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DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

#70.雲

2018年04月25日 | 星玉帳-Blue Letters-
【雲】


雲の上にある道だった。



見えるのは雲しかなかった。



途中



出会った旅人が



淡い色の雲を一欠片くれた。



雲ばかり渡っているという旅人だった。




確か彼は魔術師だったのだ。



雲には術がかけられていて



わたしは旅人との記憶をほとんどなくしてしまい




出来た空洞に別の雲を埋めることは出来なくなった。










#69.穴

2018年04月24日 | 星玉帳-Blue Letters-
【穴】


丘に登る途中



穴に落ちた。



しばらく膝を抱いて頭上の空を眺めていると



キツネが落ちてきた。




キツネは木の実をたくさん持っていて分けてくれた。




甘酸っぱい実を食べると



急に空が眩しくなったので目を閉じた。




眠い。




眠りと穴と恋は似ている。



物語はいつも



落ちて始まり落ちて終わるのだ。





#68.白雪

2018年04月23日 | 星玉帳-Blue Letters-
【白雪】


冬の森へ向かう。



途中過ぎた時を彩った小枝や落葉を集め鞄につめた。




鞄の中がいっぱいになった頃、



息は凍りつき手足は白雪に埋もれた。



氷になった過去は削れて足元に落ち、



過去は今になり未来になり



重なる過去に戻り森へ吹雪く。



すれ違う旅人から、



吹雪の先、地は繰り返し白く染まるのだと聞いた。







#67.流夢

2018年04月22日 | 星玉帳-Blue Letters-
【流夢】


時も人も元の場所に戻すことはできないことをよく知るには



星を何周すればと渡る鳥に尋ねるのだが、



夢を見ていることだけ知らされた。




何度も目覚めたはずなのに




気がつくと抱きしめているものを



夢と呼ぶのだと。




道行き集めた星が



夢の中の夢のように流れる空で、



夢を呼んでいいのだと。






#66.綿星

2018年04月21日 | 星玉帳-Blue Letters-
【綿星】



綿星に咲く真白草は根茎葉花すべて白い。




花が枯れた後にできる実を



綿星の人はすり潰して粉にし綿のような菓子を作る。




それをぎゅっと握ってはいけないと、わかってはいた。



が、体は言うことをきかず



いつも握りしめてしまう。




するとそれはあっけなく壊れる。




激しい苦さと甘さが



そのたび体に入ってくるというのに。









#65.七色

2018年04月20日 | 星玉帳-Blue Letters-
【七色】


虹の星で過ごした季節



何通かの便りを土星の人に送った。



それらは一通も届くことはなく、戻ってきた。




便りの束を握り



虹橋のたもとで幾度も足を止め、途方にくれた。




ただ一滴の




虹の雫を求め



七色をなぞった。




虹は溶け、夕陽に焼け、夜に消え、




土星の人の行方は知れず




なのでわたしは



今でも七色の雫を歌う。






#64.風

2018年04月19日 | 星玉帳-Blue Letters-
【風】



風の星では絶え間なく風が吹く。



部屋の中にも風は入る。



窓壁扉寝台衣服本……




朝昼晩何もかもが風に揺れる。




よくよく耳をすませば



風の中に風守の歌が聞こえてくる。




歌を聞き取ろうと



ペンを取る。




それを書き記すことができたならと思うのだが




文字はたちまち風に飛ばされ何も残らない。







#63.詩

2018年04月19日 | 星玉帳-Blue Letters-
【詩】


通りで青いうさぎに声をかけられた。



「詩集はいかが」



と本を手渡される。



深い海色の糸で閉じられた青い表紙の本。



なつかしい惑星の色。



礼を言って受け取りページをめくった。




かつて青の惑星で



共に過ごした人と口ずさんだ詩がそこにあった。




青い詩を口ずさみ海へ向かう。



うさぎの乗る船を見送ろう。






#62.毒

2018年04月18日 | 星玉帳-Blue Letters-
【毒】


蠍の星人から絡まった糸と熟した酒をもらった。



ほぐしながら飲んでください、と。



糸も酒も艶やかでとても美しかった。



持ち帰り糸をほぐしたが簡単ではない。



幾晩かけてもほどけそうになく



ほどけないことが分かっていても



毎夜、糸をほぐして熟した艶を味わう。



「それらは毒のせいですよ」



星人の言葉をなぞりながら。







#61.蠍

2018年04月18日 | 星玉帳-Blue Letters-
【蠍】


この時期、蠍の星の港には赤い雨が降る。



知り合いになった星の人はわたしの言葉を好んでくれた。



が、どんなに好んだものでもすぐに忘れてしまうのだと言う。



明日には忘れる話でも、と蠍は物語を抱きしめ泣く。



その赤い涙はひとすじ光り海に漂い



わたしたちを打ち濡らす雨になる。




#60.星粒

2018年04月17日 | 星玉帳-Blue Letters-
【星粒】



水の色が濃くなったのは



夕刻が深くなったからだ。




海底の星粒はひとりで数えるのがよいと分かったのは



金星号に乗った人を見送ってから。




海に潜り声を殺して数え続けた。


金星号はとうに通り過ぎたので



もはや二度と会えぬ人なのか、




海の底から夜を見上げ、



数えた粒を撒く。








#59.氷

2018年04月17日 | 星玉帳-Blue Letters-
【氷】


方位の見えない地を往く。




なにものかを



さがしているのかいないのか



わからなくなり



夜の深い氷河にもたれ



氷片を握りしめる。




鋭さに幾度も自分は自分でなくなった。




手に余る心と痛みは



凍りつく宇宙の氷山に置くがいい。




心と名のつくものが



その暗がりの森に溶けてしまわぬよう。



深く深く。






#58.熱風

2018年04月16日 | 星玉帳-Blue Letters-
【熱風】


土星の人と笑い合ったのは



太陽が近くなる日


熱い風が吹く惑星の夏だった。




星へ繋がる一本の糸は



度重なる強風で力を失い



切れてしまうことを



わたしたちはおそらく分かっていたのだ。




糸の切れ端はもう空には見えないが



季節の激しさは残る。



それは誰のものでもないことを知った。





#57.花火

2018年04月16日 | 星玉帳-Blue Letters-
【花火】


打ち上げられた花火を眺めていると



光を帯びた欠片が流れてきた。



花火の音で星樹の葉が散り風に流されるのだ。




森の星で出会った人は



花火音に飛ばされた葉の光り方をとても気に入っていた。




光るのは一夜だけだから、と。



散った欠片を繋ぎ腕に巻く。




このまま丘に上ろう。



遠い惑星に手を振ろう。





#56.書物師

2018年04月15日 | 星玉帳-Blue Letters-
【書物師】


書棚の奥にしまっている緋色の本は


数年前


書房通りの書物師が作ったものだ。




今その書物師が暮らしていた工房は空室で



師も姿を消した。





本を持ち金星塔を上る。




展望台で表紙に手をかけた。




三千三回目だ。




頁をめくることを試みた回数は。




だがめくれない。




頭上の星が笑い



森へ帰る鳥が鳴く。