中西正男の「ご笑納ください」

デイリースポーツで13年半、芸能記者として勤務。現在は朝日放送「おはよう朝日です」などに出演させていただいております。

プラスマイナス・岩橋さん。

2011-12-11 17:03:15 | Weblog
スポーツ新聞の演芸担当記者という仕事柄、日々、いろいろな芸人さんにお会いします。

これも仕事柄、よく尋ねられるのが『誰が面白い?』との質問。この問いに、僕がここ一年ほど必ず名前を挙げているのが、漫才コンビ『プラスマイナス』の岩橋さんです。

仕事上、もちろん、広義での公平性を持って芸人の皆様と接してはいますが、ソムリエが晩酌で飲むワイン、グルメライター行きつけの店、浜村淳さんお気に入りの映画…みたいなもので、仕事から離れた完全なる個人の好みの話です。

これまで、好きな芸人さんはダチョウ倶楽部さん、春一番さん、レイザーラモンRGさんといった具合に変遷を遂げてきましたが、今は岩橋さんが不動の一位になっています。

ただ単に、自分の好みに合うからかもしれませんが、岩橋さんお気に入りのフレーズ“ギューン”“マイーン”“オーシャンビュー”“フォーリンカントリーピーポー”などは何回聞いても笑ってしまいます。分かっていても、笑ってしまいます。

これは何故なのか、僕が考えるに、ここには“声”と“音”の違いが深く関わっているのだと思います。

普通、ギャグを言う時は、当然ながら声を出して言います。“当たり前田のクラッカー”にしろ“ラブ注入”にしろ。人間は声を出してしゃべるのですから、至極当然のことです。

ただ、岩橋さんのフレーズは声よりも音に近いのだろうなと。

しばしば、バラエティー番組などで見かけますが、斜面からボーリングの球が転がって来るのを脳天で受け止めるような罰ゲームがあります。

あの罰ゲームの笑いどころは、芸人さんの恐怖の表情や、罰ゲームという緊迫感を生じさせた上での芸人さん同士のやりとりといったこともさることながら、行きつくところは音だと思います。

ボーリングの球が脳天に当たった瞬間の音。それがクライマックスなのだろうなと。

頭蓋骨に直撃したゴツンという生々しい音、思いの外、当たりが浅くコツンという拍子抜けの音、頭に当たった瞬間、球が意外とバウンドして頭に二回当たり、ゴツンコツンという連発になった音…。どれでもハズレなしに面白いものです。

ここには人間が意図を持って出そうとする音、すなわち声では出せない面白さがあります。リアリティーが持つ説得力とでも言うべきものが、空気を破裂させるような面白さを生み出します。

言おうと思えば、どのタイミングでも繰り出せ、言おうと思えば、100回連続ででも言えるのがギャグの強みとすると、前述したボーリング球の音は場所と状況を選びまくって毎回安定しないが、誰もが笑う馬力を持つことが強みになると思います。

いつでも安定して出せるが威力がイマイチの場合もある拳銃と、状況を選ぶが威力満点のバズーカ。二律背反的なこの二つが夢の融合を果たしたのが岩橋さんのフレーズで、“声なのに音、音なのに声”という突き抜けた強みを持っているのだろうなと思います。

岩橋さんほど主武器にはしていないものの、他にも、この法則に当てはまる例をが見受けられます。

例えば、ダウンタウン・浜田さんのえづきや、島木譲二さんが“爆弾チョップ”の最後に出す『キヒィー』というような甲高い声などは、この法則に当てはまるのかなと。

知ってか知らずか、偶然か必然か、岩橋さんがこの武器をいくつも持っているのは、実はすごいことではないかと考えています。

もちろん、本当の本当の主武器は漫才であるのでしょうが、どんな角度からにせよ、強いことは素晴らしいこと。そんな武器を持った岩橋さんが、芸能界の猛者とどんな名勝負を展開していくのか、一ファンとして楽しみです。

おばあさんも脱落し、聴衆がネコ一匹になった37歳。