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いつか素晴らしい世界になって、誰でもが望む旅を楽しめる、そんな世の中になりますように祈りつづけます。

残酷な歳月 39 (小説)

2015-12-30 15:20:37 | 小説、残酷な歳月(31話~42話)

残酷な歳月
(三十九)

(愛から始まる残酷な日々)
突然、送られて来た手紙の後も、ジュノは連絡を待っていたが、音信不通のまま、大杉さんの行方はわからないままだった。

ジュノは、今までの大杉さんとの係わりをいろいろ考える中で、血の繋がった伯父だとわかってみると、とても納得の行く事が多かったと思う、たぶん、伯父として名乗る事も出来ずに、ただ、私たちが愛おしかったのだと感じる。

そういった中で、起きてしまったあの、穂高、吊尾根の事故!

今、ジュノは、大杉の伯父は決して、父を殺そうとして、あの場所から突き落としたのではないと思う!
不幸にも、起きてしまった、偶然の出来事であっても、父を死に追いやった責任を感じていたからこそ、大杉の伯父の心が、自分の気持ちを許せないのだろうと、ジュノは思えるのだった。

今、たとえ、命が終わろうとしていても、自分の言葉で伝える事が出来なかった!
『愛する家族であった』
『大切な人々の残酷な運命!』
『残酷なながい歳月』

「大切で、愛する家族」を、どうする事も出来ない、残酷な運命を背負わせてしまった事が、ただ、辛かったのだろう。

だから、今、自分の出来る事は、命が終える、最後の時であっても、誰にも見取られる事なく、残酷なまでに、自分の身を隠す事しか出来ない、せめてもの、伯父として!
「愛する家族への」償いの方法だとかんがえたのだろう。

そんな大杉の伯父の優しさがジジュノには辛かった!

なぜもっと早く、打ち明けてはくれなかったのか、ジュノの心の中で、全身すべてから、父や母、そして私たち家族をあまりにも『残酷な運命』

に追いやった人として、憎しみ、恨み、呪いたかったが、ジュノの、どこかで、その事を考えた時、どうしても、あの大杉の伯父の優しい笑顔を思い、憎みきれない気持ちになる。

やはり、言葉に出せない大杉の伯父の心が伝わって来ていたのだろうと、ジュノは思うのだった。
大杉の伯父の告白の手紙で、ジュノは又ひとつ、喜びと不安な感情が起こって、今、どうすればよいのか、いまだに、妹の樹里の行方が分らない!

大杉の伯父の手紙にも、妹の事を心配していても、行方を捜す事が出来なかったと、わびる言葉が添えられていた!
『本当にすまない!』

私もなんとしても、生きている内に、樹里ちゃんに逢いたいと、毎日、祈っているとも、書いてあった。

ソウルの養父の力で、何人かの優秀な外科医とスタッフがジュノの病院に入って来てくれた事で、ジュノは相変わらず、忙しいスケジュールではあるが、養父の手助けもあり、精神的にとても、落ちつける事が、嬉しかった。

自分の意志とは関係なく突然、十歳から、十八歳までのソウルでの生活は、ジュノ(寛之)にとって、決して、精神的に安定した日々ではなかった。

さらに、養父母のぎこちないほどの優しさ、気づかいは、ジュノの心を不安定にして、「寛之」と「ジュノ」のふたつの精神がせめぎあいする事を、ひとつ、ひとつ、心の奥底に閉じ込める行為は、どうする事も出来ない怒りで、すべての事にめちゃくちゃにしたいほど、爆発して狂いそうな思いだった日々!

そんな生活から抜け出したい思いから、アメリカにわたっても、尚、孤独と寂しさ、不安感から、心が壊れそうになっていた時に、出会い、少しずつ心を寄せ合っていった時間、恋人としての『津下加奈子』の存在は、ジュノにとって、途轍もなく大きな存在で力だった。

その、加奈子の心を、ずたずたに傷つけた、ジュノの行為は、あまりにも、ひどすぎる事だった。

だが、加奈子は苦しみの中で、ジュノを理解して、身を引く事しか出来ない自分の情けなさが、なお、加奈子を苦しめて、辛かった事だろう。

ジュノと面ざしが似ているという、ただ、それだけで、年若いロイが、加奈子の悲しみと孤独を何処まで理解したかはわからないが、加奈子との十歳以上も年若い少年のような、ロイとの生活が、ふたりを死に追いやるほど、ロッククライミングにのめりこませてしまった。

その責任はやはり、ジュノにある事なのだと、加奈子とロイの二人を知る、まわりの仲間は心配していた。

ジュノはいまだに、加奈子の死を受け入れてはいないが、その事の現実を認めたくない為に、今、アメリカへ渡る事などの思いに至る事が出来ないジュノだった。

『ジュノの心の中で加奈子は今も生きつづけていたのだ!』

ソウルの養父『イ・ジョンジン』はソウルの大学病院ですでに現役を引退していた。
『神が宿る手を持つ、天才的な、外科医で、科学者』

たくさんの言葉で養父を名誉を称えられる、韓国での生活に区切りをつけて、養父は決断して、日本に来てくれた。

だが、どんなに優秀な人であっても、老いの壁を取り払う事は出来なかった事を一番良くわかっていたのも養父自身だった。

今は、後進の指導する立場の名誉教授であったから、ジュノの病院で手助けをしていても、ある程度は許される時間のよゆうがある事が、ジュノには本当に力強い、父の存在にただ感謝して、父の手助けと気使いがありがたかった。

養父の助けもあり、病院も安定して、運営して行ける事で、ジュノは心の穏やかさを感じながらも
『不思議な期待感を持っていた』

大杉の伯父の手紙には、妹の行方と日本にいる事を知らせた、母方の祖母の居場所が明らかにされていないが、なぜなのか?

ジュノには、不思議とすべての不安や疑問が解消される事がもう真近に、何かがジュノを導いてくれそうで、期待感を覚えている。

春の風はどんな運命も
優しく解きほぐして
美しき人に届けてくれる
あの暖かく力強い手で
あの人は私の大切な家族
どんなに求めても
言葉では伝えられない
心がもどかしくて
その暖かき手を求める美しき人
大切な私の家族


            つづく




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