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徒然綴り・・・歌詞&ひとり言

物語 『死神と呼ばれた男』 その2

2010年05月25日 02時14分28秒 | Weblog
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男は両手を特殊な形に組み合わせて経文のような呪文のような、
聞いたことも無い何かを唱え始めました。
すると、祠の前で争っていた三人が、一瞬にして部屋に飛び込んで来ました。
「うわーっ!」

恐れる夫の前で、
亡くなった夫の祖母と親戚の大ばあちゃんの激しいやりとりが響きました。
それは100年以上に渡る一族の軋轢と、怨念、生き霊の災いの一部始終でした。

総てが夫に飲み込めた時、三人は三枚の紙片になって、空(くう)から畳の上へと
ひらひら舞い落ちました。

                         *

夫は嗚咽と共に茫然自失していましたが、暫くしてから語り始めました。

「二人のばあちゃんの仲が悪いことは何となく感じてた。
小さい時から、
年賀にしても法事にしても、形式上の集まりに過ぎない空しさも有りました。
親戚しかいない集落なのに、必要な時以外話せないような何かが有って。

本家の跡取りだ、跡継ぎをつくれというプレッシャーも凄かった。
それに反発するように、
到底嫁には相応しくない派手な女たちを、わざと親に紹介したりしました。
それで皆はおれを見放して、姉夫婦を、長男夫婦代わりに本家に住まわせた。
でも姉は義兄の苗字になっていた。それに、なかなか子供が出来ない。

そのことでも親戚の意見が割れて、おれの離れまで色んな人がコソコソやって来て、
耐えろとか追い出せとか勝手なことを言っていた。

おれも一生結婚する気もなかったのに、妻と会った時は運命を感じました。
身体的な事情も知ってたけど、どうせ当てにされてないので問題ないと。

父も祖母も賛成してくれた。母も反対はしなかった。
でも、あんなに元気だった父と祖母が、立て続けに亡くなって・・・。

でも、そうですね、本家が途絶える時の最後の嫁がうちのやつで、
おれたちは墓守り(はかもり)で。

ちょうどその頃、大ばあちゃんとこの曾孫が寝たきりになった。
うちの養子にされないように、大ばあちゃんが引き止めていたのか・・・。

うちの祖母も、何も言わなかったけど、本家を絶やしたくなかったんですね。
出来ればおれに養子を取らせたかった・・・。

そういえば聞いたことがあるんですよ。
父の家系も母の家系も、昔は養子を取っていたと。
代々そうして家を守って来たのに、おれにはどうでも良いことだった・・・。

これからおれたちはどうすればいいんです?」

「ご夫婦でよく話し合った結果を、亡くなった方々も含め、寝たきりの方々にも、
親戚の皆さんに、ご報告されては。
どのような結果であっても、皆さんに理解して貰えるように。
おひとりずつ直接お話してみてはどうでしょう。」

「それだけですか」
「あなたの祖母さんや親戚の大祖母さんが生まれる前からの集落のわだかまりも、
次第に解けるでしょう。」

                         *
男は翌朝、集落から去りました。
数週間して、男の元に、女性と夫から手紙が届きました。

「実はあの後、大ばあちゃんのところへ通って夫婦で話しかけました。
私たちの気持ちは伝わったと思うのですが、
かかりつけの医者が来ると、静かに息を引き取りました。
曾孫の子も、その夜、大ばあちゃんを追いかけるように亡くなりました。
私たちはあれから毎日のように一軒ずつ回って皆さんとお話するようにしています。
まだまだ思うように話してくれない人たちも居ますが、続けようと思います。
来年には姉夫婦に子供が生まれそうです。」

この世への執着が解けると、人は自分の意思で行き先を決めることがあります。
大祖母と曾孫の二人は、あの世へ旅立つことを決めたのでしょう。 
 
男が手紙を読み終わると、名前を名乗らない人物から電話がありました。

「この死神めっ!」


:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::(完)::::

                   

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