、各団体の条例や会議規則等について必要に応じて改正等の措置を講じた上で、委員会への出席が困難と判断される事情がある場合に、オンラインによる方法により、委員会に出席することは差し支えないと考えられる。」

 「○具体的にどのような場合にオンラインによる方法での出席を可能とするかについては、各団体において判断されるものであり、ご質問のような事由がある場合に、各団体の判断で、オンラインによる方法での委員会への出席を可能とすることも差し支えないと考えられる。」

 憲法および地方自治法の趣旨からしても、また千差万別といいうる各地方公共団体の実情からしても、「答」の内容は妥当なものと言えます。

 以上のような内容の全てが、複数回の通知を発し、第33次地方制度調査会の議論を経てまで決定されるべきであったものであるかということについては疑問もありますが、上記朝日新聞社記事に書かれているように「地方議員のなり手不足が深刻化するなか、育児や介護で忙しい世代が参入しやすい環境をつくる狙いもある」のでしょう。

 なお、上記朝日新聞社記事には大津市議会の例が取り上げられています。2021年に条例を改正して以来、13回の委員会でオンライン参加が可能になったそうです。基本的にはハイブリッド型で(私も、原則としてこれが妥当であると考えています。費用などはかかりますが)、オンライン参加の理由も疾病、育児、介護、公務、災害、忌引などと多く認められているようです。記事に同市議会議会局長の清水克士氏による「高齢の議員がいるせいでDXが進まないという話はよく聞くが、『食わず嫌い』ではないか」いう御意見については「まさにその通りである」と言えるのではないでしょうか。勿論、一定の配慮は必要ですし、時間などもかかることでしょうが(大津市議会もタブレット端末の導入以来、時間をかけてきたとのことです)、様々な事態を想定して複数の開催形態を準備しておくことが大事です。

 ※※※※※※※※※※

 ここからは余談です。私は、2020年3月下旬に渋谷で16インチのMacBook Proを購入し、同年4月1日からメイン機として使用しています。2014年3月に渋谷で購入してメイン機として使用していた13インチのMacBook Proが力不足になっていたことから、50万円以上をかけて導入しました(カスタマイズを行っています)。その時はオンライン授業など考えてもいなかったのですが、程なく、全面的にオンライン授業を行わなければならなくなったため、メイン機を変更してよかったと思いました。音声よりも画像のほうがデータとしては重いのですから、それなりの装備と性能を備えていなければ、スムーズに行うことなどできないのです。


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