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DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

#85.染料

2018年05月10日 | 星玉帳-Blue Letters-
【染料】


海に向かう途中に


青の染料屋がある。




星の海水を元に



青色の染料を作り売っている。



店の壁、扉、屋根、すべて青いが



色味は各々異なる。



「青色は無数にあり同じ青には二度と会えません」




染料を調合しながら店主は言う。




出来たての青をひとつ買った。




二度と無い青は



かつて泳いだ星の色をしていた。








#84.羊毛

2018年05月09日 | 星玉帳-Blue Letters-
【羊毛】


幾年か前のこと



羊が暮らす冬の星を訪ねた。



一時羊と温め合い、



星を去る時



白毛を一抱え貰った。



その毛でマフラーを二本編んだ。




次の季節それを持ち星を訪ねたが



羊の姿はなかった。



手紙も言づてもなく。




思い出が凍るのは冬だけの悲しみではないと




二本分の羊毛を首に巻き付け



凍りつく季節を知った。








#83.月山

2018年05月08日 | 星玉帳-Blue Letters-
【月山】


月の山を登る。



道は険しく荒れていた。



山道に生えた鋭く長い枝葉が手足に絡まり刺さる。



月の眠り鳥が



「月の頂き横たわり



  寝床なくともよく眠れ



    あれも夢これもまた夢」



などと歌い空を舞う。



刺さった枝の痛みは



やがて夢になることを歌で教えてくれたのは



確かあの鳥だった。











#82.灯台

2018年05月07日 | 星玉帳-Blue Letters-
【灯台】


灯台守をしている魚を訪ね



浜でお茶を飲んだ。



熱いお茶を共に啜り



魚の話に耳を傾けた。



魚はかつて水の星で暮らしていた。



故郷の水で魚のうろこはおおかた傷つき



彼は陸に上がることにした。



そしてこの場所に辿り着いた。




傷ついたうろこをささやかな光に変え



夜の海道を照らすことを日課としているという。







#81.無形

2018年05月06日 | 星玉帳-Blue Letters-
【無形】


夜の道を歩く。



道は暗く



歩みは進まない。



先に小さな光が見えた。




近づくと



とある家の窓辺に



光の玉が点っていた。



それは金星の港で別れたきりの人が携えていた



灯り玉の色や形にとてもよく似ていた。




いるはずもない人の



あるはずのない温もりや形を持った灯火に




しばしば道行きで出会うことがある。









#80.道

2018年05月05日 | 星玉帳-Blue Letters-
【道】


道は長く、くねくねと曲がっていた。



歩き疲れた頃



珈琲店を見つけることができたので



立ち寄り一杯飲んだ。



店を出ると



濃い霧が出ていた。



月も星も道も霧に隠れている。



もうずっと以前から霧の記憶は絶え間なく



遠い星を思っているのだが




すでに迷い子になっていることを




霧に霞んだ道に出会うたび



知らされるのだった。








#79.夢玉

2018年05月04日 | 星玉帳-Blue Letters-
【夢玉】


彼方の星にある森の中



夢をつるすと玉に変わる木があった。



つるされた玉は森の風に吹かれて回り



光に照らされて瞬き



時を経て風化し



割れて欠片となり落下する。



夢の記憶を糧にする者だけが欠片の行方を知るのだと、



森を往く旅人から伝え聞いた。



旅人の持つ夢玉の欠片は今も鋭く光るのだと言う。







#78.崖

2018年05月03日 | 星玉帳-Blue Letters-
【崖】


森を出てずいぶん歩いた頃、



崖の先端に辿り着いた。



身を乗り出して下を見ると遙か下に虹が見えた。



ここで虹を見る約束をしたのだ。



「崖の下の虹を見続ければ目の奥に虹が移り潜む」



と聞いたことがある。



待ち人の来ない淵でからだを伸ばす。



遙かな時の逢瀬の約束は虹の合間に沈め潜ませるのがよいだろう。








#77.坂

2018年05月02日 | 星玉帳-Blue Letters-
【坂】



坂の星にある道を上っていると



玉が幾つも転がってきた。



玉は転がる途中で



欠けたり割れたりして



おおかたは下まで行かず



粉々になって



散る。



坂の上には玉の仕事師がいるのだ。




仕事師はつやつやの光る玉を作り



坂の上から転がす。




勢いよく美しく粉々に砕け散る玉を




上る者に見せるのが




師の努めだと聞いた。






#76.九日

2018年05月01日 | 星玉帳-Blue Letters-
【九日】



幾年か前の九日に



大事な人がいなくなった。



毎年その日になると鳥が窓の外にやって来る。




鳥は鳴き声をあげて窓をたたく。



自分は遙か彼岸の星から飛んできたのだと言う。




もしもいなくなった人に会う術を知っているならば尋ねようと



窓をあけた途端



鳥は嘴をつぐみ飛び去るのだった。









#75.歌

2018年04月30日 | 星玉帳-Blue Letters-
【歌】


森の奥



リスはいつも歌を歌っていた。



リスは長いこと一匹で暮らし



寂しさと退屈をもてあまして



歌を作っては繰り返し歌っていた。



歌声はとても小さく細やかだった。




耳のよい鳥だけがリスの歌を聞き取れた。




鳥は時々わたしにリスの歌を教えてくれる。



この鳥もまたさみしがりなのだと



リスは歌う。





#74.階段

2018年04月29日 | 星玉帳-Blue Letters-
【階段】


地から空へ伸びる階段は不意に現れる。



それは空に溶け込む色をした果てなく長い階段で



空専門の階段職人が作ると聞く。



宵闇、街はずれの空に階段を見た。



上る影がある。



見覚えのある影だ。



名を叫んだ。



影は気づかないようですらすらと上って行く。



後を追いかけようとしたのだが



夜に紛れ見失ってしまった。




#73.蝋燭

2018年04月28日 | 星玉帳-Blue Letters-
【蝋燭】


満月の晩だけ開く店があった。



キツネが作る蝋燭を売る店だ。




その蝋燭は月の光を光源にして火が点るという。




満月の夜



店主はあるだけの蝋燭を



窓辺に並べる。



月の光を吸った蝋燭は



次の満月まで燃え続ける。



灯りが点る窓は夜を揺らし



静かに熱く往来のものたちを迎えるのだった。








#72.旋律

2018年04月27日 | 星玉帳-Blue Letters-
【旋律】


隣室の弦楽士は



夕陽の刻になると弦を奏でる。



その音階は韻律のように



何度もわたしの部屋の窓を叩く。



目を凝らすと音が見える。



音は色を帯び、軽やかな大小の玉になり



宙を飛ぶ。



幾つも幾つも音数を超えて彼方へ。



遠く飛んだ旋律は



宙に迷う星を流星に変えて窓辺に呼び寄せるのだと



弦楽士は言う。






#71.結晶

2018年04月26日 | 星玉帳-Blue Letters-
【結晶】



季節の終わりに降る結晶を



集めていた。




過ぎた季節は確かにあったことを



結晶たちはおそらく知っている。なので


ずっと握っていた。




今でもあの星に季節の結晶は降っているだろうか、と



尋ねるわたしに




星の渡り鳥は答えず




降る結晶をついばみ




欠片になったそれを空に散らすのだった。