小児アレルギー科医の視線

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アレルゲンコンポーネント2021:ナッツアレルギー

2021年06月13日 16時10分19秒 | 予防接種
近年、アレルギー検査の精度がどんどん上がってきています。
従来は検査で陽性でも実際に食べると無症状だったり、弱陽性でも強い症状が出たり、
今ひとつ信頼できない検査レベルでした。

ある食材の中にはアレルゲンとなりえる成分(コンポーネント)がいくつもあります。
強い症状を引き起こすコンポーネント、
症状をほとんど生じないコンポーネント、
などの特徴がわかってきました。
それを検査に応用できると、診断精度が上がります。

まだ、すべてのアレルゲンでコンポーネント診断ができませんが、
2021年6月時点で以下のコンポーネントが検査できるようになっています。

卵白
・オボムコイド
牛乳
・α-ラクトアルブミン
・β-ラクトグロブリン
・カゼイン
小麦
・ω-5グリアジン
大豆
・Gly m 4
ピーナッツ
・Ara h 2
ラテックス
・Hev b 6.02
クルミ
・Jug r 1(2018年保険適用)
カシューナッツ
・Ana o 3(2018年保険適用)

先日、WEB配信された日本小児臨床アレルギー学会2021の中に、
「アレルゲンコンポーネントをもちいた食物アレルギー診療のいま」
という教育セミナーがあり、
聴講して知識のアップデートができましたのでメモを残しておきます。

まずはナッツアレルギー(演者は北林耐先生)から。


□ 食物アレルギーの原因食物の変遷

(2015年)
 1. 鶏卵
 2. 牛乳
 3. 小麦
 4. ピーナッツ
 5. イクラ
 6. エビ
 7. キウイ
 8. クルミ
 9. ソバ
 10. 大豆

(2018年)
 1. 鶏卵
 2. 牛乳
 3. 小麦
 4. クルミ
 5. ピーナッツ
 6. イクラ
 7. エビ
 8. ソバ
 9. カシューナッツ
 10. 大豆


・・・ナッツ類の躍進が読み取れます。
クルミは8位から4位へ、カシューナッツは11位から9位へ。
より細かく見ると・・・


□ ナッツアレルギーの変遷と年齢別頻度

・原因食物としてナッツ類の占める割合;
(2012年)2.0%
(2015年)3.3%
(2018年)8.2%

・年齢別食物アレルギー原因食物(2018年)
(1-2歳)1.鶏卵、2.魚卵、3.ナッツ、4.牛乳、5.果物
(3-6歳)1.ナッツ、2.魚卵、3.ピーナッツ、4.果物、5.鶏卵
(7-17歳)1.果物、2.甲殻類、3.ナッツ、4.小麦、5.鶏卵


・・・ナッツアレルギーは増加傾向にあり、
幼児期は常にベスト3に入っていて要注意です。
ここで一つ注意点、ピーナッツは名前からナッツ類の仲間と思い込みがちですが、
実は豆類でピーナッツの仲間ではなく大豆に近い食品です。


□ アレルゲン表示の変更

・現在、表示義務のある「特定原材料」7品目、
表示推奨される「特定原材料に準ずるもの」21品目が制定されている。

・ナッツ類では、「特定原材料に準ずるもの」の項目に、
それまでのクルミ、カシューナッツに加えてアーモンドが追加された。


□ ナッツアレルギーの内訳(2018年調査);
 1. クルミ(62.9%)
 2. カシューナッツ(20.6%)
 3. アーモンド(5.3%)
 4. マカダミアナッツ
 5. ヘーゼルナッツ
 6. カカオ
 7. ピスタチオ
 8. ココナッツ
 9. ペカンナッツ


・・・以前はナッツと言えばアーモンドというイメージでしたが、
現在はクルミがダントツですね。スウィーツに使われるようになったからかな。


□ ピーナッツとクルミの交差反応率

・ピーナッツが他の豆類(エンドウ豆、レンズ豆、インゲン豆)と交差反応する確率は5%

・クルミが他のナッツ類(ブラジルナッツ、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ)と交差反応する確率は37%


前述したように、ピーナッツはナッツの仲間ではなく、豆類に分類されます。


□ 植物学的分類によるピーナッツ、ナッツ類の位置づけ

・バラ亜綱ーマメ目ーマメ科ーラッカセイ属ーピーナッツ
・バラ亜綱ーバラ目ーバラ科ーサクラ属ーアーモンド
・バラ亜綱ームクロジ目ーウルシ科ーカシューナットノキ属ーカシューナッツ
・バラ亜綱ームクロジ目ーウルシ科ーカイノキ属ーピスタチオ
・バラ亜綱ーヤマモガシ目ーヤマモガシ科ーマカダミア属ーマカダミアナッツ

・マンサク亜綱ークルミ目ークルミ科ークルミ属ークルミ
・マンサク亜綱ークルミ目ークルミ科ーペカン属ーペカンナッツ
・マンサク亜綱ーブナ目ーカバノキ科ーハシバミ属ーヘーゼルナッツ

・ビワモドキ亜綱ーアオイ目ーアオギリ科ーカカオ属ーカカオ
・ビワモドキ亜綱ーサガリバナ目ーサガリバナ科ーブラジルナッツ属ーブラジルナッツ


学術的分類によると、上位3項目まで一緒だと近縁種として交差反応が起きやすいと言われています。
つまり、カシューナッツとピスタチオ、クルミとペカンナッツ(ピーカンナッツ)の組み合わせです。
どういうことかというと、
「カシューナッツで症状が出る人はピスタチオでも出る可能性大」
「クルミで症状が出る人はペカンナッツでも出る可能性大」
だから要注意、です。


□ ピーナッツ、ナッツ類のアレルゲンコンポーネント

・一つのナッツの中に複数のアレルギーを起こす成分(アレルゲンコンポーネント)が存在することが証明されている。

・アレルゲンコンポーネントは食材の種類を超えて共通の構造を持つことが多く、その視点からの分類も成り立つ。

・共通の構造の例;
 プロラミン(LTP、2Sアルブミン)
 クーピン(7Sグロブリン、11Sグロブリン)
 PR10
 プロフィリン
 オレオシン

・現在保険適用されている検査項目では、
 ピーナッの Ara h 2 → 2Sアルブミンの仲間
 カシューナッツの Ana o 3 → 2Sアルブミンの仲間
 クルミの Jug r 1 → 2Sアルブミンの仲間 

・Ana o 3:感度87.5%、特異度70.3%
・Jug r 1:感度87.6%、特異度75.0%
と報告されています。

要は、植物には進化上、似通った構造が存在し、その一部がアレルゲンとして作用する(アレルゲンコンポーネント)、
だから複数のナッツに反応することもあり得る、という理解でよろしいかと。


□ アレルゲンコンポーネントの特徴と傾向
全身症状: プロフィリン < PR-10 < LTP < 貯蔵タンパク(※)
安定性(熱・消化)プロフィリン < PR-10 < LTP、貯蔵タンパク
交差性:  貯蔵タンパク < LTP < PR-10 < プロフィリン
含有量:  貯蔵タンパク >> プロフィリン、PR-10、LTP
※ 貯蔵タンパク:2Sアルブミン、7Sグロブリン、11Sグロブリン、プロラミンなど


貯蔵タンパクの中の「2Sアルブミン」が要注意!
前述のように、ナッツのアレルゲンコンポーネント検査項目はすべてこの「2Sアルブミン」に属しています。


□ クルミアレルギーの診断フロー
疑われたときは特異的IgE抗体でクルミJug r 1 を検査;

クルミ 0.35 未満 かつ Jug r 1 0.35 未満 → 摂取開始を検討
          かつ Jug r 1 0.35 以上 → 経口負荷試験

クルミ 0.35 以上 かつ Jug r 1 1 未満 → 経口負荷試験
          かつ Jug r 1 1 以上 → クルミアレルギーと診断
(数値の単位は UA/mL)


数値でフローを作っていただくと診断はスムースに進むと思われます。


□ カシューナッツアレルギーの診断フロー
疑われたときは特異的IgE抗体でカシューナッツAna o 3 を検査;

カシューナッツ 0.35 未満 かつ Ana o 3 0.35 未満 → 摂取開始を検討
              かつ Ana o 3 0.35 以上 → 経口負荷試験

カシューナッツ 0.35 以上 かつ Ana o 3 2.5 未満 → 経口負荷試験
              かつ Ana o 3 2.5 以上 → カシューナッツアレルギーと診断
(数値の単位は UA/mL)

★ Ana o 3 はピスタチオアレルギーの診断にも同様に使用可能

★ カシューナッツアレルギーのある患者が原因不明のアナフィラキシーを起こした場合は、ペクチンを原因物質として想起する必要がある。ペクチンは添加物として種々の食品に使用されている(ジャム、ヨーグルト、アイス、スムージー)が、とくに温州ミカンに多く含まれる。


□ ピーナッツアレルギーの診断フロー
疑われたときは、特異的IgE抗体でピーナッツAra h 2 を検査する;

ピーナッツ 0.35 未満 → 摂取開始を検討

ピーナッツ 0.35 以上 50 未満 →  Ara h 2 4.0 未満 → 経口負荷試験
                →  Ara h 2 4.0以上 → ピーナッツアレルギーと診断 

ピーナッツ 50以上  → ピーナッツアレルギーと診断


ピーナッツアレルギーでは Ara h 2 陽性の場合、強い症状が出る傾向があると判定されます。
ただ、陰性でもまれに強い症状が出ることがありますので、100%安心はできないのが玉に瑕です。


□ ピーナッツアレルギーが重篤になる理由(2009年の論文より)
IgE免疫系を介することなく、補体経路を活性化して大量のC3aを産生し、マクロファージ、肥満細胞および好塩基球を刺激してPAFまたはヒスタミンを放出させる。
この機序とIgEを介した肥満細胞の脱顆粒が同時に起こることで、ピーナッツによる誘発症状が重篤になる。
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