大事小事―米島勉日記

日常起きる小さな出来事は,ひょっとして大きな出来事の前兆かも知れません。小さな出来事に目を配ることが大切と思います。

薬害肝炎訴訟の政治性

2007年12月25日 19時51分43秒 | Weblog
 フィブリノーゲンなどの血液製剤経由でC型肝炎に罹患された被害者の方々にはまことにお気の毒ではありますが,NHKなどのテレビで見る限りでは,原告団の記者会見に何となく違和感をおぼえておりました。この種の訴訟に関しては,一律救済というのは無制限に近い補償を許す可能性があるわけですから,国税をもってそれを行うのは一般市民に許容しがたい負担を伴うことに危惧を抱かざるを得ない,と考え「なにか変だ―薬害C型肝炎訴訟原告団」と書きました。私が記者会見でおぼえた違和感とは,記者会見に現れたのがほとんどすべて女性であったこと,首相,政府の責任追及と謝罪に固執したことです。さらに大阪高裁の和解案に対しては,1人当たりの補償額を2000万円から1500万円に減額してもいいから1000名の被害者(目下の原告団は約200名)を一律救済せよ,と要求していました。
 女性だけを原告団の前面に立たせたのは,出産時の大量出血に起因する輸血によるC型肝炎感染が多いから,と理解できないことはないのですが,男性だって被害者のはずです。現に私の親友の一人の元国立大教授は,昭和30年代初期の大学卒業直前に,かつての国民病でもあった肺結核が悪化して半肺切除の大手術を経験し,その時の輸血が元で約10年前にC型肝炎を発症して現在もインターフェロン療法を受けています。副作用が激しいため,その都度短期入院を繰り返しています。ただし,訴訟に加わっているわけではありません。
 ですから,なぜ女性被害者を前面に立てて,記者会見の最初から涙,途中から涙を見せるのでしょうか。ふと気がついて「薬害肝炎訴訟全国弁護団」なるホームページを開いてみました。
 そのホームページの構成の立派なこと,まさにプロのホームページ作者によるものであることは歴然です。
 私は,そこに特定のイデオロギーをもつ弁護団の存在の匂いをかいだのです。たとえば共産党系の青年法律家協会(ただし,現在はかなり衰退したようです)もしくは自由法曹団(所属弁護士約1700名)です。このホームページに見る弁護団の主張は,1. 薬害肝炎問題の早期全面解決 2. ウイルス性肝炎(C型肝炎・B型肝炎)患者への治療費支援(特にインターフェロン治療費)と書いてあります。つまり,弁護団の目的は薬害肝炎そのものの指弾,政府の責任追及に加え,薬害に限定されないすべてのウイルス性肝炎患者に対する治療費支援にあり,すぐれて政治的なものです。しかも,私の試算に誤りがなければ,この和解案で弁護団が受け取る合法的弁護報酬額は,原告1人当たり327万円,総額で32億7千万円になります。プロのホームページ作者を雇うことなど何の負担にもならない額です。この弁護団が原告に同情して手弁当で引き受けたとは到底思えません。なにしろ全国規模なのですから。
 はたして記者会見で涙する女性達は心底政府の責任追及などに固執しているのでしょうか。それに,薬害を引き起こしたのは数十年前の政府であり役人であったのです。彼女らはインターフェロン療法の費用が必要なのです。厚生労働省の役人の怠慢が薬害を拡大させたことは確かかも知れませんが,自分が受け取るべき補償額を減額されてまで,よく分からない一律救済を主張するでしょうか。弁護団が主張する1000名というのもなにを根拠に線引きするのかはっきりしません。

 福田首相は,自民党支持率の低下を懸念して議員立法で一律救済のための法律を提出し,原告団代表と会見もするようですが,将来に禍根を残す前例とならないでしょうか。残念ながら今日の医学薬学分野において開発された医薬品に副作用はつきものなのです。しかも今回の訴訟の弁護団の究極の目的は薬害に限らない全てのB型C型肝炎患者の救済なのです。無限の救済という泥沼に陥らぬよう,あえて疑問を呈するものです。