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小児アレルギー科医の視線

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HBV&ワクチン関連記事拾い読み(2017)

2017年03月13日 08時27分51秒 | 予防接種
 HBVワクチンが2015年10月に定期接種化されました。
 しかし、医療関係者の間では昔から感染予防対策としてワクチンの接種が行われてきたことは、あまり一般的に知られていません。
 HBVは針刺し事故で感染する可能性の高い疾患(感染率30%!)であり、一度感染すると体から消えることがありませんので、深刻で切実な問題なのです。
 しかし、HBVに感染した医療従事者のほとんどは針刺しを経験しておらず、感染した医療従事者の2/3がHBs抗原陽性患者をケアしたことさえ思い出せない、という報告があり、つまりHBVは感染者への曝露がないにもかかわらず、感染する危険性があるのです。それは、HBVは室温にて環境表面の乾燥血液の中で少なくとも1週間あ生き続け、そのウイルスが皮膚のひっかき傷、擦り傷、火傷、粘膜表面から体内に入り込むから。
 上記の理由から、すべての医療従事者は針刺し事故のみならず、無自覚のHBV曝露から身を守るために、HBVワクチンを接種することによりHBs抗体を獲得しておく必要があります。

 さらに、医療従事者や実習学生がHBV感染者である場合にどうしたらよいかも悩ましい問題です。きちんとルールを決めておかないと、HBV感染していることを理由に業務から外されたり、学生が学習の機会を奪われる可能性があるからです。

■ HBVワクチンでHBs抗体を獲得できない医療従事者はどうするか?
CDC Watch 2012年2月
(CDCが2011年11月に公開した「医療従事者の免疫化:予防接種諮問委員会の勧告」の解説)
・HBVワクチンを1コース3回接種してHBs抗体を獲得できる比率は、40歳以下であれば90%以上、40歳以上では90%未満、60歳まででは75%まで低下する。
・HBVワクチン接種にもかかわらず、HBs抗体が陽性化しない医療従事者がHBVに曝露した場合には適切な対応が必要となる。
・1コース(3回接種)に反応しない人のうち、25-50%の人が1回の追加接種により抗体を獲得できる。
・通常量(もしくは高用量)のワクチンを用いた3回の再接種をすれば、44-100%の人がHBs抗体を獲得する。
・再接種後1-2ヶ月してから実施したHBs抗体検査が陰性の人はprimary nonresponder と考えられる(遺伝的要因が関連しているかもしれない)。

<non responder への対処法2コース>
(その1)
1コース(3回接種)でHBs抗体を獲得できなかった医療従事者がHBs抗原陽性の人や肝炎である可能性が高い人に曝露した場合
 ↓
B型肝炎用免疫グロブリン(HBIG)を1回投与し、2コース目のHBVワクチン(3回接種)を開始する.
曝露源の人がHBs抗原陰性であることが確認されたならば、2コース目を完了させ、HBs抗体が獲得できたか否かを確認するための検査を実施する(HBIGが投与された人での接種後検査はHBIGによるHBs抗体が検出されなくなってから実施する・・・投与後4-6ヶ月後)

(その2)
2コース(6回接種)でHBs抗体を獲得できなかった医療従事者がHBs抗原陽性の人や肝炎である可能性が高い人に曝露した場合
 ↓
HBIGを1ヶ月の間隔を開けて2回接種する。この場合は追加のワクチン接種の必要はない。曝露源の人がHBs抗原陰性であることが確認されたならば、追加の検査も治療も必要ない。



■ B型肝炎ウイルスに感染している医療従事者および学生のためのCDC勧告
CDC Watch 2012年9月

・医療行為をカテゴリー分類:
【カテゴリーⅠ】医療従事者の経皮損傷の危険性を増加させる可能性があり、医療従事者から患者へのHBVの伝播を引き起こしたことのある処置。
 患者の体腔内で針の先端を指で触れる可能性がある医療行為、「医療従事者の指」と「鍼又はその他の鋭利器具や鋭利物(骨片など)」が解剖学的に狭小な部位または視野の狭い部位で同時に存在する医療行為。
(具体例)腹部大手術、心臓胸部手術、整形外科手術、大きな外傷修復、子宮摘出術、帝王切開、経腟分娩、口腔の耐手術や卾顔面手術に限定される。
【カテゴリーII】非侵襲的処置またはカテゴリーⅠには含まれない侵襲的処置。
 医療従事者への経皮損傷の危険性が低いか危険性の内緒値、もしくは経皮損傷が発生したとしても、それは患者の体の外部で発生するのが通常であり、従って医療従事者から患者への血液曝露の危険性が見られない。
(具体例)カテゴリーⅠに記載されていない外科処置や産婦人科処置、医療従事者の手が患者の体腔の外にあるときに、針やその他の鋭利器具を使用する処置(瀉血、末梢あよび中心静脈カテーテルの留置及び管理、注射による薬剤投与、針生検、腰椎穿刺など)、歯科処置(口腔の大手術や卾顔面手術以外)、チューブ(鼻胃、気管内、直腸内、尿路カテーテルなど)の挿入、内視鏡又は気管支鏡、手袋し立てによる内診(膣、口、直腸・・・ただし鋭利器具を用いない)、身体表面に接触する処置(一派案的な身体診察、目の診察、血圧測定など)となっている。

医療従事者/学生がHBVに慢性感染しているという理由だけで、
→ カテゴリーII:何ら制限を受けることはない。
→ カテゴリーⅠ:HBVウイルス量が低値(1000IU/mLあるいは5000GE/mL以下)または検出感度以下であることが少なくとも6ヶ月毎の定期検査で示されるならば、実施することができる。

・患者が「HBVに感染している医療従事者の血液」に曝露した場合は、それがいかなる処置であっても、曝露後予防および患者の検査を実施することを推奨。


■ B型肝炎ワクチンCDC Watch 2011年9月

・接種前にB型肝炎の免疫検査を実施すべきか?
→ ルーチンに実施することは推奨されていないが、下記の人々を対象に、ワクチン接種前のHBs抗原/抗体検査を推奨している。
 血液透析患者
 妊婦
 HBVに曝露したことが判明しているか疑われる人(HBV感染の母親から生まれた幼児、HBV感染者の家庭内接触者、感染性血液や体液に職業上曝露またはその他の曝露をした人)
 HBV感染者の多い国で生まれた外国人
 HIV患者

・接種シリーズ完了後にはHBs抗体検査を実施する必要があるか?
→ ルーチンには必要ないが、下記の人々(免疫状態を知ることが引き続く臨床的行為に関連する人)には推奨される。抗体検査のタイミングは、接種シリーズが完了してから1-2ヶ月後に実施するのが一般的である。
 HBs抗原用性の母親から生まれた幼児
 血液・体液による針刺しや粘膜曝露の危険性が高い医療従事者や保健所職員
 血液透析患者
 HIV感染者
 その他の免疫不全患者
 慢性B型肝炎ウイルス感染者の性的パートナー


■ HBVの針刺しの暴露後対策CDC Watch No.35, 2010年12月
<感染リスク評価>
 当事者(針を刺した医療従事者)がHBs抗体を保持(>10mIU/ml )していれば、感染の危険性はない。
 HBs抗体を持っていなければ、感染する可能性がある;
  曝露源がHBs抗原陽性/HBe抗原陽性→ 肝炎発症リスクは22-31%(HBV感染の血清学的エビデンスがみられる危険性は37-62%)
  曝露源がHBs抗原陽性/HBe抗原陰性→ 肝炎発症リスクは1-6%(HBV感染の血清学的エビデンスがみられる危険性は23-37%)
<曝露後対策>
 当事者にHBVワクチンの接種既往が無い場合→ 受傷後24時間以内にHBIG(B型肝炎免疫グロブリン)を注射し、同時にHBVワクチンコース(3回接種)を開始する。
 当事者がHBVワクチン接種既往があってもHBs抗体を獲得できなかった場合→ 「受傷後24時間以内と1ヶ月後にHBIGを注射する」、もしくは「受傷後24時間以内にHBIGを注射して、同時にHBVワクチンコールを開始する」のどちらかを選択する。


■ HBVに感染している母親が出産後に母乳を子どもに与えても安全か?
(CDC Watch No,62 2013/3)
A. 安全である。
 HBVワクチンが利用できるようになる前でさえも、授乳によるHBV伝播の報告はなかった。
 母子感染予防が完了し子どもが十分に免疫化されるまで、授乳を遅らせる必要はない。
 授乳している全ての母親は乳首が避けたり出血したりしないように適切にケアする必要がある。
※ HCV感染母もほぼ同じ内容で、乳首に傷があったり出血が見られるときは一時的に授乳を止めるとある。ただし、HIV感染母の場合は「母乳を与えてはならない」。
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