小児アレルギー科医の視線

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「エンテロウイルスD68」感染症の多様性

2018年02月04日 06時49分23秒 | 感染症
 エンテロウイルスD68は、はじめアメリカでポリオ様麻痺を後遺症として残す感染症として2014年に注目されました。
 その翌年の2015年秋、日本で喘息発作を起こすウイルスとして注目されました。
 どんなウイルスなのでしょう?

 “エンテロ”とは“腸管”という意味です。
 エンテロウイルスとは腸管で増殖するウイルスという意味を含んでいるのですね。
 小児科医にとって、エンテロウイルスは夏風邪の原因としておなじみです。


(「エンテロウイルス(D68):症状・治療法・予防方法について解説」:ミナカラ)より

 夏風邪の代表である「手足口病」「ヘルパンギーナ」の名前もありますね。
 注目すべきは「急性灰白髄炎」。聞き慣れない病名ですが、俗称「ポリオ」と呼ばれています。
 つまり、ポリオもエンテロ有為するの仲間なのです。

 表を眺めるとおわかりのように腸管で増殖するウイルスであるものの、いろんな臓器をターゲットに症状が出現し得ます。
 呼吸器や神経に症状が出てもおかしくありません。




■ エンテロウイルスD68に関連する急性弛緩性脊髄炎
2017年11月09日:FORTH
 2017年11月1日付で、汎米保健機関(PAHO)より、急性弛緩性麻痺のサーベイランスの中でのエンテロウイルスD68に関連する急性弛緩性脊髄炎の報告が公表されました。

◇ アメリカ大陸およびその他の地域における発生状況の概要
 1960年代から、エンテロウイルスの感染者が報告されてきています。(しかし)2014年に、アメリカ合衆国で初めて、感染の流行が記録されるまで(流行は)ありませんでした。
 2014年8月から12月までに、米国疾病対策センターには、エンテロウイルス(EV)D68によって起こる呼吸器疾患の流行に関連して、急性弛緩性脊髄炎(AFM)の増加が報告されました。AFMと報告された患者は120人で、34州に及んでおり、年齢中央値は7.1歳(4.8-12.1歳)、59%が男性、81%が神経症状の発症前に呼吸器疾患を伴っていました。この症状に続いて、いくつもの州で、自然発生的に調査が始められました。(その後)2015年には散発的に患者が発生し、2016年には新たな患者が増えてきました。患者は、アジア、カナダ、ヨーロッパでも確認されました。
 エンテロウイルスD68(EV-D68)は、ライノウイルス(rhinoviruses)の特徴をもち、主に呼吸器に病態を引き起こします。しかし、神経を侵襲する病態の原因としての役割は、あまりよく分かっていません。
 2016年に、ヨーロッパ疾病対策センターは、デンマーク、フランス、オランダ、スペイン、スウェーデン、イギリスから、エンテロウイルスに感染した子どもと大人で重症の神経学的な症候群が集団および孤立例として報告されたことを周知しました。このエンテロウイルスはD68でした。
 2017年10月に、アルゼンチンのIHR担当者からEV-D68が関係するAFMが報告されました。2016年第13週から第21週までに、AFMが15人(Buenos Aires(ブエノスアイレス)州で13人、Chubut(チュブット)州で1人、ブエノスアイレス自治市で1人)確認されました。患者は、急性弛緩性麻痺の調査の一環として確認されたため、全員が15歳未満でした。この事例は、2016年第16週から第21週までに、全国で観察された15歳未満の子どもの急性弛緩性麻痺の患者の増加とも一致しました。報告されたAFMの患者15人のうち6人から、EV-D68を、ポリオ中央研究所地域研究所(the Regional Poliovirus Reference Laboratory - INEI - ANLIS )Carlos G. Malbrán博士が確認しました。陽性の結果は、鼻咽頭の吸引による検体から得られました。患者の1人からは、同じ結果が脳脊髄液からも得られました。また、急性弛緩性麻痺の患者2人の糞便検体からはヒトEV B型とEV C型が検出されました。患者1人からは、ライノウイルスC型、別の1人からはコクサッキーウイルスA13型が検出されました。
 ポリオ根絶の背景、2016年4月以降に経口ポリオワクチン(OPV)が3価から2価に移行したこと、急性弛緩性脊髄炎(AFM)はAFPの一形態であること、神経への侵襲性の病態の疫学においてエンテロウイルスが果たす役割に関する知識を深める必要性があることを考え、汎アメリカ保健機関/世界保健機関(PAHO / WHO)は、エンテロウイルスがAFPの鑑別診断として挙げられることを各国の記憶に留めさせています。

<出典>
PAHO. Epidemiological Alert. 1 November 2017
Acute Flaccid Myelitis associated with enterovirus D68 in the context of Acute Flaccid Paralysis surveillance.



■ 不可解なポリオ様疾患の流行の原因はエンテロウイルスD68か?
Univadis Medical News2018.01.25
 2014年、急性弛緩性脊髄炎が米国、デンマーク、フランス、オランダ、スペイン、スウェーデン、英国で集団発生し始めた。
 『 Eurosurveillance 』に発表された新しいエビデンスから、欧州、米国、カナダ、アジアでの不可解なポリオ様疾患の流行の原因がエンテロウイルスD68(EV-D68)であることが示唆されている。
 EV-D68の大流行は2014年に各国で発生した。最初の流行は米国で検出され、その後にカナダ、欧州、アジアで流行した。同時に、急性弛緩性脊髄炎(AFM)のクラスターの増加が同じ地域で記録された。発症した症例数は米国で最も多かった。より少ない症例数がデンマーク、フランス、オランダ、スペイン、スウェーデン、英国で報告された。専門家は原因解明に窮していた。
 最近、喫煙とがんの因果関係を立証するために使用されたブラッドフォード・ヒル基準を用いて、オーストラリアの研究者らはEV-D68がこうしたAFMのクラスターの原因であるという強力なエビデンスを提示した。
 研究についてコメントした筆頭著者のRaina MacIntyre教授は、公衆衛生策の焦点を感染の予防に当てることができるようEV-D68とAFMとの関連を認める必要がある、と述べた。「EV-D68感染の発生率は世界中で増えており、最近には遺伝的に異なる菌株が進化しています。EV-D68を原因とするこのポリオ様疾患の治療またはワクチンはないため、流行を食い止めるための速やかな行動が重要です。」

<参照>
・Dyda A, Stelzer-Braid S, Adam D, Chughtai AA, MacIntyre CR. The association between acute flaccid myelitis (AFM) and Enterovirus D68 (EV-D68) – what is the evidence for causation? Euro Surveill. 18 January 2018; 23(3). pii: 17-00310. Doi: 10.2807/1560-7917.ES.2018.23.3.17-00310.


<参考>

■ 「エンテロウイルス D68(EV-D68)感染症に関する Q&A」(一般の方向け)(国立感染症研究所)より;
Q2) EV-D68に感染し発症した場合、どんな症状が認められますか?
A2) EV-D68 に感染し発症した場合、発熱や鼻汁、咳といった軽度なものから喘息様発作、呼吸困難等の重度の症状を伴う肺炎を含む様々な呼吸器疾患を呈します。なお、弛緩性麻痺を発症した患者の上気道から EV-D68 が検出された事例が欧米や日本などから報告されており、弛緩性麻痺患者の一部における EV-D68 感染との関連が疑われています。

■ 「エンテロウイルスD68(EV-D68)感染症とは」国立感染症研究所

■ 「2015年に発生したエンテロウイルスD68感染症の関与が疑われる急性弛緩性麻痺、重症呼吸不全、小児気管支喘息に関するまとめ」日本小児科学会
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