前置きとして、経験談を少々・・・
私は小児喘息の診療に四半世紀以上関わってきました。
その間、治療の主役となる薬物の入れ替わり~変遷を経験しました。
小児科医になった1980年代後半は、気管支拡張薬「テオリフィン製剤」の全盛期。
内服ではテオドールやテオロング、点滴ではネオフィリン。
この薬は効くのですが、有効域が狭いのが難点で、多いと中毒症状が出ますし、少ないと効きません。
そのため、採血して血液中の濃度を確認しながら“さじ加減”を調節する必要がありました。
その後、1990年代に入ると「喘息の病態は“気管支収縮”ではなく“気道炎症”である」という考え方に代わり、吸入ステロイドを中心とする抗炎症薬が使われるようになりました。
ただ、「ステロイド」は既にアトピー性皮膚炎の副作用で社会問題になっていたこともあり、普及はなかなか進みませんでした。
実際に使用してみると、その効果には目を見張るモノがありました。
テオフィリン製剤を定期内服していてもなかなか発作のコントロールが難しい患者さんに吸入ステロイドを導入すると、発作入院の回数が激減したのです。
小児喘息は、入院を睨みながら病院小児科で治療する病気から、開業小児科で管理できる病気へ変わった瞬間です。
それとともに、長期入院療法を行っていた病院小児科は患者数激減のため閉鎖するところが増えました。
その後、私自身も開業し、日々、吸入ステロイド薬中心の喘息診療に携わっていますが、発作がひどくて点滴したり、入院目的で病院へ紹介することは希です。
さて、本題です。
題名の小論文は医療雑誌「小児科」(金原出版)2014年5月号に掲載されたものです。
最近、「喘息のフェノタイプ分類によるオーダーメイド治療」という言葉を耳にします。
吸入ステロイド薬でもコントロール困難な難治例に対して、喘息のタイプをその病態により再分類し、最適な薬物を使用すべしという考え方。
そういう時代が間もなく訪れるのですね。
ただし、学会レベルではよく取りあげられているものの、なかなかまとまった文章が見当たらず、たまたま購入した雑誌の掲載に気づいたのでした。
近年、吸入ステロイド薬の先にある喘息治療薬として、分子標的薬が注目されています。
具体的には、オマリズマブ(抗IgE抗体)、メポリズマブ(抗IL-5抗体)、レブリキズマブ(抗IL-13抗体)、ドゥピルマブ(抗IL-4受容体・サブユニット抗体)等々。
このうちオマリズマブは製品化され(ゾレア®)、従来の治療ではコントロールできない難治性喘息に認可されています。
【喘息のフェノタイプと特異的治療薬】
・早期発症アレルギー性 Early-onset allergic(病態:IgE↑、Th2、SBM↑)→ オマリズマブ
・後期発症好酸球性 Late-onset eosinophilic(病態:ステロイド不応、好酸球、IL-5、IL-13)→ レプリキズマブ、ドゥピルマブ
・運動誘発性 Exercise-induced(病態:マスト細胞、Th2、Cys-LT)→ ロイコトリエン受容体拮抗薬
・肥満性 Obesty-related(病態:Th2↓、酸化ストレス)→ ダイエット、抗酸化剤
・好中球性 Neutrophilic(病態:好中球、Th17、IL-8)→ マクロライド
他に注目されている治療法として、舌下免疫療法も紹介されていました。
2014年10月にスギ花粉に対する舌下免疫療法剤「シダトレン®」が発売されたばかりですが、ダニアレルギーに対する舌下錠が発売予定とのこと(前項参照)、適応はアレルギー性鼻炎ですが、いずれダニアレルギーの喘息にも適用されることが期待されます。
それから、吸入ステロイド療法の使い方の工夫として「間欠吸入法」にも触れています(前々項参照)。
<メモ>
自分自身のための備忘録。
□ オマリズマブ(ゾレア®)
95%ヒト化された抗IgEモノクローナル抗体。IgEのFcεRI結合部位を認識するので、マスト細胞表面上のIgEを刺激することはない。すでに小児に対しても保険適応が認可されており、既存治療でコントロールが得られない難治性喘息患者が適応となる。
臨床的には、経口ステロイド減量効果、さらには重症例での医療費削減効果等が認められている。
□ メポリズマブ
ヒト化抗IL-5モノクローナル抗体。成人の難治好酸球性喘息を対象としたランダム化二重盲検比較試験が行われ、喘息増悪阻止効果とQOL改善効果が報告されており、ステロイド抵抗性の好酸球性喘息患者への臨床応用が期待される。
□ レブリキズマブ
ヒト化抗IL-13モノクローナル抗体。吸入ステロイド抵抗性成人喘息を対象としたランダム化二重盲検比較試験が行われ、血清ペリオスチン高値の亜群において有意な呼吸機能改善が認められた。
□ ドゥピルマブ
ヒト化抗IL-4受容体αサブユニットモノクローナル抗体。IL-4およびIL-13のシグナル伝達を抑制する。中等~重症の好酸球性成人喘息に投与したところ、ICS/LABA合剤を減量/中止後、プラセボとの比較において増悪が抑制された。
私は小児喘息の診療に四半世紀以上関わってきました。
その間、治療の主役となる薬物の入れ替わり~変遷を経験しました。
小児科医になった1980年代後半は、気管支拡張薬「テオリフィン製剤」の全盛期。
内服ではテオドールやテオロング、点滴ではネオフィリン。
この薬は効くのですが、有効域が狭いのが難点で、多いと中毒症状が出ますし、少ないと効きません。
そのため、採血して血液中の濃度を確認しながら“さじ加減”を調節する必要がありました。
その後、1990年代に入ると「喘息の病態は“気管支収縮”ではなく“気道炎症”である」という考え方に代わり、吸入ステロイドを中心とする抗炎症薬が使われるようになりました。
ただ、「ステロイド」は既にアトピー性皮膚炎の副作用で社会問題になっていたこともあり、普及はなかなか進みませんでした。
実際に使用してみると、その効果には目を見張るモノがありました。
テオフィリン製剤を定期内服していてもなかなか発作のコントロールが難しい患者さんに吸入ステロイドを導入すると、発作入院の回数が激減したのです。
小児喘息は、入院を睨みながら病院小児科で治療する病気から、開業小児科で管理できる病気へ変わった瞬間です。
それとともに、長期入院療法を行っていた病院小児科は患者数激減のため閉鎖するところが増えました。
その後、私自身も開業し、日々、吸入ステロイド薬中心の喘息診療に携わっていますが、発作がひどくて点滴したり、入院目的で病院へ紹介することは希です。
さて、本題です。
題名の小論文は医療雑誌「小児科」(金原出版)2014年5月号に掲載されたものです。
最近、「喘息のフェノタイプ分類によるオーダーメイド治療」という言葉を耳にします。
吸入ステロイド薬でもコントロール困難な難治例に対して、喘息のタイプをその病態により再分類し、最適な薬物を使用すべしという考え方。
そういう時代が間もなく訪れるのですね。
ただし、学会レベルではよく取りあげられているものの、なかなかまとまった文章が見当たらず、たまたま購入した雑誌の掲載に気づいたのでした。
近年、吸入ステロイド薬の先にある喘息治療薬として、分子標的薬が注目されています。
具体的には、オマリズマブ(抗IgE抗体)、メポリズマブ(抗IL-5抗体)、レブリキズマブ(抗IL-13抗体)、ドゥピルマブ(抗IL-4受容体・サブユニット抗体)等々。
このうちオマリズマブは製品化され(ゾレア®)、従来の治療ではコントロールできない難治性喘息に認可されています。
【喘息のフェノタイプと特異的治療薬】
・早期発症アレルギー性 Early-onset allergic(病態:IgE↑、Th2、SBM↑)→ オマリズマブ
・後期発症好酸球性 Late-onset eosinophilic(病態:ステロイド不応、好酸球、IL-5、IL-13)→ レプリキズマブ、ドゥピルマブ
・運動誘発性 Exercise-induced(病態:マスト細胞、Th2、Cys-LT)→ ロイコトリエン受容体拮抗薬
・肥満性 Obesty-related(病態:Th2↓、酸化ストレス)→ ダイエット、抗酸化剤
・好中球性 Neutrophilic(病態:好中球、Th17、IL-8)→ マクロライド
他に注目されている治療法として、舌下免疫療法も紹介されていました。
2014年10月にスギ花粉に対する舌下免疫療法剤「シダトレン®」が発売されたばかりですが、ダニアレルギーに対する舌下錠が発売予定とのこと(前項参照)、適応はアレルギー性鼻炎ですが、いずれダニアレルギーの喘息にも適用されることが期待されます。
それから、吸入ステロイド療法の使い方の工夫として「間欠吸入法」にも触れています(前々項参照)。
<メモ>
自分自身のための備忘録。
□ オマリズマブ(ゾレア®)
95%ヒト化された抗IgEモノクローナル抗体。IgEのFcεRI結合部位を認識するので、マスト細胞表面上のIgEを刺激することはない。すでに小児に対しても保険適応が認可されており、既存治療でコントロールが得られない難治性喘息患者が適応となる。
臨床的には、経口ステロイド減量効果、さらには重症例での医療費削減効果等が認められている。
□ メポリズマブ
ヒト化抗IL-5モノクローナル抗体。成人の難治好酸球性喘息を対象としたランダム化二重盲検比較試験が行われ、喘息増悪阻止効果とQOL改善効果が報告されており、ステロイド抵抗性の好酸球性喘息患者への臨床応用が期待される。
□ レブリキズマブ
ヒト化抗IL-13モノクローナル抗体。吸入ステロイド抵抗性成人喘息を対象としたランダム化二重盲検比較試験が行われ、血清ペリオスチン高値の亜群において有意な呼吸機能改善が認められた。
□ ドゥピルマブ
ヒト化抗IL-4受容体αサブユニットモノクローナル抗体。IL-4およびIL-13のシグナル伝達を抑制する。中等~重症の好酸球性成人喘息に投与したところ、ICS/LABA合剤を減量/中止後、プラセボとの比較において増悪が抑制された。