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小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

発熱を繰り返す小児・・・ PFAPA?

2022年08月11日 16時36分37秒 | 感染症
発熱を繰り返す子どもを診たとき、ただの風邪の反復ではないことがあります。
前項目の「家族性地中海熱」がその一つですが、毎月1回ペースの痛みを伴う発熱発作、でした。

他にPFAPAという病気も考えておく必要があります。
PFAPAって?
・・・ periodic fever, aphthous stomatitis, pharyngitis and adenitis の略で、日本語に訳すと「周期性発熱・アフタ性口内炎・咽頭炎・リンパ節炎症候群」となります。症状を並べただけ病名なので、内容がバレバレです。
つまり、「発熱すると口内炎ができやすく、診察を受けると喉が赤い・リンパ節が腫れている、これを繰り返す子ども」ということ。

発熱・喉が赤い・リンパ節が腫れる・・・これはふつうの風邪です。
保育園・幼稚園に入るとしばらく風邪を繰り返すパターン(私は「入園症候群」と呼んでいます)と区別できません。
口内炎を伴う、というのが特徴かな。

この病気について以前にも調べたこともあるのですが、成長とともに目立たなくなるので、診断する意味があるの?と疑問に思った記憶があります。

さて、気を取り直して基本情報を拾ってみました(参考1と2より)。

【概念】
・周期性発熱・アフタ性口内炎・咽頭炎・頚部リンパ節炎を主症状とし、主に幼児期に発症する、最も頻度の高い非遺伝性の自己炎症性疾患。

【疫学】
・頻度不明
・遺伝性なし
・発症年齢:3-4歳が多い(成人発症例もある)

【原因】
・不明

【症状】
・主症状は3-6日間続く周期性発熱発作で、3-8週間毎に繰り返し、間欠期には無症状。
・アフタ性口内炎、頚部リンパ節炎、(白苔を伴う)扁桃炎・咽頭炎などの随伴所見のいくつかを認める。

<Federらの105例の検討>
・男児:62%
・平均発症年齢:3歳4ヶ月(5歳以下が80%)
(口内炎)38%
(咽頭炎)85% 
(頚部リンパ節腫脹)62%
(頭痛)42%
(嘔吐)27%
(軽度の腹痛)41%

【検査所見】
・発作時:好中球優位の白血球数増加、CRP高値
・間欠期:異常なし

【診断】(参考2より)


【合併症】
・特になし

【治療】
・発作時の副腎皮質ステロイド薬が(9割以上で)有効。PSL:0.5-1.0mg/kgを発熱発作時に1-2回内服(2回目は発熱が頓挫しない場合に12-24時間後に内服)
・しかしステロイド薬投与により発作間隔が短くなり、発熱以外の症状が残存する場合があるなどの問題がある。
・ヒスタミンH2受容体拮抗薬であるシメチジンや、ロイコトリエン拮抗薬が一部の症例に有効。
・内科的治療に抵抗する例には扁桃摘出術が行われる(寛解率70-80%)。

【予後】
・通常4-8年で治癒し、予後は良好(成長・発達障害を認めない)。


ちょっとちょっと・・・
頻度不明、原因不明、治療はステロイドが効くけど、発熱間隔が短くなる・・・これでは診断する意味が感じられません。
診断フローチャートも除外診断がメインに見えます。
口内炎の頻度も38%と高くなく、認めなくても否定はできません。
扁桃摘出術は昔から扁桃炎を繰り返す子どもに行われてきた処置ですし。

昔の小児科医は、
・風邪を引くと抗生物質を処方、
・高熱が続くとステロイドを処方し、
・日常生活に支障が出るほど発熱回数が多いと扁桃摘出術を勧めていました。
って、PFAPAの治療そのものではありませんか!?

かくいう私も発熱・扁桃炎・中耳炎を繰り返す虚弱児でありました。
耳鼻科で「扁桃腺を取りましょう」といわれたものの、躊躇して決めかねている内に熱を出さなくなったので、今でも扁桃は残っています。
成長に伴い寛解する、を体現しているのかもしれません。

以上、なんだかなあ、という昔の感想が変わらなかったPFAPAのお話でした。


<参考>
(難病情報センター)
2.自己炎症性疾患診療ガイドライン2017(日本小児リウマチ学会)

発熱を繰り返す小児・・・家族性地中海熱?

2022年08月11日 14時01分58秒 | 感染症
乳幼児が保育園・幼稚園に入園すると、風邪を繰り返し引く現象は、
小児科医が経験する毎年の年中行事です。

しかしその中に混じって珍しい病気が隠れていることがあります。
気になるのが「家族性地中海熱」(familial Mediterranean fever、FMF)と「周期性発熱症候群」(PFAPA)ですが、まず前者について取り上げます。

家族性地中海熱厚生労働省の資料より)

【概要】
・発作性の発熱や随伴症として漿膜炎による激しい疼痛を特徴とする自己炎症性疾患。

疫学】(参考5より)
・地中海のユダヤ人やトルコ人、アルメニア人などに多い。
・日本人では10万人に一人、500-1000人程度。

【原因・機序】
・MEFV遺伝子が疾患関連遺伝子として知られているが、その発症メカニズムは明らかになっていない。発症には他の因子も関与していると考えられている。
・炎症経路の一つであるインフラマソームの働きを抑えるパイリンの異常で発症する。(参考5より)インフラマソームには通常、抑制役の分子が付着しているが、パイリンに変異があるとその抑制役の分子が付着できなくなり炎症が進行する。
・(参考5より)常染色体劣性遺伝、といわれてきたが常染色体優性遺伝患者も見つかっている。孤発例もある。

【症状】

(典型例)
・突然高熱を認め、半日から3日間持続する。
・発熱間隔は4週間毎(2-6週間)が多い。
・随伴症状:漿膜炎による激しい腹痛や胸背部痛。胸痛により呼吸が浅くなる。関節炎や丹毒様皮疹を伴うことがある。

(非典型例あるいは不完全型
・発熱期間が1-2週間(〜数週間)。
・上肢の関節症状などを伴いやすい。

(参考2より)


【検査所見】
・発作時:CRP、血清アミロイドAの著明高値。
・間欠期:CRP、血清アミロイドAは陰性。

【診断基準】

1.臨床所見
①必須項目:12〜72時間続く38℃以上の発熱を3回以上繰り替えす。発熱時にはCRPや血清アミロイドA(SAA)などの炎症検査所見の著明な上昇を認め、発作間欠期にはこれらが消失する。
②補助項目
i)発熱時の随伴症状として、以下のいずれかを認める;
a 非限局性の腹膜炎による腹痛
b 胸膜炎による胸背部痛
c 関節炎
d 心膜炎
e 精巣漿膜炎
f 髄膜炎による頭痛
ii)コルヒチンの予防内服により発作が消失あるいは軽減する

2.MEFV遺伝子解析
1)臨床所見で必須項目と、補助項目のいずれか1項目以上を認める場合に、臨床的にFMF典型例と診断する。
2)繰り返す発熱のみ、あるいは補助項目のどれか1項目以上を有するなど、非典型的症状を示す症例については、MEFV遺伝子の解析を行い、以下の場合にFMFあるいはFMF非典型例と診断する。
a)Exon10の変異(M694I, M680I, M694V, V726A)(ヘテロの変異を含む)を認めた場合には、FMF と診断する。
b)Exon 10 以外の変異(E84K, E148Q, L110P-E148Q, P369S-R408Q, R202Q, G304R, S503C)(ヘテロ の変異を含む)を認め、コルヒチンの診断的投与で反応があった場合には、FMF 非典型例とする。
c)変異がないが、コルヒチンの診断的投与で反応があった場合には、FMF 非典型例とする。

【治療法】
・根治療法はない。副腎皮質ステロイド薬は無効。
・発作抑制にはコルヒチンが約90%以上で奏効する。発作時ではなく継続的に予防投与する。
・コルヒチン無効例では抗 IL-1 療法(カナキヌマブ)やTNF-α阻害剤(インフリキシマブ、エタネルセプト)、サリドマイドなどが有効。

【予後】
・無治療で炎症が反復するとアミロイドーシスを合併することがある。
・(参考5より)アミロイドーシス合併頻度は3-4%。

こちらの記事によると、以下の特徴もあるそうです;

・未診断例では不必要な検査が行われたり、無効な治療がなされたり、さらには開腹手術を複数回経験する症例もあります。
・発作時疼痛の種類は患者さんによりほぼ固定しており、疼痛の部位も一定であることが多いのが特徴です。
・日本人の調査では、発症年齢の平均値は19.6±15.3歳、成人発症例37.3%。
(0-9歳)25.4%
(10-19歳)37.3%
(20-29歳)17.2%
(30-39歳)6.7%
(40-49歳)6.7%
(50歳〜)6.0%
・・・だいたい10歳くらいまでに6-7割、20歳までに9割が発症(参考5より)
・発症からFMFと診断されるまでの期間は9.1±9.3年。
・発症早期の小児患者ではFMF典型例としての症状が揃っていない可能性がある。
・発作は心理的ストレスや疲労、女性では月経が発作の引き金となることが報告されている。
・発作時の腹膜炎は2/3の患者にみられ、あまりに激しい腹痛のため、急性虫垂炎や急性胆のう炎など急性腹症との鑑別が困難となり、開腹手術を受けたことのある患者さんも少なくない。
・発作時の胸膜炎による胸痛は、呼吸苦や咳嗽を伴うこともあり、重症例では胸水貯留を認める。胸痛の部位は常に固定していることが多く、同一患者では同じ時期に胸痛と腹痛の両方を認めることはまれ。
・発作時の関節炎は下肢の大関節(股関節、膝関節、足関節)に単関節炎で発症することが多く、関節リウマチと異なり非破壊性の関節炎である。
・その他の症状:心膜炎、精巣漿膜炎。下肢(とくに足関節部)の丹毒様皮疹。無菌性髄膜炎に伴う頭痛。
・典型例・非典型例ともに、発作時には白血球数増加、血沈値亢進、CRP高値、血清アミロイド(SAA)高値など強い炎症反応を示すが、発作間欠期には正常化するため、診断を難しくする一因になっている。
・治療としてコルヒチンが推奨されるが抵抗例もあり、コルヒチン抵抗性の治療選択肢として抗IL-1β製剤(カナキヌマブ、イラリス®添付文書)が挙げられる。
・長期間にわたる炎症は消化管や腎におけるアミロイドーシスの進展を招き、生命予後に影響する可能性がある。アミロイドーシスを合併例の発症から治療までの平均期間は20.1±4.5年と長く、早期診断・治療が必要である。

参考3は、抗IL-1β製剤の紹介です。
イラリス®をコルヒチン抵抗性症例に投与した臨床研究(参考3)では、寛解率が61.3%(プラセボ群6.3%)。

以上を読んできて、ふだんよく診療している風邪を反復する子どもたちと何が違うかなあ・・・という視点で見ると、
・発熱と痛みを繰り返し、咳嗽鼻汁が目立たない。
・炎症反応(CRP)高値。
といったところ。つまり、「発熱・痛み・CRP高値を繰り返す子どもを診たら、家族性地中海熱(FMF)を疑う」習慣をつける、ということですね。

<参考>
1.266 家族性地中海熱(厚生労働省)
2.繰り返す発熱と腹痛・胸痛・関節炎に出会ったら~知っておきたい家族性地中海熱(FMF)の臨床像
 谷内江 昭宏:金沢大学附属病院 副病院長
(2022.08.03:日経メディカル)
 古賀 智裕:長崎大学大学院医歯薬学総合研究科分子標的医学センター
(2022.08.10:日経メディカル)
4.家族性地中海熱(日本リウマチ学会)
5.家族性地中海熱 東京医科歯科大学発生発達病態学分野小児科教授:森尾友宏(ドクターサロンン65巻3月号:2021)


溶連菌性咽頭炎診療アップデート、2019

2019年11月04日 07時56分43秒 | 感染症
 溶連菌性咽頭炎は小児科の日常診療でよく遭遇する感染症の一つです。
 私の診断法は、

・「喉が痛い」という訴え。
・口蓋垂(いわゆる“のどちんこ”)中心にただれたように赤くなる。
・頚部リンパ節が腫れて触ると痛がる。
・気持ち悪い/お腹が痛い(でも下痢はしない)。


を重視しています。そして参考項目として、

・熱はあってもなくてもよい。
・咳が目立たない。


もあります。
小児科医にとって、
喉が真っ赤、でも咳は目立たずお腹の症状を訴えるは溶連菌を疑うサイン
なのです。
上記のような患者さんを診察すると、迅速検査で確認して陽性なら抗菌薬治療を行います。

下記記事には「細菌性咽頭炎を疑うためのツール」という表がありますが、それに私の基準を照らし合わせると・・・



必ずしも4点の「溶連菌の可能性」となる例は多くないことに気づきます。
なぜかなと考えると、この基準は外国のもので、日本のように医療機関にフリーアクセスではないと思われ、すると「何日か市販薬で様子を見ていたけどよくなる気配がなく心配なので受診」というパターンが多く、症状・所見が完成された例が多い可能性があります。
日本では個人差はあるものの、調子が悪いとすぐに小児科を受診する傾向がありますので、「白苔を伴う扁桃の発赤」になる前の「口蓋垂のただれたような発赤」時点で受診する方が圧倒的に多いのです。実際に「白苔を伴う扁桃の発赤」に出会うこともありますが非常に希であり、「よくぞここまで受診せずに我慢したなあ」とかわいそうに思ってしまいます。

むしろ私は、というより一般小児科専門医は、
・白苔(膿栓)を伴う扁桃腫大 → アデノウイルス感染
・白苔(膿栓)を伴う扁桃腫大+顕著な頚部リンパ節腫大 → EBウイルス感染
が頭に浮かぶのがふつうです。
いわゆる扁桃腺に膿が付着している場合、一般のイメージと異なり必ずしも細菌感染ではないのです。


急性咽頭炎に対するアモキシシリンへの変更提案の論拠
2019/10/16:ケアネット)より一部抜粋
 今回は、抗菌薬の処方提案について紹介します。抗菌薬の処方提案においては、
(1)感染臓器、
(2)想定される起炎菌(ターゲット)、
(3)感受性良好な抗菌薬の理解が必要不可欠です。
また、医師に提案する際は、上記の擦り合わせや治療方針の確認を心掛けましょう。

患者情報
 40歳、男性(会社員)
 現病歴:高血圧
 血圧推移:130/70台
 既往歴:15歳時に虫垂炎にて手術
 主訴:咽頭痛、発熱、頸部リンパ節の腫脹
 処方内容
 1.アムロジピン錠2.5mg 1錠 分1 朝食後
 2.レボフロキサシン錠500mg 1錠 分1 朝食後
 3.トラネキサム酸錠500mg 3錠 分3 毎食後
 4.ポビドンヨード含嗽剤7% 30mL 1日数回含嗽

症例のポイント
 この患者さんは、2日前より咽頭痛と発熱が生じたため、かかりつけの診療所を受診しました。来院時の発熱は38℃後半で、圧痛を伴う頸部リンパ節の腫脹から急性咽頭炎と診断され、上記の薬剤が処方されました。薬局でのインタビューでは、とくに咽頭の症状が強く、唾をのみ込むときに口の中や咽頭に強い痛みを感じていましたが、鼻汁や咳嗽はないということを聞き取りました。
 まず気になったのは、急性咽頭炎に対してレボフロキサシンが処方されていたことです。急性咽頭炎の大多数はウイルス性であり、細菌性の割合は10%程度と低めですので、抗菌薬が必要ないことも多くあります。
 この患者さんは下表のように細菌性も十分疑われますが、細菌性の場合に主にターゲットとなりうる起炎菌はA群β溶血性連鎖球菌(group A β-hemolytic streptococcus:GAS)です。レボフロキサシンは広域スペクトラムかつ肺結核をマスクするリスクなどもありますので、本症例においては特別な理由がなければ第1選択には挙がらない抗菌薬ではないかと考えました。咽頭感染かつGASがターゲットであればペニシリン系抗菌薬のアモキシシリンが第1選択薬となります。
 そこで、患者さんにペニシリンやほかのβラクタム系抗菌薬によるアレルギーがないことを確認したうえで、医師に疑義照会することにしました。

<細菌性咽頭炎を疑うためのツール>

(文献2より改変)

処方提案と経過
 電話にて、本症例における処方医の考えるターゲットと治療方針を確認したところ、GAS迅速抗原検査は陽性であり、細菌性咽頭炎の診断はついているということがわかりました。そして、「GAS陽性=レボフロキサシン」という認識で薬剤選択をしたと回答がありました。
 確かにレボフロキサシンも感受性はありますが、今回の症例のように症状が咽頭に限局しているGASをターゲットとして治療する場合、アモキシシリンのほうがより狭域で感受性が高いことを提案しました。医師は、アモキシシリンはあまり使ったことがないからそれでよいのか判断に迷われていましたが、処方提案の承認を得ることができました。
 薬剤変更の結果、アモキシシリン錠250mg 4錠 分2 朝夕食後で10日間投与することとなりました。その後、患者さんは10日間のアモキシシリンの治療を終了し、咽頭炎は軽快しました。

<参考文献>
1)厚生労働省健康局結核感染症課 編. 抗微生物薬適正使用の手引き 第一版. 厚生労働省健康局結核感染症課;2017.
2)岸田直樹. 総合診療医が教える よくある気になるその症状 レッドフラッグサインを見逃すな!. じほう;2015.
3)Gilbert DNほか編. 菊池賢ほか日本語版監修. <日本語版>サンフォード 感染症治療ガイド2019. 第49版. ライフサイエンス出版;2019.



抗菌薬の選択は、昔から議論の的でした。
定番はペニシリン系を10日間投与です。
不思議なことに何十年もこの治療が第一選択であるにもかかわらず、溶連菌に対する薬剤耐性化はゼロなんです。
なぜ耐性化しないのかを研究すると、逆に耐性化のメカニズムが解明されるのではないか、とさえ思ってしまいます。

さて当院でも長らくペニシリン系抗菌薬であるアモキシシリン(略号はAMPC)×10日間で治療してきました。
でも5年ほど前に、セフェム系抗菌薬×5日間に切り替えました。
理由は薬疹を避けるためです。
AMPCを使用すると、飲みはじめて1週間目頃に薬疹(手足に分布する1cm弱の赤い斑点)が出ることがあります。
当院で統計を取ったところ、約5%の頻度でした。
つまり、100人治療すると、5人に薬疹が発症することになります。
これは無視できない数字です。
セフェム系抗菌薬に変更してからは、ほとんど経験しなくなりました。

近年は「ペニシリン系抗菌薬1日4回投与×5日間でも1日3回投与×10日間と治療効果に差がない」という論文も出てきました。
今後、少しずつ変わる可能性があります。


溶連菌治療は本当にペニシリンでいいのか?
2019/05/15:日経メディカル)より一部抜粋
松永 展明(国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター)
 年長児が溶連菌と診断された際の抗菌薬投与法について解説します。
 溶連菌感染症では、発熱および咽頭痛などの臨床症状に加え、迅速診断キットを用いた診断が推奨されています。診断後の抗菌薬使用の目的は以下となります。

・溶連菌感染症発病から9日以内の抗菌薬開始で、急性リウマチ熱(Acute rheumatic fever: ARF)を予防できます1)。急性糸球体腎炎は抗菌薬使用しても予防できないため、血尿を認めた際に再診するよう伝えることも大切です。
・溶連菌感染症による諸症状は、一般的に3〜4日続きます。抗菌薬使用により、症状が半日から1日短くなるといわれています2)。筆者の経験では、翌日には多くの児が軽快する印象があります。
・抗菌薬を投与し除菌することで、周囲への感染伝播を防止できます。治療後24時間経過すれば、他者への感染リスクはなくなるため、集団生活に戻れます。保護者も早期に職場復帰できます。
 溶連菌感染症に対する治療として、米国感染症学会(IDSA)のガイドラインではペニシリン系抗菌薬が推奨されています3)。日本の『小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017』でも、A群溶血性レンサ球菌(GAS)咽頭炎にはアモキシシリン(AMPC)が第一選択の抗菌薬として推奨されています4)。セフェム系の使用を推奨する論文もありますが、重篤なペニシリンアレルギーの既往がない限りは、使用する根拠は明らかではありません。
 感染症診療の原則は、まず抗菌薬が必要な疾患であるかを判断し、必要な場合は、患者治療が安全かつ確実に行われる中で、最も狭域な抗菌スペクトラムを持つ抗菌薬を選択することです。不必要に広いスペクトラムの抗菌薬を投与することで、人体に共生している大切な常在菌を減少させたり、気付かぬうちに他の菌の耐性を生じてしまいます。
 実際、AMPC10日間もしくはセフェム系抗菌薬5日間によるGAS咽頭炎後の除菌率、再発率を比較した研究では、除菌率はAMPC治療群で高く、再発率に差はなかったとあります5)。また、一部のセフェム系抗菌薬には、低血糖や痙攣などの症状を引き起こす副作用があります。ピボキシル基を有する抗菌薬投与による重篤な低カルニチン血症と低血糖について、PMDAより注意喚起がなされています6)。
 以上のような個に対しての治療成績や副作用、全体に対しての有益性から、溶連菌感染症に対する治療は、ペニシリン系抗菌薬が推奨されます。

◇ ペニシリンへの耐性化は進んでいないか?
 とはいえ、日本の溶連菌治療は、本当にペニシリンでいいのでしょうか? 国内の溶連菌の感受性を、多くの病院が参加する、厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)の結果(外来検体:試行版)からお示しします。
 日本でも、ペニシリン系にほぼ100%感受性があります。第3世代セフェムも100%感受性があります。一方、クリンダマイシンやエリスロマイシンに感受性を有するのは、それぞれ84.2%、63.4%でした。つまり日本では、溶連菌感染症に対して、ペニシリンとセフェムは感受性を確認しなくても使用可能となります。重症ペニシリンアレルギー(アナフィラキシーショックなど)がある場合は、第1世代セフェム、クリンダマイシン、マクロライド系が推奨されますが3)、耐性の問題から、使用する際は感受性検査結果などを参考に使用するとよいでしょう。錠剤を服用できない児には、マクロライドも考慮されますが、さらに耐性率が高いため注意が必要です。第3世代セフェムは前述の低カルニチン血症などに注意が必要です。
 次に抗菌薬の使用法についてお示しします。『小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017』では、AMPCの小児投与量は30~50mg/kg/日・分2~3とあります。米国では50mg/kg(最大1g)の1日1回投与・10日間も推奨されています。溶連菌感染症は、治療後、比較的速やかに集団生活に戻ることができます。抗菌薬は10日間内服する必要がありますので、1日1回もしくは2回投与が各種ガイドラインで推奨されていることは、心強いことです。一方、錠剤が飲めない年長児は、散剤やドライシロップを使用することになります。20kgの児をアモキシシリン40mg/kg・10%製剤で治療する場合、総量は8gとなり、服用はかなり大変です。20%製剤の使用も考慮されますが、現実的には2回投与がリーズナブルかつエビデンスを持った治療法と考えます。
 最後に、投与後の注意点をお示しいたします。溶連菌感染症は、皮疹を生じることがあります。手掌や前腕などを中心に、ザラザラした掻痒感のある皮疹です。ペニシリンアレルギーやEBウイルス感染症へのペニシリン投与による皮疹との鑑別も重要となります。しかし、症状が軽度の場合は、ペニシリンの治療で速やかに改善するので、慎重な経過観察を行うことも大切です。アレルギーのためにペニシリンが使えず、セフェム系を使用した際は、セフェム系抗菌薬の使用で、5〜10%に皮疹が生じることがあります。
 まとめると、溶連菌の抗菌薬治療のポイントは下記の通りになります。

・基本はペニシリン。各種ガイドラインでは、1日1回もしくは2回投与が推奨されている。
・溶連菌感染症自体でも発疹が生ずる
・ペニシリンアレルギーの際は、第1世代セフェムもしくはクリンダマイシンを推奨。

【参考文献】
1) Catanzaro FJ, et al. Am J Med. 1954;17:749-56.
2) Brink WR, et al. Am J Med. 1951;10:300-8.
3) Shulman ST, et al. Clin Infect Dis. 2012;55:e86-102.
4) 小児呼吸器感染症診療ガイドライン作成委員会『小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017』(協和企画、2016年)
5) 清水博, 他.日本小児科学会雑誌. 2013;117(10):1569-73.
6) 医薬品医療機器総合機構「PMDAからの医薬品適正使用のお願い」



さらに、「頻回再発例」が問題になることもしばしば。
下記記事によると、「再発」ではなく、「同じ溶連菌ではあるが、別の株による再感染」の方が多い、ようです。
ですから治療は、
・抗菌薬が効かなくて再発したので別の抗菌薬を選択
ではなく、
・同じ抗菌薬(ペニシリン系)を選択して問題ない
ということになります。

もう一つここで問題になるのが「保菌者」です。
「症状は乏しいけど心配だから検査してください」と希望されて検査、結果は陽性、というパターン。
ふつうのウイルス性の風邪だけど、検査をするとたまたまそこにいた溶連菌が検出されてしまいます。

喉にいるけど感染を起こしていない(免疫反応〜炎症を起こしていない)という状態。
これだけでは治療の必要はないと昔からいわれてきました。
例外として、家族内感染を反復する場合で、保菌者も一緒に除菌しなければ悪循環が断ち切れないときは治療適応になります。
記事の中で、米国小児科学会による「保菌患者に対して抗菌薬を投与し除菌」推奨が紹介されています;
1.急性リウマチ熱または急性糸球体腎炎のアウトブレイクがある場合
2.集団で溶連菌性咽頭炎のアウトブレイクが認められる場合
3.急性リウマチ熱の家族歴がある場合、数週間にわたって家族内で症候性溶連菌性咽頭炎を繰り返している場合
に限定。
私は3の後半部分しか経験がありません。


繰り返す溶連菌感染症と思いきや…
2019/08/28:日経メディカル
松永展明(国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター)
 溶連菌迅速検査にて繰り返し陽性になる場合について解説します。
 まず、「溶連菌咽頭炎を繰り返しやすい人」がいるのか、気になるところです。溶連菌自体は、集団生活や家庭内で伝播するため、繰り返し発症しやすいことは指摘されています。しかし、反復感染の個人(宿主)レベルでのリスク因子の報告は今のところありません。また、きちんと10日間内服したのに再燃したようにみえることがあります。その際は、同じ抗菌薬治療でいいのか? 耐性になることはないのか? とても大切なポイントです。
 実は、再燃した場合には、最初の感染時と同じ菌株による発症はまれであるといわれています1)。すなわち、再燃したようにみえても他の菌株に再感染しているというわけです。さらに、再感染時の原因菌株に対しても、最初の菌株と同様、ペニシリンが効果的であることも知られています。前回解説した通り、本邦でも溶連菌に対するペニシリン感受性は100%です(関連記事:溶連菌治療は本当にペニシリンでいいのか?)。つまり、繰り返し溶連菌感染症を生じた場合でも、同じペニシリンを用いた治療を行えばいいのです。
 ところで、小児の10~30%は溶連菌を保菌していると報告されてます2)。さらに、冬から春にかけて、20%の学童が保菌し、半年以上保菌し続けるとの報告もあります3)。
 その間に発熱した場合、ウイルス感染症だとしても溶連菌を保菌しているため、溶連菌感染症の迅速検査が陽性になってしまいます。そのため、前述の通り、溶連菌感染症の診断に広く使用されているCenter criteria(発熱38℃以上、咳がない、圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹、白苔を伴う扁桃炎)を参考に、小児の溶連菌感染症では口蓋や後部咽頭領域のリンパ組織に所見が限局することや、扁桃や咽頭滲出物を認めないことが多い点を考慮しつつ、季節や周囲の流行も含めて迅速検査の適応を決めることが大切です。適応を十分に考慮せずに検査を実施すると擬陽性の症例が多くなり、不必要な抗菌薬治療が選択されかねないからです。
 ところで、これほど保菌率が高いとなると次に、保菌状態が人体に悪影響を及ぼすかが気になります。ヒトは細菌と一緒に存在することでメリットを得ています。これを共生といいます。正常細菌叢のバランスが崩れると、感染症のリスクが増えてくることもあります。つまり、多くの場合、保菌状態では、その細菌を排除する必要はありません。むしろ、バランスを取って上手に付き合っていく必要があるのです。
 溶連菌保菌状態のみではリウマチ熱の危険もないため、積極的に除菌する必要はありません。むしろ、溶連菌感染症を繰り返していると誤って判断し、必要以上の診療を行うことの方が問題という報告もあります。
 米国小児科学会では、保菌患者に対して抗菌薬を投与し除菌する事を勧めるのは、急性リウマチ熱または急性糸球体腎炎のアウトブレイクがある場合、集団で溶連菌性咽頭炎のアウトブレイクが認められる場合、急性リウマチ熱の家族歴がある場合、数週間にわたって家族内で症候性溶連菌性咽頭炎を繰り返している場合に限定されています4)。
 このようにウイルス感染症を否定した上で、溶連菌による咽頭炎を本当に繰り返している患児に対しては、どう対応すべきでしょうか。リウマチ熱の既往がある児では、抗菌薬の予防継続投与が推奨されていますが、それ以外では非推奨です。最終手段として扁桃摘出も選択肢となるかもしれませんが、リスクとベネフィットをよく比較すると、利益があると考えられるのは、本当に少数といわれていますので、慎重に対応したいところです5)。
 まとめると、繰り返す溶連菌感染症の治療のポイントは下記の通りになります。

・溶連菌感染症は反復することがあるが、異なる菌株の再感染がほとんどで、治療は同じペニシリン系を使用する。
・5~10%の小児がA群β溶血性連鎖球菌を保菌している。特に集団生活児の保菌リスクは高い。そのため、溶連菌保菌状態の児の感冒に対し溶連菌感染症の治療を行うことを避けるべく、流行や咽頭所見を参考に、迅速検査の適応を見極めることが重要。
・保菌状態のみでは、合併症のリスクは基本的にない。

【参考文献】
1)Gerber MA, Tanz RR, Kabat W, et al. Potential mechanisms for failure to eradicate group A streptococci from the pharynx. Pediatrics 1999; 104:911–7.
2)Tanz RR, Shulman ST. Chronic pharyngeal carriage of group A streptococci. The Pediatric infectious disease journal. 2007;26:175-6.
3)Martin JM, Green M, Barbadora KA, Wald ER. Group A streptococci among school-aged children: clinical characteristics and the carrier state. Pediatrics 2004; 114:1212–9.
4)Shulman ST, Bisno AL, Clegg HW, et al. Clinical practice guideline for the diagnosis and management of group A streptococcal pharyngitis: 2012 update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 2012;55:1279-82.
5)Paradise JL, Bluestone CD, Colborn DK, Bernard BS, Rockette HE,Kurs-Lasky M. Tonsillectomy and adenotonsillectomy for recurrent throat infection in moderately affected children. Pediatrics. 2002;110:7–15.



<追記>
 溶連菌に関する記事をもう一つ見つけました。
 新型の溶連菌らしいです。
 溶連菌性咽頭炎の時、発症数日後に赤い細かい皮疹が出てかゆくなることがあります。これは溶連菌が産生する「発赤毒素」が悪さをするため。文中の「猩紅熱」とは、この皮疹が全身に広がる状態を言います(なぜか口の周りだけ健康皮膚が残る“口囲蒼白”という現象が観察されます)。
 “emm遺伝子”の種類により分類され、この変異が発赤毒素の産生量を増加させる変異につながることを初めて知りました。
 報告はイングランド発ですが、遠くない未来に日本にも侵入するのでしょう。

新型のレンサ球菌による猩紅熱が英国で流行
HealthDay News:ケアネット:2019/09/27
 新しい型のA群溶血性レンサ球菌(A群レンサ球菌)が、2014年以来、英国で流行している猩紅熱の原因菌である可能性が報告された。研究を行った英インペリアル・カレッジ・ロンドンのShiranee Sriskandan氏は、「英国では、新型のA群レンサ球菌が、以前からみられたタイプのA群レンサ球菌に代わって流行するようになったとみられる」と話している。この新型A群レンサ球菌は、以前のA群レンサ球菌に比べ毒性が強くなっているという。研究の詳細は、「Lancet Infectious Diseases」9月10日オンライン版に発表された。
 イングランドでは、猩紅熱の感染者数が2014年の約1万5,000人から2016年には約1万9,000人に増加し、1960年代以降で最大の感染規模となった。猩紅熱は、咽頭炎や細菌が作る毒素による発疹を主症状とする感染症で、小児によく生じ、傾向として3~5月に流行のピークを迎える。ペニシリンなどの抗菌薬で治療が可能だが、治療しないと全身に感染が広がり、死に至る危険性もある。一方、猩紅熱が大流行した2016年には、同じA群レンサ球菌を原因菌とする侵襲性感染症の患者数も、過去5年と比べ1.5倍に増加したという。
 Sriskandan氏らは今回の研究で、猩紅熱の原因菌となっているA群レンサ球菌の“emm遺伝子”の変化と、2014~2016年の地域(ロンドン北西部)および全国(イングランド、ウェールズ)のデータを用いて猩紅熱およびA群レンサ球菌感染症の届出を分析した。
 その結果、2014年のロンドンにおける猩紅熱の感染者数の増加にはA群レンサ球菌のemm3型とemm4型が関連していることが分かった。一方、2015年および2016年の春にみられた咽頭感染例にはemm1型が関連していた。emm1型の感染例の割合は、2014年にはわずか5%だったが、2015年には19%、2016年には33%まで増加していた。また、イングランドおよびウェールズにおける侵襲性のA群レンサ球菌感染症においても、emm1型の割合は2015年に31%だったのに対し、2016年には42%に増加しており、この型が優勢になりつつあることも確認された。
 さらに、emm1型の遺伝子解析からは、2015年および2016年に分離された菌株で27の遺伝子変異が同定された。これらは、猩紅熱などの感染症に罹患した患者にさまざまな症状をもたらす発赤毒素の産生量を増加させる変異とみられた。
 Sriskandan氏によると、この変異が生じたemm1型のA群レンサ球菌(M1UK型と名付けられた)は、他のemm1型のA群レンサ球菌と比べて9倍もの毒素を産生していた。さらに、イングランドとウェールズで分離されたemm1型の菌株の遺伝子解析から、2016年には全体の84%をM1UK型が占めていたことも判明。世界各国で分離されたemm1型の菌株の遺伝子解析データとの比較からは、M1UK型は英国に限局してみられるが、デンマークや米国でもわずかに検出されていた。
 Sriskandan氏は「喉の感染症や猩紅熱を引き起こすA群レンサ球菌は、まれではあるが侵襲性の高い感染症を引き起こす原因菌でもある。したがって、A群レンサ球菌による喉の感染症や猩紅熱が増えれば、侵襲性感染症も増える可能性がある」と指摘。ただし、「A群レンサ球菌に起因した全ての感染症を予防するためのワクチン開発には長い年月を要するだろう」との予測を示している。
 なお、この新型のA群レンサ球菌には現在広く使用されている抗菌薬が効果を示すことから、薬剤への耐性獲得が感染拡大の要因ではないとみられている。

<原著論文>
・Lynskey NN, et al. Lancet Infect Dis. 2019 Sep 10.

その小児の急性中耳炎に抗菌薬(抗生物質)は必要ですか?

2019年10月06日 16時29分30秒 | 感染症
 私は小児科医ですが、必要に迫られて中耳炎の診療もしています。
 多くは、風邪を引いて何日か経過後、熱が続き、かつ耳が痛いと訴える子どもたちです。
 私の方針は・・・・

 耳の中を耳鏡で観察し、
・鼓膜が赤い(充血)
・腫れている(膨隆)
・膿が溜まっている(混濁)
 の3つの所見が揃うと抗菌薬(=抗生物質)を処方しています。
 揃わないときは解熱鎮痛剤で様子観察します。
 治療薬はペニシリン系抗菌薬です。5日間服用していただきます。
 服用終了後に治癒確認目的で再度来院を指示します。
 風邪は症状が良くなれば結果オーライですが、中耳炎は所見が消えることを確認する必要があります。
 なぜかというと、膿が溜まっている状態が続く(慢性中耳炎)と、聴力低下のリスクがあるからです。
 数週間後も所見が消えない場合や、中耳炎を反復してもともと耳鼻科に通っている患者さんは、治癒確認もそちらでしてもらうよう指示しています。

 さて、私の治療法は、日本耳鼻科学会から出ている中耳炎診療ガイドラインに合っているのでしょうか。

 小児の急性中耳炎に抗菌薬が必要かどうか問う記事を見つけました。
 自分の診療を振り返り、必要があれば修正する目的で読んでみました。

小児の急性中耳炎に抗菌薬を出しますか?
2019/10/3:日経メディカル
有吉 平(山口大学大学院医学系研究科小児科学講座)

症例:
 3歳男児。数日前から咳嗽、鼻汁があり、昨日から発熱したとのことで小児科外来を受診。
 体温は38.0℃で咳嗽、鼻汁があった。耳痛はなかったが、母親から「最近よく耳を触るんです。中耳炎がないか心配です」と言われたため鼓膜を観察した。すると右の鼓膜が、腫れてはいないものの全体的に発赤していた。右急性中耳炎と診断したが、抗菌薬を処方する必要はあるだろうか……?

 小児の急性中耳炎への抗菌薬投与に対して、Choosing Wiselyでは以下の推奨が示されている。

<推奨>2~12歳の重症感のない急性中耳炎に対して、経過観察が適切であれば、ルーチンの抗菌薬投与は行わない(米国家庭医学会)

◆推奨の根拠となった主な論文
Lieberthal AS, et al. The Diagnosis and Management of Acute Otitis Media. Pediatrics. 2013; 131: e964-99.

◎「重症感のない中耳炎」とは、48時間以内の軽度の耳痛や、体温が39℃未満の中耳炎を指す。
◎ 最初から抗菌薬を投与すれば、早期の症状緩和や中耳炎の治癒率向上に、わずかに寄与する可能性がある。一方で、下痢や発疹、アレルギー反応などの副作用や耐性菌の原因となる。
◎ 最初に経過観察することで、抗菌薬の使用量を減らし、副作用や耐性菌を減らすことにつながる。また、治療が遅れたとしても、患者が受ける不利益はわずかである。
◎ 経過観察する場合、発症48~72時間以内に症状の増悪がないか確認する。

解説:経過観察で済むに越したことはない。しかし…

 小児において急性中耳炎はありふれた疾患で、特に保育園に入園したての児ではよくみかける。従来は経口抗菌薬の投与で速やかに治癒する疾患と考えられてきた。しかし、本邦では近年、薬剤耐性菌による難治化が問題となり、抗菌薬の適正使用が重要視されるようになった。
 推奨の根拠となった論文(米国小児科学会の2013年の急性中耳炎診療ガイドライン)によると、急性中耳炎の診断は鼓膜所見と耳痛、耳漏の有無によってなされる。重症度は耳痛の強さと持続時間、39℃以上の発熱の有無で判定し、それに年齢と両側性か否かを考慮し、無治療で経過観察可能かを判定する(表1)。


表1 急性中耳炎が経過観察可能かの判定基準
(Pediatrics 2013; 131: e964-99.を参考に筆者作成)

 本邦の「小児急性中耳炎診療ガイドライン2018年版」でも、軽症例に限って3日間は抗菌薬の投与は行わず、自然経過を観察することが推奨されている。当ガイドラインでは以下の通り、鼓膜所見と臨床症状によってスコアリングして重症度を判定している(表2)。米国のガイドラインと細かな点は異なっているが、年齢と症状、鼓膜所見で抗菌薬の適応を決定するという点では一致しており、冒頭の症例の場合、いずれのガイドラインに照らし合わせても経過観察可能と判断される。


表2 重症度スコア
(「小児急性中耳炎診療ガイドライン2018年版」[p37]を改変し引用)
軽症:5点以下、中等症:6~11点、重症:12点以上

 ただし、Choosing Wiselyの推奨でも「ルーチンの抗菌薬投与は行わない」と言うにとどまっているように、経過観察はその後の臨床所見の評価が可能であることが前提である。もちろん、感冒と同様に不必要な抗菌薬投与は行うべきではなく、経過観察の重要性を患者に説明することは重要である。しかし、Choosing Wiselyの理念は医療者と患者が対話を通じて、患者にとって真に必要で、かつ副作用の少ない医療の「賢明な選択」を目指すことである。患者にも様々な背景や事情があることを考慮し、医療者が一方的に方針を押し付けることがないよう肝に銘じておくべきである。


 この記事の内容を吟味してみます。
 まず、中耳炎の診断は、
① 鼓膜所見
② 耳痛
③ 耳漏
 の有無で判定される、とあります。

 あれ? 
「耳漏」のところには、以前は「鼓膜混濁」があったはずなのに、いつの間にか入れ替えられていることに気づきました。

 次に重症度は、
① 耳痛の強さと持続時間
② 39℃以上の発熱
 の有無で判定し、それに
④ 年齢
⑤ 両側性か否か
 を考慮、とあります。
 これらを表のスコアで加算していき、その数字で重症度判定をします。

 では、シミュレーションをしてみましょう。

(症例1)1歳男児
(主訴)咳/鼻水、発熱(38.2℃)、右耳痛
(経過)約1週間前に咳と鼻水がはじまり、数日後に熱が出て、さらにその数日後(昨日)に右耳痛を訴えるようになり、夜間ぐずっていたので来院。診察時は耳痛はなさそうでケロッとしている。
(鼓膜所見)右鼓膜全体が発赤・一部膨隆・混濁している(耳漏はない)


 診断は明白です。
 重症度は、
・非持続性耳痛(1)
・発熱(1)
・不機嫌(1)
・鼓膜全体発赤(4)
・鼓膜膨隆(4)
・耳漏なし(0)
・年齢(3)
 合計14点で「重症」という評価になります。

 これを「経過観察可能かどうか」の表に当てはめると・・・
・重症
・年齢:生後6ヶ月〜23ヶ月
・罹患側:片側
→ 抗菌薬治療の適応

 となります。
 というわけで、私がふだんよく診るタイプの乳児中耳炎は抗菌薬が必要であると再確認できました。

 ここで気づいたのですが、鼓膜全体が膨隆していると8点、とハイスコアに設定されているのですね。
 鼓膜膨隆は重症所見のポイント、と覚えておきます。
 まあ、中耳炎の時の耳の痛みは、鼓膜がパンパンに張って痛いからですから、当たり前と言えば当たり前。

 もう1パターン提示してみます。
 私が「鼓膜炎レベルで中耳炎まで進んでないから、抗菌薬は不必要。解熱陣痛剤で様子観察し、良くならなかったらまた来てね」と説明している患者さんタイプ。

(症例2)3歳女児
(主訴)咳/鼻水、発熱(38.2℃)、右耳痛
(経過)約1週間前に咳と鼻水がはじまり、数日後に熱が出て、さらにその数日後(昨日)に右耳痛を訴えるようになり、夜間ぐずっていたので来院。診察時は耳痛はなさそうでケロッとしている。
(鼓膜所見)右鼓膜の一部が発赤・膨隆なし・混濁なし(耳漏もない)


 重症度は、
・非持続性耳痛(1)
・発熱(1)
・不機嫌(1)
・鼓膜一部発赤(2)
・鼓膜膨隆なし(0)
・耳漏なし(0)
・年齢(0)
→ 合計5点:軽症

 「経過観察可能かどうか」では、
・重症ではない
・年齢:生後24ヶ月以上
・罹患側:片側
→ 抗菌薬なしで経過観察可能

 はい、こちらも私の方針が間違っていないと再確認できました。


<参考>
乳幼児のかぜ診療で失敗しないコツ
2018/7/25:日経メディカル
日馬 由貴(国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター)
・・・・・
◇ 急性中耳炎など細菌性の合併症に注意
 乳幼児では気道感染症自体は細菌が原因となることは少ないものの、気道感染症に伴う細菌性合併症は高頻度に発生する。乳幼児期に頻度の高いかぜの細菌性合併症は急性中耳炎であり、特に生後6カ月~12カ月で最も頻度が高い5)。そのため、子どものかぜに対して、ルーチンに鼓膜診察を行う小児科医は多い。
 日本耳科学会、日本小児耳鼻咽喉科学会、日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会による「小児急性中耳炎ガイドライン2018」は、ガイドラインの使用者を耳鼻咽喉科医だけでなく、小児急性中耳炎の診療に携わる全ての医師に広げている。また、ガイドラインの重症度スコアリングでは、「2歳未満」のスコアが重くなっている。重症度スコアリングで軽症の場合は抗菌薬非投与で経過観察を行うが、中等症、重症の場合には抗菌薬投与を推奨する 6)。
 米国小児科学会では、2歳未満の急性中耳炎は重症化、遷延化しやすいため、両側性の場合には重症度に関係なく、片側性の場合には重症の場合に抗菌薬投与を推奨している 7)。中耳炎が遷延すると、慢性化したり、海面静脈血栓症や脳膿瘍などの引き金となる乳突洞炎を生じたりするため、常に中耳炎を見逃さない心づもりが大切である。
 細菌性副鼻腔炎も乳幼児に起こり得る細菌性の合併症である。結合型肺炎球菌ワクチンが導入される前の疫学研究では、1~5歳児のかぜの9%程度が合併していた8)。データはないが、この頻度は肺炎球菌ワクチンの導入で減少している可能性がある。米国小児科学会はかぜ症状が10日を超えて改善しない場合、症状が悪化する場合、症状が重篤な場合に副鼻腔炎と診断するよう推奨している。また、偽陽性となることが多いことから、画像診断は通常、行わないこととしている 9)。これは日本のガイドラインにおいても同様で、日本では鼻漏、不機嫌・湿性咳嗽、鼻汁・後鼻漏の所見から判断する独自の重症度判定のスコアリングシステムが用いられている 10)。

【参考資料】
・・・・・
5) Kaur R et al. Pediatrics. 2017;140(3).
6) 日本耳科学会・日本小児耳鼻咽喉科学会・日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会. 小児急性中耳炎ガイドライン2018年版. 金原出版; 2018
7) Lieberthal AS et al. Pediatrics. 2013;131:e964-e99.
8) Aitken M et al. Archives of Pediatrics & Adolescent Medicine. 1998;152:244-8.
9) Wald ER et al. Pediatrics. 2013.132:e262-80.
10) 日本鼻科学会. 急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン2010年版.(Accessed on 17th July 2018)


 中耳炎は鼓膜所見で診断可能ですが、副鼻腔炎(=蓄膿症)の診断はポイントとなる所見がありません。このため、症状から疑い診療することになります。
 アメリカでは「米国小児科学会はかぜ症状が10日を超えて改善しない場合、症状が悪化する場合、症状が重篤な場合に副鼻腔炎と診断」、日本では「鼻漏、不機嫌・湿性咳嗽、鼻汁・後鼻漏の所見から判断する独自の重症度判定のスコアリングシステム」を使用するよう推奨されています。
 私は、風邪を引くと副鼻腔炎になりやすい小児には漢方薬を併用しています。鼻の奥にたまる鼻汁を減らし、症状を軽減し、中耳炎・副鼻腔炎の予防になります。長期に耳鼻科で抗菌薬を使用している患者さんも半分位の確率で改善します。

医療機関の麻疹対策で解決できなくて困っていること

2019年09月08日 09時22分51秒 | 感染症
 医療機関における麻疹対策は、日本環境感染学会による「医療関係者のためのワクチンガイドライン2017」に準じて行われます。
 しかし現場では、解決できないこまごまとしたことに悩まされているのが現実です。
 日経メディカルの2018年の記事の中に「医療機関において麻疹対策で困ること」の一覧表を見つけました。
 すべての項目が「あるある」で頷きながら読みました。



 僭越ながら、私見をコメントさせていただきます。

抗体に関すること

・ワクチン接種歴2回後も、麻疹EIA抗体価16を獲得できない職員が1〜2割くらいいる。
→ ワクチンの有効率は100%ではありません。麻疹ワクチンでは1回接種で95%、2回接種で99%とされています。なので、抗体価獲得を目安にするとエンドレスになってしまいます。
 それから、血液検査による抗体価は、ヒトの免疫能力の一部を示すに過ぎません。免疫力は主に細胞性免疫と液性免疫に分類され、抗体価は液性免疫の指標にすぎず、細胞性免疫を評価する方法が現時点ではありません(水痘はあります)。なので、抗体価だけにこだわっても仕方ないという一面があります。
 ではどう考えるべきか?
 ワクチンの効果を考える際に、「集団免疫」という概念があります。
 その集団の中で、ワクチン接種率が一定の数値(集団免疫率)を超えると、病原体が持ち込まれて感染者が出ても広がらないという疫学的事実を重視する手法です。こちらにわかりやすい解説があります。この記事内で、麻疹の集団免疫率は90〜95%となっています。つまり、その集団内で90%以上の免疫獲得者がいれば、感染拡大は防げるということになります。
 以上より、前述の「医療関係者のためのワクチンガイドライン」では、現実的に「2回接種でOK」という基準を設定したのだと思われます。

・抗体価が基準値以上またはワクチンを2回接種している医療従事者へのN95マスクの着用について悩んでいる。
N95マスクは、空気感染対策に特化したマスクで、顔面にすき間なく密着するよう装着します。実際に使用した人の話を聞くと、「息苦しくなるので1時間が限界」だそうです。
 この場合の“悩み”は、医療従事者を麻疹感染から守る目的で悩んでいると想像されます。
 客観的に十分免疫がある医療従事者が、感染対策をどこまですべきか・・・確かに抗体がが十分あるいは2回接種者でも、100%安全とは言い切れません。
 しかし完璧を目指すスタンスを取ると、キリがありません。エボラ出血熱対策のように、宇宙服のような対策を取るという考えさえ出てきそうです。
 極論を置いておき、一般論で考えると“必要ない”となりそうです。
 経験的には、ワクチンを2回接種済みで麻疹を発症した場合、微熱と皮疹程度の軽症で済み、その患者から感染が広がる可能性は高くないと報告されています(Rosen JB, Rota JS, Hickman CJ, et al. Outbreak of mea- sles among persons with prior evidence of immunity, New York City, 2011. Clin Infect Dis 2014 ; 58(9): 1205 - 1210)。

ワクチン接種に関すること

・外部委託業者、取引業者、実習学生、見学者等の対応に苦慮している。
→ これは、外部業者と契約の際に「感染既往あるいは予防接種歴2回を確認しておく必要がある」とされています。しかし実際にはどれだけ行われているのか、データを見たことがありません。最低限、患者さんと一緒にならないよう、院内での動線を別にする方が現実的かもしれません。
 患者さんと接する実習生、見学者は受け入れる前、事前に「“感染既往あるいは予防接種歴2回”の確認」を条件に出せばよいですね。
 それと関連して、医療関係の仕事を目指す人は、感染既往/予防接種歴が確認される時代になりつつあります。逆に言うと、ワクチン拒否家族は、医療関係の仕事に就くことが困難と思われます。これは教育現場にも言えることでしょう。

・ワクチンが不足した場合の優先順位、年齢や優先対象など、多施設の取り決めを知りたい。
→ これも悩ましいですね。ワクチンの優先順位は、時と場合により異なってきます。パンデミックワクチンの優先順位を示したスライドを見つけましたので例として一部抜粋します;

優先順位については、専門家等の意見を踏まえ、以下のいずれかの考え方に基づき、政府対策本部が決定
・重症化、死亡を可能な限り抑えることに重点を置く考え方
・我が国の将来を守ることに重点を置く考え方
・重症化、死亡を可能な限り抑えることに重点を置きつつ、併せて我が国の将来を守ることにも重点を置く考え方


東京大学政策ビジョン研究センターのHPに「ワクチン配分の政策と倫理」という論文を見つけました。一部を抜粋します;



WHO、CDCは以下のように提案しています;



上記をまとめると、まず医療担当者、次に社会インフラの管理者、そして一般市民(重症化のリスクの高いヒト〜低いヒトへ:持病のある方>小児>成人>高齢者)
病院内においては、診療継続に必要な人材かつ交代要員がいない職種の順に優先順位も決まることになりそうです。

政府のインフルエンザ対策会議の配付資料から抜粋します;



日本訪問看護財団のHPにも「ワクチン接種事業に関する質問と回答」という項目があり、優先接種対象者について言及しています。

大きな病院ではあらかじめ明文化しているのでしょうか?
検索しても見つかりませんでしたが、2016年8月の関西空港での集団麻疹発症の際に大阪市立大学で院内感染が発生したときの模様が論文化されているのを見つけました。

院内麻疹に対峙する」〜麻疹患者来院に由来した職員の院内麻疹発症、その対策を考える〜
Management of Nosocomial Measles
モダンメディア 63 巻 7 号 10-15, 2017

(麻疹が疑われる外来患者を陰圧室へ入院させ、サージカルマスクの着用を勧めて飛沫の拡散に努めたが、検査部採血室で血液検査を受け、胸部X線検査や心電図検査が実施され、院内を移動したことが、後の2次感染の発症誘引となった。)
(発端症例が来院した約2週後の金曜日に、発端症例が外来受診した時に隣の診察室で診療に従事していた20歳代の医師が発熱と咽頭痛にて感染症内科の外来受診を希望された。遺伝子検査で麻疹の確定診断が得られたが、 受診数日後に発疹出現を確認した。医師は麻疹ワクチン接種が1回のみで抗体価が不十分であったために、翌月に麻疹ワクチン接種が予定されていた。)
(麻疹を発症した医師が外来受診した3日後、検査部採血室の受付担当職員が出勤後に、約3時間通常の業務を行っていたが、全身倦怠感の自覚および皮疹が出現し、感染症内科を受診した。当職員は発端症例が外来受診時に採血室を訪れていた。翌日、遺伝子検査にて麻疹の確定診断が得られた。当職員は麻疹ワクチン2回接種歴の記録があり、前回は約5年前に接種されていた。経過中に発熱はなく皮疹のみが認められ、典型的な経過を示さない修飾麻疹(modified measles)と考えられた。)
(大阪市保健所へ相談を行いながら感染対策を行った。具体的には、潜伏期間の設定、患者や2次発症者に接触した感受性職員の就業制限(最大17日間)ならびに自宅待機(計72名)・・・)
(希望者全員にワクチンを接種できる状況ではなかった。そのため行政と相談し、麻疹ワクチンの対象を接触リストに挙げられた小児と抗体価陰性の職員(若干名)を優先的に実施することとした。)


いろいろな問題(下線部)があり、参考になります。
あ、こちらにすべてまとめられていました。
医療機関での麻疹対応ガイドライン 第七版」(国立感染症研究所 感染症疫学センター 平成30年5月)

・ワクチン接種歴を確認できる母子手帳など持っていない人も多い。
→ 感染対策は「記憶よりも記録を優先」させる必要があり、記録を確認できない場合は抗体価を測定し、必要であればワクチンを接種することになります。

・ワクチン忌避の職員への対応に難渋した。
→ アメリカでは、規定のワクチンを接種していない子どもは学校へ行けません。
 日本も人権尊重と感染対策の優先順位をはっきりさせておくべきでしょう。
 将来的には、医療系教育施設への入学・医療関係職への入職の際にチェックされることになるでしょう。

診断に関すること

・本人から申し出などがなければ曝露の可能性を否定できない。
→ その通りです。また皮疹出現前でも感染力を有することを考えると、風邪と区別つかない患者さんとの接触で発症することもあります。
 これらへの対策は、ワクチン接種率を集団免疫率(90〜95%)以上に上げておくことに尽きます。

・麻疹を診察したことのある医師が少ない。
→ 私も最後に麻疹を診察してから20年くらい経過しています。典型的な経過は一応頭に入っていますが、ワクチン接種者が発症すると軽症で済む(修飾麻疹)ので、逆に診断が難しくなるというジレンマが存在します。皮疹が非典型的となり、診断のゴールドスタンダードとも言えるコプリック(Koplik)斑が出現しない例があるのです。
 もうお手上げ・・・診察室で症状・所見から診断することは困難です。
 現在、確定例の報告は血液検査による抗体価評価が必要とされるようになりました。

・修飾麻疹に関する診断方法を知りたい。
→ 症状と診察所見だけでは診断は不可能です。感染情報と患者さんの行動から推測(例:関空でのアウトブレイクでは空港の利用の有無、ジャスティン・ビーバーのコンサートでのアウトブレイクではコンサートへの参加の有無)し、遺伝子検査あるいは血液検査で評価するしかありません。

対策に関すること

・10年以上、麻疹患者の発生がないのでマニュアル通りに対応できるか不安がある。
→ 備えあれば憂いなし、病院職員のワクチン接種歴と抗体価チェックを行い、必要であればワクチン接種をしておくことに尽きます。
 当院では数年前に済ませております。

・「お見舞いの人」や「付き添い者」への麻疹対策ができていない。
→ これも悩ましい問題です。その都度感染既往やワクチン接種歴の確認をする必要がありますが、実際には困難でしょう。
 しつこく何度でも書きますが、対策はワクチン接種率を集団免疫率以上に保つことに尽きます。
 ワクチン拒否者は、病院内では行動を制限されざるを得ません。

・空気感染対応の外来診察室がない。
→ 一般小児開院では、隔離室と名付けた感染対策の部屋が用意されています。しかし、陰圧室(空気感染対応)はコストがかかりすぎて用意できません。
 おそらく、総合病院でも1つか数部屋しかないと思われます。
 気休めかもしれませんが、当院の隔離室では換気扇を回しっぱなしにしています。

・麻疹疑い患者専用の待合室がなく、発熱患者と一緒になっている。
→ 感染情報で近隣に麻疹が発生している場合は、当院では発熱患者には車の中で待っていただき、ポケベルを渡して順番が来たらお知らせして隔離室に入ってもらうようにしています。2009年の新型インフルエンザ騒動の時に実行しました。
 ただ、総合病院ではこの方法は取りにくいですね。
 某小児科医院では、ふだんから麻疹ワクチン未接種者は待合室を別にしている、という話を聞いたことがあります。

・免疫が十分あるスタッフであったとしても、N95マスクの着用は必要でしょうか。
→ 結論から申し上げると「感染予防を限りなく100%に近づけるなら必要」と言わざるを得ません。
 ワクチン2回接種者でも感染例が存在するからです(軽症で済みますが)。免疫不全患者が入院・通院している高次医療施設では考慮すべきかもしれません。
 基本的に健康な患者さんが通院する一般の小児科医院レベルでは、そこまでしていない施設がほとんどだと思います。

公衆衛生対応に関すること

・パスポートやビザの発行時に、ワクチン未接種者には発行しないくらいの取り組みを国レベルで考えて欲しい。
→ 2020年東京オリンピックを控え、このような声が聞こえてきますね。大会中の暑さや台風ばかりが話題になりますが、感染対策も重要です。
 例えば、ムスリムがメッカへの聖地巡礼する際には髄膜炎菌ワクチンの接種が推奨されていると聞いたことがあります。
 ただ、実際に行うには、その啓蒙とワクチン拒否者の扱い等、一筋縄ではいかないと思われます。

・定期接種でワクチン接種記録を一元管理できるシステムを国レベルで作って欲しい。
→ マイナンバーカードが候補ですね(賛否両論ですが)。


 ・・・以上、つらつらと書いてきましたが、やはり「国民の95%以上にワクチン2回接種」を実現できれば、上記の悩み・心配のほとんどが解決することを、あらためて実感した次第です。


<参考>
麻疹ワクチン接種、GL陽性基準の適用は困難
2019年03月15日:Medical Tribune
 医療機関における院内感染対策の一環として、日々、患者と接する医療関係者へのワクチン接種が重要とされている。各医療機関で職員向けワクチンプログラムの策定が進められているものの、ワクチン自体の流通量が潤沢でないことや医療機関にかかる費用負担、ワクチン接種推奨者の基準など、その運用に苦慮する面が少なからず見受けられる。山形大学医学部附属病院検査部部長/感染制御部部長の森兼啓太氏は、第34回日本環境感染学会(2月22〜23日)で同学会の『医療関係者のためのワクチンガイドライン第2版』(以下、GL)に準拠した麻疹抗体価陽性基準の運用は困難であると述べた。

麻疹ワクチン接種記録ありでもGL抗体価陽性基準値を満たさない職員が多数
 同院では、抗体価測定とその値によるワクチン接種の推奨について総務課労務担当が事務的に処理し、職員に対し任意で行っていた。しかし2017年に山形県で麻疹が流行したことを受け、感染制御部においてワクチンプログラムを策定することになり、GLに準拠することを考えたという。
 GLにおける麻疹・風疹・流行性耳下腺炎・水痘ワクチン接種のフローチャートによると、予防接種記録の有無により推奨者を分類した後、抗体価測定結果に基づき対応を決定する流れが示されている。すなわち、1歳以上で2回の予防接種記録がある場合、抗体価測定は必須でなくワクチン接種不要。2回の記録がない場合、1歳以上で1回の予防接種記録があれば1回のワクチン接種を要する。予防接種記録が全くない場合は抗体価測定を実施し、陽性基準を満たさない場合には1回ワクチン接種を要するというものだ。 
 そこで森兼氏は、総務課労務担当部門に保管されていた2010年以降のワクチン接種記録と2012年以降の抗体価測定結果を収集。同大学卒業の若手医師・看護師については医学部学務課に保管されている学生時代の記録の提供を申請、職員個別に同意を取得した後に収集。その他の職員に関しては、個人で所有している文書による記録(母子手帳など)の提出を求めて収集した。
 同氏は、困難を極めた接種記録情報収集・整理の過程において、麻疹の抗体価が検査センター基準値(EIA法で4.0IU/mL以上)は満たすものの、GLにおける基準値(同 16.0IU/mL以上)を満たさない者が多数いること、その中には2回の麻疹ワクチン接種記録がある者で目立つことに気付いたという。

接種記録のない職員が大多数、接種を要する数は500人以上に
 こうしたことから森兼氏は、GLにおける麻疹のフローチャートを適用することの妥当性を評価する目的で、2017年5月1日時点での同院在職者の麻疹ワクチン接種歴と抗体価記録を統合解析し、GLのフローチャートにのっとり抗体価測定やワクチン接種の必要性を判定した。なお、評価には抗体価を複数回測定している者では最も高い抗体値を、うちワクチン2回接種者については最も低い抗体価を用いた。
 その結果、全職員1,664人のうち、麻疹ワクチン接種記録が2回ある者は66人、1回の者は14人で、接種記録がない者が大多数を占めた。接種記録がない1,584人中抗体価測定を受けたことがない者は456人、抗体価測定を受けたことがある1,128人のうち628人はGL基準を満たす抗体価陽性、563人はGL基準を満たさない抗体価陽性で、抗体価陰性は3人であった(図)。


図. 麻疹ワクチン接種のフローチャートを適用した場合の全職員の内訳(森兼啓太氏提供)

GLの抗体価陽性基準は高過ぎる
 GL基準を満たさない抗体価陽性563人の抗体価(EIA法)を確認したところ、2.0〜3.9IU/mLが19人、4.0〜15.9IU/mLが544人と大多数は検査センター基準値を満たしていた。一方、2回の麻疹ワクチン接種記録がある66人の抗体価を見たところ、GL陽性基準を満たす者はわずか18人(27%)であった(表)。


表. 予防接種記録がない抗体価陽性(基準を満たさない)者と2回予防接種記録保有者の抗体価
(森兼啓太氏提供)

 麻疹ワクチンの接種記録を保有しておらず、抗体価によってその後のワクチン接種の方針を決定せざるをえない者のうち、検査センター基準では抗体価陽性だがGLの基準を満たさないためワクチン接種を要する者が544人。その一方で、2回のワクチン接種記録がある者の73%がGLの抗体価陽性基準よりも抗体価が低下しており、仮にワクチン接種記録がなければ1回接種を要する者に該当する。GL基準を満たさない抗体価陽性者の中には、書面としての接種記録がないものの2回のワクチン接種を受けている者も含まれている可能性も推測される、と森兼氏は考察した。
 それに加えて、同氏は「米疾病対策センター(CDC)をはじめとするさまざまな海外の医療者を対象としたワクチンガイドラインを参照すると、検査センター基準値陽性との記載にとどまっており、それ以上の抗体価を求める記載は見当たらない。また、GLに関するQ&Aにおいて、"基準を満たす陽性"とはワクチンを受けてもブースター効果が働かない程度の高い抗体価を設定、これ以上の判断は各施設に委ねると記載されており、高い抗体価を設定する理由が明瞭ではない」と指摘した。
 以上から同氏は、麻疹の免疫の有無を判断する際の抗体価の基準として、GLの陽性基準は高過ぎるだけでなく、不要なワクチン接種を推奨し、余分なコストも発生させるとし、「GLの陽性基準の適用は困難である」と述べた。

成人のRSウイルス感染症

2018年11月20日 10時02分04秒 | 感染症
 RSウイルスは乳幼児が罹ると気管支炎になりやすいことで小児科医の間では有名です。一度罹っただけでは終生免疫は得られず、繰り返し感染することによりだんだん軽症化し、学童以降は咳の頑固な風邪、程度で済むようになります。
 しかし大人になっても罹るかどうかは、小児科の教科書には書いてありません。近年、生まれたお祝いに会いに来た祖父母から風邪をもらって重症化し、それがRSVだった、という話をたまに耳にします。すると、

 「大人もRSVに罹るんだろうか?」

 という素朴な疑問が生まれます。
 その答えとなるWEB配信レクチャーを見つけました。

成人RSウイルス感染症」(坂総合病院 高橋洋Dr.)
ラジオNIKKEI 感染症TODAY

<ポイント>
・成人もRSVに罹患し、高齢者(とくに基礎疾患のある例)はこじれやすい。
・インフルエンザと比較すると、呼吸器症状や低酸素血症は目立つが、全身症状(高熱、倦怠感、筋肉痛など)は軽度。
・迅速診断陽性例は全体の20%弱と低いため、診断には抗体価の評価が必要。
・高齢者肺炎の中でもRSV陽性肺炎例は重症化しやすい。
・RSV陽性肺炎のうち、健常成人の発症例は10%以下であり、大部分の例は明らかな基礎疾患を有している(慢性呼吸器疾患>脳血管障害後遺症>慢性心疾患>糖尿病・・・)。


 以上、健康成人では問題にはなりませんが、高齢者(とくに基礎疾患保有者)では重症化しやすい注意すべき病原体と言えそうです。しかし迅速検査が役に立たないのはやっかいですね。


<メモ>

RSV感染症の概要
・接触/飛沫感染
・家族内感染が50%
・潜伏期:3〜5日間
・顕性感染90%以上(不顕性感染<10%)・・・ただし乳幼児のデータ
・流行時期は従来冬季であったが、近年は夏から秋にかけての流行も見られる。
・診断方法:
(小児)抗原迅速検査、
(成人)ペア血清で抗体価測定・・・成人では出現するウイルス量が乳幼児の千分の一と非常に少なく、陽性持続期間も数日間のみであるため、迅速検査の陽性率が非常に低い(分権的には20〜30%)。
※ 血清抗体価は乳幼児では上昇が不良な場合も少なくないが、成人では有意に上昇する例がほとんど。

成人でのRSウイルス感染症の疫学
・年間に健常高齢者の5%弱、基礎疾患保有者の6%強が罹患する。
・基礎疾患保有者が感染すると15%で入院が必要になる。
・入院率・死亡率はインフルエンザとほぼ同等である。
・高齢者施設では年間に入居者の5〜10%が罹患し、発症例のうち10〜20%が肺炎を併発する。
・成人肺炎の原因としては1〜10%と報告に幅がある(検査法/流行状況に影響されるためか)。

坂総合病院のデータ
・1年間約300例の成人肺炎例を対象とし抗原迅速検査、PCR、抗体価(ペア血清)を検討。
・流行期間(11月〜4月)のRSV陽性率10%強。
・迅速診断陽性例は全体の20%弱(PCR陽性例では40%弱)
診断には迅速検査では不十分であり抗体価の評価が必要
・RSウイルス関連肺炎例:18例(約6%)

坂総合病院における成人RSウイルス肺炎186例の臨床像
・ほぼ通年で陽性例が確認されている。
・病型:市中肺炎(CAP)が2/3、医療・介護関連肺炎(NHCAP)が1/3。
・入院治療例が80%、外来治療例が20%。
・平均年齢77.6歳で他のウイルス関連肺炎例と比較して最も高齢で、大部分が60歳以上に分布している。
→ 高齢者が罹患しやすいということではなく、若年者では罹患しても肺炎まで至ることは少ないと解釈すべき。
・予後:死亡退院率は6.1%(ただし70歳未満の死亡例はゼロ、70歳代では3.4%、80歳代では6.9%、90歳代では15%と年齢と共に死亡率が上昇)。
・合併感染例は約50%で肺炎球菌やインフルエンザ菌が多い。冬季では肺炎球菌肺炎のうち20%以上がRSウイルスとの合併感染だったシーズンもある。
・RSV単独感染例と混合感染例の予後を比較すると、単独感染例の方が生命予後は明らかに不良だった。
・臨床像:最高体温は平均37.9℃、呼吸器症状(喀痰、咳嗽、喘鳴)は高頻度で、72%で急性期に酸素投与を必要とした。全身症状(食思不振、倦怠感、頭痛、関節痛、筋痛など)を呈する例は比較的少数にとどまった。
インフルエンザと比較すると、呼吸器症状や低酸素血症は目立つが高熱はきたしにくく全身症状は軽度
・胸部画像所見:多発性、両側性の分布を示す例が過半数を占めるが、陰影自体は通常の浸潤影を呈するケースが多く、スリガラス陰影が主体の例は全体の1/4。
・感染源不明が70%。
・施設入所例が20%であるが施設内流行ではなく散発例。
→ RSウイルスは流行期間においてはごく軽症の上気道炎症状で市中を広く循環しているものと推測される。
・健常人の発症例は10%以下であり、大部分の例は明らかな基礎疾患を有している(慢性呼吸器疾患>脳血管障害後遺症>慢性心疾患>糖尿病・・・)。
・大部分の例で抗菌薬が併用されていた。

ウイルス関連肺炎の病像比較
・初期診断は「誤嚥性肺炎」が37.5%と多い。
・RSV陽性肺炎例と陰性肺炎例を比較すると、陽性例の方が重症になりやすい。
・インフルエンザ陽性肺炎例と比較すると、RSウイルス陽性例の方が死亡率が高く、入院期間も長期化していた。

ミャンマーではインフルエンザが夏(7〜9月)に流行する。

2018年09月24日 15時29分53秒 | 感染症
 日本では毎年、12月〜翌年3月中心にインフルエンザが流行します。
 一方、南半球では日本とは逆の季節になるので、インフルエンザ流行も日本の夏に当たる5〜8月に流行します。

 では、熱帯・亜熱帯ではどうでしょうか?
 インフルエンザの迅速診断キットが普及してから、小児科医の間では「沖縄では1年中インフルエンザが小流行している」ことが常識になっています。
 しかしそれがなぜなのか、という問いに対する答えは、まだわかっていないようです。

 そんな折、ラジオNIKKEIで以下の放送をしているのを知りました;

「東南アジアにおけるインフルエンザの流行」2018年8月29放送
 新潟大学大学院 国際保健学分野教授 齋藤 玲子


 やはり疑問は解けてはいないものの、インフルエンザ流行を解析する際のキーワードがいくつか出てきて参考になりました。

 そのキーワードは「湿度」と「感染様式」。
 湿度が異なると、インフルエンザの感染様式が異なってくるというのです。

 高湿度の時は、接触感染が中心。
 中湿度の時は、飛沫感染が中心。
 低湿度の時は、飛沫感染+空気感染もありえる?

 
 そして広がりやすさは、接触<飛沫<空気感染です。
 湿度が高いと水分を含んだウイルス粒子が重くなるので遠くに飛びにくいというイメージですね。 
 この解説は画期的です。
 
 四季のある北半球の日本、南半球のオーストラリアやニュージーランドでは寒くて低湿度の季節に爆発的に流行する理由になります。
 中湿度のミャンマーなどの亜熱帯地方では、飛沫感染が中心なので、日本ほど大きな流行になにくい。
 高湿度の熱帯地方では接触感染が中心であり、さらに感染拡大しにくく小流行にとどまる、という説明でした。

 なるほど。
 今までの疑問が、一部解決した感じ。

 さて、熱帯・亜熱帯地方の季節は「雨季」と「乾季」の二つだけだそうです。
 そしてインフルエンザが流行るのは「雨季」。
 高温で湿度の高い雨季に流行する・・・日本人の感覚ではピンときませんね。
 推察として、雨が降ると室内で過ごすことが多くなり、ヒトとヒトとの接触も密になるから、接触感染のリスクが上がるのではないか、とのことでした。
 ただし、接触感染は空気感染より広がりにくいので、流行も小さく患者数も少ない。

 フムフム。
 ここまで読んできてもピンとこない方に、例示してみます。

 代表的な接触感染は、伝染性膿痂疹や水いぼですね。
 仲のいいお友達間でうつるくらいの印象。
 まあ「うつるけれど流行るほどではない」イメージでしょうか。

 代表的な飛沫感染は、いわゆる“かぜ”です。
 患者さんの口や鼻から出た唾液や鼻水に含まれる病原体(ウイルスや細菌)が飛び散って、他のヒトの口や鼻や目にくっつくと感染が成立します。
 鼻風邪、RSウイルス、インフルエンザ、マイコプラズマ等々。
 それなりに流行します。

 代表的な空気感染は、水ぼうそうと麻疹(=はしか)と結核です。
 というか、この3つしかありません。

 皆さんご存じのように、小児科医院ではたいてい「隔離室」が用意されていますね。
 これは「空気感染対策」に外なりません。
 当院でもそうですが「水ぼうそう、はしかが疑われる患者さんは待合室に直接入らないで隔離室のインターホンを押してください」と掲示しています。
 空気感染は同じ空間にしばらくいるだけでももらってしまう、こわい感染症なのです。

 インフルエンザは従来、「接触&飛沫感染」と説明されてきました。
 しかし「空気感染もするのではないか?」という意見もチラホラありましたが、まだ教科書に載るほどのエビデンスはないようです。
 今回のこの番組で「インフルエンザは空気感染もあり得る」と述べているのは、じつは新しいことなのです。

 いかがでしょう。
 イメージできましたか。

 さて、9月に入りインフルエンザ流行による学級閉鎖のニュースが流れる季節になりました。
 まあ、例年のことです。
 このように小流行が散発し、そして12月に入ると本格的に流行します。

 ただ、湿度が異様に低くなる環境では、流行が早まるかもしれません。
 日本では「エアコン」が普及しているので、室内湿度は簡単に20%位まで下がってしまい、インフルエンザ・ウイルスを喜ばすことになりますね。
 ぜひ、加湿器を併用しましょう。

エボラ出血熱 2018

2018年09月20日 15時26分50秒 | 感染症
 5年前は「日本も他人事ではなく危ないのではないか」と危機感を募らせたエボラ出血熱。
 その後制圧され、現在は「喉元過ぎれば・・・」のパターンで忘れられつつあります。
 そんなタイミングで、録画してあったエボラ出血熱のドキュメンタリーを2つ見てみました。

BS世界のドキュメンタリー「エボラ出血熱 その謎に迫る」2014.11.28:NHK-BS



<番組紹介>
2013年末から西アフリカを中心に過去最大の猛威をふるうエボラ出血熱。そのウィルスはどこからきたのか、そして、どうやって広がっていったのか。さまざまな角度から取材し、その正体に迫る。
西アフリカ各地で感染患者の治療に当たる医療関係者が現状を報告。また、現地で感染し、未承認薬によって回復した医師や看護師がその体験を語る。
今回の流行が確認されたのは、患者第一号となったギニア共和国の少年が死亡してから14週間も経った後だった。なぜ防止対策が遅れ、患者数が急増してしまったのか。
エボラ出血熱のウィルスは、1970年代、中央アフリカからベルギーの熱帯医学研究所に届いた血液サンプルから検出された。研究者は、見たこともない紐状のウィルスの出所へと急遽向かい、恐ろしい感染症の症状と感染経路を明らかにする。エボラ熱の治療が困難な理由は、ウィルスが体内で繁殖するしくみにあった・・・。
実は15年前ウガンダでエボラ熱が流行した際、自力で治癒した免疫力の強い人々がいた。いま彼らの血液から採取した抗体を使って治療薬の開発が進められている。

原題:Ebola - The Search for a Cure
制作:BBC(イギリス:2014年)


 番組を見ながらメモした内容です;

最初の患者は2013年12月に西アフリカのギニアで発生した。
感染源はアフリカオオコウモリと考えられる。ギニアには野生動物の肉を食べる習慣がある。
ウイルスは村に持ち込まれる。最初の患者の葬儀に参加した人々に感染したのだ。
流行を認識したのが最初の犠牲者発生から3ヵ月後、初動が遅れたため、拡大阻止が困難となった。
感染者の半分が命を落とした。多くは発症から12日以内である。
エボラウイルスは遺体からも感染する。

エボラウイルスが発見されたのは40年前。1976年にイギリスで分離された。
検体はザイールのキンシャサからの血液サンプルでキリスト教伝道施設の修道女のものだった。
謎のウイルスは、近くの川の名前から「エボラ」と名付けられた。
その施設では医療機器が不足し、注射器を使い回していた。
感染拡大の一因として、遺体を参列者が洗う習慣が指摘された。
エボラウイルスは空気感染ではなく体液を介する感染である。

2014年4月にはギニアの隣国のギニアとリベリアに感染が拡大した。
2013-14年の流行以前のエボラウイルスによる死者は1700人だったが、この流行だけでその数を上回った。
以前はアフリカの地方・奥地に限定されていたが、2014年7月にナイジェリアの都市ラゴスに持ち込まれた。
エボラウイルスの潜伏期間は最大21日間あり、感染拡大防止は困難である。
当時エボラウイルスに有効な薬はなく、医師にできることは痛みを和らげることだけだった。

エボラウイルスに対する治療の研究は世界中で行われている。

ウガンダではエボラ感染の克服者の追跡調査を行っている。
免疫機能と抗体である。

カナダのコビンジャー博士が開発した薬(ウイルスが細胞に侵入する際に使う突起に対する抗体)が、リベリアでエボラを発症したアメリカ人ブラントリー医師に投与された。
その後患者はアメリカに移送され一命を取り留めた。
コビンジャー博士が使用した薬は3種類の抗体を混ぜた“カクテル”だった。
その次の段階、薬の増産が課題である。


まだ、西アフリカにおける流行が制圧できていない段階で制作された番組です。
生存者から血液を採取して、有効な抗体を見つける作業は、映画「アウトブレイク」の一場面を想起させました。

もう一つのドキュメンタリーはシエラレオネを舞台にエボラウイルスと格闘したカーン医師の闘いに焦点を当てたものです。


NHKスペシャル「史上最悪の感染拡大 エボラ 闘いの記録」2016.2.12:NHK



<番組紹介>
史上最悪となった今回のエボラウイルスの感染拡大。感染者28637人、死者11315人(12月20日現在)にのぼり、間もなく終息宣言が出される見込みだ。最も多くの感染者がでたシエラレオネで、世界から注目を集めているのが「ケネマ国立病院」だ。当時、二次感染につながるとして避けられていた定期的な点滴や検診を実施、多くの患者を救っていたのだ。さらに、感染拡大を未然に防ぐ可能性があった“警告”を発していた。しかし、国際社会から見過ごされ、資材や人材の支援が不足する中、スタッフは二次感染によって次々と死亡、病院は崩壊してしまう。国際社会や政府の無関心、住民の偏見、そしてスタッフの間に生まれる恐怖・・・・・・。命をかけて闘い続けた医師たちの知られざる日々を、膨大な現地映像や生存者の証言によって描き、グローバル化によって様々な感染症のリスクが世界に広がる中、いま何が求められているのか探る。



以下は視聴中のメモです。

2016年1月にWHOが感染終息を宣言したエボラ出血熱。
今回のアフリカ西部の感染爆発の連鎖を遡っていくと、シエラレオネのクポンドゥ村にたどり着く。
その村で感染対策に奔走したのはケマネ国立病院で働いていたウマル・カーン医師。しかし彼の訴えが国際社会に届かないうちに彼自身が感染し孤独の中で命を落とした。

ケマネ病院での最初の患者は19歳の妊婦、ヴィクトリア・イラー。点滴を刺したところからの出血が止まらなくなった。
それまではギニアとリベリアで散発し、治まりつつあったタイミング。
リベリアに向かった調査隊は、患者全員が女性であることを不思議に思い、調査を進めると発症者は皆3週間前にクポンドゥ村の祈祷師の葬儀に参加していたことが判明した。
この地域の葬儀は、遺体を素手で洗う習慣がある。その作業・儀式中に血液・体液に触れて感染したと考えられた。

カーン医師は感染者が十数人のときに、道路を閉鎖して村を隔離するよう政府に進言したが、政府は腰が重かった。

患者は約10日間で死亡していった。
2週間しのげば、回復する可能性が高くなった。
カーン医師は点滴で粘り、イラーさんは回復して退院できた。

カーン医師は患者から採取したエボラウイルスのサンプルをアメリカのハーバード大学に送り続けた。
エボラウイルスは感染中に変化するという特徴がある。

最初の患者発生から17日で、クポンドゥ村から道路沿いに感染が拡大していった。
感染を封じ込めるために患者をケネマ病院に集めようとしたが、「病院に連れて行かれると生きて帰って来れない」と搬送を拒否されることもあった。
ケネマ市でも患者が増え隔離病棟はあふれ、首都フリータウンに感染が拡大しつつあった。
このタイミングで、WHOがケネマ病院に医師を派遣した(現・豊島病院の足立拓也医師もその一人)。
それまでの流行は交通が発達していない地域であったが、シエラレオネは交通網が発達しており、致命的な感染拡大の要素を持っていた。
それをカーン医師は国際社会に訴えたが、「それはアフリカの問題でしょ」と深刻に受け止めてもらえず、支援の手は差し伸べられなかった。
その頃の人々の関心は、サッカーのワールドカップとISのテロに向けられていた。

最初の感染確認から1ヵ月。
3人の看護師が感染し、亡くなった。
これをきっかけに、看護師が職場放棄をするようになった。
患者の増加と看護師の不足。
点滴を行う優先順位をつけざるを得なくなった。
シエラレオネの各地でも患者が発生し「病院スタッフがウイルスをばらまいている」と石を投げられることもあった。

最初の感染確認から50日。
カーン医師は看護師を説得し鼓舞したが、残った看護師は12人だけだった。
その時のTVインタビューの質問「怖くないですか?」に対するカーン医師のコメント;
「もちろん私も命を失うことは怖いです。しかし闘うことを恐れてはいません」

最初の感染確認から59日目。感染爆発(アウトブレイク)。
カーン医師がエボラウイルスに感染し隔離され、1週間後に亡くなった。
ケネマ病院の機能は麻痺した。
そして首都フリータウンにウイルスは達し、はじめてエボラは大都市を襲い、周囲に感染が爆発的に拡大していった。
以降、終息宣言まで1年半を要した。

ウイルスの遺伝子変異の分析により、シエラレオネのクポンドゥ村がすべての患者の起点になっていることが判明した。
カーン医師の感染対策に従っていれば、ここまで広がらなかった可能性があった。
カーン医師がハーバード大学に送ってエボラウイルスの解析データはすべて公開され、ワクチン開発に役立っている。

ケネマ病院スタッフの犠牲者は41人。
命を取り留めた患者は211人。


2018.10.20付けの厚労省からのメール配信にエボラ出血熱の項目がありました。
2018年8月1日にコンゴで患者が発生したとのこと。
しかしそのコンゴでは約1週間前(2018/7/25)にエボラの終息宣言を出したばかり(先ごろ終息宣言が出されたエボラは1976年以降で9度目となる流行)でした。
終わりなき闘いが続きます。
記事を読むと、現時点では「国際的な脅威とならずアフリカだけの問題である」との判断ですが、シエラレオネの悲劇を繰り返さないようにしていただきたい。

◆コンゴ民主共和国でエボラ出血熱が発生しています
 2018年8月1日(現地時間)、世界保健機関(WHO)及びコンゴ民主共和国(旧ザイール)保健省は、同国北東部の北キブ州において、エボラ出血熱が発生したことを発表しました。10月15日までに139名の死亡例を含む、216例の患者(確定181例、疑い35例)が報告されています。8月8日に高リスク群に対してのワクチン接種が始まり、10月16日までに、17,976名がワクチンの接種を受けました。
 10月17日、今回のエボラ出血熱の流行に関する緊急委員会がWHOで開催されました。現段階では「国際的に懸念される公衆衛生上の危機(PHEIC)」ではない、との見解が示されましたが、今後も対策をさらに強化する必要があるとの提言がなされました。
 今回の発生地域では、反政府勢力による非人道的行為が行われており、以前より外務省から退避勧告が出されています。
 厚生労働省では、検疫や国内での対応強化のため注意喚起を行っています。発生地域であるコンゴ民主共和国(北キブ州)から帰国された方は、検疫官に申告するようにしてください。


 現在の流行状況を報告する資料をもう一つ紹介します;

厚生労働省の発表資料「コンゴ民主共和国におけるエボラ出血熱の発生状況について

上記記事の中に治療についての項目がありました;

・現地では、5月の流行時に富山化学工業株式会社から提供したファビピラビル(アビガン錠)に ついて、既に12,000錠を首都キンシャサの国立生物医学研究所(INRB)で、2,000錠を国境なき 医師団で保持している。
・9月8日までに、治療薬であるmAb114、Zmapp、Remdesivirが26名に投与されており、そのうち 15人が治癒して退院している。


日本で富山化学が開発したアビガン®が活躍しているようですね。

入園してからずっと風邪を引いているんです・・・。

2018年09月01日 15時15分22秒 | 感染症
 新しい年度が始まる4月。
 保育園に入園する乳幼児の中には、登園開始後、風邪をもらって治ってを繰り返し、登園日数より休んだ日数の方が多いお子さんも散見します。
 すると、ご両親は心配になり、「うちの子、どこか悪いんでしょうか?」と相談に来られます。

 たいてい、風邪の反復です。
 私はずいぶん前から「入園症候群」とネーミングして説明してきました。

2012年04月28日)「入園症候群」が気になる頃
2013年04月28日)今年も「入園症候群」の季節
2017年08月18日)多くの働くママを悩ます「保育園症候群」


 「ずっと風邪を引いている」状態をよく観察してみて下さい。
 特に鼻の症状に注目。

 風邪の初期は、くしゃみ・鼻水で透明な水っぱな。
 何日か経つと、鼻水が白っぽくなってきます。
 更に長引くと、青っ洟になります。

 なかなか治らないなあ、と思っていると、またくしゃみと透明な水っぱな。

 ここ、このタイミングです。
 新たな風邪を引きなおした瞬間です。

 咳も、風邪の引き始めはコンコンという渇いた感じの咳ですが、
 後半になると痰がらみになるのがふつうです。

 一般に風邪を引くと、子どもは治るまでに1〜2週間かかります。
 治り際、治りきらないうちに次の風邪をもらうので、ずっと続いているように見えるのです。

 では、小児科医はどんなときに「ムムム、この患者さんは風邪だけではないかもしれない」と疑うのでしょう。
 そのポイントは、

・衰弱していく(体重が増えない)
・重症化
・治療抵抗性

 等々。
 回数(頻回)も頭の隅にはありますが、軽い症状で繰り返すだけなら、問題ありません。

 ではでは、「風邪だけではないかもしれない」病気とは?
 それは「免疫不全症」です。
 免疫能力が不十分なため、病原体を排除できない病態です。
 その目安として、「原発性免疫不全症を疑う10の徴候」が公表されています。

 ま、このような内容はこれまでも度々触れてきました。
 なお、「“ずっと風邪を引いている”状態は、風邪が長引いているのか、あるいは繰り返しているのか?」という疑問に対しては、医師の間でも意見の相違があります。
 先日、日経メディカルでこの病態をわかりやすく上手に説明している記事を見つけましたので引用させていただきます(図表は省略、下線は私が引きました)。

□ 治らない子どものかぜは遷延性か?反復性か?
日経メディカル:2018/8/29
日馬 由貴(国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター

 子どもは大人と比べて頻繁にかぜ(ここではかぜを、急性のウイルス性気道感染症と定義)を引く。その頻度は特に2歳未満で高く、年に8~10回かぜを引くといわれている 1)。ヒトは一度ウイルスに感染すると、そのウイルスに対する抗体を産生できるようになるため、普通は同じウイルス感染症に再び罹患することはない。しかし、ライノウイルスやアデノウイルスなど型がたくさんあるウイルスもあれば、RSウイルスのように免疫が長く続かないウイルスもあるため、ヒトは繰り返し繰り返しかぜを引くのである。
 そんなわけで、子どもが頻繁にかぜを引くのは仕方のないことなのだが、一方で、異常なのではないかという頻度でかぜを引き続ける乳幼児も少なからず存在する。子どもによっては、途切れることなく1年中ずっと感冒症状が持続しているような児もいるので、保護者は不安になり、「うちの子は免疫がどこかおかしいのではないか」と医療機関に相談するわけである。
 成人で「免疫不全」といえば、HIV感染症や担癌状態をまず思い浮かべるだろうが、子どもの場合はそれらの罹患頻度が低い。そのため、反射的にChediak-Higashi症候群や慢性肉芽腫症などに代表される「原発性免疫不全症」を思い浮かべる医師も多いのではないだろうか。これらの疾患は小児特有のものが多く、その種類も多岐にわたるため、原発性免疫不全症の診断に慣れていない者にとっては難しい。
 しかし、原発性免疫不全症は比較的まれな病気であり、小児科医でも一生に一度出会うかどうかという疾患群である。つまり、上記のような相談を持ちかけられる児のほとんどは、原発性免疫不全症ではないのだ。ここでは、かぜの罹患が非常に多い児について、その原因にはどのようなものがあり、どうアプローチすればよいかを述べていきたい。

◇ヒトにおける免疫システムの発達
 ヒトの一生の中で、新生児期は最も自己の免疫機能が未熟な時期であるにもかかわらず、かぜの罹患頻度が乳幼児期に比べて低い。これは、体液性免疫の中で中心的な働きを担うIgGが胎盤を通過するため、正期産の新生児は母からIgGをプレゼントされた状態で生まれてくるからである。
 しかし、IgGの半減期はおよそ1カ月であるため、生後3~4カ月くらいには母由来のIgGはかなり低い値まで低下し、その主役は自身のIgGへと移行する 2)。よって、この時期からは母から獲得した免疫の効果は期待できなくなり、ウイルス感染症が増加することになる。

◇子どものかぜの自然経過
 子どものかぜが治ったかどうかを見極めるためには、かぜの自然経過を知る必要がある。というのも、大人のかぜと子どものかぜでは経過がだいぶ異なるためである 3)。表1に大人のかぜと子どものかぜの違いをまとめたが、注目すべきは罹患期間の違いである。成人が5~7日間であるのに対し、子どもでは約14日間と長い。つまり、「1週間経過しても治っていないかぜ」というのは、小児では自然経過の範囲内なのである。
 両親の訴える「治らないかぜ」が、このような自然経過で説明がつかないほど遷延しているものなのか、それとも、自然経過の範囲内で治っているが、反復しているものなのかを見極めることは、その原因を考える上で重要である。どちらの場合にも、保護者は「かぜが治らない」と訴えるが、上記2つはそれぞれ、感染症の「遷延化」と「反復」という異なった病歴である。数カ月間にわたってかぜが治らないという訴えのほとんどが後者であり、よく聞くと、感染と感染の間の切れ目がある。

◇乳幼児の「喘鳴」への対処
 かぜが自然経過で説明がつかないほど遷延してしまう場合には、そのほとんどに「喘鳴」が認められる。乳幼児期の喘鳴は、かぜの遷延化、重症化に寄与している 4)。注意すべきは、これらの「喘鳴」の全てが「喘息」ではない点である。乳幼児は気道内径が狭い、肺弾性収縮力が乏しい、気管支平滑筋が少ない、分泌物が多いなどの理由から、喘息児でなくても喘鳴を来しやすい 5)。乳幼児喘鳴の表現型(phenotype)については様々な分類が提唱されているが、Tucson Children’s Respiratory Studyによる分類 6)が有名である。
 本分類では乳幼児喘鳴を、

(1)乳幼児に発症し3歳までに改善するもの(transient early wheezers)、
(2)成長とともに徐々に増悪するが6歳以降に改善傾向となるもの(non-atopic wheezers)、
(3)6歳以降に喘鳴が目立つようになるもの(IgE-associated wheezers)

――の3つに分類しており、この中でいわゆる「喘息」は、IgE-associated wheezersを指す。
 ウイルス感染症の遷延化、重症化はこれらの表現型全てに認められるため、乳幼児喘鳴の鑑別は小児科医でも困難であり、必要に応じて診断的治療としてロイコトリエン受容体拮抗薬や吸入副腎皮質ステロイド薬を開始することもある。β2刺激薬などの気管支拡張薬はtransient early wheezersやnon-atopic wheezersには効果が得られにくい 7)。喘鳴を伴いながら自然経過をで説明できないほどかぜ症状が続くような症例は、小児科医への紹介が望ましいといえるだろう。
 自然経過で説明のつく範囲のかぜを反復している場合、その多くは、保育園や兄弟の存在などの外的要因が原因である。特に低年齢(3歳未満)で保育園を利用する場合はひっきりなしにかぜを引く児も多い。そのため、保育園に通う児の保護者には、保育園に通っているとかぜを反復すること、かぜを反復しながら免疫が徐々に強化されていくことを事前に説明しておくとよい。中には、乳幼児喘鳴という内的な要因と、保育園という外的な要因が混在してかぜの遷延、反復につながっている児も多く、どちらが原因であるといえないケースも多い。

◇原発性免疫不全を疑う10の徴候
 頻度は少ないながらも、乳幼児ではかぜを繰り返す原発性免疫不全症も存在する。乳幼児期に一般的なウイルス感染症を反復する場合には、免疫の中でも細胞性免疫が障害されている可能性が高い。乳幼児期に細胞性免疫不全がみられる代表的な原発性免疫不全症は、「重症型複合型免疫不全(Severe Combined Immunodeficiency: SCID)」、「Wiskott-Ardlich症候群 (WAS)」、「DiGeorge症候群 (DGS)」である。
 SCIDであれば発育不良や難治性下痢が、WASであれは出血傾向や難治性湿疹が、DGSであれば顔貌や口蓋形成の異常が見られることが多く、併存症がこれらの疾患を疑う鍵となる。すなわち、「かぜが治らない」に加えて何らかの慢性的な異常所見を認める場合、原発性免疫不全症も考慮に入れて専門医への紹介を考えるべきである。
 ここまでは「かぜが治らない」症例の対応について述べてきたが、原発性免疫不全症を疑うサインは「かぜが治らない」だけではないので、重要なサインを察知して原発性免疫不全症を見逃さない姿勢も大切である。
 原発性免疫不全症の症状は、感染症の「遷延化」、「反復」以外にも、「重症化(一般的な感染症が重症化する)」、「難治化(一般的な感染症が治らない)」、「日和見感染症(弱毒菌に感染する)」などがあり、疾患によって症状の出現の仕方が異なる。そのため、前述の通り、慣れない医師が原発性免疫不全症を診断することはなかなか難しい。厚生労働省原発性免疫不全症候群調査研究班が、「原発性免疫不全を疑う10の徴候」という分かりやすいイラストを作成しており 8)(表3)、このようなツールを利用して、幅広く原発性免疫不全症のスクリーニングをかけていくのがよいと思われる。原発性免疫不全症を疑った段階で、専門医への紹介を考慮すべきであろう。

表2 原発性免疫不全症を疑う10の徴候(厚生労働省原発性免疫不全症候群調査研究班による)
1つ以上当てはまる場合、原発性免疫不全症がないか専門の医師に相談すること。この中で乳児期早期に発症することの多い、重症複合免疫不全症は緊急に治療が必要。

1. 乳児で呼吸器・消化器感染症を繰り返し体重増加不良や発育不良が見られる
2. 1年に2回以上肺炎にかかる
3. 気管支拡張症を発症する
4. 2回以上、髄膜炎、骨髄炎、蜂窩織炎、敗血症や皮下膿瘍、臓器内膿瘍などの深部感染症にかかる
5. 抗菌薬を服用しても2カ月以上感染症が治癒しない
6. 重症副鼻腔炎を繰り返す
7. 1年に4回以上中耳炎にかかる
8. 1歳以降に、持続性の鵞口瘡、皮膚真菌症、重度・広範な疣贅(いぼ)がみられる
9. BCGによる重症副反応(髄膜炎など)、単純ヘルペスウイルスによる脳炎、髄膜炎菌による髄膜炎、EBウイルスによる重症血球貧食症群に罹患したことがある
10. 家族が乳幼児期に感染症で死亡するなど、原発性免疫不全症候群を疑う家族歴がある

【参考資料】
1) Colds in children. Paediatr Child Health. 2005;10:493-5.
2) Dalal I, Roifman CM. Immunity of the newborn. TePas E, ed. UpToDate. Waltham, MA: . UpToDate Inc.(Accessed on Aug 25, 2018.).
3) Long SS, Pickering LK, Prober CG.Principles and Practice of Pediatric Infectious Diseases 4th Ed.. Elsevier, Philadelphia, 2012.
4) Corne JM, Marshall C, Smith S, et al. Lancet. 2002;359:831-4.
5) 日本小児アレルギー学会. 乳幼児期の特殊性とその対応. 小児気管支喘息治療・管理ガイドライン. 協和企画, 東京, 2017.
6)  Taussig LM, Wright AL, Holberg CJ et al.J Allergy Clin Immunol. 2003;111:661-75.
7) Depner M, Fuchs O, Genuneit J, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2014;189:129-38.
8) 厚生労働省原発性免疫不全症候群調査研究班(2010年改訂)「原発性免疫不全を疑う10の徴候」
 

朝日新聞記事「おたふくワクチンの葛藤」を読んで気になったこと

2018年08月06日 07時01分40秒 | 感染症
 2018.8.3の朝日新聞に「おたふく風邪の葛藤」(科学・医療社説担当、行方史郎氏)という囲み記事が掲載されていました。
 しかし、小児科医の私から見ると、調べが足りない印象が無きにしも非ず。
 一部抜粋しながらコメントさせていただきます(以下、茶色い字が記事です);

(社説余滴)おたふくワクチンの葛藤 行方史郎
 2015~16年に300人余りの患者を調べた日本ログイン前の続き耳鼻咽喉(いんこう)科学会の調査では、15人(4・5%)が両耳の聴力を失っていた。「1千人に1人」と言われてきた難聴の頻度については「300人に1人」との結果が今年発表された。
 おたふく風邪はいまだ流行を繰り返し、難聴になれば有効な治療法はない。筆者が子どものころには「小さいときにかかっておいた方がいい」などと言われたものだが、甘くみていい病気ではない。


 その通りです。

 有効なワクチンがあるにはある。ただ、副作用で発熱などを伴う髄膜炎が起きることがある。先進国では公費で受ける定期接種が当たり前だが、日本は自費で受ける任意接種だ。
 接種率は4割程度にとどまり、関連学会などが5月、定期接種化を求めて厚生労働省に要望書を出した。


 定期接種の要望はずっと以前からされています。
 HPVワクチン(子宮頚癌ワクチン)が定期接種化した際、小児科医は「おたふくかぜワクチンの方が昔から要望してきたのに、なぜ?」と疑問を抱きました。


 現在おたふく風邪ワクチンの製造に使われるウイルスは、89~93年に、はしかや風疹と組み合わせた3種混合ワクチンとして定期接種で使われたことがあり、髄膜炎の発生が社会問題化した。


 この原因は、ワクチンを製造する製薬会社が勝手にワクチン株を変更して造ったため起こったトラブルです。
 近年も化血研でトラブルがありましたが、昔からの体質が残っていたということです。
 認可されたワクチン株を使用していれば、「MMRワクチンは世界的に見ても優秀なワクチン」という歴史的評価になったと思います。

 定期接種化しても髄膜炎の発生は当時ほど高くならないとの見方もあるが、一定の割合で起きることは避けられない。一方、髄膜炎の起きにくい新しいワクチンが登場する見通しは当面なく、現状放置がいいとも思えない。

 現在予定されているワクチン株は、欧米で使用されている「副反応は少ないけれど効果も低い」ウイルス株です。ある資料では、1回接種で80%、2回接種で92%の有効率にとどまります。
 米国の一部でおたふく風邪が流行した際、2回接種済みの子どもも罹患してしまい、ダメ押しに3回目の接種をしてやっと流行が終息した、という事例があります。

 過去からくみ取るべき教訓は何か。予防効果と副作用と、どの程度なら国民に受け入れられるのか。まずはそこから議論する必要がある。

 まずは執筆した記者さん、もっと調べ尽くしてから記事を書いていただきたいですね。

 さて、予防接種は医療行為です。
 効果のある薬は、副作用もあるのが普通です。
 残念ながら「副反応のないワクチンはない」のが真実です。

 その感染症が流行した際・罹った際の負担と、ワクチンの効果と副反応を天秤にかけて「接種する価値がある」と判断されたものが市場に出回っているものです。
 しかし、国任せにしないで、ワクチンを受ける人自身が判断できる知識が必要です。
 それには感染症とワクチンの啓蒙・教育から見直さないと、先に進めません。

 私はHPVワクチンのように「希望者には無料で接種可能、ただし国は推奨しない」というスタンスでもよいと思っています。
 そのワクチンを接種すべきかどうか、他人任せにしないで各個人で情報収集し考えるようになるから。
 そうしないと、いつまで経っても「やれと言われたからやったのに・・・」という被害者意識が消えません。

 イギリスではHPVワクチンを接種する(本人談)。対置に教育・啓蒙しているそうです。
 そして接種率は8割を維持しています。