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小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

魚アレルギー(アップデート2023年②)

2023年02月23日 16時09分08秒 | 食物アレルギー
ふたたび魚アレルギーのアップデート。

第23回食物アレルギー研究会で、
近藤康人Dr(藤田医科大学ばんため病院)によるレクチャーを聴講しましたので、
メモを残しておきます。

近藤先生のレクチャーは今までに何回も聞いたことがありますが、
理論派というか、重箱の隅をつつくような内容で、
いつも驚かされ、
「そ、そこまで必要ですか?」
と聞きたくなる私です。

今回は診断のコツと食事指導を中心に話されました。

▢ 魚アレルギーの年齢別症状傾向
・乳幼児期は皮膚症状中心
・学童期以降はアナフィラキシーや口腔アレルギー症状も見られるようになる

▢ 魚アレルギーの内訳
・真の魚アレルギー
・ヒスタミン中毒
・アニサキスアレルギー

▢ ヒスタミン中毒
・魚が死ぬとヒスタミン産生菌が繁殖する。
・魚肉中のヒスチジン(アミノ酸の一種)が菌により分解されてヒスタミンになる。
・ヒスタミンを多量に含む魚を食べた直後~1時間以内に、
 吐き気、顔面紅潮、発汗、頭痛、発熱、蕁麻疹などを起こす。
・ヒスタミン感受性には個人差がある。成人より小児の方が影響を受けやすい。
・ヒスタミン過敏症状は調理法により変わる。アルコールや酸(レモン、酢)を一緒に接種すると吸収が促進される。

▢ ヒスタミンの性質
・ヒスタミンは加熱調理しても壊れない。
・凍結中は安定している。
・冷凍中は増えないが、解凍すると酵素の作用により増える。
・10℃よりも25℃~35℃で増えやすい。

▢ 魚肉中のヒスチジン含有量
・赤身魚で多い
(例)キハダマグロ、ブリ、カツオ、マカジキ、マサバ、メバチ、カタクチイワシ
・白身魚で少ない
(例)アンコウ、マダイ、イシガレイ、メバル、マフグ、ヒラメ、メカジキ
※コイは白身魚ではあるが多め

▢ 魚アレルギーの主要アレルゲンはβ-パルブアルブミンである。
・β-パルブアルブミン:Gad c 1, Onc m 1, Sal s 1等:陽性率60-90%
・アルドラーゼA:(省略):13-37%
・β‐エノラーゼ:(省略):10-56%
・コラーゲンーα:Lat c 6, Sal s 6:陽性率22%

▢ パルブアルブミン(PA)
・ほぼすべての魚種の筋肉中に広く存在する
・両生類や鳥類の筋肉中にも存在するCa結合性蛋白質
・加熱や酸の処理に安定

▢ アレルギーは白身魚の方が起きやすい
(赤身魚)回遊魚は絶えず大量の酸素を必要とすることから、筋肉中にミオグロビンを多く持つため、赤身になる。
(白身魚)身動きせずに獲物を待ち伏せして狩猟する白身魚は、赤身魚に比べると、酸素の消費量はとても低いため、筋肉は赤身魚ほどミオグロビンを含まないため、白身になる。

▢ パルブアルブミン(PA)含有量
(PA高値)キンメダイ、トビウオ、ウスメバル、アカムツ、マアジ、イサキ、マダイ、アカカマス
(PA低値)ギンザケ、メカジキ、カツオ、メバチマグロ、キハダマグロ

★二つ前の項目(千貫祐子Dr)紹介のPA含有量データと比較してみましょう;
マアジ(11.6-19.7)
ハモ(5.7-13.7)
ウナギ(10.2)
メバル(8.9-9.8)
アカアマダイ(3.9-9.6)
キンメダイ(6.9)
イサキ(4.4-6.8)
トビウオ(2.8-6.5)
マイワシ(2.6-3.4)
マサバ(2.4)
メバチマグロ(0.33)
カツオ(0.25)
トラフグ(0.1‐0.2)
・・・あれ、アカウオ関連のメバルが近藤Drの紹介データには入っていませんね。こんな風に比較しないとわからないことがあります。

▢ ほかの魚との交差反応性
・魚アレルギー患者が別の魚を食べたときにアレルギーを起こす確率(臨床的交差反応性)は~50%。
・硬骨魚類アレルギー→ほかの硬骨魚類アレルギー:~50%
          →軟骨魚類アレルギー:<5%
・食事指導に魚の生物学分類は利用できるか? → No!
 生物学分類表は魚のアレルゲン性と一致していない。
 魚の生物学分類は真の進化の過程を反映していない。
 見た目で(胸鰭に対する腹鰭の位置)分類されている。

▢ 魚除去食での栄養学的問題
・ビタミンD摂取不足→卵黄、きくらげ、干しシイタケで補充
 もしくは、カツオの缶詰やメカジキが食べられれば補うことができる
・n-3系多価不飽和脂肪酸(EPAやDHA)の摂取不足
・カルシウム不足→牛乳などで補充

▢ 症状の出やすい魚
・タイやカレイが高率…PA高値
・カジキ、カツオ、ツナ缶は低率…PA低値
・多魚腫に反応する場合もPAが原因であることが多く、カツオ、カジキ、マグロ、ツナ缶などから試すのがよい。

▢ 魚アレルギーの食事生活指導
・カツオ、いりこなどのだしの除去は不要なことが多い。
・ツナ缶は高温高圧処理で低アレルゲン化されており、多くの場合摂取可能である。
・学校行事で魚市場などへ行く際は、魚アレルゲンを吸入すると呼吸器症状を起こしうるので、マスク着用など防御対策が必要。
・カルシウム、ビタミンDの補充は前述

▢ エビアレルギーの診断に特異的IgEは信頼できない。

▢ エビアレルギーの原因はトロポミオシンファミリーであり、相同性が高いが、
 臨床的交差反応リスクとトロポミオシンのアミノ酸配列の相動性は一致しない。

▢ エビアレルギー患者の臨床的交差反応性:
・カニアレルギー:64.7%
・イカアレルギー:17.5%
・タコアレルギー:20.3%
・ホタテアレルギー:19.6%


木の実類アレルギー(アップデート2023年)

2023年02月23日 14時44分19秒 | 食物アレルギー
第23回食物アレルギー研究会(2023年)で「木の実類アレルギー」のレクチャーがありましたので、メモを書き留めておきます。

木の実類アレルギーは近年増加し注目されています。
輸入量・摂取量がそのまま反映されているようです。

よく相談を受けるのが、
「兄弟がクルミでアナフィラキシーを起こして心配だからこの子も調べてほしい」
とか、
「ピーナッツ(※)で症状が出るので、保育園からすべてのナッツ類の検査を受けるよう言われた」
等々。
※ピーナッツ(落花生)は厳密にはナッツ類ではなく豆類です。

さて、これらの要望にどう応えればよいのでしょう、
というテーマを頭に入れつつ、聴講しました。

▢ 木の実類アレルギーの有病率
・アメリカ:(小児)2.3%、(成人)0.4%
・日本:(1歳)0.1%、(6歳)3.3%

▢ 木の実類は食物アレルギーの原因第三位(2020年のデータ)
・過去15年間で約7倍に増加した。
・木の実類の中でも、クルミ(7%)とカシューナッツ(2.9%)の増加が著しい。
・木の実類によるアナフィラキシー報告も増えている。

▢ 木の実類アレルギーの発症年齢
・アメリカ:3.0歳(中央値)
・スペイン:6.5歳(平均値)
・ポルトガル:3.1歳(平均値)
・日本:(クルミ)3.5歳/(カシューナッツ)5.0歳(中央値)
・・・しかし日本では1‐2歳の新規発症食物アレルギーの原因食物において木の実類は第二位。
→卵牛乳小麦より発症年齢は遅く、乳幼児期に新規発症することが多い。

▢ クルミとカシューナッツは経口負荷試験で陽性に出やすく重篤化しやすい。

▢ 年齢とともに複数の木の実類に反応する例が増えてくる。
・二つ以上のナッツにアレルギーのある例は約60%(小児例、2020)。

▢ ピスタチオとカシューナッツの関係
・ピスタチオアレルギーの97%がカシューナッツアレルギー
・カシューナッツアレルギーの83.3%がピスタチオアレルギー

▢ ペカンナッツとクルミの関係
・ペカンアレルギーの97%がくるみアレルギー
・クルミアレルギーの75%がペカンアレルギー

▢ アレルゲンコンポーネントによる診断
・Prolamin内の2S albumin類が有用
(例)Ana o 3(カシューナッツ)、Jug r 1(クルミ)…すでに検査可能
   Cor a 14(ヘーゼルナッツ)…next coming!
・Cupin内のVicilins(7S globulin)類
(例)Mac i 1(マカダミアナッツ)…next coming!
・Cupin内のLegumins(11S globulin)類
(例)Pur du 6(アーモンド)…next coming!

▢ マカダミアナッツ特異的IgEはアナフィラキシーの予測に有用

さて聴講後、最初の疑問は解けるでしょうか?

「兄弟がクルミでアナフィラキシーを起こして心配だからこの子も調べてほしい」
→血液検査でクルミ特異的IgEを検査し、陽性なら Jug r 1 を追加検査して判定可能

「ピーナッツ(※)で症状が出るので、保育園からすべてのナッツ類の検査を受けるよう言われた」
→現在検査フローが確立されているのは、ピーナッツ、カシューナッツ、クルミの3つ。
 それ以外は参考程度で、経口負荷試験(実際に食べて症状が出るかどうか判定)が必要になる。

という答えになります。


食物アレルギー予防からみた離乳食の進め方

2019年05月11日 07時35分48秒 | 食物アレルギー
 湿疹〜アトピー性皮膚炎で治療中の赤ちゃんのお母さんから、離乳食の進め方の相談をよく受けます。
 アレルゲンになりやすい、卵、大豆、小麦などをいつからはじめたらよいのか?

 実は、卵に関して言うと、推奨開始時期は結構変化してきました。
① 私が小児科医になった30年前は、卵の開始は5〜6ヶ月(だったらしい)。
② 食物アレルギーが社会問題化した頃から、少し遅れて7〜8ヶ月になり、
③ つい先日、5〜6ヶ月に戻りました(「授乳・離乳の支援ガイド2019改訂版」⇩)。

 

 上のお子さんがアトピー性皮膚炎や食物アレルギーだった場合、次に生まれてくる子どものアレルギーが心配になります。
 まず、「食べなければ予防できるのではないか」と考え、妊娠中/授乳中のお母さんの食事制限や、生まれた赤ちゃんの離乳食制限など、いろいろ検討されました。
 この時期の世界各国のガイドライン(以下GL)はアレルゲンになりやすい食材は制限する傾向がありました。
 しかしその結果、意外なことに「制限しても食物アレルギーは予防できない」ことが判明しました。

 そして2008年、Lackにより二重抗原曝露仮説が登場し、「口から入ると栄養になるけど、皮膚から微量入ると食物アレルギー体質を作る」ことが判明しました。
 つまり、「食べないことは食物アレルギー予防にならず、食べることが予防になる」「開始を遅らせると口より先に皮膚から入ってしまうと食物アレルギーのリスクが高くなる」「皮膚から入る前に口から入れてしまえ」ということ。
 今までの常識が覆されたのです。

 「時代は食物除去から乳児期早期摂取開始へ」

 アレルギー学会に参加すると、この議論が白熱していることを肌で感じるのですが、アレルギー専門医でない小児科医やパラメディカルからは、今でも「卵はゆっくり開始しましょう」という指導が行われているのが現状です。
 患者さんは「医者によって言うことが違う!」と混乱してしがちであり、申し訳なく思います。

 では具体的にいつからどのようにはじめるのがベストなのか?
 最新情報をまとめた論考を日本小児アレルギー学会誌に見つけたので、抜粋・メモしておきます。

★ 「乳児期早期摂取開始による食物アレルギーの発症予防」(日小ア誌 2019;33:12-19)
  夏目統(浜松医科大学小児科)


 結論から申し上げると、「加熱卵を生後6ヶ月頃に少量から開始するのがよい」ようですね。
 注意事項として、「生卵ではなく加熱卵」であり、「遅く開始するのはよくないけど、早すぎるのもよくないらしい・・・現時点では生後6ヶ月が適切」がポイントです。

<メモ>

ポイント
・食物摂取は経腸管感作ではなく、おもに経口免疫寛容をもたらす。
・早期摂取を開始する上で、即時型アレルギー反応の誘発に配慮する必要がある。
・二重アレルゲン暴露仮説(Lack, 2008年)が「食物除去から乳児期早期摂取開始へ」とパラダイムシフトを起こした。

LEAP study(2015年)
 乳児期早期からの摂取開始により食物アレルギーの発症が予防されることがRCTで証明された。
 アトピー性皮膚炎もしくは卵アレルギーをもつ生後4〜10ヶ月の乳児を対象に、生後4〜10ヶ月から5歳までピーナッツたんぱく質を摂取する群と、5歳までピーナッツを除去する群の2群に割り付け、5歳時点のピーナッツアレルギーの発症率を比較したもの。結果:ピーナッツアレルギーの発症は早期摂取群3.2%、除去群17.2%と有意差を認めた。
※ LEAP:Learning Early about Peanut Allergy

□ 「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」(日本小児アレルギー学会、2017年6月)(解説
 アトピー性皮膚炎に罹患した乳児全例を対象に生後6ヶ月から微量の鶏卵摂取開始を推奨

制限から早期摂取へ
(2000年)米国小児科学会:乳製品は1歳まで、卵は2歳まで、魚・ナッツ類は3歳まで摂取を避けるよう推奨。
(2008年以降)各国GLでは食物除去は推奨しない、へ変化
(2015年以降)LEAP Study を元に「即時型アレルギー反応の誘発に注意する」という条件つきで、ピーナッツアレルギーの多い国ではピーナッツの早期摂取を推奨するコンセンサス・ステートメントが発表された。

卵の乳児期早期摂取開始について
 2013〜2017年に発表された6つのRCTのメタアナリシスから、負荷試験で診断された卵アレルギーの発症は早期摂取により risk ratio(RR)0.59と有意に減少することが示された。ただし、これらの研究は「誰」「何を」「いつから」開始するかがバラバラであった。
 有害事象は「生卵」を用いた報告では有意に増え、加熱卵を用いた報告(EAT study, PETIT study)では増えなかった。LEAP study では摂取開始時に感作が強いほど予防効果は高いが、摂取開始時期だけで見ると生後6〜9ヶ月に摂取開始した児の予防効果が高かったと報告されている。
 一方で、生後6ヶ月未満から開始した方がそれ以降に開始したのに比べてより食物アレルギーの発症を予防したとする研究成果は現時点で存在しない。

2018年時点での各国GL
(米国、NIAID)湿疹の重症度で層別化し、重症の湿疹であれば生後4〜6ヶ月までにピーナッツの摂取を開始することを推奨(卵にはノーコメント)。
(ヨーロッパ、ESPGHAN)ピーナッツに関しては早期摂取開始が推奨されているが鶏卵についてはコメントされていない。小麦については1歳までに摂取開始することを推奨しているが、セリアック病を念頭にグルテンの大量摂取は推奨しない。
(オーストラリア、ASCIA)卵やピーナッツだけでなく、すべての食品を生後12ヶ月までに摂取開始することを全乳児に対して推奨。卵については生卵での摂取はすべきではないと言及し、一部で生後8ヶ月までに開始するという文章も含まれている。
(イギリス、SACN/COT)生後6ヶ月からのピーナッツと鶏卵の摂取開始を推奨。
(アジア、APAPARI)ピーナッツに関しては積極的な早期摂取の推奨は行わない。卵に関しては湿疹の重症度に合わせて早期摂取を推奨し、重症湿疹を伴う場合は生後5〜6ヶ月より加熱卵を摂取開始することを推奨。

卵早期摂取開始はハイリスク児限定か、乳児全体か?
 卵に関してはアトピー性皮膚炎乳児を対象とした研究でより有効性が高い結果が出ているが、リスクの低い字を対象とした研究だけでメタアナリシスを行ってもRR0.68と予防効果が示されている。
→ 乳児全体としてもよい。

早期摂取開始の歳にスクリーニング検査は必要か?
 オーストラリア、日本、イギリスではスクリーニングの必要性の記載がない。ただし、オーストラリアとイギリスでは受診してもよいかもしれないと記載。
 欧米ではコスト面から検討されており、スクリーニングは推奨されないと結論づけている。
 日本小児アレルギー学会の「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」では、ハイリスクの児はスクリーニング検査なしで少しずつ食べ始めることが推奨されている。
※ スクリーニング検査を行った場合、アトピー性皮膚炎乳児の65%が卵白特異的IgE抗体が陽性になるが、陽性例に対して、①除去とするか、②負荷試験を行い判断するかでコストも異なってくる。

鶏卵摂取開始の量について
(日本、小児アレルギー学会の提言)PETIT study の「生後6ヶ月からゆで全卵0.2g、9ヶ月からはゆで全卵1.1g相当を摂取」することを紹介し、卵黄から開始するという受容しやすい方法も併記している。
(オーストラリア、ASCIA)ティースプーン1/4杯の固ゆで卵から摂取開始

※ 著者(夏目Dr.)の私見:
 「ゆで卵白を米1粒(0.01〜0.03g程度)から開始して5〜10粒くらいに増やしてください。冷凍保存でもよいです。」

※ 私(ブログ管理人)の指導:
 「はじめはゆで卵の卵黄をなめさせてみてください。無症状ならひとかけらを食べさせましょう。少しずつ増やしていき、10口くらい食べても大丈夫なら、次は卵白にトライ、やはりなめるところからはじめましょう」


開始後の増量法
 離乳食GLには導入後の明確な増量法の記載はない。

食物アレルゲン〜「第5回総合アレルギー講習会」より

2018年12月20日 07時02分35秒 | 食物アレルギー
 前項に引きつづき、「第5回総合アレルギー講習会」(2018.12.15-16)テキストを読んで目にとまったことをメモしたものです。
 基礎医学の分野でのアレルギーも、私がアレルギー学会専門医になった四半世紀前から当然進歩しています。
 基本中の基本である、Coombs &Gellによるアレルギー分類が、現在はタイプIVが4つに再分類されていることを最近知り、驚きました。
 インターロイキン(IL)の数はどんどん増えて、現在IL-33が話題になっています。
 アレルギーの発症機序は複雑なのでさておき、この項目では主にアレルゲン情報をまとめました。

 近年、アレルゲンコンポーネント情報も充実してきました。
 従来のアレルギー検査では、検査陽性と症状出現が必ずしも一致しなくて医師も患者も混乱していました。コンポーネントを検査できるようになるにつれ、診断精度・一致率が上がることが期待できます。
 しかし、より複雑になり検査の読み方も単純ではなく、やはり習熟する必要があります。
 例えば、シラカバのアレルゲンコンポーネントBet v 2(=プロフィリン)は他の植物・果実に交差反応性があるので、検査するとたくさんの項目が弱陽性に出る傾向がありますが、実際に食べても症状が出ないヒトが珍しくありません。これを知らない非専門医は「検査陽性だから食べてはいけません」と簡単に言ってしまうので、困ってしまいます。


<メモ>

I型アレルギー(Coombs&Gell分類)の即時型反応と遅発型反応
(即時型反応)食直後〜2時間
・脱顆粒:ヒスタミン、セロトニン
・産生放出:ロイコトリエン、プロスタグランジン
(遅発型反応)食後数時間〜
・産生放出:Th2サイトカイン、ケモカインなど

食物アレルゲンとは?
・IgE依存性(I型アレルギー):IgE受容体を架橋できる、TCR(T細胞受容体)に結合できる
→ たんぱく質>高分子多糖類、ポリアミノ酸、低分子化合物(ハプテン)
・IgE非依存性(IV型アレルギー):TCRに結合できる
→ たんぱく質、低分子化合物(ハプテン)

エピトープ(抗原決定基)とは?
・T細胞エピトープ:アレルゲンたんぱく質中の連続した5-8アミノ酸のペプチド。結合した抗原提示細胞(樹状細胞など)が抗原をエンドサイトーシスで取り込み、消化・分解してMHCクラスII分子よりナイーブT細胞のTCRに提示する。
・B細胞エピトープ(Igエピトープ):アレルゲンたんぱく質中の1-6個の単糖の糖鎖・8-18アミノ酸のペプチド(連続・不連続)。IgEエピトープの多くはたんぱく質の表面に位置する。構造的エピトープは変性すると壊れる。

一般的な食物アレルゲンの特徴
・多量に存在(種子貯蔵たんぱく質など)
・加工や調理(熱)に安定(S-S結合が多い)
・消化酵素抵抗性(ペプシン、キモトリプシンなど)
・分子量10kDa〜70kDa(FceRI架橋可能な大きさ)

食品アレルゲンと各種処理に対する安定性の差
1.加熱
(加熱に安定)
・卵白:ovomucoid
・牛乳:β-LG、α-カゼイン、α-LA
・ピーナッツ:Ala h 1、Ala h 2
・米:RP16kD
・ソバ:16kD、24kD
・大豆:Kunitz tripsin inhibitor
・タラ:parvalbumin
・エビ:tropomyosin
・モモ:Lipid transfactoy
(加熱に不安定)
・果物・野菜
・卵白:ovalbumin
・牛乳:β-LG

2.酸
(酸に安定)
・卵白:ovalbumin
・牛乳:β-LG
・ピーナッツ:65kDa
(酸に不安定)
・果物

3.消化酵素
(消化酵素に安定)
・卵白:ovomucoid
・牛乳:β-LG
・ピーナッツ:Ala h 1, Ala h 2, peanut lectin
・米:RP16kD
・ソバ:16kD、24kD
・大豆:Kunitz trypsin inhibitor, soy lectin
・タラ:parvalbumin

アレルゲン命名法
由来する植物または動物の学名から決定される。
学名の「属」の最初の3文字、「種」の最初の1文字、(基本的に)同定順の数字・番号

(例)食物(学名) → たんぱく質名(アレルゲン名)
・ニワトリ(Gallus domesticus) → オボムコイド(Gal d 1)、オボアルブミン(Gal d 2)
・ウシ(Bos domesticus) → α-ラクトアルブミン(Bos d 4)、αS1-カゼイン(Bos d 9)
・小麦(Triticum aestivum) → プロフィリン(Tri a 14)、ω5-グリアジン(Tri a 19)
・ソバ(Fagopyum esculentum) → 2sアルブミン(Fag e 2)、7sピシリン(Fag e 3)
・落花生(Arachis hypogea) → 2sアルブミン(Ara h 2)、11sグロブリン(Ara h 3)

※ 数字には例外がある。交差反応性によって関連するコンポーネントがある場合は、そのアレルゲン番号がまだ利用可能であれば同じ数となる。

<参考>
WHO/IUIS Allergen Nomenclature Sub-Committee
Allergome

鶏卵アレルゲン(Gallus domesticus)
★ アレルゲン名:略号:分子量(kDa):含量(%)
(卵白)
・Ovomucoid(OVM):Gal d 1:28:11
・Ovalbumin(OVA):Gal d 2:45:54
・Ovotransferrin(OVT):Gal d 3:76.6:12
・Lysozyme:Gal d 4:14.3:3.4
(卵黄)
・Chicken Serum Albumin:Gal d 5:69

牛乳アレルゲン(Bos domesticus)
・α-Lactalbumin:Bos d 4:14.2:4
・β-Lactoglobulin:Bos d 5:18.3:10
・Caseins:Bos d 8:20-30:80
(カゼインのコンポーネントはBos d 9-12にさらに分類されている)

小麦アレルゲン(Triticum aestivum)
(塩可溶性アレルゲン)・・・パン職人喘息、アトピー性皮膚炎、小麦接触じんま疹患者で同定
・Non-specific lipid transfer protein 1(Tri a 14):9:ー
・Dimeric α-amylase Inhibitor 0.19(Tri a 28):13:ー
・Thiol reductase homologue(Tri a 27):27:ー
(塩不溶性アレルゲン)・・・食物依存性運動誘発アナフィラキシー患者で同定
・ω5-Gliadin(Tri a 19):65:ー
・High molecular weight glutenin subunits:Tri a 26:88

果物・野菜アレルゲン
★ Panallergen:他の植物との交差反応性を有するアレルゲン
※ アレルゲン:分子量(kDa):交差反応する食物:特徴
・β-1,3-glucanase(PR-2):33-39:バナナ、オリーブ:糖タンパク質(CCDの一種)、ラテックスHev b 2と交差
・Chitinases(PR-3,4), Hevein-like protein(PR-7):32, 20:ラテックス、アボガト、バナナ、カブ:キチン結合部位の相同性が高い


魚類・甲殻類アレルゲン
(魚類アレルゲン)
・Parvalbumin:38:ー
(甲殻類アレルゲン)
・Tropomyosin:38:ー
※ トロポミオシンは、甲殻類、軟体類(タコ、イカ、貝)、節足動物(ダニ、ゴキブリ)と高い相同性を有する。

アレルゲンスーパーファミリー(食物アレルギー)
共通の起源から進化してきたタンパク質は同じファミリーに分類される共通の基本構造を有しているため交差反応をきたしやすい。
(植物性アレルゲンタンパク質スーパーファミリー)
・プロラミン:穀類のプロラミン、Bifunctional inhibitor, 2Sアルブミン、Non-specific lipid-transfer proteins(nsLTP)
・クーピン:ビクリン、レグミン
・Bet v 1-like:Bet v 1
・Profilin-like:プロフィリン
(動植物性アレルゲンタンパク質スーパーファミリー)
・EF-hand:ポルカルチン、パルブアルブミン
(動物性アレルゲンタンパク質スーパーファミリー)
・Tropomyosin-like:トロポミオシン

口腔アレルギー症候群(OAS, Oral Allergy Syndrome)=花粉・食物アレルギー症候群(PFAS, Pollen-associated Food Allergy Syndrome)
果物や生野菜を摂取した直後から、口腔内から喉にかけて、または耳の奥にぴりぴりとかチカチカと異常を感じる。
加熱調理した野菜や缶詰は食べられる。
花粉症患者にみられる食物アレルギー。
回避:違和感を生じる新鮮な果物や野菜の摂取を控える。
軽減策:加熱処理によるアレルゲン低減化、低温殺菌処理されたジュースや缶詰、ジャムは食べられる。

<参考>
Ortolani C, et al. Ann Allergy 1988
Valenta R, Kraft D. JACI 97: 893-895, 1996

シラカンバ花粉コンポーネント「Bet v 1」
・生体防御タンパク質 PR-10
・糖鎖を有しない 分子量17kDa
・加熱や消化酵素に弱い(構造的エピトープ)
・OAS(PFAS)の主要な原因

Bet v 1 ホモログ間のアミノ酸類似性
(凡例)アレルゲン名(植物名)アミノ酸類似性%
 Aln g 1(ハンノキ)81%
 Mal d 1(リンゴ)56%
 Pru p 1(モモ)59%
 Pru ar 1(アンズ)60%
 Pru av 1(サクランボ)59%
 Pyr c 1(西洋ナシ)58%
 Rub i 1(レッド・ラズベリー)56%
 Api g 1(セロリ)42%
 Dau c 1(ニンジン)56%
 Act c 8(ゴールドキウイ)50%
 Act d 8(キウイ)50%
 Sola l 4(トマト)45%
 Cor a 1(ヘーゼルナッツ)73%
 Ara h 8(ピーナッツ)47%
 Gly m 4(大豆)48%
 Vig r 1(緑豆)45%

シラカバのアレルゲンコンポーネント「Bet v 2」=プロフィリン
・真核生物が共通に持つアクチン結合性たんぱく質
・糖鎖を有しない 分子量12-15kDa
・加熱や消化酵素に弱い(臨床症状との関わりは少ない
・カバノキ科とイネ科花粉のPFASに関わる。

プロフィリン間のアミノ酸類似性
 Phl p 12(オオアワガエリ)78%
 Mal d 4(リンゴ)77%
 Pru p 4(モモ)76%
 Pru av 4(サクランボ)75%
 Pyrc 4(西洋ナシ)83%
 Api g 4(セロリ)80%
 Sola l 1(トマト)74%
 Cor a 2(ヘーゼルナッツ)77%
 Ara h 5(ピーナッツ)73%
 Gly m 3(大豆)75%
 Cit s 2(オレンジ)74%
 Cuc m 2(マスクメロン)74%
 Mus a 1(バナナ)78%
※ オレンジ、メロン、バナナではプロフィリンがアレルゲンと考えられている。

LTP(Lipid transfer protein)症候群
・LTPは果実の表皮組織に多く存在する。
(例)Pru p 3(モモ)、Mal d 3(リンゴ)、Pur ar 3(アンズ)、Pru av 3(サクランボ)、Fra a 3(イチゴ)、Pru d 3(プラム)、Rub i 3(レッド・ラズベリー)・・・、Cor a 8(ヘーゼルナッツ)、Jug r 3(クルミ)・・・
加熱に強い(加熱しても食べられない)、消化酵素に強い(全身症状をきたしうる
・回避:缶詰やジャムを含めて果実の摂取を控える。
・軽減策:モモ舌下免疫療法を試みた報告がある(Fernandez-Rivas M, et al. Allergy. 2009 64(6):876-83.)。

魚アレルゲンコンポーネント:パルブアルブミン(Parvalbumin: PA)
・Ef-Handスーパーファミリー
・Caイオンを除くと高次構造が変わり、アレルゲン性も低下する。

タラパルブアルブミン Gad c 1 との類似性
 Lep w 1(カレイ)57-66%
 Cyp c 1(コイ)69-77%
 Onc m 1(ニジマス)47-62%
 Sal s 1(大西洋サケ)54-66%
 Thu a 1(キハダマグロ)66-75%
 Xip g 1(メカジキ)64-73%
 Gad m 1(大西洋タラ)65-72%
 Clu h 1(ニシン)61-71%
 Sar sa 1(マイワシ)61-68%
 Gal d 8(ニワトリ)51-62%
 Ran e 2(トノサマガエル)61-70%
魚アレルゲンの回避と軽減策
・回避:魚アレルギーの患者指導に生物学分類表はアレルゲン性と一致していないため利用できない。
・軽減策:マグロの缶詰(ツナ缶)は、製造過程(加圧加熱殺菌)でアレルゲン性が低減化する(参考⇩)。

<参考>
J Bernhisel-Broadbent, et al.:JACI 90(1992)

エピペン®の歴史

2018年11月01日 14時54分43秒 | 食物アレルギー
 エピペン®は、小児科医にとっては重症の食物アレルギー患者さん(アナフィラキシー・タイプ)に処方する携帯用薬剤です。
 中身はアドレナリンという、蘇生にも使う劇薬。
 当初は林業に従事する人たちのハチ毒アレルギー用として登場しましたが、その後食物アレルギーにも使えるようになりました。
 その頃は、小児科医でも講習を受けなければ処方できなかったと記憶しています。
 
 所持しているのが患者さん自身であり、エピペン®を使う必要な場合は基本的に患者さんは重症状態。
 自分で注射することが困難なことが多いので、周囲の人たちが注射すべき場面も出てきます。
 こういう場合は家族が行うのが慣例でしたが、学校や遠方ではいつでも家族が駆けつけられるわけではなく、物理的に困難を伴います。
 すると対処が遅れて命取りになる可能性も出てきます。

 この状況を解決するため、患者さんがアナフィラキシーに遭遇した際、“周囲の人たち”も注射してよい、という流れができました。
 はじめは患者さんが搭乗した救急車の救命救急士
 次に学校教師
 次に保育園の保育士
 そして現在は「保育所で教職員が行う場合に限らず、医師等以外の無資格がエピペンを使用することも可能」というところまできました。

 患者さんとその家族、小児科医、学会などによる努力のたまものです。
 ここまでの歴史を群馬大学小児科教授の荒川浩一先生が「群馬小児アレルギー親の会会報 2018.10 No.61」にまとめているのを見つけましたので、メモしておきます。

(1987年)米国FDA(食品医薬品局)で承認され販売開始。
(1996年)米国から輸入し日本で国有林の現場職員に「ハチ刺症によるアナフィラキシー」に“治験的扱い”として所持させ効果を上げた。
(2003年)8月:厚生労働省から承認され販売。適応は「蜂毒に起因するアナフィラキシー反応に対する補助治療」。
(2005年)食物や薬物等によるアナフィラキシー反応」及び「小児」への適応を取得。この時点では保険適応はなく全額自己負担。
(2009年)3月:救命救急士によるエピペン使用が可能となる。
(2009年)7月:「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」(文部科学省)において学校教職員によるエピペン使用が可能となる。
(2011年)3月:「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン」(厚生労働省)保育所職員によるエピペン使用が可能となる。
(2011年)9月:薬価収載され保険適応となる。処方医に対する講習の実施と、未使用製剤の回収が承認条件。
(2013年)6月:NPO法人が非医療従事者(教職員等以外を含む)におけるエピペンの取り扱いを厚生労働省に問い合わせした返答「保育所で教職員が行う場合に限らず、反復継続する意志がない場合には“医業”に当たらず、医師等以外の無資格がエピペンを使用することも可能」。

★ 学校教職員や保育所職員の場合は、保護者からの「管理指導表」を得て、ある意味契約を交わして、代理注射を行う図式になっている。


 というわけで、患者さんがアナフィラキシーに遭遇し自分でエピペンを注射できない状況に陥った際は、(限定はされますが)周囲の人たちが注射しても問題ない、という環境が少しずつ整ってきました。
 ただ、医療関係者以外が劇薬の注射をすることは当然躊躇される行為であり、事前の講習やシミュレーションを十分行うことが必要であることは言うまでもありません。

経皮感作とアレルギーマーチ 2018

2018年09月17日 12時16分57秒 | 食物アレルギー
 2018.9.17にWEB配信されたセミナー「経皮感作とアレルギーマーチの最新の話題」(国立成育医療研究センター アレルギーセンター長 大矢 幸弘 先生)の備忘録です。

<概要>
 乳幼児の食物アレルギーが湿疹のある子どもに多いのは、食物抗原の経皮感作によるものであることが明らかになるにつれ、アレルギーマーチのとらえ方に大きな変化が生じた。食物抗原の除去・回避による予防策が有効では無く、むしろ経口免疫寛容を誘導する機会を奪うため食物アレルギーの発症リスクを高めることが、前向き観察研究(コホート研究)や介入研究(ランダム化比較試験)によって明らかとなり、アトピー性皮膚炎(AD)児こそ早めにピーナッツや鶏卵などの食物抗原の摂取を開始したほうがよいとの提案が出された。また、湿疹やADの治療に関しても自然に治るのを待って放置するのではなく、早期から積極的に予防や治療を開始したほうが、食物アレルギーを始めアレルギーマーチの予防には有利である可能性が後向き観察研究(ケースコントロール研究)によって示され、今後の前向き研究による実証に期待が集まっている。


 食物アレルギー分野は日進月歩であり、アップデートが欠かせません。
 内容は「すべてのアレルギー疾患予防は湿疹のコントロールに始まる」に尽きます。
 
 講演の中で私がポイントと感じたことを列挙し、コメントを添えてみます;

・すべてのアレルギーの始まりは湿疹である。

・・・経皮感作は正常皮膚ではなく「炎症のある皮膚」で起こります。

・炎症のある部位(danger signal)から抗原が体に入るとアレルギーになり、炎症のないところから抗原が入ると免疫寛容が誘導される。

・・・近年、経皮感作が注目されていますが、正常皮膚ではアレルギー感作は成立せず、炎症が起きていてバリア機能が壊れている部位(湿疹/アトピー性皮膚炎)で成立する、また皮膚に限らず炎症が起きていれば消化管でも感作が成立するという、少し広げた概念で説明していました。

・経皮感作を避けて(湿疹の管理)、経口免疫を誘導(アレルゲンになりやすいものは避けるのではなく早期から食べさせる)することが最重要。

・・・この2本柱が、今後の「アレルギー疾患予防」の中心になっていくと思われます。

・保湿ケアは、保湿剤の質(すぐれた保湿能力)よりも、回数が重要であり、1日1回より2回の方が食物アレルギー予防として有効である。

・・・現在、ヒルドイド®の全盛期で、化粧品として流行される傾向があり社会問題にもなっています。しかし最近の論文では、「質より回数」の方が重要であると報告されました。質では差がなく、回数(1日1回塗布より2回塗布がよい)でアトピー性皮膚炎発症が半減したという内容で、これは大矢先生達のグループが発表した「1日1回保湿剤塗布でアトピー性皮膚炎が2/3へ減った」よりも優れた成績です。

・皮膚は分子量500までしか通さないが、アレルゲンはふつう分子量1万以上であり、矛盾を指摘する声があったが、ランゲルハンス細胞が皮膚表面のタイトジャンクションをかいくぐってアレルゲンに触枝を伸ばしている説明されるようになった。

・・・この解説は目から鱗が落ちました。

・乳児期発症のアトピー性皮膚炎が持続するとアレルギーマーチ(喘息、アレルギー性鼻炎など)のリスク因子となる。

・・・今までは、乳児期のアトピー性皮膚炎をしっかりコントロールすると食物アレルギーの発症を予防できることが主でしたが、湿疹を治して維持すると幼児期以降のアレルギー疾患である喘息やアレルギー性鼻炎の予防効果も期待できるという成績が次々に発表されるようになりました。つまり、アトピー性皮膚炎は乳児期以降もしっかり治療するに越したことはない、ということです。

アトピー性皮膚炎の早期発症持続食物/吸入アレルゲンへの感作のすべてが気管支喘息発症のリスクである。

・・・下線部のひとつひとつが気管支喘息発症のリスク因子になります。対策はアトピー性皮膚炎を早期にコントロールして持続させないこと、それがアレルゲン感作を予防し、ひいては気管支喘息発症予防になるという構図です。
 結局、「湿疹/アトピー性皮膚炎の治療をなおざりにする限りアレルギー診療は語れない」ということですね。


<メモ>
・・・おもにスライドの標題です。

・鶏卵アレルギーは早期摂取に予防効果がある。

・食物アレルギーは、摂取回避では予防できず、経口免疫寛容の誘導が必要。

・PETIE(Prevention of Egg allergy with Tiny amount InTake):並行して湿疹を治療し、経皮感作を低減した。この時行われたProactive療法で使われたステロイド軟膏は、顔はロコイド®、体幹・四肢はリンデロンV®である。

・食物アレルギーの予防には、皮疹のコントロールによる経皮感作の防止が重要。生後3ヵ月のときアトピー性皮膚炎があると、食物抗原の感作を受ける危険性が6倍高くなる(重症アトピー性皮膚炎では25倍)。

・アトピー性皮膚炎は食物アレルギーの危険因子である。特に、生後1〜4ヵ月に湿疹を発症した乳児は、3歳の時の食物アレルギーのリスクが高い(生後1-2ヵ月発症では7倍、生後3-4ヵ月発症では4倍)。

・アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの関係は、「相関」ではなく「因果」である。

・乳児のアトピー性皮膚炎はアレルギーマーチのリスク因子。

・湿疹によるバリア低下
  ↓
 湿疹からアレルゲンが侵入
  ↓
 抗原特異的IgE抗体産生
  ↓
 アレルゲンに暴露されると悪化する(食物アレルギー発症、アトピー性皮膚炎増悪)

・炎症のある部位(danger signal)から抗原が体に入るとアレルギーになり、炎症のないところから抗原が入ると免疫寛容が誘導される。

・乳児期発症のアトピー性皮膚炎は持続型でも一過性型でも6歳時の食物アレルギーのリスクが高く、持続型では6歳時の喘息、鼻炎、吸入抗原への感作リスクが高い。
→ 喘息、鼻炎予防には、ずっとアトピー性皮膚炎をコントロールする必要がある。

・乳幼児期の食物抗原や吸入抗原の感作は10〜12歳のアレルギー性鼻炎のリスクとなる。食物抗原のみの感作では2〜3倍、食物抗原と吸入抗原療法感作では3〜7倍。

・早期発症のアトピー性皮膚炎は気管支喘息のリスクファクターである。

・1歳時に感作を受けていないアトピー性皮膚炎は、3歳時の気管支喘息の危険因子ではないが、アレルギー性鼻炎の危険因子ではある。

・新生児期からの保湿剤によるスキンケアで乳児期発症アトピー性皮膚炎は1/3が抑えられる(2/3は発症)。しかし食物アレルゲンへの感作率に有意さはなかった。

・経皮感作の予防には保湿剤の性能ではなく、回数(1日2回塗布)が大切である。

・これからのアレルギー疾患予防戦略は、
1.卵など食物アレルギー患者の多い食物に関して離乳食の開始を遅らせず、遅くとも生後6ヵ月から開始する。
2.保湿剤で湿疹の発症を予防したり、湿疹ができたら速やかに治療し、プロアクティブ療法で湿疹ゼロを維持する。



 明日からの自分の診療に何が生かせるでしょうか?

1.プロアクティブ療法による厳格な湿疹コントロールを継続
2.アレルゲン化しやすい食物の早期摂取については、これからの研究成果を待とう。現在は「食物アレルギーが心配だから摂取開始を遅らせる」必要がないことを啓蒙。


 ということで。

「食物アレルギーとアナフィラキシー」(海老澤元宏先生:ネット配信セミナー)

2018年02月16日 07時00分59秒 | 食物アレルギー
 近年多くなってきたネット配信セミナー。
 昨夜(2018.2.15)は食物アレルギーではご意見番の海老澤先生の講演がありました。

 一時期アレルギー系学会を席巻した「急速経口免疫療法」は影を潜め、現在は「より安全に、より少量から症状が出ない程度でゆっくり進める経口負荷試験」が主流になりつつあります。
 まあ、現場でずっと続けてきたスタンスにまた戻った、というのが私の印象です。

 海老沢先生の講演は何回も聞いているので、あまり目新しいことはありませんでしたが、知識を整理・確認するにはとても役立つ内容でした。

 ただ、栄養指導では「管理栄養士」、アナフィラキシーでは「マンパワーを集める」など、1人院長の開業医では無理なことが平気で出てくるのは相変わらず。
 重症以外の患者さんを多数診療している「開業医が出来る食物アレルギー診療ガイドライン」を作って欲しいものです。


***********<備忘録>************

・「食物アレルギー診療ガイドライン2016」の主旨は「“食べさせない”のではなく“食べさせる”にはどうしたらよいか?」である。

・食物アレルギーのリスク因子;
1.家族歴
2.秋冬生まれ(短い日光照射)
3.皮膚バリア機能の低下
4.環境中の食物アレルゲン
5.離乳食開始を遅らせること

・湿疹乳児に対する介入(PETIT研究);湿疹を治療してなくすことを前提条件とした場合、加熱卵を早期(生後6ヶ月)から少量開始し与えた方が卵アレルギーを予防できることが示された。
 生卵+より低年齢(生後6ヶ月未満)では、逆に感作を誘発するリスクがあるので注意すべし。

・今のところ早期接種開始で食物アレルギー発症予防の可能性のデータがあるのはピーナッツと卵だけである。

・食物経口負荷試験は、以前は「多数回&短い時間間隔」で行われてきたが、最近は「より少数回&60分間隔」が主流になりつつある。

・食物経口負荷試験の目的は、オールオアナッシング(食物アレルギーの克服)ではなく、微量摂取できるかどうかに焦点を当て、栄養食事指導をしてQOLを上げるべきである。

・経口免疫療法は副作用必発であり、一般診療として推奨できるレベルではなく、倫理委員会を通して研究レベルで行うべきである。

・「アナフィラキシーガイドライン」(日本アレルギー学会、2014)では重症度分類をグレード1-3に分類したが、5段階分類も存在する。



卵アレルギーの予防法

2017年12月17日 13時48分47秒 | 食物アレルギー
 湿疹・アトピー性皮膚炎のある赤ちゃんは、離乳食をどう進めていくべきかの指針の全体像が見えてきました。
 ポイントは、
・生後6カ月未満でアトピー性皮膚炎と診断された乳児は、医療機関においてスキンケアやステロイド外用薬を基本とした湿疹の治療を行う。
・湿疹のない状態(寛解)にした上で、医師の管理の下、生後6カ月からPETIT試験の方法を参考に微量の加熱鶏卵の摂取を開始する。
・1日1回の摂取で症状がないことを確認しながら、「授乳・離乳の支援ガイド」に準拠して摂取量を増やしていく
ーというもの。
 湿疹を放置していると、経皮感作が進んで食物アレルギーのリスクが高くなります。

■ 卵アレルギーは「微量のゆで卵」で防ぐ
 学会が提言、アトピー乳児は早期から卵摂取を
 湿疹のコントロールが成功の鍵
2017.12.14:日経メディカル

経口免疫療法による重篤副作用例の続報

2017年11月23日 07時03分52秒 | 食物アレルギー
 経口免疫療法による重篤な副作用例発生の続報です。
 11/19に日本小児アレルギー学会での報告ですが、情報公開した施設が5.6%しかないので、疑問の残る、不十分な統計です。

 誤解されやすいのでちょっと予備知識を。

 経口免疫療法の対象になるのは小学生になっても治る気配のない重症食物アレルギー患者です。
 その食品が微量でも体に入ると、アナフィラキシーショックを起こすレベルであり、日常生活に支障が出ます。
 これらの患者さんに対して、短期間の間に集中的に微量からアレルゲン食物を摂取させて増量すると、一定量が食べられるようになることが発見され、それを治療に応用したのが経口免疫療法です。
 生活の質を上げるための選択肢です。

 アレルゲン食品を食べても皮膚症状だけしか出ない軽症例は対象になりませんので、誤解なきよう。

■ 日本小児アレルギー学会が「重篤な食物アレルギー症状」の緊急調査〜負荷試験や経口免疫療法に伴う重篤な事例は9例〜抗原別では牛乳アレルギーが最多
2017/11/21 :日経メディカル

第54回日本小児アレルギー学会に参加してきました。

2017年11月20日 08時12分41秒 | 食物アレルギー
 2017.11.18-19の先週末、「第54回日本小児アレルギー学会」(宇都宮市)に参加し、知識のアップデートをしてきました。

 懇親会にも久しぶりに出席し、大学アレルギーグループの先輩・後輩とも旧交を温めてきました。
 なんと小学校の頃覚えた「日光和楽踊り」を踊りました。

 この学会、昔は「小児喘息を以下にコントロールするか」という内容の発表が多かったのですが、近年は演題数で食物アレルギーに追い抜かれたそうです。
 
 先日、食物アレルギーの負荷試験で重篤な副作用例が報道され、それに関連した報告もありました。
 開始時刻に会場にたどり着いたときにはもう人で溢れていて会場にはなかなか入れませんでした。

 食物アレルギーの診断に関して、アレルゲン・コンポーネントを利用して診断精度を上げるテクニックや、小児〜成人医療への移行期である思春期喘息の問題点、アトピー性皮膚炎の最新治療、食物アレルギーの経口免疫療法、アレルギーエデュケーターの現況など、聴講してきました。

 群馬県の小児アレルギーエデュケーター(PAE)はまだ当院スタッフの1名のみと寂しい状況ですが、今年もう1人増えそうだという情報も耳にしました(^^)。

**************<メモ>***************

■ アレルゲン・コンポーネント
・ももアレルギーでは、OAS(=PFAS)と即時型反応の2パターンが存在する。OASでは口腔内症状、即時型反応では全身症状が出現するが、この場合口腔内症状は伴わない。2パターンはその患者が反応するアレルゲン・コンポーネントで鑑別できる可能性あり(まだコマーシャルベースではできない)。

■ アレルギー疾患の移行期治療
・思春期喘息では本人の自覚症状が乏しく、コントロール不良かどうかは肺機能(フロー・ボリューム)、FeNOでしか判定できないことが大きな問題である。これらの患者をどう拾って成人喘息につなげないかが課題。

■ 食物アレルギーの経口免疫療法
・数年前まではこのセクションの会場は立ち見が出るほど混雑していたけど、「研究段階であり一般診療レベルでは行うべきではない」という学会声明が出されてからしぼんできて、聴講者はまばら。
・アナフィラキシーの危険のある急速経口免疫療法は影を潜め、症状を出さない程度で進める緩徐法関係の演題が増えてきた印象・・・これなら開業医でもできそうと手応えを感じる。

■ わが国におけるアナフィラキシー症例の実態(JSAレジストリー)
・食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIAn)の原因食物は、長らく(1位)小麦、(2位)甲殻類とされてきたが、近年は甲殻類に変わって果物が2位になっている。これは以前からの欧米の統計と一致する。
・アレルギー専門医教育施設を対象としたアンケートでも、アナフィラキシーに対してアドレナリン使用率が30%台にとどまり、第二選択薬のステロイド、抗ヒスタミン薬の70%より少ないことを演者の海老澤先生は嘆いていた。

■ これからのPAEの新たな展開
・アレルギーキャンプを中心にPAEの活動報告。PAEには看護師だけでなく、薬剤師、管理栄養士もいるので、みんなが集まると大きなことができそう。
・獨協医科大学のアレルギーキャンプでは親が同伴しないことを知る。看護学生がマンツーマンで世話を見るようだ。