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小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

致死率75%の「ニパウイルス」

2018年07月08日 06時49分41秒 | 感染症
 聞き慣れない「ニパウイルス」という病原体。
 インドでこの感染症発生し、なんと致死率75%と報告されているため、取り上げました。
 昨今のグローバル化で、遠い世界の感染症がいつ空輸されるかわからない時代になりましたので。

■ 致死率75%、ワクチン未開発の「ニパウイルス」、インドで感染拡大の可能性(2018.5.23 YAHOO!JAPANニュース)より
■ 「ニパウイルスで3人死亡、40人以上に検査 インド」(CNN 2018.5.22


□ どんなウイルス?
 1997〜1999年にマレーシアの養豚場労働者の間で急性脳炎が流行した際に、病原体として初めて確認された新種のウイルス(発生当初は日本脳炎と誤診された)。名前の由来は、ウイルスが分離された患者が住んでいた村(ニパ村)の名を取った。
 21世紀になってからもアジアで散発的に流行している。
 WHOの統計によると、2001〜2012年の間にインドとバングラデシュで計280件の感染例が確認され、211人が死亡(致死率75%)。

□ 感染経路
 人間、コウモリ、ブタとの接触を介して感染する。
※ ヒトがコウモリの生息地に分け入って養豚場を作ったため、コウモリの体内で眠っていたウイルスがブタ、そしてヒトへと飛び火して新興感染症となった。
※ ブタでは多くの場合不顕性感染となり、死亡率は5%程度。

□ 症状
 始まりは発熱、頭痛、筋肉痛などのインフルエンザ様症状、
 次第に急性脳症の症状(めまい、嘔吐、意識障害/昏睡、けいれんなど)

□ 治療
 特効薬はない。対症療法のみ。

□ 予防
 ワクチンはない。
※ 現在、ペット用コウモリの輸入は禁止されている。

<参考>
ニパウイルス感染症とは(NIID 国立感染症研究所)
ニパウイルス感染症(厚生労働省 関西空港検疫所)
 ・・・こちらでは「死亡率40%」と記載されていますね。
ニパウイルス感染症(厚生労働省)

「小児抗菌薬適正使用支援加算」を複雑な思いで見ています。

2018年04月08日 09時33分53秒 | 感染症
 はじめにお断りしておきますが、抗菌薬とは抗生物質のことです。
 この話の基本として「抗菌薬は細菌を退治する薬物であり、ウイルスには効かない」ことをまずご理解ください。
 近年、「抗菌薬適正使用」が叫ばれ、国の施策として実施しています。
 メインの目標は「耐性菌対策」であり、これは世界規模で行われています。

 さて、2018年4月から件名の「小児抗菌薬適正使用支援加算」が発効しました。
 これは、開業医院の小児科担当医が「上気道感染症、急性下痢症には抗菌薬が必要ないことを文書をもって説明」すると計上できる加算です。
 薬を処方して治療すると報酬があるという従来のシステムの真逆で、薬を処方しないことで報酬が得られるという特殊な加算です。

 この話を始めて聞いたとき、私は複雑な思いでした。

 小児科専門医の中では、ずいぶん前から「抗菌薬適正使用」が叫ばれてきました。
 当院でも長らく「かぜの90%はウイルス感染なので抗菌薬が必要なかぜは10%、あなたはこれに該当しない」という説明を重ねてきたので、最近は「抗生物質をください」という患者さんはまれです。
 だからかかりつけ患者でこの加算対象となる患者さんはほとんどいません。
 近隣の小児科専門医も、かぜに抗菌薬をむやみに処方しない方ばかり。

 では、どんな場合に必要なのか?

 それは「今まで抗菌薬を乱用してきた小児科担当医が、適正使用を心がけるようになった」事例でしょう。
 でもそんな小児科専門医は少ないと思います。

 実際に子どもに抗生物質をたくさん処方しているのは、近隣地域では「小児科標榜医」と「耳鼻科専門医」です。
 例えば、元々の専門が小児科以外の医師が当番医を担当すると、たいていかぜの患者さんに抗菌薬が処方されています。
 また、小児の中耳炎や副鼻腔炎を診療する耳鼻科医は、かぜの段階でも予防的に抗菌薬を処方する傾向があると感じています。

 しかし、このような医師には加算できないようなシステムになっており、有効な施策とは思えません。
 条件として「小児かかりつけ診療料」「小児科外来診療料」を採用している必要があるからです。

 当院でも先日、加算第一号が発生しました。
 鼻水が出て耳鼻科を受診し、抗菌薬を含む薬を処方されましたが(中耳炎、副鼻腔炎とは言われていないそうです)、数日後に発熱したので小児科である当院を受診されました。
 診察の結果、特にこじれた所見は認めませんでした。
 治療方針は「かぜ」として対症療法で回復を待ち、現時点では抗菌薬は必要ないことを自作のプリントを渡して説明しました。
 もちろん、経過により今後抗菌薬が必要になる可能性は残っています。

 この加算が抗菌薬適正使用にどれだけの効果があるのか、今後注視していきたいと思います。



 

キノコが原因になる病態はアレルギー?感染症?

2018年03月25日 09時09分03秒 | 感染症
 「アレルギー性気管支肺アスペルギルス症」(ABPA)という長い病名があります。
 今から四半世紀前にアレルギー学会専門医試験の勉強をしているときに、「アレルギー疾患なのに熱が出る病気があるんだ」と驚いたことがあります。

 一般的に、病原微生物が体内で増殖して体に悪影響を及ぼす病態を「感染症」。
 病原性がない異物が体内に侵入してそれを排除しようとする免疫反応が体に悪影響を及ぼす病態を「アレルギー」と呼びます。
 この「アレルギー性気管支肺アスペルギルス症」はどっちつかずの病態のように感じていました。
 基本的に成人発症で、小児では診たことがありません。

 それから、咳嗽の研究で有名な金沢大学の藤村政樹先生の講演をむかし聞いていたとき、「今までどんな検査をしても原因がわからなかった慢性咳嗽患者は、カビ(真菌類)が原因ではないかというしっぽをつかんだ」とつぶやかれたことが妙に耳に残っています。

 そしてカビ(真菌類)の検査技術が発達した恩恵で、新たな病態が明らかになってきました。
 空気中に浮遊しているカビ類の中で一番多いのはキノコ類で、この中に病原性を示すものがあるらしいのです。
 しかも、その“病原性”はアレルギーの要素と感染症の要素を兼ね備えているような・・・。
 目からウロコですね。

■ 空中浮遊菌はキノコが多い!? 〜気道アレルギーと関連する真菌の特性 
2018年02月11日:メディカル・トリビューン)より抜粋;

 大気中には多数の真菌が浮遊しており、これらを吸入することで喘息やアレルギー性気管支肺真菌症(ABPM)をはじめアレルギー性呼吸器疾患を来すことはよく知られている。近年、真菌の同定技術の進歩などに伴い、従来は病原真菌として重視されていなかった菌種、特に真正担子菌(キノコ類)によって生じるABPMの報告が散見されるようになった。
 一般的に、ABPMやアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)の原因菌としてはAspergillus spp.が最も多く、次いでSchizophyllum commune(スエヒロタケ)、さらにCurvularia spp.などの黒色真菌がしばしば報告されている。

 ABPMやABPAの原因菌として必要な能力は、
① 飛散・浮遊しやすい
② 既にある程度の数が浮遊している
③ 環境中で長期間生存・安定、乾燥に強い、疎水性
④ 吸入されやすいサイズ、形状
⑤ アレルゲンを産生する
⑥ 気道に定着し、局所で成長しやすい
⑦ 組織侵入能力が弱い(強過ぎず弱過ぎず適度の病原性)
−などが挙げられるが、中でも気道定着に必要な能力は⑥と⑦であると思われる。

 ABPMの原因菌種は大部分がアスペルギルス属であるが、それを除くとCandida albicansが最も多く、その他に黒色真菌(いわゆる黒カビ)が複数見られ、真正担子菌であるスエヒロタケも多い。実際に大気中(室内)に飛散している真菌は黒色真菌とPenicillium spp.が主体で、アスペルギルス属はわずか1.6%とする国内の報告がある。
 東海大学呼吸器内科学教授の浅野浩一郎氏らの研究班によるABPMと真菌感作喘息の原因菌調査では、アスペルギルス属が半数であったが、約3分の1の症例では喀痰や気道洗浄液から真正担子菌が分離され、菌種は多彩でスエヒロタケ以外の真正担子菌による症例も多かった。一方、一般医療機関からの依頼により亀井氏らが行った最近の原因菌調査では、真正担子菌の70%がスエヒロタケであったという。
・・・
 Aspergillus fumigatusの病原因子は有害分子(toxic molecule)や酵素などである。有害分子としては非常に毒性が強いマイコトキシン(真菌の二次代謝産物)が知られており、アスペルギルス属ではグリオトキシンが最もよく知られている。グリオトキシンは気道線毛運動の抑制や気道線毛上皮の破壊など、さまざまな作用を有しており、気道線毛上皮に対するマイコトキシンの影響はかなり大きいことが分かっている。
・・・
 ABPMの原因菌の多くはアスペルギルス属で真正担子菌は少ない。環境内に多数分布する菌種がABPMの好発菌種となるわけではなく、大きなずれがある。しかし、実際には真正担子菌が環境内に大量に存在していることが分かってきた。亀井氏は「われわれはカビを吸って生きているといわれてきたが、実は"キノコ"を吸って生きているのかもしれない。これまでの認識を改める必要がある」と述べている。
・・・
 さらに同氏は「真正担子菌の潜在能力は高いと思われ、一部の菌種ではマイコトキシン産生能が知られており、今後の検討が必要」とし、「マイコトキシン産生遺伝子は解明されているため、関連遺伝子の制御ができれば、初期であればABPMの予防やコントロールが可能になるかもしれない」と展望している。


 カビ類の名前がたくさん羅列され、わかったようなわからないような内容ですが・・・
 私が注目した点は、ABPA/ABPMの原因菌として必要な能力の、
⑤ アレルゲンを産生する
⑥ 気道に定着し、局所で成長しやすい
 ーです。
 ⑤はアレルギーの要素、⑥は感染症の要素、と両方の特徴を兼ね備えていなければABPA/ABPMは発症しない、ということです。
 やはり不思議な病態ですね。

 今後の研究動向に注目したいと思います。

ノロウイルス集団感染と対策

2018年02月17日 13時59分27秒 | 感染症
 ノロウイルスの集団感染がニュースにならない年はありません。
 各施設、対策は取っているのに、なかなか征圧できない感染症の一つです。

 朝日新聞からの事例報告と、読売新聞の感染対策の解説記事を紹介します。

■ 病院でノロウイルス集団感染 患者ら18人 福岡
2018年02月15日:朝日新聞
 福岡市は14日、南区の病院で18人が下痢や吐き気などの症状を訴え、うち5人からノロウイルスが検出されたと発表した。市はノロウイルスが原因の感染性胃腸炎の集団感染とみている。保健予防課によると、症状を訴えたのは60~90代の入院患者11人と、20代と40代の職員7人。重症者はいないという。


※ 下線は私が引きました。

■ ノロウイルス感染予防…嘔吐物は新聞で覆い、次亜塩素酸ナトリウムで消毒を
2018年2月13日:読売新聞
 下痢などの症状が出る「ノロウイルス感染症」は、秋から冬にかけて流行します。ウイルスは感染力が強く、人にうつさないように注意することも大切です。感染者が出たら、汚染物の管理など対策を徹底しましょう。(冨山優介)

◇ なぜ起きる?
 ノロウイルスは直径30~40ナノ・メートル(ナノは10億分の1)で、インフルエンザウイルスの3分の1程度の大きさです。小腸の上皮細胞(表面の細胞)に感染して、増殖します。
 感染の経路はウイルスが口から入る「経口感染」が中心です。感染者の便や 嘔吐おうと 物に触ったり、感染者が触ってウイルスが付着した食品を食べたりして感染します。二枚貝などウイルスに汚染された食品を食べることでも感染します。

◇ どんな症状?
 ウイルスに感染してもすぐに症状は出ませんが、小腸の上皮細胞はやがて大量にはがれ落ち、1、2日後に下痢が起きます。嘔吐も主な症状の一つです。いずれも2、3日続きます。
 ほかにも38度程度の発熱や腹痛、頭痛、悪寒、筋肉の痛み、のどの痛み、 倦怠けんたい 感など、様々な症状を伴うこともあります。
 健康な人が感染した場合は、下痢や嘔吐は軽症で回復しますが、子どもやお年寄りでは重症化する危険があります。お年寄りが吐いたものを詰まらせて窒息し、死亡することもあります。

◇ どう治すの?
 本村 和嗣 ・大阪健康安全基盤研究所総括研究員(ウイルス感染症)は、「ウイルスの活動を抑え込む抗ウイルス薬や、感染を防ぐワクチンはいずれもありません。症状に合わせて対応する『対症療法』が中心になります」と説明します。
 下痢で脱水症状が起きやすくなるため、必要な水分を点滴などで補給し、胃の調子が悪い状態が続けば整腸剤を服用します。痛みがひどければ鎮痛剤も使います。
 症状が治まるまでは、安静にして過ごします。食欲も減退していることが多いので、おかゆなど消化に良いものを食べて、しっかり栄養を取ることが大事です。

◇ 予防には?
 感染力が強いため、人にうつさないようにするのがポイントです。嘔吐物などを片付ける際には、まず新聞紙などで上から覆い、ウイルスを含んだほこりなどが舞い散らないようにした上で、殺菌力の強い次亜塩素酸ナトリウムを使ってしっかり消毒しましょう。漂白剤として使われることも多く、50~100倍に薄めて代用できます。
 床や便座、ドアノブなど、感染者が触れたところも消毒が必要です。マスクやゴム手袋をつけて作業しましょう。感染者が使ったタオルは避け、食品はしっかり加熱することも大事です。体力が落ちていると感染しやすいので、体調が悪ければ不要な外出を控え、人混みを避けることが賢明です。

ジフテリアは過去の感染症ではない。

2018年02月10日 20時17分47秒 | 感染症
 日本では過去の病気と考えられているジフテリア。
 喉の強い炎症で窒息死する怖い感染症です。
 3種混合の予防接種開始後に激減し、現在の四種混合に引き継がれてその状態が維持されています。

 思い起こせばソ連崩壊後、予防接種率低下に伴いロシアで流行したことを記憶しています。
 さらに近年、迫害されている民族「ロヒンギャ」の間で発生しているという記事が目に止まりました。

■ バングラデシュでジフテリアが急速に蔓延
2017年12月08日:メディカル・トリビューン
 世界保健機関(WHO)は12月6日、バングラデシュ南東部コックスバザール周辺の仮設キャンプに収容されたロヒンギャ難民の間でジフテリアが急速に広がっていると警告を発した。国境なき医師団(MSF)や国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)などにより、110例超がジフテリアと診断、うち6例が死亡したと報告されている。

◇ ジフテリア診断例は氷山の一角
 WHOバングラデュ担当のNavaratnasamy Paranietharan氏は「これらは氷山の一角にすぎない可能性がある。ロヒンギャ難民はワクチン接種率が低い感染症に対して極めて脆弱な集団であり、ジフテリア以外にもコレラ、麻疹、風疹など、感染症の温床となる環境下にある」と警告している。
 WHOでは先日まで、ロヒンギャ難民と受け入れコミュニティの35万人超に麻疹・風疹混合ワクチンを投与、70万人超に経口コレラワクチンを投与するという、難民とコミュニティを感染症から守るキャンペーンを行っていたが、同氏は「今やジフテリアについても同様の措置を講じる必要がある」と指摘している。
 今年(2017年)8月以降、ミャンマーからバングラデシュに逃れてきたロヒンギャ難民は62万4,000人を超え、飲料水、衛生的な環境、公共医療サービスなどへのアクセスが制限された環境で密集して生活しており、さらに人数は増え続けている。
 WHOはバングラデシュ保健家族福祉省および国連児童基金(UNICEF)と協力して、非常に感染性が強い呼吸器疾患の流行を防ぐために効果的な治療と適切な防止法を提供している。3団体は患者の診断と治療、薬剤の適正な供給の確保をサポートし、6年以内に5種混合(ジフテリア、百日咳、破傷風、B型肝炎ウイルス、インフルエンザ菌b型)ワクチンと肺炎球菌ワクチンをロヒンギャ難民と受け入れコミュニティの全ての小児に接種するキャンペーンを準備中であるという。
 既に、WHOでは今週末までにバングラデシュに届く予定の最初の1,000バイアルのジフテリア抗毒素(抗生物質と混合済み)を調達したという。これによってジフテリア毒素を中和し、ジフテリア感染者の命を救うことができる。
 同氏は「われわれは普段、協力団体とともに健康な労働者が容易に医療にアクセスでき、病気の人に十分なベッドと薬剤を確保するために活動している。しかし、今回のような感染症の流行をコントロールする唯一の方法は、ワクチン接種により感染症から小児を保護することである」と述べている。



 このようなニュースを見聞きして、ワクチン反対派の方々はどう考えるのでしょう。
 「ワクチンは危険だから自然感染の方がよい」と主張し続けるのでしょうか?

「エンテロウイルスD68」感染症の多様性

2018年02月04日 06時49分23秒 | 感染症
 エンテロウイルスD68は、はじめアメリカでポリオ様麻痺を後遺症として残す感染症として2014年に注目されました。
 その翌年の2015年秋、日本で喘息発作を起こすウイルスとして注目されました。
 どんなウイルスなのでしょう?

 “エンテロ”とは“腸管”という意味です。
 エンテロウイルスとは腸管で増殖するウイルスという意味を含んでいるのですね。
 小児科医にとって、エンテロウイルスは夏風邪の原因としておなじみです。


(「エンテロウイルス(D68):症状・治療法・予防方法について解説」:ミナカラ)より

 夏風邪の代表である「手足口病」「ヘルパンギーナ」の名前もありますね。
 注目すべきは「急性灰白髄炎」。聞き慣れない病名ですが、俗称「ポリオ」と呼ばれています。
 つまり、ポリオもエンテロ有為するの仲間なのです。

 表を眺めるとおわかりのように腸管で増殖するウイルスであるものの、いろんな臓器をターゲットに症状が出現し得ます。
 呼吸器や神経に症状が出てもおかしくありません。




■ エンテロウイルスD68に関連する急性弛緩性脊髄炎
2017年11月09日:FORTH
 2017年11月1日付で、汎米保健機関(PAHO)より、急性弛緩性麻痺のサーベイランスの中でのエンテロウイルスD68に関連する急性弛緩性脊髄炎の報告が公表されました。

◇ アメリカ大陸およびその他の地域における発生状況の概要
 1960年代から、エンテロウイルスの感染者が報告されてきています。(しかし)2014年に、アメリカ合衆国で初めて、感染の流行が記録されるまで(流行は)ありませんでした。
 2014年8月から12月までに、米国疾病対策センターには、エンテロウイルス(EV)D68によって起こる呼吸器疾患の流行に関連して、急性弛緩性脊髄炎(AFM)の増加が報告されました。AFMと報告された患者は120人で、34州に及んでおり、年齢中央値は7.1歳(4.8-12.1歳)、59%が男性、81%が神経症状の発症前に呼吸器疾患を伴っていました。この症状に続いて、いくつもの州で、自然発生的に調査が始められました。(その後)2015年には散発的に患者が発生し、2016年には新たな患者が増えてきました。患者は、アジア、カナダ、ヨーロッパでも確認されました。
 エンテロウイルスD68(EV-D68)は、ライノウイルス(rhinoviruses)の特徴をもち、主に呼吸器に病態を引き起こします。しかし、神経を侵襲する病態の原因としての役割は、あまりよく分かっていません。
 2016年に、ヨーロッパ疾病対策センターは、デンマーク、フランス、オランダ、スペイン、スウェーデン、イギリスから、エンテロウイルスに感染した子どもと大人で重症の神経学的な症候群が集団および孤立例として報告されたことを周知しました。このエンテロウイルスはD68でした。
 2017年10月に、アルゼンチンのIHR担当者からEV-D68が関係するAFMが報告されました。2016年第13週から第21週までに、AFMが15人(Buenos Aires(ブエノスアイレス)州で13人、Chubut(チュブット)州で1人、ブエノスアイレス自治市で1人)確認されました。患者は、急性弛緩性麻痺の調査の一環として確認されたため、全員が15歳未満でした。この事例は、2016年第16週から第21週までに、全国で観察された15歳未満の子どもの急性弛緩性麻痺の患者の増加とも一致しました。報告されたAFMの患者15人のうち6人から、EV-D68を、ポリオ中央研究所地域研究所(the Regional Poliovirus Reference Laboratory - INEI - ANLIS )Carlos G. Malbrán博士が確認しました。陽性の結果は、鼻咽頭の吸引による検体から得られました。患者の1人からは、同じ結果が脳脊髄液からも得られました。また、急性弛緩性麻痺の患者2人の糞便検体からはヒトEV B型とEV C型が検出されました。患者1人からは、ライノウイルスC型、別の1人からはコクサッキーウイルスA13型が検出されました。
 ポリオ根絶の背景、2016年4月以降に経口ポリオワクチン(OPV)が3価から2価に移行したこと、急性弛緩性脊髄炎(AFM)はAFPの一形態であること、神経への侵襲性の病態の疫学においてエンテロウイルスが果たす役割に関する知識を深める必要性があることを考え、汎アメリカ保健機関/世界保健機関(PAHO / WHO)は、エンテロウイルスがAFPの鑑別診断として挙げられることを各国の記憶に留めさせています。

<出典>
PAHO. Epidemiological Alert. 1 November 2017
Acute Flaccid Myelitis associated with enterovirus D68 in the context of Acute Flaccid Paralysis surveillance.



■ 不可解なポリオ様疾患の流行の原因はエンテロウイルスD68か?
Univadis Medical News2018.01.25
 2014年、急性弛緩性脊髄炎が米国、デンマーク、フランス、オランダ、スペイン、スウェーデン、英国で集団発生し始めた。
 『 Eurosurveillance 』に発表された新しいエビデンスから、欧州、米国、カナダ、アジアでの不可解なポリオ様疾患の流行の原因がエンテロウイルスD68(EV-D68)であることが示唆されている。
 EV-D68の大流行は2014年に各国で発生した。最初の流行は米国で検出され、その後にカナダ、欧州、アジアで流行した。同時に、急性弛緩性脊髄炎(AFM)のクラスターの増加が同じ地域で記録された。発症した症例数は米国で最も多かった。より少ない症例数がデンマーク、フランス、オランダ、スペイン、スウェーデン、英国で報告された。専門家は原因解明に窮していた。
 最近、喫煙とがんの因果関係を立証するために使用されたブラッドフォード・ヒル基準を用いて、オーストラリアの研究者らはEV-D68がこうしたAFMのクラスターの原因であるという強力なエビデンスを提示した。
 研究についてコメントした筆頭著者のRaina MacIntyre教授は、公衆衛生策の焦点を感染の予防に当てることができるようEV-D68とAFMとの関連を認める必要がある、と述べた。「EV-D68感染の発生率は世界中で増えており、最近には遺伝的に異なる菌株が進化しています。EV-D68を原因とするこのポリオ様疾患の治療またはワクチンはないため、流行を食い止めるための速やかな行動が重要です。」

<参照>
・Dyda A, Stelzer-Braid S, Adam D, Chughtai AA, MacIntyre CR. The association between acute flaccid myelitis (AFM) and Enterovirus D68 (EV-D68) – what is the evidence for causation? Euro Surveill. 18 January 2018; 23(3). pii: 17-00310. Doi: 10.2807/1560-7917.ES.2018.23.3.17-00310.


<参考>

■ 「エンテロウイルス D68(EV-D68)感染症に関する Q&A」(一般の方向け)(国立感染症研究所)より;
Q2) EV-D68に感染し発症した場合、どんな症状が認められますか?
A2) EV-D68 に感染し発症した場合、発熱や鼻汁、咳といった軽度なものから喘息様発作、呼吸困難等の重度の症状を伴う肺炎を含む様々な呼吸器疾患を呈します。なお、弛緩性麻痺を発症した患者の上気道から EV-D68 が検出された事例が欧米や日本などから報告されており、弛緩性麻痺患者の一部における EV-D68 感染との関連が疑われています。

■ 「エンテロウイルスD68(EV-D68)感染症とは」国立感染症研究所

■ 「2015年に発生したエンテロウイルスD68感染症の関与が疑われる急性弛緩性麻痺、重症呼吸不全、小児気管支喘息に関するまとめ」日本小児科学会

加湿器によるレジオネラ感染

2018年02月02日 06時25分54秒 | 感染症

 従来「レジオネラ感染症=循環風呂」というイメージがありました。

■ 「広島入浴施設でレジオネラ集団感染、死亡例も」
2017/5/8:日経メディカル

 しかし今回は加湿器が原因でした。
 「塩素系洗剤ですべての加湿器のタンクなどを洗った」ものの、それでも感染者が出現し、「洗剤を使っても、菌がぬめり(生物膜)の中で守られていた可能性」が指摘されました。
※ 下線は私が引きました。

■ 加湿器からレジオネラ菌、肺炎で高齢男性死亡
2018年1月20日:読売新聞
 大分県は19日、同県国東くにさき市の高齢者施設で入所者と利用者の男性計3人(80~90歳代)がレジオネラ症による肺炎を発症し、このうち90歳代男性1人が死亡したと発表した。
 施設内にあった加湿器からレジオネラ菌が検出されており、県は加湿器が感染源とみている。
 県によると、昨年12月17日と同23日、ともに80歳代の入所者2人が相次いで発熱やせきの症状を訴え、市内の病院に入院。県東部保健所が同28日、施設内の浴槽などを調べたが、菌は検出されなかった。2人は快方に向かった。
 しかし今月13日、短期入所中の90歳代男性が同じ症状を訴えて入院し、翌日に死亡。保健所が施設を再検査したところ、先に感染した2人のそれぞれの部屋にあった加湿器2台からレジオネラ菌が検出された。



■ 加湿器の洗浄「週1回」だった レジオネラ感染で施設長
2018年02月01日:朝日新聞デジタル
 大分県国東市の高齢者施設の利用者3人がレジオネラ菌に感染して1人が死亡した問題で、施設長が31日、朝日新聞の取材に応じた。加湿器が感染源となる認識はなく、毎日の洗浄や乾燥もしていなかったという。施設長は「それが菌繁殖の原因になった可能性がある」との見方を示した。
 施設では昨年12月、入所者の80代男性2人の感染が判明した。県はレジオネラ菌の感染源となることが多い風呂場を調べたが、検出されなかった。次の感染者を出さないよう、風呂場に加えて加湿器も清掃、消毒するよう県から指導されたことで、施設長は「加湿器も感染源となりうることを知った」という。
 約50人が入所するこの施設では、インフルエンザ対策として計20台ほどの加湿器を各部屋に設置。24時間動かしていた。約2年ごとに買い替えており、今回レジオネラ菌が検出された2台は2016年冬に購入したものだった。週に1度、すべての加湿器のタンクを洗っていたが、施設長は「湿度を維持するため、24時間使い続けていた。毎日洗って乾燥するのは難しかった」と話した。
 県の指導を受けて、塩素系洗剤ですべての加湿器のタンクなどを洗ったが、1月になって再び、ショートステイで施設を利用していた90代男性が感染し、レジオネラ肺炎で死亡した。県は「洗剤を使っても、菌がぬめり(生物膜)の中で守られていた可能性がある」とみている。
 施設は1月18日、利用者らの家族を集めて謝罪し、経緯と再発防止策などを説明したという。元の加湿器はすべて廃棄し、除菌効果のある水を使う新しい加湿器を27日から導入した。加湿器以外にも、レジオネラ菌の感染源となりうる風呂場の床をすべて張り替え、空調設備も業者に依頼して洗浄したという。
 施設長は「亡くなった人と遺族、すべての利用者、そして心配をかけた地域の方々に申し訳ない。他の高齢者施設では、同じことが起こらないよう注意してほしい」と話している。

◇ 県の想定「風呂場だけ」、改める
 90代男性の死亡後に施設の風呂場を調べていた県は調査を終え、レジオネラ菌は検出されなかったと発表した。「加湿器が感染源とみられる」と結論づけた。
 県によると、感染者と加湿器から採取したレジオネラ菌の遺伝子が一致するかは確認できなかったため、感染源は特定できなかった。ただ、ほかの場所から菌が検出されなかったことから、加湿器を感染源と推定したという。
 県が調査で使うチェックリストは、感染源としての想定は風呂場だけだったという。「今後はすべてを疑ってかかることが重要」(担当者)として、リストに加湿器や空気清浄機、エアコン、車などを加えるという。


■ 「クエン酸を使用した加湿器のお手入れ」(e-すまい
■ 「加湿器の手入れが楽で簡単な方法!クエン酸を使って清潔に感染予防!」(various search
■ 「加湿器のお手入れ法 クエン酸液で水あか除去」(毎日新聞:2016年11月22日)より
 加湿の方法には、超音波式▽スチーム式▽気化式▽ハイブリッド式--の4種類がある。どの方式も水道水を使うため、放っておけば噴出口やタンクに水あかが付き、最終的には雑菌がわく。お手入れは必須だ。
 水あかは水の中のミネラル分が固まったものなので、薬局や100円ショップなどで買える「クエン酸」約6グラムを1リットルの水に溶かした液で除去する。メーカーが加湿器用に売る洗浄剤もある。ちなみに、塩素臭を嫌って浄水器を通した水を使うのは厳禁。殺菌力が働かず、タンクで雑菌が繁殖してしまう。
 人気の卓上型は、ほとんどが超音波式。水を振動で砕いて噴出させ、霧吹きのように加湿する。電気消費量が少なくアロマも使えるが、この方式は構造上水あかがつきやすく雑菌が生じやすい難点がある。また、超音波式の水の粒子は水蒸気より粒が大きいため雑菌を含みやすい。過去にレジオネラ菌発生、人への感染が報告されたこともある。クエン酸液をつけた綿棒で吹き出し口や給水口をぬぐうなど、お手入れは毎日した方が望ましい。
 最近は、タンク内の水を紫外線や抗菌剤などで除菌する製品や、水に加える除菌剤なども登場しているので活用するのも一つの手だ。
 スチーム式は湯をわかして蒸気を出すイメージで素早く潤う。加熱するため菌は発生しないが電気代が高く、多くは吹き出し口が90度程度に熱くなる欠点がある。しかしヤマダ電機の佐久間さんによると、電気ポットと同じ構造のスチーム式の製品は、40~50代によく売れているという。面倒なお手入れも、ポットと同じやり方なので使いやすいらしい。
 気化式はぬれた布に風をあてるイメージで非常に電気代が安い。大きい運転音が難点だが、最近はモーターや制御機器などで改善している。ハイブリッド式はぬれた布に温風をあてるイメージ。スチーム式と気化式の良い点を取り入れた形で、気化式よりは電気代がかかる。両方式はともにフィルターを使うのでお手入れが必要だ。
 加湿フィルターは目地に水あかがつくと給水できずに加湿能力が落ちる。放っておくとカビも生える。機種により、少なくとも月1回、多くて週1回はお手入れが必要だ。通常は紙製だが、パナソニックは汚れが落ちやすく、基本的に押し洗いで済む布製フィルターを開発するなど、各社工夫している。フィルターの寿命は布製が10年、紙製は最大8年ほど。機種によって1年のものもあるという。ただしヤマダ電機の佐久間さんは「いずれも取扱説明書通りの頻度でお手入れをすれば、の話」とくぎを刺す。
 掃除が面倒な人には、特殊な紙をぬらして自然に気化させる雑貨がおすすめだ。加湿能力は高くないが、ただ器に水を入れておくだけより10倍程度潤せるという。デザイン性が高く、プレゼントにも最適だ。

イナビルの吸入容器が仕様変更 〜部分的に透明化〜

2018年01月30日 07時05分43秒 | 感染症
 吸入製剤は内服と異なり、うまく吸えないと効きません。
 イナビル容器が吸い残しがないか確認できるよう、一部透明になるそうです。
 ただし流通するのは3月とのこと。

■ イナビル®の吸入容器が一部透明に
2018/1/30 :日経ドラッグインフォメーション

[関連情報]
・第一三共:イナビル®吸入容器仕様変更のご案内(医療関係者向け)


オマケです。
イナビル®吸入のピットフォールの記事(日経メディカル)

もう一つ。
イナビル®は薬局で吸入方法を教えてもらい、そこで済ませることが多い薬剤です。
薬局薬剤師が感染対策として行っている工夫を紹介します。
薬局でイナビル®を吸わせるコツ」から;

海外旅行後の体調不良は「持ち込み感染症」を疑え!

2018年01月26日 08時30分31秒 | 感染症
 グローバル化した世界の視点で、国内の感染症対策をみつめる必要があります。
 それは「入国・帰国者による持ち込み感染症(輸入感染症)」です。
 風疹に関する記事を紹介します;

■ 海外出張後の体調不良が思わぬ感染源に〜抗体保有率低い男性群の風疹が依然問題
2018.1.24:メディカル・トリビューン
 2月4日は"風疹(ゼロ)の日"。同月いっぱいを"風疹ゼロ"月間と定め、妊婦の風疹ウイルス感染を防いで先天性風疹症候群(CRS)児の出生をゼロにし、風疹の完全制御を目指す活動が始まる。風疹ゼロプロジェクト作業部会代表で日本産婦人科医会常務理事の平原史樹氏は、抗体保有率が低い30~50歳代の男性で風疹ワクチンを接種せずに海外出張し、帰国後体調不良を自覚しつつも出社して出張先で感染した風疹を妊娠中の女性に二次感染させた事例を紹介。国と医療従事者、企業が一体となって風疹対策に取り組む必要性を、1月17日に東京都で開かれた同医会記者懇談会で訴えた。(関連記事「男性の海外出張による"輸入感染症"、児の先天風疹症候群の原因に」)

◇ 依然として日本は風疹流行の準備状態
 風疹ゼロプロジェクトは、昨年(2017年)2月に日本産科婦人科医会を中心に開始され、
①麻疹・風疹(MR)混合ワクチン接種の啓発活動を全国規模で推進
②適切なワクチン接種の推進策を提言
③ワクチン未接種者の低減に向け有効な方策を発信
―を行うプロジェクトである。
 これまで風疹は反復流行し、多くのCRS児が出生した。依然、日本は流行の準備状態にあり、大規模な国際交流イベントの開催時に大流行する傾向が見られる。日本では2020年に東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を控えていることから、厚生労働省は同年までに風疹の排除を目標としている。
 風疹ゼロプロジェクトは、昨年に引き続き今年も次の4つのスローガンを掲げた。

1.海外に出かけるなら風疹の用心と万全の対策を!
2.海外から帰国後の体調異変はもしかしたら風疹かも! 診察を受けてから職場へ
3.30~50歳代の男性は風疹への抵抗力が弱い人が多く、ぜひMRワクチンを接種してください(かかりつけ医、職場健康相談で尋ねてください)
4.妊娠を考えているおふたりへ風疹対策は大丈夫ですか? 予防接種は妊娠前に忘れずに!
(各市町村で風疹抗体検査女性事業が実施されています―詳しくは保健所へ)


◇ CRS の約7割は職場での二次感染が原因
 スローガンの主なポイントは、海外渡航者へのワクチン接種と帰国後の体調管理の推奨にある。現在38歳6カ月以上の男性(1979年4月2日以前に出生)と55歳6カ月以上の女性(1962年4月2日以前に出生)は風疹含有ワクチンの定期予防接種制度の対象ではなく、接種の機会がなかったため抗体保有率が低い。特により海外出張の機会が多い男性が、風疹の流行国であるインド、中国、インドネシアに渡航した場合、感染しやすい。
 帰国後、体調不良を感じても風疹感染に気付かずにかぜだと思い込み、受診せずに出社することで、感染を拡大させてしまう。
 2012/13年の風疹の流行時に公表されたCRS出生児数は45例に上った。しかし、平原氏は「45例はあくまで公的にCRSと認定された患児の数で、実際のところは分からない。人工妊娠中絶を余儀なくされた妊婦も存在した」と述べた。 同氏によると、45例中約7割は職場での二次感染によるものだったという。それにもかかわらず大々的な報道はされず、渡航者の風疹ワクチンの接種率は高くない。 今年はスローガンに、MRワクチン接種が必要な年齢層を具体的に示し、接種を呼びかける。
 なお、"風疹ゼロ"プロジェクトの協力要請組織・共同行動組織・機関には、厚労省、経済産業省、外務省、国立感染症研究所、日本医師会、関連学会の他、妊娠中に風疹に罹患して出産した母親とCRSの当事者グループ・風疹をなくそうの会など多数の組織が名を連ねている。


<参考>
□ 「麻疹・風疹の現状と対策ー輸出国から輸入国へー」(2017.11.5岡部信彦先生講演スライド)

インフルエンザ最新知識アップデート2018

2018年01月20日 07時27分15秒 | 感染症
 インフルエンザ最新知識のアップデート。
 Lancet セミナーを解説した記事を紹介します。

 注目すべきは、学童集団接種に対する評価の変遷です。
 かつて日本では、小中学校で強制的にワクチン接種が行われていました(1962年〜1987年)。しかし副反応事例にマスコミ、市民が過剰反応し、1987年以降、任意接種となりました。

 そして何が起こったか?

 老人施設の集団感染&死亡、小児のインフルエンザ性脳症の増加・・・

 日本の集団接種が忘れ去られそうになってから、これを科学的に分析して評価したのは米国の研究者でした。日本の厚生労働省の死亡統計を詳しく調べ上げて書かれた論文は「小児に集団接種をすることにより、高齢者をも守っていた」ことを明らかにしました。
 これを専門用語で「集団免疫効果」(herd immunity)といいます。
 つまり、小・中学生がワクチン接種によりインフルエンザにかからなかったことにより高齢者もかからず、そしてこれは高齢者の肺炎死亡を抑制していたのです。
 しかし、ワクチンの副反応を大々的に喧伝したマスコミはこの論文を完全に黙殺し、一切話題にはなりませんでした。
 ワクチンをしないことによる死亡者の増加の責任の一端はマスコミにあります。

■ 抗インフルエンザ薬は、重症者で肺炎・入院減らす!
 西伊豆健育会病院病院長 仲田 和正
2018年01月18日:メディカル・トリビューン)より、一部抜粋(下線は私が引きました)

 昨年(2017年)秋、小生もインフルエンザワクチンの接種をしました。Lancet(2017; 390: 697-708)にインフルエンザのセミナーがありましたのでまとめてみました。世界最新のインフルエンザ知識です。
  最重要点は次の8点です。

【Lancetセミナー「インフルエンザ」の8つの最重要点】
1.世界的流行を起こすのはインフルエンザAでありBは起こさぬ
2.インフルエンザの平均再生産数は1.28(1人が1.28人にうつす)
3.インフルエンザ診察はサージカルマスク着けよ。気管支鏡ではN95
4.ウイルス排出は発症初期1、2日がピーク、この時期にswab検査せよ
5.抗インフルエンザ薬は発症48時間内が効果的、健康成人で症状を1日未満短縮
6.抗インフルエンザ薬は重症患者で肺炎(RR 0.56)、入院期間(同0.37)を減らす
7.予防に最も効果的なのはワクチン!65歳以上、妊婦、小児、免疫不全、医療者で推奨!
8.ワクチン株と流行株が一致すればワクチン有効率は50~60%


 インフルエンザ予防に最も効果があるのはワクチンです。かつて日本では、インフルエンザに対し、1962年から1987年まで小中学校で強制的にワクチン接種が行われていました。しかし副反応事例にマスコミ、市民が過剰反応し、1987年以降、任意接種となりました。
  これがどのような恐るべき結果を引き起こしたか、なんと米国の研究者(日本人の共同研究者もいる)によりN Engl J Med(2001; 344: 889-896)に発表されました。それが次の論文です。日本の厚生労働省の死亡統計を詳しく調べ上げて書かれた論文です。
"Reichert TA, et al. The Japanese Experience with vaccinating schoolchildren against influenza"
 この要点は次の3つです。
 ① 日本でインフルエンザワクチン接種は1962~87年まで学校で強制的に行われた
 ② 1987年の中止により日本の全死亡率および高齢者の肺炎死亡率が上昇した
 ③ ワクチン強制接種は群免疫(herd immunity)により高齢者死亡率を抑制していた

 つまり、小・中学生がワクチン接種によりインフルエンザにかからなかったことにより高齢者もかからず、そしてこれは高齢者の肺炎死亡を抑制していたのです。 小生自身もかつては、インフルエンザワクチン接種は意味がないと思い込み、患者さんに勧めることはありませんでした。しかしこの論文を見て、このことで多くの高齢者たちを死に追いやっていたことを知り驚愕、深く反省しました。
  2001年にこの論文を読んだとき、これは国内で大問題になると思いました。しかし、マスコミはこの論文を完全に黙殺し、一切話題にはなりませんでした。

1.世界的流行を起こすのはインフルエンザAでありBは起こさぬ
 インフルエンザは過去100年に4つのpandemics(世界的大流行)を起こしました。
 なおendemic、epidemic、pandemicの言葉の定義は次の通りです。
 ・Endemic : 風土病。特定の地域で発症する病気
 ・Epidemic : 流行病。地域で一時期に多数の発症
 ・Pandemic : 世界的流行病。国中または世界中で発症
 インフルエンザAとBはepidemic (流行病)を起こしますが、Aは散発的に pandemic(世界的流行)を起こします。
 過去、世界的流行には下記4回がありました。いずれもインフルエンザAです。
 ・1918年 H1N1 Spanish influenza、世界で2,000~4,500万人死亡(1977年に再発生したが pandemicにならなかった)
 ・1957年 H2N2 Asian influenza
 ・1968年 H3N2 Hong Kong influenza:この罹患率、死亡率が最も高い
 ・2009年 H1N1 swine influenza

2.現在の流行はインフルエンザAのH3N2(死亡率高い)とH1N1
 現在、世界で流行しているのは、1968年のH3N2インフルエンザAと、2009年にpandemicを起こしたH1N1 swine(豚)インフルエンザAで、インフルエンザBとともに流行しています。"Swine"(スワイン、豚)はドイツ語では"Schwein"(シュバイン)と言います。
 小生が先日接種したインフルエンザ株を調べたところ、次の4つの株が入っていました。 H1N1のswineインフルエンザも入っています。インフルエンザ株の記号の意味は次の通りです。

【ウイルスのタイプ(A、B)/最初に分離された場所/株の番号/年号/HAとNAの亜型】
 ・A/シンガポール/GP1908/2015(H1N1)pdm09
 ・A/香港/4801/2014(H3N2)
 ・B/プーケット/3073/2013(山形系統)
 ・B/テキサス/2/2013(ビクトリア系統)

 1995年、米国陸軍病理研究所でスペイン・インフルエンザにより死亡した患者の肺標本からウイルス遺伝子が分離されH1N1であったことが分かりました。
 『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ』(速水融著、藤原書店、2006年)という本があります。日本全国と、当時日本領だった朝鮮、樺太の新聞を丹念に調べ上げた力作です。日本のスペイン・インフルエンザ流行についてまとまった本としてはこれしかないと思います。
 日本内地だけで約50万人の死者(当時の人口が5,500万人)、世界全体で2,000万から4,500万の死者(世界人口20億人)と推定しています。第一次世界大戦の死者が約1,000万ですから、死者はそれよりもずっと多かったのです。
 スペイン・インフルエンザは世界的に流行したのですが、戦争当事国はこれを報道せず、中立国だったスペインのみが報道したため、「スペイン・インフルエンザ」の名になったのだそうです。
 日本国内のスペイン・インフルエンザですが、愛媛県の「海南新聞」によると、松山市では人口6万のうち、罹患者は2万~2万5,000に達し、高熱の患者の熱冷ましに大量の氷の需要が生じて価格が高騰、1貫(3.75kg)12~13銭だったのが50銭~1円で取り引きされたとのことです。
 大正7年11月、大阪市では死亡者の大幅な増加により平時は3つの火葬場で1日70~80体を焼却していたのが、120体以上の処理が必要となり死体を堆積せざるをえなくなりました。また葬儀夫も罹患し、火葬自体が困難となり、大阪駅から地方へ死体を送ったとのことです。
 大阪医科大学助教授がインフルエンザ後の肺炎で死亡しましたが、翌日遺言により解剖が行われ、肺全体が侵されていることが分かりました。演出家、島村抱月(『カチューシャ可愛や』のカチューシャの歌の作詞者)もインフルエンザ後の肺炎で死亡、その愛人の松井須磨子が後追い自殺をしています。
 Lancetのセミナーによると、インフルエンザ関連肺炎は1957年のpandemicで報告されましたが、1918年時点でも存在が推測されていました。そもそも1918年の時点でインフルエンザがウイルスによるとは分かっていなかったのです。
 インフルエンザウイルスによる肺炎の画像は、両側びまん性浸潤影で喀痰培養は陰性です。死亡率は高く、剖検では壊死性気管支炎、硝子膜、肺胞出血・浮腫、間質の炎症があります。
 一方、インフルエンザ後の細菌性肺炎は、1918年に報告されました。2009年のH1N1のpandemicの死亡は細菌性肺炎が多かったそうです。インフルエンザの症状が治まった後、4~14日目に発熱、呼吸困難、湿性咳嗽、肺陰影が出現します。つまり2峰性の発熱が起こったらインフルエンザ後の細菌性肺炎を疑うのです。
 細菌で多いのは、肺炎球菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、Haemophilus influenza、 Streptococcus species、グラム陰性桿菌などです。無論、ウイルスと細菌性肺炎の合併も起こりえるし、インフルエンザで細気管支炎やクループ、 COPD悪化、喘息再燃も起こります。
 1918年のスペイン・インフルエンザ(H1N1)流行時、群馬県の「上毛新報」によると、「・・火葬場に於いては友引でも寅の日でも、満員の有様で、毎日二つや三つ取り残されぬことはなく、棺を送っていく職人や人夫などは、焼場成金が出来るの、医者成金が出来るのと騒いでいるが、其のお医者様さへも大分遣られて奥さんや子供の冒されているのもあって、もう医者なんかやめたくなったと熟々とこぼして居る先生もある」とのことでした。
 大正8年の北海道の「北海タイムス」によると、「東京電報:悪性感冒で全村惨死 残る者唯六人。福島県若松市近くの人口276人の1は村民皆インフルエンザに罹り270人は無残の死を遂げ一村全滅の形なり」とあります。大正9年6月6日の同紙では、択捉(エトロフ)島では、「死体を原野に運び山積して火葬す。惨状目もあてられぬ」とのことでした。

3. AとBはantigenic driftで小変異起こし、Aのみがantigenic shiftで大変異
 インフルエンザAが次々と変異していく理由は、インフルエンザの遺伝子は単鎖RNAでDNAに比べ非常に不安定であるためです。インフルエンザAとBは抗原連続変異(antigenic drift)といって、抗体結合部位で遺伝子の点変異(point mutation)が蓄積しワクチンが効かなくなります。
 一方、インフルエンザAのみで起こるのが抗原不連続変異(antigenic shift)といって2種以上のウイルス株が結合して新しいsubtypeができます。例えばH1N1とH3N2から、H1N2やH3N1ができるのです。新株ですから人口の多くは免疫を持ちません。これがインフルエンザBでなくAが世界的流行を起こす理由です。
 温帯ではインフルエンザは毎年季節的にepidemic(流行)を起こしますが、熱帯では通年で起こり発生の予測ができないのだそうです。

4. インフルエンザの平均再生産数は1.28
 このセミナーによると、インフルエンザの流行は平均再生産数(reproductive number;1人が平均何人に感染させるか)1.28で発病率(attack rate:cumulative incidence)は10~20%だそうです。インフルエンザ患者1人が平均1.28人に感染させるという意味です。
 この平均再生産数の意味がよく分かる論文がN Engl J Med(2014; 371: 2083-2091)にありました。 "Ebola Virus Disease in Democratic Republic of Congo,"(コンゴ民主共和国のエボラ熱)です。
 コンゴでのエボラ熱発症は2014年7月26日に始まりました。Boende という町の近くの村です。発端者(index patient といいます)は妊婦でした。 この女性の夫が死んだ猿を拾ってきたので食用のため、女性が解体したところ、7月26日にエボラ熱を発症、この女性は8月11日に死亡しました。
 医師と補助者3人が、亡くなった妊婦の死体の帝王切開を行い、胎児を取り出して別々に埋葬しようとしたのですが、この 4人全員がエボラ熱を発症、死亡したのです。7月26日から10月7日までにエボラ熱は69名(確定38、おそらく28、疑い3)発症しました。
 平均再生産数は1.29(95%CI 4.71~7.29)でした。しかし発端者からの最初の21人の感染者数を除くと、0.84(95%CI 0.38~2.06)で、感染継続する1より小さく自然終息することになります。0.84なので8月中旬から発生が減少し、10月4日に最後の患者が発生した後は 発症はありませんでした。 なるほど、感染継続するかどうかはこうやって計算するのかあと感心しました。

 当、西伊豆健育会病院の内科医が、各疾患の平均再生産数を教えてくれました。出典は国立感染症研究所感染症情報センターです。「基本再生産数」は感染者1人が免疫を持たない集団で何人にうつすかです。「集団免疫率」は感染拡大阻止に必要な免疫保持者の割合です。


(国立感染症研究所感染症情報センター)

 麻疹、ムンプス、百日咳の感染力ってすごいんだなあと驚きました。麻疹患者が1人いると16人から21人に感染するのです。麻疹や水痘は空気感染します。空中に漂っていますから近づくだけで感染するのです。インフルエンザは、人口の50~67%が免疫を持っていないと、流行を抑えられません。ワクチン接種の重要さが分かります。
 水鳥(waterfowl: 特にカモ)や岸辺の鳥(シギ、サギ)はインフルエンザAの天然のreservoir (保有動物)です。水鳥でインフルエンザは呼吸、消化管感染を起こし腸管で増殖して糞により水が汚染されます。これにより家禽(ニワトリ、アヒル、ガチョウ、七面鳥)に伝染します。 外来の患者さんに養鶏場で働いているお婆さんがいます。卵を産まなくなったニワトリをどうしているのか聞いたところ、たまげたのは、そういうニワトリは味が悪いので食肉にはならず、なんと動物園のライオンの餌になるのだそうです。まるでネロに迫害されたキリスト教徒です。
 インフルエンザウイルスは細胞を出るとき、膜を拝借して殻を被ります。他人の家を出るとき、傘を失敬するようなものです。この殻表面にはヘマグルチニン(haemagglutinin)とノイラミニダーゼ(neuraminidase)の2種類の棘がたくさんあります。ウイルス自体は細胞に直接侵入することができません。ウイルスと細胞の仲介をするのがシアル酸(sialyloligosaccharides)です。殻のヘマグルチニンが細胞表面の糖蛋白であるシアル酸に接着して初めて細胞内に侵入できるのです。ノイラミニダーゼは、ヘマグルチニンを溶かして増殖したウイルスを放出するものです。ノイラミニダーゼ阻害薬(商品名タミフル、リレンザ、ラピアクタ)はこれの阻害薬です。
 ヘマグルチニンはH1からH16まで16種類、ノイラミニダーゼはN1からN9まで9種類あります。この組み合わせで「H〇N〇」は144種類できます。 一方、インフルエンザBはVictoriaとYamagataの2種あり、動物のreservoir(宿主)はありません。

5.ウイルスの細胞接着はヒトでα2,6、鳥はα2,3シアル酸、豚は両者を介する
 ウイルス表面のヘマグルチニン蛋白は宿主細胞表面のシアル酸の受容体に接着します。ヒトのインフルエンザウイルスは、特にヒトの上気道にあるα2,6-linked sialyloligosaccharidesに好んで接着し、一方、鳥インフルエンザウイルスは下気道に多いα2,3-linked sialyloligosaccharide受容体に接着します(α2,6と2,3の違いに注意)。
 ヒトと鳥では、シアル酸がα2,6とα2,3で異なるので普通、鳥インフルエンザはヒトに感染しません。ただ、皆無ではありません。しかし鳥インフルエンザがヒトに感染した場合、ヒト‐ヒト感染は起こしにくいのです。
 例えば、1997年に香港で3歳児が急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を起こし完全な鳥インフルエンザウイルスH5N1 avian influenzaが分離されました。2016年10月にもインドネシア、ベトナム、エジプトなどで856例発生、452例の死亡が起こりました。これは家禽の(butchering)、羽抜き(defeathering)、病鳥の摂取、生鳥の市場などで感染家禽に接したことによります。H5N1のヒト-ヒト感染も見られましたが、その感染維持は起こりませんでした。
 2013年以前はH7亜型(H7N7、 H7N3、H7N2)は軽症でした。2013年、新たにH7N9が中国で出現、以後毎年出現し2016年10月3日までに798例の報告、320例の死亡例が報告されました。ほとんどは家禽からの感染でしたが、まれにヒト-ヒト感染もあり重症の呼吸器感染を起こしました。多くはオセルタミビル(タミフル)感受性であり推奨です。
 一方、豚には気道にα2,6とα2,3シアル酸の両方が見られ、豚には鳥もヒトインフルエンザも感染するのです。先週、小生が接種したワクチンには、A/シンガポール/GP1908/2015(H1N1)pdm09が入っていますが、このH1N1は豚(swine)インフルエンザでもあります。豚にインフルエンザをうつされるのかと思うと、あまりいい気持ちはしません。
 豚で起こすのはH1N1、H3N2、H1N2です。豚インフルエンザAはヒトに感染し、これらのウイルスは"variant virus"といわれ末尾にvを付けるのだそうで、H3N2v、H1N2vが米国で見られました。特に豚と接して起こりヒト-ヒト感染も報告されましたが、多くは小児での感染でした。年とともに交叉反応抗体が増えるために成人には起こりにくいと思われます。  

6.インフルエンザ診察はサージカルマスク着けよ。気管支鏡はN95
 インフルエンザウイルスはヒト-ヒト感染が効率的に起こります。感染は空気感染(aerosol)、飛沫感染(droplet)、接触感染(contact transmission)の3つによります。くしゃみや咳で直径0.1~100μmの感染粒子が排出されて飛沫感染が起こります。このくしゃみや咳で感染するのが飛沫感染(droplet transmission)です。この飛沫は急速に乾燥して5μm以下になり数分から数時間空中を漂います。これを吸入して感染するのが空気感染(air transmission)です。結核、麻疹、水痘は空気感染で、くしゃみ、咳をされなくても部屋に入っただけで感染します。インフルエンザは空気感染も起こり飛行機内で数時間換気システムが壊れ53人中、38人(78%)が発症した報告があるそうです。
 空気感染で有名なのは、特に結核、麻疹、水痘です。当、西伊豆健育会病院の内科医は、これを「ケツに麻酔(結、麻、水)」と覚えています。下品ですが、くやしいけど一発で覚えられます。ただし、結核は空気感染だけですが、麻疹と水痘は飛沫感染、接触感染も起こしえます。
 結核は空気感染なので、個室隔離が必要です。患者にはサージカルマスク、医療者はN95マスクを着けて入室します。しかし、結核には飛沫感染や接触感染はないので、ゴム手袋や、ゴーグル、ガウンテクニックは不要なわけです。
 くしゃみ、咳で出た大きな粒子は、周囲2~3mに付着し、インフルエンザは接触感染も起こします。インフルエンザウイルスは手の表面でも短時間残存しますし、周囲の非多孔質(すべすべした)表面なら48時間くらい感染力があるそうです。
  WHO、米疾病予防管理センターではインフルエンザ患者のケアでは医療者にサージカルマスク着用を推奨しています。換気がよければサージカルマスクで伝染はたいてい防げるそうです。インフルエンザ患者を外来で見るときは、サージカルマスクを着けましょう。気管支鏡、挿管では術者はN95かレスピレーターを着用すべきだとのことです。

7.ウイルス排出は発症初期の1~2日がピーク、この時期にswab検査せよ
 インフルエンザの症状は、潜伏期1~2日で、発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、倦怠感(malaise)、食欲不振があります。発熱が最も重要で最初の24時間で最高41℃にもなります。 発熱などの全身症状は典型的には3日続きますが8日まで長引くことがあります。
 呼吸器症状としては、乾性咳嗽、鼻汁、咽頭痛。眼科症状には、羞明、結膜炎、流涙、眼球運動痛があります。熱が治まっても咳、倦怠感は2週間続くことがあります。小児では成人より発熱は高いことがあり熱性痙攣も起こります。またcroup、bronchiolitis, bronchitis、消化管症状も起こりえます。また小児ではふくらはぎの激しい筋肉痛や、筋炎を起こしやすいとのことです。
 インフルエンザの身体所見は顔面紅潮、粘膜発赤、透明鼻汁、結膜充血、頸部リンパ節腫脹があります。25%でdiffuse rhonchiやralesもあります。咽頭所見の名著『アトラスさくま(第2版)』(佐久間孝久著、丸善プラネット、2008年)によると、インフルエンザの咽頭所見は、「シレッとして、あまり所見がない」とのことです。そう言われれば確かにそう思います。
 インフルエンザの診断はその症状の多彩さから、症状からの診断は困難です。流行していて発熱と咳があり見た目が重ければ疑います。ウイルス排出(viral shedding)は典型的には潜伏期から始まり、発症の最初の1~2日にピークがあり減少し1週で消失、臨床症状の激しさとよく相関します。無症候性の場合、ウイルス排出はよく分からないそうです
 インフルエンザテストはウイルス排出の多い初期にnasopharyngeal swab、nasal wash、nasopharyngeal aspiratesで行います。Rapid antigen detection(immunochromatogenic assay)の感度は59~93%、Viral cultureとRT-PCRの感度は100%近いとのことです。
 インフルエンザで肺炎も起こりますが、筋炎、横紋筋融解もまれに起こり歩行困難、腎不全に至り4~6週続くとのことです。また心臓合併症では、心筋炎、心膜炎、心疾患再燃を起こします。
 Reyes syndromeは特に小児インフルエンザや水痘でアスピリン内服により起こります。Reyesは脳炎や肝障害(脂肪肝)を起こしアンモニア濃度が上昇します。特に幼児の死亡は30%です。小児でのアスピリンが中止されてから減少しました。その他、インフルエンザは、脳・脊髄炎、横断性脊髄炎、ギランバレー症候群、無菌性髄膜炎、脳炎を起こします。

8.タミフル、リレンザ、ラピアクタは発症48時間以内が効果的、健康人で症状を1日未満短縮
 抗ウイルス薬には4種あります。アダマンタン(Adamantanes)、ノイラミニダーゼ阻害薬(neuraminidase inhibitors)、膜融合阻害薬(membrane fusion inhibitors)、RNA依存RNAポリメラーゼ阻害薬(RNA-dependent RNA polymerase inhibitors)の4つです。欧米で承認されているのはアダマンタンとノイラミニダーゼ阻害薬のみです。
 アダマンタンにはアマンタジンとrimantadineがあり、インフルエンザAのmatrix 2 ion channnelを阻止します。インフルエンザBには効きません。現在流行しているインフルエンザは全てアマンタジンに抵抗があり推奨できません。ということで、使うのはノイラミニダーゼ阻害薬です。
 2015年から16年には経口オセルタミビルと吸入ザナミビル(リレンザ)が欧米で推奨されました。静注のベラミビル(ラピアクタ)は米国で使用されています。また米国には静注のザナミビル(リレンザ)があるそうで、オセルタミビル耐性の重症患者で使用されます。予防投与は、最後の感染が起こってから7日間あるいは14日間投与します。
 2007~08年にインフルエンザA H1N1に対してオセルタミビル耐性株が出現しました。これはノイラミニダイーゼ蛋白のヒスチジンがチロシンに置換されたためだそうです。
 H1N1pdm09 インフルエンザA(小生が接種したワクチンの株)出現後は、ノイラミニダーゼ阻害薬に対する耐性は少ないそうです。米国で、2016年3月時点で流行しているインフルエンザA H3N2とインフルエンザBはノイラミニダーゼ阻害薬感受性があり、インフルエンザA H1N1pdm09のわずか5%が耐性でした。
 ノイラミニダーゼ阻害薬3種(タミフル、リレンザ、ラピアクタ)は発症48時間以内の早期投与が最も効果があります。ランダム化比較試験(RCT)ではこれにより健康成人で臨床症状は1日未満短縮します。「えっ、たったそれだけ?」と少しがっかりです。
 小生は健康成人のインフルエンザ患者さんへの抗インフルエンザ薬投与は、「症状が1日未満短縮するだけ」であることを説明、納得した方だけ投与しております。また日本国内だけで報告されている副作用ですが、2階から飛び降りたりする異常行動の説明も必要です。

9.タミフル、リレンザ、ラピアクタは重症で肺炎(RR0.56)、入院期間(同0.37)減らす
 2014 Cochrane reviewでは入院リスク、合併症に差はありませんでした。しかし、Dobsonらによるとノイラミニダーゼ阻害薬で下気道感染のrisk ratio(RR)0.56(95%CI 0.42~0.75、P=0.0001)。入院期間のRR 0.37 (同0.17~0.81、P=0.013)で、肺炎と入院期間減少には効果があるようです。なおRRとは薬を使わなかったときと比べて肺炎が0.56倍、入院期間が0.37倍だったということです。
 2009年1月から2011年3月にノイラミニダーゼ阻害薬が投与された2万9,234人のインフルエンザ患者の死亡率のオッズ比(OR)は0.81(95%CI 0.70~0.96、P=0.0024)でした。ORとは1のとき効果なし、1より大きければ有害、1より小さければ有効という指標です。95%CI 0.70~0.96とはこのトライアルを何度繰り返しても95%の確率でORは0.70から0.96の間に納まるという意味です。どっちにしても1より小さいので、ノイラミニダーゼ阻害薬は、死亡率を減少させるわけです。
 つまりタミフル、リレンザ、ラピアクタは、健康成人では1日未満症状を減少させるにすぎないけど、入院するような重症患者では、肺炎(RR 0.56)、入院期間減少(同0.37)に効果があるよということです。ですから、抗インフルエンザ薬はリスクの高い老人や合併症を持つような方には積極的に投与した方がよさそうです。

10. 予防に最も効果のあるのはワクチン!65歳以上、妊婦、小児、免疫不全で推奨!
 インフルエンザ予防に最も効果があるのはワクチン接種であり当、西伊豆健育会病院では職員は100%接種を目指しています。ワクチンは特にハイリスクグループである65歳以上、免疫不全、小児、妊婦、医療者で推奨されます。
 ワクチンは日本でも生後6カ月未満には認可されていませんので、母親のワクチン接種が乳児の予防につながります。しかし、妊婦は副作用を恐れて接種したがらないのが現状です。妊婦のワクチン接種により母体、胎児での副作用は増加しません。妊婦の接種を推奨せよとのことです。
 なお、oil-in-water adjuvants(抗原性補強剤)は不活化ワクチンの効果を助長しますが、21歳以下でnarcolepsyの発症が報告されたとのことです。
 WHOは次のシーズンの流行に対して推奨を年2回行います。北半球では2月、南半球では9月です。反対側の半球に旅行しようとしている場合は予防が難しいそうです。ワクチン株と流行株が一致していれば有効率は50~60%だそうです。ワクチンが市販された後に不連続抗原変異(antigenic drift)が起こると有効率は大幅に減少します。