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DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

#55.橋

2018年04月14日 | 星玉帳-Blue Letters-
【橋】


星の川に架かる橋に辿り着く。



橋の下には銀の星のかけらが流れていた。




いつの時代だったか




土星の人と共に橋を渡り向こう岸に行った。




川を眺め、かけらを数えた。



星の消える刻、戻る時はひとり。




数えた星のかけらだけ暁を迎えれば



時は橋を越えるだろうか。




向こう岸、星の森に向かい



時を超えるささやかな歌を歌う。






#54.青砂

2018年04月13日 | 星玉帳-Blue Letters-
【青砂】



丘を越え海の香りのする方角へ歩くと



青の砂浜が見えてきた。



一面の青砂海岸は



海との境目が曖昧だ。



砂を一掴み握り、飛ばす。



海風に乗せると



この砂はどこか別の惑星の



青砂海岸に着くという。



風の軌跡を知る鳥は砂の行方が分かると聞いた。



飛ばした砂の行方を尋ねると



鳥は一声鳴き宙を舞った。








#53.墓

2018年04月12日 | 星玉帳-Blue Letters-
【墓】


丘の上の墓所に



石でできた小さな墓がある。


この星を訪れた日には



それに草花を飾ったり


貝殻を繋いだ輪をかけたりするのが


慣わしだ。




わたしはここに誰が眠っているのか知らない。



ただこの墓が愛しい。



そのことを墓守の黒ヤギに気づかれまいと




墓前のグラスに水を注ぎながら



ずっとすすり泣いている。





#52.紙船

2018年04月11日 | 星玉帳-Blue Letters-
【紙船】


「夏至船に今年こそは乗りたかったのですが



この紙で船を折り海へ流しに行きます…」



キツネが言う。



キツネの手元には水玉がびっしりと描かれた紙があった。




ほんの束の間波間を漂うだけの紙船は



行き場を失くしたその絶望でしか行けないという



海底を見つけるために自ら沈み



海中を漂うという。





#51.酒庫

2018年04月10日 | 星玉帳-Blue Letters-
【酒庫】


宿の薄暗い階段を下りると



星樹の熟香が香ってくる。




階段は地下の酒庫に通じている。



酒庫には星樹の惑星で作られた酒が寝ているのだ。





番をする酒師は



気まぐれに訪ねた者にグラスを持たせ



なみなみと星樹の酒を注いでくれる。




それは焼けるように喉を流れ



物言わぬ氷のように



固く冷ややかに時間を止める飲み物だ。






#50.夏至船

2018年04月09日 | 星玉帳-Blue Letters-
【夏至船】


今夜は森の水辺で夏至の火が焚かれる。



天に上る煙を頼りに森の道を行き、炎に辿り着いた。



羽を生やしたヤギ、王冠をつけた蛙、草花をまとった小さな人、



などが炎の周りで語らっていた。




暫く火に当たっていると



港の方角から鐘の音が聞こえてきた。



「あれは夏至船の鐘。彼岸へ鳴る音です」



小さな人がそう教えてくれた。





#49.月

2018年04月08日 | 星玉帳-Blue Letters-
【月】


土星の人から最後の便りが届いたのは



赤い惑星にとどまって三度目に迎える夏至前



丸い月の夜だった。




夜は短かく行き過ぎ




一緒に月を見ることはなかった。




日が暮れると星のない部屋で



ただ小さなランプに灯りをともし



肩を寄せた。




月が歌う伝説は願いの呪文なのだと




四度目の赤い月で知った。





#48.春霞

2018年04月07日 | 星玉帳-Blue Letters-
【春霞】


霧の惑星で出会った人は船を好んだ。




出会ってすぐ


わたしたちは春霞の水上から船に乗った。




交わした僅かな言葉は霧のためか



すぐに波間に見えなくなった。




航海の殆どが霧だったことは幸いだ。



霧だけを思い出せばいい。




夏至の前に何かの約束をしたかもしれないが



約束の所も時も決めなかった。



霧は幸いだ。





#47.荷

2018年04月06日 | 星玉帳-Blue Letters-
【荷】


空き家になっている森の小屋は



星から星へ荷を運ぶ白ヤギの休み処だ。




温かいお茶を持ち森小屋を訪ね



出立の時間まで白ヤギと過ごした。




白ヤギは言う。



この頃見かけは小ぶりなのにずっしり重い荷が増えて…と。




細い足は誰にもわからぬよう震えている。




震える白ヤギと共に何杯もお茶を飲み



夜を迎える。












#46.水

2018年04月05日 | 星玉帳-Blue Letters-
【水】


広場に水売りの屋台が出ていた。




水の星から運ばれた様々な色水が並ぶ。




その中からよく冷えた銀色の水を求めた。




水の星で暮らしていたことを




忘れかけては思い出し



その度



水を手にする。




そして




思い出す事を何かの色に染めようとしても




何色にもならないことを知る。




この水は傷みに効くだろうか。






#45.軌跡

2018年04月04日 | 星玉帳-Blue Letters-
【軌跡】


金星塔の小窓から



彼方の惑星へ飛ぶ船を眺めた。




雨雲の切れ間に小さな船影が泳ぐ。



かつて雨の季節



階段ですれ違った彼方の人が別れも告げず乗った船は




どこへ向かったのだろう。



どこに着地したのだろう。




あるいは




未だ回遊し続けているのだろうか。




淡い軌跡を窓に描く。



雨がすぐにそれを消す。








#44.声

2018年04月03日 | 星玉帳-Blue Letters-
【声】


丘に登る途中



銀色の小さな欠片が飛んできた。



陸に住む魚が



丘の上で



ウロコを風に散らせているのだった



痛くて…と魚は言った。



剥がれた所が?



聞くと


魚は途切れ途切れに何かぽつりとつぶやき



すぐに口を閉ざした。



魚の声は海風とすぐに混じるので



じっと耳をすませ



声を聞き取らねばならない。





#43.夕刻

2018年04月02日 | 星玉帳-Blue Letters-
【夕刻】


雨の夕刻。



幻燈に火を灯した。




燃料の星砂が燃え立ち上がる炎は青い。




遠い惑星で出会い一度だけ抱きしめたあの記憶の魂のようだ。




魂はそれを忘れかけた頃に歌を歌う。



時間を知らない青さで。




太陽を見ない日の歌声は更に高く。



炎の芯に揺らめくのは




青い青いわたしたちのたったひとつの記憶だ。





#42.旅人

2018年04月01日 | 星玉帳-Blue Letters-
【旅人】


金星塔の展望台に上り、



星を見ていると旅人がやってきた。



どこから来たのですか、



問うと



旅人は四方を見回し天に流れるひとつの星を指差したので




塔の壁に書いてあった落書きを思い出した。



「瞬きの間に多くの星は流れ、旅は終わった」



この横顔とあの流星は旅なのだ。




道行きに刹那の星が流れた。





#41.六月星

2018年03月31日 | 星玉帳-Blue Letters-
【六月星】


星玉工場でグラスを手に入れた。



高多湿が特徴の六月星で採取した鉱物で作られているものだ。




炭酸水を注いで指で弾くと雨音様の音が鳴った。




六月星で星の人と一日雨音を聞いたことを思い出す。




あれは奏でられた途端に指から溢れ落ちる音だった。





グラスに耳を傾ける。




が、同じ音を聞くことはできなかった。