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小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「ウンココロ」(寄藤文平/藤田紘一郎著)

2014年03月06日 07時23分21秒 | 小児医療
副題:しあわせウンコ生活のススメ
実業之日本社、2005年発行

★ 帯のキャッチコピー
通になるなら、便通がいい。
ウンコを知ることは、自分の体を知ることです。絵でわかる「ウンコの本」。
ウンコで、きれいになる。
あなたがウンコを理解すれば、ウンコはあなたのためにがんばってくれる!


便秘関連本の3冊目。

これは異色で、ウンコ大好きな著者が作ったある意味「おとなの絵本」。
現代人が嫌うウンコを、愛をもって描ききっています。
なかなかの観察眼です。
本全体が黄色く染まっており、各ページにはウンコの絵があふれているのです。
かといってスカトロ趣味というわけではなく、回虫を自分のお腹で飼っていることで有名な医師の藤田先生の協力を得て、肩の凝らない啓蒙書になっています。

統計的な数字がちりばめられていて、説得力があります。
「究極のウンコ」を各人が語るところが面白い!
体を「ウンコ製造工場」に例えて、いろいろなウンコができる過程をどこが問題なのか?という視点でイラスト化しているのは斬新。
また、食事内容と腸内細菌の善玉菌・悪玉菌・日和見菌バランスが詳述されており、フムフムと興味深く拝見しました。
前2冊では食物線維を水溶性と不溶性に分けて論じていましたが、この本では一括りに扱っていました。発行が2005年と古いせいかな?

ただ、イラストの文字が小さく、老眼が入っている私の目には読みにくいことが残念でした。


メモ
自分自身のための備忘録。

ウンコの量
 日本人が1日に出すウンコは平均200g。
 しかし便秘に悩む日本人のOLのウンコは80gしかありません。
 太古のアメリカ先住民族のウンコは1回分で800g。麦わらや羽毛、種子入り。
 太平洋戦争中の日本人兵のウンコは400g、アメリカ兵のウンコは100g。
 世界の1日の総ウンコ量は124万2200トン(=東京ドーム1個分)。

日本人の食物線維摂取量の変遷
 戦争直後は1日27g、今では12gと著減。理由は欧米化した食生活。

究極のウンコとは?
「バナナ型で、切れがよく、ドボンと沈み、黄褐色、量は100-200g」(下山孝先生、元兵庫医科大学教授)
「ウンコは水に浮かぶのがよい。食物線維が多ければガスが発生するから浮かぶ。そして数分後に泡を残して沈む。これが究極のウンコだ。」(辻啓介教授、姫路工業大学)
「ウンコしたーいって思って便所に入って、他のことを考える前にスルッと出て、見たら大きいのが出ていた。その時のウンコかな。」(五味太郎、絵本作家)
「ウンコの量はバナナ3本分、便切れがさわやかで、練り歯磨きや味噌の固さ、黄褐色でにおいはかすか、ゆっくり水に沈む」(著者)
・・・バナナ1本は約100gだから、理想のウンコは約300g。肉食中心にしているとバナナ1本分くらいになるから、当面のスタミナは出るが、やがて体調がおかしくなる。ウンコの水分は75%が理想で、90%以上になると下痢便となる。

腸内細菌いろいろ
 ウンコの半分くらいは細菌でできている。
 ウンコ1g当たりに1兆個、500-1000種類の細菌がいる。
 腸の中には500種類100兆個以上の菌が棲んでおり、腸内細菌の全重量は1.5kg
 おおきく「善玉菌」と「悪玉菌」に分けることができ、善玉菌が増えると腸の調子は良くなり、悪玉菌が増えると腸の調子が悪くなる。
 しかし悪玉菌は全く不必要な菌ではない。外敵菌から腸を守るという大切な役割を担う。善玉菌と悪玉菌のバランスが大切。
善玉菌
乳酸菌:腸の働きを活発にして消化吸収を助け、免疫力を高める働きがある。
ビフィズス菌:大腸の調整役。ビタミンを作ったり有害物質を押さえる働きがある。
悪玉菌
ウェルシュ菌:大腸の中のものを腐らせる。
大腸菌:増えすぎると腸の働きが悪くなる。一方で、強い外敵菌をやっつけてくれる用心棒でもある。
日和見菌:善玉菌とも悪玉菌ともいえない菌。健康なときは何も悪さをしないが、悪玉菌が力を伸ばすと悪い働きを倍増させる。

腸内細菌バランスとウンコ
・BAD(悪玉菌が多い)・・・肉ばっかり食べているヒトの状態。悪玉菌が勢力を伸ばし、乳酸菌やビフィズス菌が少なくなる。ウェルシュ菌が増えてとてもくさいウンコになる。悪玉菌の作る有害物質は、老化を早めたり、生活習慣病の元になったりする。イライラして肌や髪も荒れる。
・GOOD(善玉菌が多い)・・・ウンコは軟らかくてふかふかになる。免疫力が高まって病気にも罹りにくくなる。気分もよく、肌もつやつやになる。
 「善玉菌いっぱい・日和見菌はほどほど・悪玉菌少々」というのがいちばん理想的なバランス。

食生活モデルと腸内細菌バランス
  菌の%(乳酸菌:ビフィズス菌:大腸菌:ウェルシュ菌)
□ 超健康モデル(30:40:20:10)
□ 魚ばっかり(20:10:30:30) → 悪玉菌が増えようとしても善玉菌の抵抗にあいそんなに増えない。
□ (赤身)肉ばっかり(10:10:30:50) → 悪玉菌が増えまくってくさくなり、免疫力も低下。性格は横暴、短期、怒りっぽい。
□ 野菜ばっかり(30:35:20:10) → 善玉菌が増えて免疫力も高まるが、体力は不足気味。
□ コメばっかり(20:25:20:15) → 善玉菌がやや優位。持久力はあまりなく、ビタミン不足。
□ パンばっかり(20:20:30:20) → コメばっかりより善玉菌が少なくなります。あまり噛まないので顎の発達が悪くなり皮膚が弱く持久力なし。
□ お菓子ばっかり(5:0.01:25:20) → 悪玉菌天国。性格は切れやすくなる。
□ コンビニ食/ファストフード/インスタント食品ばっかり(5:0.01:15:10)→ 善玉菌はほぼ全滅
□ ダイエットで食べない(5:0.01:25:20) → 菌が住めない状態で悪玉菌だけ。
□ ストレスまみれ(5:1:20:20) → 全体的に菌量が減り、悪玉菌優位。
□ お酒ばっかり(10:5:20:20) → 菌量は全体的に少なめで悪玉菌優位。
□ ヨーグルトばっかり(40:25:10:5) → 善玉菌絶対優位。栄養分が不足しているので体力なし。

悪玉菌にもよいところがあるのさ・・・。
 例えば大腸菌はビタミンを合成したり、ほかの有害菌が大腸に定着するのを妨害したりして、僕たちが病気にならないようにしている。つまり、悪玉菌も決して「いらないもの」というのではなく、善玉菌とのバランスが大切ということ。

現代女性の48%は便秘に苦しんでいる。
 若い女性のウンコを調べると善玉菌であるビフィズス菌が少なく、悪玉菌の数が多いことに驚かされる。ウンコの水分量は60%と低く、かちんかちんである。
 その理湯として、食事時間が不規則なこと、決められた排便タイムがないこと、お菓子やパンなど残渣物のでないものを食べていること、ダイエットによる極端な食事制限、等があげられている。

日本人のウンコを改善するための提言
 食生活の改善が欠かせない。なるべく悪玉菌を増やすような動物性脂肪や動物性タンパク質の摂取を控えること、そして善玉菌を増やす発酵食品や野菜、魚介類を増やすこと、とくに食物線維を積極的にとるよう心がける。
 目指すウンコの大きさは、男性では1日300g、女性でも200g以上が欲しいところだ。色は黄色系が好ましい。

「腸育をはじめよう!」(松生恒夫著)

2014年03月05日 06時49分52秒 | 小児医療
副題:子どもの便秘を放置したらダメ!
講談社、2013年発行

★ 帯のキャッチコピー
・約5割の子どもが「便秘」かもしれない!?
・「腸」のスペシャリストが教える、親子ではじめる「排便力」の身につけ方。
・親も子どもも一緒に、お腹丈夫で元気になろう。
・「賢い腸」を育てると、子どもの健康の不安がなくなる!
・排便は「腸」と「脳」の連係プレー! だから「腸」が元気になると「脳」も元気になる!



 たしか著者がTVの健康番組に出演した際、「便秘にはオリーブオイルがよい」と解説していたのを聞いて、この本を購入した記憶があります。
 買いためた手元の便秘関連本を読もうと一念発起、これが2冊目です。

 著者は消化器内科医で小児科医ではありません。
 しかし「便秘外来」を担当すると、親子そろって便秘に悩んでいる患者さんに多く出会い、安易に薬物治療を続けるより「薬を使わないで便秘を解消する方法」を模索した結論(腸育)がこの本になったと記しています。

 便秘のメカニズムやタイプの解説はそこそこで、具体的な食事内容とか、生活指導が中心に述べられています。
 「なぜそうなるのか?」にこだわる私には少々物足りないのですが、一般向け啓蒙書はこのくらいのスタンスの方がわかりやすいのでしょうね。

 乳酸菌に植物性と動物性があるなんて、知りませんでした。
 しかしこの本には「学術的分類ではなく、日本食のよさを再認識してもらうための方便」と記されており、専門家が使う言葉としては何だかなあ、という印象も受けました。

メモ
自分自身のための備忘録。

安易な下剤の服用が重症便秘を引き起こす!
 便秘の相談に小児科を受診すると「ピコスルファートナトリウム(商品名:ラキソベロン)」や「マグネシウム製剤(俗称:カマ)」や漢方薬が処方されることが多く、「腸の機能を復活させて自然の排便をさせよう」とする発想がありません。保護者の方にも、小さいうちから腸内環境を整えて排便習慣をつけるという発想が必要です。
 10代後半~20歳代の慢性便秘症の患者さんには、小さい頃から下剤を常用していた人が多いこともわかってきました。しかし下剤で便を出す習慣が身についてしまうと、自分で排便をする力が衰えます。大人向けに処方される下剤の70%以上はセンナ、大黄、アロエなどを主成分とした「アントラキノン系」です。これらは即効性はありますが副作用も大きく、常用しているとさらに便秘がひどくなることもあります。

ヨーグルトを食べると便秘が治る?
 まったくの嘘ではありませんが、ヨーグルトに含まれる動物性乳酸菌は実は腸に届きにくいので、ヨーグルトだけを食べ続けて便秘を解消するということはあり得ません。

朝食抜きが便秘の原因になる。
 朝食を食べて空っぽの胃に食べ物が入ってくると腸のぜん動運動が強まって「胃・結腸反射」が起きます。それに合わせて大ぜん動 (※)が起こり、大腸まで進んでいた便をさらに先(肛門)へと押し出すのです。朝食を抜くとこの胃・結腸反射が起こらないため、排便になかなか達しません。
 その上朝食を抜くということは、当然食事量も減りますので、食物線維の摂取量も少なくなります。
※ 大ぜん動は1日に数回しか起こらず、特に起こりやすいのは朝食後から1時間以内といわれ、通常は10-30分しか持続しません。

便秘にはオリーブオイル
 オレイン酸を含むオリーブオイルは一時的に比較的多めの量を摂った場合、小腸であまり吸収されずに小腸を刺激します。また小腸に残った食物と混ざり合うことで腸内の滑りがよくなることがわかっています。 
 オリーブオイルは生のオリーブのみを搾って作られますが、「バージンオイル」は生のオリーブのみを搾って濾過しただけのフレッシュなオイル。そのなかでも最高級品の「エキストラ・バージン・オリーブオイル」は香りもよくおいしいので初心者にお勧めです。
 オリーブオイルの摂取の目安は1日に15-30mlが理想的。
 イタリアでは子どもたちの便秘予防として、ティースプーン1杯のオリーブオイルを摂ることが推奨されているそうです。
 寝る前に飲む飲み物としてお勧めなのが「オリーブココア」。オリーブオイルとココア、お好みのオリゴ糖にお湯を咥えたもので、体を温め、腸の働きを改善する効果があります。

腸と腸内細菌
 腸には人間の免疫システムの60%が集中しています。
 成人の小腸は6-7m、大腸は1.6-1.8mで、この2つを合わせた面積は、テニスコート1面ほどになります。
 腸の健康を大きく左右するのが、腸の中に棲む約500種類、合計100兆個ともいわれる腸内細菌。
 腸内細菌は大きく3つに分類されます。
1.善玉菌・・・乳酸菌が代表。食べ物の消化・吸収を助けて体の免疫力を高めます。
2.悪玉菌・・・大腸菌が代表。腸内をアルカリ性にして有害物質を作り出すため、便秘の原因になります。
3.日和見菌・・・腸内環境によりいずれにもなりうる菌群。
 腸内では常に善玉菌と悪玉菌が勢力争いを繰り広げていて、それぞれの菌の腸内バランスは「善玉菌20%、悪玉菌10%、日和見菌70%」が理想的といわれています。

下剤の種類いろいろ
 下剤は大きく分けて「刺激性下剤」と「機能性下剤」に分けられます。
 「刺激系下剤」はさらに大腸の粘膜を刺激する「大腸刺激性下剤」と小腸を刺激して便を出す「小腸刺激性下剤」に分けられます。
 アントラキノン系下剤は大腸刺激性下剤に分類され、効果はあるものの副作用も大きい薬です。長期にわたって使用すると大腸黒皮症(大腸メラノーシス)という病気になります。これは下剤の代謝産物が腸の粘膜に入り込んでしまう状態で、具体的な自覚症状はありませんが、腸を動かす神経の層にも入り込むため、薬を飲んでいるにもかかわらずますます腸の動きが悪くなります。よく「下剤を飲んでいると耐性ができて効かなくなる」といわれますが、実はそうではなく」、このような大腸黒皮症になってしまっていることが多いのです。
 一方、小腸刺激性下剤は食用で使われるオリーブオイルやヒマシ油などが該当し、これらは副作用が少ないことからお勧めです。
 機能性下剤には副作用の少ない「塩類下剤」や、腸内の水分を増やして便を軟らかくする「糖類下剤」などがあります。

「宿便」「腸年齢」は医学用語?
 医学的には宿便と便秘は同義語です。宿便とは腸壁に古い便がこびりついたものだといわれていますが、ぜん動運動を繰り返している腸壁には、そもそも便がこびりつかないので、宿便がたまることはありません。
 雑誌やテレビでよく取りあげられる「腸年齢」についても、腸内の映像だけを見てわかる「腸年齢」というものも存在しません。

おとなとは違う子どもの便秘
 子どもにとって1歳までは排便は反射的な行為ですが、その後大脳が発達して排便の訓練が行われると、便意を自覚できるようになります。
 おとなの便秘は大抵S状結腸に便が溜まりますが、小さい子どもの場合は「直腸の中」に便が溜まるのが特徴です。
 子どもはお腹が痛くても上手く伝えられないので、日頃からチェックしていないと便秘に気づけません。
 週2回以下の排便が3ヶ月以上続いていたり、たとえ週に3回以上排便があっても痛みを伴うような場合は便秘を判断されます。

理想の便の状態
色:黄褐色~茶褐色
量:バナナ2-3本程度
硬さ:硬すぎず軟らかすぎない(練り歯磨き状)
回数:1日1-3回
におい:においはあれどキツイにおいではない。

便秘の分類
 大きく3つに分けられます。
1.弛緩性便秘
 腹筋の筋力が低下したり、大腸のぜん動運動が弱くなることで、スムースに便を肛門の外に出せなくなっている状態のこと。筋力の弱い女性や高齢者に多いとされています。
2.けいれん性便秘
 腸の働きが過敏になり、便秘と下痢を繰り返すタイプ。ストレスが大きな原因で、男性に多いのが特徴です。
3.直腸性便秘
 直腸までは便が下りてきているのに、便意が起こらないタイプ。
 ふつうは朝食を摂ると腸のぜん動運動と分節運動によって「胃・結腸反射」が起こり、その刺激が知覚神経を介して脳に伝わることで排便反射が起こります。便が直腸の中に進入すると、直腸の壁が伸びてその刺激で便意が起こります。便意を感じたときに便を出さないでいると、直腸の壁は伸びた状態のままなので、大脳へのサインも弱まってしまいます。こうして我慢が度重なることで、刺激に対する直腸の感受性が低下して、直腸内に便が入っても便意が起こりにくくなり、便はさらに溜まっていきます。
 溜まった便は硬くなるため、無理に出すことで肛門が切れて出血するようになると、排便がつらくなり、その痛みから便意を感じてもこらえてしまうようになります。またその状態が続くと便が溜まったことを脳に知らせるセンサー(知覚神経)の感度が鈍るので、ますます便が出にくくなります。この状態が長く続くと直腸が太くなるため、正常な排便感覚が失われていくのです。

母乳の中には善玉菌のエサになる「乳糖」が豊富。
 母乳に含まれる乳糖はビフィズス菌のエサになるので腸内にどんどん善玉菌を増やしてくれます。そのため授乳中の赤ちゃんの便はほとんど匂いがありません。

オリゴ糖は子どもの便秘に有効
 オリゴ糖は単糖(ブドウ糖など)が2-20個結合したもので、分解されることなく大腸まで届き、善玉菌であるビフィズス菌のエサになります。
 口から入ったオリゴ糖は大腸に到達し、腸内細菌に食べられます。腸内細菌には善玉菌の他、悪玉菌や日和見菌などもありますが、オリゴ糖を食べた善玉菌が乳酸などの酸を出すため、この酸を苦手とする悪玉菌は死滅し、善玉菌だけが増えるので腸内環境が整い、便秘改善に高い効果があるのです。
 オリゴ糖というと甘味料を連想する人が多いのですが、実は様々な食品に含まれています。
(例)乳糖(牛乳、母乳)、イソマルトオリゴ糖(ハチミツ、味噌、醤油など)、フラクトオリゴ糖(ヤーコン、玉ねぎ、バナナなど)、ラフィノース(ビート、キャベツ、アスパラガス等)、乳果オリゴ糖(ヨーグルト)
 善玉菌にはたくさんの種類があり、ビフィズス菌だけでもヒトの腸内には10種類以上あるといわれています。またそれぞれが好むオリゴ糖は違います。
 「モニラック」という下剤もオリゴ糖の一種。体への負担が少ないので、医薬品として服用するのであればモニラックが第一選択です。

食物線維の性質
保水性:便が軟らかくなり、かさが増える。
粘性:水に溶けるとゲル状になる。腸の内容物はゲル状になると腸管をゆっくり移動する。
吸着性:コレステロールや食べ物の有害物質を表面に吸着して便の中に排泄。
発酵性:一部は大腸内の善玉菌によって分解、発行する。結果的に大腸の中が酸性になって腸が健康になる。

日本人の食物線維摂取量
 1955年頃は1日22gほど摂取していたものが、現在では平均14g前後、特に朝食抜きなどにすると10-11gになります。
 便秘を解消するには1日20gが一つの目安です。
 日本人の食事摂取基準2010年版によると、1日に理想とされる食物線維の量は18歳以上の男性では19g、女性で17g以上であり、これは両手山盛り一杯の野菜の量です。
 レタスやキャベツといった葉物野菜をサラダなどでたっぷり食べているつもりでも、見た目ほどはたくさんの食物線維は摂れていません。これらは加熱し、できればスープなどにしてたくさんの量を摂った方が効率的です。

不溶性食物線維と水溶性食物線維
 不溶性食物線維は玄米やニンジン、ブロッコリーなどに含まれ、水を吸って何十杯にもお腹の中で膨らむことで便のかさを増やし、大腸のぜん動運動を刺激します。
 水溶性食物線維はなめこや海藻類に多く含まれ、水に溶けるとぬるぬるとしたゲル状になり、胃の中で食べ物を包み込んで消化・吸収を手助けします。また、腸の中にいる善玉菌のエサになって善玉菌を増やし、腸内環境をよくしてくれます。
 不溶性食物線維で便のかさを増やしたところに水をたくさん吸った水溶性食物線維の便がまざることで、便は水分を含んだ排出しやすい状態になり、排便がスムースになります。不溶性食物線維ばかりで水溶性食物線維の摂取が少ないと、お腹が張るばかりで便がスムースに排出されません。
 理想的なのは「不溶性2:水溶性1」のバランスです。
(例)キウイフルーツ・・・食物線維が豊富で、不溶性2に対して水溶性1という理想的バランス。
(例)プルーン・・・食物線維が豊富で、水溶性:不溶性=1:1。特に乾燥されたドライプルーンは栄養素がギュッと凝縮されており、体に有毒な活性酸素を中和する「フェノール」という抗酸化物質も含まれています。また食物線維の他にも便秘予防や腸の活性化に有効な「ソルビトール」という成分をはじめ、ビタミン群、カリウム、マグネシウムなどの栄養素も豊富です。

植物性乳酸菌の有用性
 ヨーグルトは動物性乳酸菌、発酵食品である味噌、漬け物、納豆、醤油、甘酒などは植物性乳酸菌に分類されます(実はこれは学術的分類ではありません)。
 植物性乳酸菌は栄養が少ない過酷な環境でも育つ菌で、酸度の高い胃液や腸液にも耐えられるという、「胃液や腸液で死滅することなく大腸まで届く力が強い」のが特徴で、生きたまま腸に届いた乳酸菌は腸内環境を弱酸性にし、善玉菌を増やします。


「おかあさんと一緒になおす子どもの便秘」(小林弘幸著)

2014年03月02日 13時42分27秒 | 小児医療
幻冬舎、2013年発行。

★ 帯に書いてある文言;
「今までなかった!! 赤ちゃんから13歳までの子どもの便秘解消ガイド、決定版」
「おかあさんの悩みをスッキリ解決」
「便秘外来4年半待ちの名医が教えます!」
「便秘が治るだけで、こんなにもイイコトが」
 ・風邪を引かなくなる!/ダイエットになる!/勉強ができるようになる!/集中力アップ/積極性アップ!


なんだが、すごいことになってます(苦笑)。
著者の肩書きは順天堂大学小児外科教授。帯の通り「小児便秘外来」で有名らしい。

私の日々の小児科診療の中で、子どものお腹のトラブルはありふれた症状です。
どちらかというと、下痢より慢性の便秘の相談が多いですね。
年齢により対応が異なりますが、基本的には赤ちゃんは赤ちゃん用の便秘薬、幼児期以降はおとなに準じた下剤を使用し、下剤を長期にわたり手放せないときは漢方薬を勧めるのが私のスタンスです。
この本は一般向け啓蒙書ですが、何か診療のヒントになることはないかな、と目を通してみました。

まず、乳幼児期の便秘は大人とは違うんだ、と力説されており、私も同じ印象を持っていたので大いに頷きました。
それに伴い、食事指導も大人と子どもでは微妙に異なるという説明にも納得できました。
ただ、便秘の分類法が学生時代の講義と違うのが気になりました・・・昔は「弛緩型」「けいれん型」に分けるのが一般的でしたが、この本では「直腸肛門型」「ストレス型」「直腸ぜん動運動不全型」「その他の病気が隠れている場合」に分けられています。
この分類は学会レベルで認められているのかな?・・・要確認ですね。

小児外科では「肛門を一過性に広げる治療がある」ことは知りませんでした。
詳しい説明はないのでイメージがわきませんが、いったいどのような手技なんだろう?

それから、エクササイズやマッサージも参考になります。

また、家族が心配して頑張るほど本人のプレッシャーになりストレスの悪循環に陥ってしまう「現代家族の病理」が便秘にも当てはまることに驚かされました。
子どもの心の問題の書籍には必ずといっていいほど出てくる病態です。
なんだか、生きづらい世の中になってしまたのですねえ・・・。


メモ
自分自身のための備忘録。

こんなときに便秘を疑いましょう
1.腹部を触ると、かたいような張りがある。
2.排便に苦痛を感じている。
3.3日以上ウンチが出ていない。

子どもの便秘は「本人のせいではない」
 おとなの便秘と子どもの便秘では決定的な違いがあります。おとなの便秘は食生活や生活習慣の乱れなどが主な原因であり、本人の自覚と努力でほとんどの場合が改善されます。ところが子どもの場合には、本人に「がんばりなさい」と言うのは逆効果。「ウンチが出ないくらいどうってことはない」とゆったりした気持ちで、気楽に接して上げてください。
 実は”気にしない”ということが、子どもの便秘解消の特効薬なのです。
 ウンチが出ないことを責めてマイナスイメージを植え付ける保護者は、子どもに「ウンチが出ない自分はダメ人間だ」という劣等感を持たせることになります。その環境が彼らを追いつめ、ますます便秘が治らなくなります。

便秘は遺伝する?
 という説がありますが、今のところ科学的根拠はありません。
 ただ、同じ家で暮らしている家族は、食生活や生活時間が似ていますし、同じストレスを共有していることも多いので、同時発生的に便秘になる可能性が高いのです。例えば、肉が多くて野菜が少ない食事を一緒に食べていたら、食物線維が不足して便秘の原因になります。また夜更かしが多くて朝寝坊という生活パターンを続けていると、親子で便秘になるのも当然です。運動が好きでない保護者の方は、屋外よりも室内でお子さんと一緒に遊ぶことが多くなる傾向があり、その結果、運動不足から親子仲良く便秘になる可能性が高まります。

子どもの便秘のタイプ「直腸肛門型」と「ストレス型」
直腸肛門型】・・・ウンチを押し出す力が弱いことによる便秘で、子どものほとんどはこのタイプ。
 直腸や肛門のセンサーが未発達で、ウンチが直腸にたまってきてもそれがわからないために「そろそろウンチを出しましょう」という指令が出ません。そして腹筋や肛門括約筋など、ウンチを外に押し出すために必要な筋肉も、まだ十分な力を持っていないのでウンチが腸内にたまりやすいのです。
ストレス型】・・・腸が繊細%敏感なタイプ。
 子どもに限らず、全世代がいつでもなり得る便秘がこのタイプです。自律神経の「交感神経」(アクセル)と「副交感神経」(ブレーキ)のバランスが崩れるために起こります。
 ストレスがかかると「交感神経」ばかりが体を支配してアクセルを踏み続けてブレーキ・休息の役割の「副交感神経」の出番がありません。ずっと運転中なのでへとへとになってしまいます。一方の「副交感神経」の働きの一つに腸ぜん動を促すというものがあります。ぜん動は腸の内容物を肛門の方へ送る動きです。「副交感神経」が働かないと「ウンチを肛門へ送りなさい」という指令が出なくなり、便秘を引き起こします。
★ おとなにあって、子どもにはない便秘のタイプ;
1.直腸ぜん動不全型・・・偏った食生活や生活習慣、ストレスから腸内の善玉菌が減り、悪玉菌が支配するようになると正常な働きができなくなり便秘を引き起こします。
2.その他の病気が隠れている場合・・・糖尿病、高血圧などの生活習慣病が便秘の原因になります。糖尿病は自律神経の乱れを引き起こして腸のぜん動が悪くなったり、食事の量が減ってウンチが少なくなったりします。そのため、ウンチがたまるまでに時間がかかり、腸内にいる時間が長すぎて水分を絞り次田、硬いウンチになってしまうのです。

年齢と便秘のタイプ
 腸の神経は2歳頃までに成熟しますが、乳児から幼児、特に4歳くらいまでは腹筋が発達していないので、このタイプの便秘がほとんどです。
 腹筋が発達する5歳以降もこのタイプの便秘が続きますが、集団生活がきっかけになりストレス型が登場します。入園・入学、クラス替えがストレスを生み便秘になることがありますが、慣れとともに解消されることが多くあまり心配は要りません。
 問題は「学校でウンチをしたくない」からと便意を我慢して便秘になる子どもが多いことです。ストレス型の一型と考えられますが、食生活の改善やエクササイズだけでは治すことができません。なるべく朝、学校に行く前にウンチが出るように習慣づけて、学校で便意を我慢しなくてもすむようにするとよいでしょう。
 中学校進学後はおとなと同じ「直腸ぜん動不全型」へ変化します。受験勉強などで運動不足になるとともに合間にスナック菓子などを食べるので、腸内の元気だった善玉菌が付かれて悪玉菌に活躍の場を奪われやすくなります。さらに人間関係や成績などのストレスにさらされ「ストレス型」の便秘を併発する「複合型」の可能性も考えられます。
 そして・・・70歳くらいになると、「直腸ぜん動不全型」「ストレス型」「他の病気が原因の便秘」の他に、子どもの頃と同じ「直腸肛門型」の便秘にもなりやすくなります。

子どもの便秘にヨーグルトは効かない
 子どもの便秘はおとなの便秘と違い、腸内の善玉菌が減ったために起こっているのではありません。したがって腸内の善玉菌を増やす手助けをする乳酸菌を含んだ納豆やヨーグルトなどの発酵食品を食べても効果は期待できません(毒にはなりませんが)。

同じ「ストレス型便秘」でも子どもとおとなでは対応が異なる
 こどもが感じるストレスがおとなが原因です。
 おとなの場合は自分で環境を変えるなどの方法でストレスから逃れたり解消することができますが、子どもが感じているストレスのほとんどは子ども自身ではなく周囲の環境・周囲のおとな達がつくり出しており、子ども自身にはどうしようもないのです。
 こどもの便秘が、どうも食生活やエクササイズで改善しないという場合は、ストレスという可能性を考えてください。

便秘の子どもに接するときの3大原則
1.おおらかに明るく受け入れる
 ・・・雰囲気で子どもを追いつめないように。
2.ウンチが出ないことを責めない
 ・・・「何で出ないの? もっとがんばりなさい!」は禁句。
3.ウンチをすることへの恐怖感をなくす
 ・・・肛門が切れていたい、ウンチが出ないと叱られる、という経験はトイレ嫌いを助長します。

ウンチが硬くて肛門が切れて出血したときの対処法は?
 人肌くらいのぬるま湯で湿らせたやわらかい布で押さえましょう。しばらくすれば出血は止まります。
 このとき冷たい水や熱いお湯ではかえって傷口を刺激してしみて痛がります。
 繰り返し出血するときは小児科/小児外科を受診しましょう。

子どもに「力み方」を教える方法
 前傾姿勢をとり、お腹に手を当てて「う~ん、う~ん」といってみましょう。
1.便座に座って上半身を少し前に倒して前傾姿勢を取ります。
2.手をお腹に当てます。手を当てることでお腹に意識が向き、その部位に力を入れやすくなるのです。
3.「う~ん、う~ん」と声に出して繰り返します。「う~」というときにはお腹を凹ませて体に力を入れ、「ん」で力を抜きましょう。

綿棒マッサージもクセになる?
 綿棒マッサージで肛門に刺激を与えれば、ウンチが出やすくなるのは事実です。しかし強く刺激すればそれだけ効果があるというものではありません。肛門を傷つけないように注意してください。
 刺激を与えるなら、人肌程度のぬるま湯を、スポイトでぴゅっぴゅっとかけてあげる方が安全です。心地よい刺激でウンチが出やすくなります。水やお湯では痛みを感じるので必ずぬるま湯を使ってください。

母乳が便秘の原因になりますか?
 いいえ。母乳の成分が問題で子どもが便秘になることはありません。「私の食生活・おっぱいが原因でこの子が便秘になって苦しんでいる」などとは決して考えないでください。子どもの便秘の原因は腸内環境の性ではなく、ウンチを押し出す筋力が弱いためです。何を食べたかは関係ありません。

離乳食をはじめたら便秘になりました・・・。
 ミルクなどの液体に比べて、固体の離乳食は消化しにくいためです。また離乳食をはじめると一時的にぼにゅうやみるくをのむりょうがへることもあり、ウンチの水分量が不足しがちであることも一因になり得ます。お腹がなれてくれば、ウンチの出方も安定してくるので、水分を多めに飲ませてあげながら、マッサージでウンチを促して様子を見ていきましょう。便通をよくする水溶性食物線維を取り入れるのも効果的です。桃やプルーン、リンゴのジュースなど液体のものがいいでしょう。
 赤ちゃんの便通はなかなか案手せず、便秘又は下痢になることもよくあります。3-4日に一度でも、スルンとウンチが出ていればそれほど心配することはありません。

便秘対策として水分をたくさん取るべきでしょうか?
 無理にたくさん飲む必要はありません。飲みたいときに飲みたいだけあげてください。基本的に常温の水で十分です。
 トイレに行きたいなと思ったときは必ず行かせるように心がけましょう。子どものうちからオシッコやウンチを出すタイミングをコントロールするのは、あまりお勧めできません。子どもは1回に全部出し切れないこともあります。大人の感覚からすると短い間隔で、すぐにまたトイレに行きたがることもありますがそれを責めないよう心がけてください。

子どもの便秘にもオリーブオイルは有効ですか?
 有効です。オリーブオイルが硬くなったウンチを包み、滑りをよくして体外への排出を助けます。オイルで滑りやすくなったウンチはお尻を傷つけることも少なくなります。
 大さじ1杯飲まなくても、ティースプーンに1-2杯で十分ですので量を加減してください(多いと下痢することもあります)。

砂糖白湯(さゆ)、麦芽糖は便秘に有効ですか?
 効果は期待できません(悪影響もありませんが)。
 腸内環境を整えるのによいとされるオリゴ糖は善玉菌のエサになるため、便秘改善に効果があるといわれており、このあたりからの連想で「便秘には糖がよい」という説が広まっているようです。
 おとなの「直腸ぜん動不全型」便秘は腸内環境の悪化が大きな原因なので、善玉菌の働きを助けるために「多糖類」を取ることが役立ちますが、子どもに多い「直腸肛門型」の便秘にとって、腸内環境の変化は直接関係がありません。
 また砂糖や麦芽糖はオリゴ糖ほど腸内環境の改善に役立つというものではありません。
 あえていえば、ストレス型の便秘の場合に「甘くて温かい飲み物をとってホッとする→ ストレスが軽減→ 便秘改善に貢献する」というようなことが、多かれ少なかれあるかもしれません。

食物線維は便秘に有効?それとも無効?
 水溶性食物線維は有効、逆に不溶性食物線維をとりすぎると便が硬くなります。子どもとおとなでうまく使い分けましょう。
 食物線維には「水溶性」と「不溶性」の2種類があります。
 水溶性食物線維は海藻などに多く含まれており、水に溶けるとドロドロのゲル状になります。保水力が高いので、これを多く含んだ食品を食べるとウンチの中の水分が保たれて硬くなりにくくなり、排便しやすくなります。
 一方の不溶性食物線維は野菜に多く含まれています。水を吸収して膨らむので、腸の動きをよくしたいときには効果があります。しかし摂取しすぎると、すでにたまっていたウンチの水分が必要以上に腸壁に吸収されてしまい、より出にくくなってしまうことがあります。どちらかというとおとなの「直腸ぜん動不全型」便秘に効果があるのが不溶性食物線維です。
 子どもの便秘にはウンチの水分量を増やして柔らかくしてくれる水溶性食物線維がよいでしょう。
 おとなの便秘には、まず水溶性食物線維をたくさんとって、たまっているウンチを軟らかくして出してから、不溶性食物線維をしっかりとって、腸を動かすようにしましょう。

朝、学校に行く前にウンチをする習慣をつける方法
 まず、朝はトイレでゆっくり座る時間を作ります。その分、30分くらい余裕を持って起きる必要が出てきます。
 落ち着いて朝ご飯を食べて、内臓が動き出したらトイレに入ります。ウンチが出やすくなるエクササイズをしたり歯磨きをしたりしながら、ゆっくりウンチが出るのを待ちます。最初のうちは、思った通りにウンチが出るとは限りませんが、出るまでがんばろうと無理をすることはありません。だんだん慣れてくると、朝はウンチの時間というように体が覚えてくれます。そのうちスルッと出るようになると思って、しばらくは辛抱してください。自宅でウンチをしてから学校へ行くようになれば、「ウンチが出たらどうしよう」という不安から解放されて、物事にも積極的になれるはずです。

子どもの便秘によい水溶性食物線維を多く含んだ食材(五十音順)
アボガド:ウンチの滑りをよくする不飽和脂肪酸も多く含んでいます
インゲン豆:水溶性・不溶性どちらの食物線維も豊富で、豆類の中ではダントツの高含有率。
オクラ:生よりもゆでて食べる用が吸収がよくなります。
押麦:ご飯に少し混ぜて食べるとよいでしょう。ライ麦や全粒粉もお勧めです。
海藻:昆布、わかめ、あおさ、海苔、もずくなど。
ゴボウ:水溶性・不溶性ともに豊富。オリゴ糖も含まれています。
ココア:ココアには非常に多くの水溶性食物線維が含まれています(コーヒー/紅茶はゼロ)。他にも様々な健康促進に役立つ成分を含んでいます。
切り干し大根:少量でも豊富な食物線維をとれます。
玄米ご飯:含まれる水様生食物瀬にはそれほど多くありませんが、精白米はほとんどゼロです。
サツマイモ:おやつにお菓子を食べるくらいなら、ふかしイモを食べましょう。
里芋:イモ類の中でも多くの食物線維を含む食材です。
そば:ご飯やパン、パスタに比べてずっと多く含まれています。
ナッツ:ピスタチオやカシューナッツは水溶性食物線維だけでなく、ミネラルなども豊富に含む理想的なおやつ。
納豆:水溶性・不溶性食物線維ともに含まれており、朝ご飯のお供に最適。
なめこ:水溶性・不溶性食物線維ともに豊富。ぬめりを落とさないようにして食べましょう。
にんじん:ジュースにしても同じように栄養が取れます。
バナナ:含量はプルーンやイチジクより少ないものの、一年中手に入り、食べやすいのでお勧め。
プルーン:水溶性・不溶性食物線維ともに同じくらい含んだバランスのよい食品。乾燥プルーンでも同じ栄養が取れます。
モロヘイヤ:ぬるぬるに水溶性食物線維がたっぷり。
リンゴ:腸内環境を整える効果もあります。
和菓子:あんこの材料である小豆にも水溶性食物線維が含まれています。こしあんよりも粒あんの方が多くとることができます。

便秘解消、究極の10箇条
1.朝、コップ1杯の水を飲みましょう。
・・・腸が刺激を受け、ぜん動が活発になります。水でウンチを押し出すわけではないので、たくさん飲む必要はありません。これを毎日続ける事により、体が「朝はウンチをするんだぞ」と覚えてくれるのです。食前の方が効果的です。

2.朝日を浴びて、深呼吸をしましょう。
3.必ず朝ご飯を食べるようにしましょう。
4.食事のリズムを一定にしましょう。
・・・定期的に食べ物が送り込まれていないと、腸のぜん動は活発になりません。
 特に夜は最低でも就寝3時間前までに食事を終えるようにしましょう。また、よるにお菓子などを食べ過ぎると、交感神経が働き出して腸のぜん動運動を促す副交感神経が働くことができません。
5.朝のトイレはゆっくり座りましょう。
6.日中は外で元気に遊びましょう。
7.夜更かしは便秘の大敵。
・・・ごく自然な状態では、興奮モードの交感神経の活動はお昼頃がピークです。それとは反対の働きをするリラックスモードの副交感神経は、夜中の0時頃にもっとも活発に働きます。すなわち、このピークに時間にしっかり眠っていると、副交感神経に促されて腸の働きも活発になり、朝起きる頃には立派なウンチができあがっているのです。
8.入浴タイムはお湯の中でマッサージ。
9.寝る前に、便秘解消エクササイズ。
10.いつも笑顔で!でも褒めすぎはダメ。
・・・子どものウンチが出なくても、その度に落胆しないでください。子どもは「おかあさんをガッカリさせる自分はダメだ」と胸を痛めてしまいます。ウンチが出ても「すごいね!」とあまり褒めすぎてはいけません。一度出ても毎日出るとは限りません。出たときにあまり褒められると、逆に「ウンチが出ないのはすごくいけないこと」と感じてしまう子どももいて、「次に出なかったら褒められない、ガッカリさせてしまう」とプレッシャーを感じるのです。


夜尿症の講演会を聞いてきました(2014.1.19)。

2014年01月20日 06時41分33秒 | 小児医療
第18回東京小児科医会セミナー(於:ステーションコンファレンス東京)
講演1「抗利尿ホルモン療法について」 村杉寛子先生(天正堂クリニック)
講演2「夜尿症アラームの使い方」 堀加代子先生(世田谷子どもクリニック)
特別講演「夜尿症診療は新たなステージへ~明日からはじめる問診・検査・治療のコツ~」 藤永周一郎先生(埼玉県立小児医療センター腎臓科医長)


という講演会に参加してきました。
夜尿症に関してまとまった話を聞く機会は乏しく、知識の確認と更新を兼ねて極寒の中上京しました。
ふむふむと頷くこと多し。
記憶に残っていることをメモしておきます;

・夜尿症児は睡眠が深いために覚醒しにくい(覚醒障害)と考えられてきたが、近年捉え方が変わってきた。それは、過活動性膀胱(膀胱が勝手に収縮してしまう)をベースに睡眠が浅くなり(睡眠障害)、それが夜尿に繋がるという真逆の考え方。

・夜尿は小学1年生(7歳)で10%存在する。その子達は無治療でも1年ごとに10~15%治っていく。治療を行うと治癒率が2-3倍に増える。つまり、夜尿症児が10人いると毎年1人は自然に治り、治療をするとそれが2人になる、ということ。
 ・・・有効率低し!

・多尿型より膀胱型の方が治療抵抗性。治療は大きく分けて薬物療法とアラーム療法があるが、膀胱型には両者併用療法でなければ太刀打ちできない。
 ・・・これは実感として頷けます。

・アラーム療法のメカニズムは「起こしてトイレで排尿する」ことを目指すものではない。
 ・・・これが今ひとつわかりません。

・アラーム療法は家族の協力が必須。このため脱落例が多く(40%以上)、はじめる前に治療意欲の確認が必要。家族の誰かが患児の側に寝ていてアラームが鳴ったら児を起こす必要がある。起こし方には様々な方法があり、堀先生は「覚醒反応(寝ぼけてムニャムニャ程度)が得られればOK」、藤永先生は「起こしてトイレへ連れて行く」とのこと。

・ステップアップ法(弱い治療からはじめ、無効例には治療を強めていく)よりステップダウン法(強力な併用療法からはじめ、有効なら治療を弱めていく)の方が脱落例が少ない。


 講演を聞いて気になったこと。
 昨年聴講した帆足先生(おねしょ博士として有名)の講演会の時も感じたのですが「併用療法をしても改善なき場合は専門医へ紹介してください」とのコメントに違和感。
 東京ならそれで済むかもしれませんが、群馬県で夜尿症専門医っているんでしょうか?
 そのコメントを耳にする度に「夜尿症診療はまだまだ発展途上だなあ」と思ってしまいます。

「学校に行けない/行かない/行きたくない」(冨田和巳著)

2012年10月11日 23時18分41秒 | 小児医療
副題:不登校は恥ではないが名誉でもない
へるす出版、2008年発行。

最近、「起立性調節障害」に関する書籍を数冊読みました。
皆口を揃えて「起立性調節障害(≒自律神経失調症)」が「不登校」の原因になり得る、本人は学校へ行きたくても体がいうことを聞かないんだ、「怠け」ではないんだ、と説いていました。

一方この本は、「不登校」を「身体疾患」として捉えるよりも「不登校」を「心身症」という視点から捉えて解説し、どう介入すべきかを論じており、私の目に新鮮に映りました。
より大きな「不登校」というくくりから起立性調節障害を含めて俯瞰するという内容であり、起立性調節障害のみを抜き出した前出書と異なります。

著者は「子どもの心の問題」を取り扱う専門医の開拓者とも云うべき人物。
漢方系の研究会にも所属され、そちらでも講演を拝聴したことがあり、興味をもって拝読しました。
30年にわたり数多くの子どもたちを診療してきた臨床経験から発せられる言葉には説得力があります。

「不登校」を扱う多くの治療者や学者が学校に行かない行為に肯定的・好意的な立場を取ることに反対し、「不登校児の心の動きには理解を示しながらも、学校に行かないのは好ましい状態ではない」という立場を取っています。
諸外国には存在しない「不登校」は戦後の教育体制が作り出した日本特有の産物と評し、母性の強い日本社会の欠点を指摘しています。

「無理だったら学校へ行かなくていいんだよ」
と子どもを保護するだけでいいんだろうか、と疑問を投げかけ、やはり適切な登校刺激をして最終目標は社会人としての自立を目指すべきだと主張し、本人のペースに任せたが為に社会参加ができなくなってしまった若者が増加してきたことに警鐘を鳴らしています。

しかし、彼の主張は現在の学会において主流ではないことを自覚しており、自分の主張を「異見」と自虐的に表現している箇所がいくつもありました。

読み進める中で、他の専門家が「不登校」診療の中心に「母性欠如」を置いているのと異なり、冨田先生は「父性」を強調しているように感じました。
最後まで読み終わると、彼の主張の全体像がわかりました。
不登校の根本的原因に「母性の問題」のみならず、「父性の欠如」を指摘しているのでした。
母性に関しては単なる欠如として片付けるのではなく、母性社会日本の特性についても言及し、奥深い考察をされています。
その土台の上に父性の欠如が乗ることにより、不登校の発生を助長しているとの「異見」。

「不登校児は自分の状態を恥じる必要はないが、自分の立場をあれこれ正当化するようなことを言ったり、したりして欲しくない」
「各自が耳に痛い言葉を聞き、現実を厳しく見つめ、自ら反省し努力する姿勢にこそ、解決の道が開かれる」
というコメントには賛成です。

「不登校」は子育てのつまずきの一つの表現形ではないでしょうか。
思春期を迎えた子どもから「まだ独り立ちできないから手伝って」と親に向けて発せられたシグナルであり、それを四苦八苦して親子でともに乗り切る試練と捉えることもできると思います。


メモ
自分自身のための備忘録。

本書の要旨と筆者の主張

①不登校は本来「経済的・病気などから明らかな理由がなく」「なぜか、行くべき学校へ行けない」神経症的状態を指していたが、現在ではこのような定義に当てはまらないものが増加すると共に、この定義にとらわれず、学校に行かない状態をすべて不登校と呼んでいる。

②現代の不登校は神経症、心身症、精神病、発達障害によるものや、いじめによるもの、何となく休むものなど「何でもあり」の状態、いわば百貨店のようで、適切に分類して考えなければ混乱する。

③不登校は現代日本社会の子どものあらゆる問題の根底にあるもので、「暦年齢に求められる社会集団」に参加できない者が増加した結果であり、「日本の文化」とも呼べる。

④個々に異なった要因が考えられるが、基本的には「自尊心の乏しさ」「認知と表現のつたなさ」からくる「対人関係障害」と捉える

⑤最近の引きこもり・ニート・フリーターなど青年期(ときに中年期)の問題の起源は、ほとんどが中学時の不登校にある。つまり、小児期の問題(不登校)を適切に予防・解決しなければ、青年期に持ち越し、やがて高齢者問題にまで及んでいくのではないかと危惧している。

⑥初期の訴えは「学校に行きたくない」ではなく、腹痛・頭痛や発熱・下痢といった身体症状で、それに対する適切な対応が重要であり、初期対応には医師は重要な役割を担う。しかし、医師は「体を診る」のが主な仕事なので、身体症状にこだわり、背後の不登校を見逃す場合が多く、診断したのちも適切に扱わないこともある(これを残念に思い本書を執筆した)。

⑦不登校は教師・臨床心理士(相談員)・医師(小児科医・精神科医)の三者が主にみるため、それぞれの立場の違いで異なった見解がもたれやすく、種々の意見が出て当然である。違いを認識して意見を聞くようにしないと混乱する。

⑧不登校が増加し世間で認知され、種々の対応が叫ばれながらも減少していないのは、学校の表面的現象を原因にする意見が多いからである。

⑨多くの不登校肯定論(ときに賞賛論)は表面的優しさに溢れているが、長い目でみると子どもの立場には立っておらず、結果的に子ども社会も不幸にしていく。

⑩ここ数年、不登校字数は数字の上では横ばいか、減少している年もあるが、総生徒数が減少しているので、基本的には今も増加している。

⑪不登校の増加について理解が行き届くと「更に増加させていく」面もある。世の中に常にある矛盾(二面性)を考えて対処しなければならない。

⑫都市部では、不登校について相談や治療に種々の方法や期間が出現している。不登校の成因は輻輳しているので、特定の考え方や手段で全てが対応できるものではなく、個々に向き不向きがある。専門家が行う心理治療(種々の技法がある)や薬物療法以外に、特殊な学校に通う、農作業をする、動物を飼うなど、多くの方法があり、ときには専門的治療よりも効果的なことがある。ただ、主宰者側の長所だけを強調した情報で選択すると、取り返しのつかない結果を招く危険性もある。選択に際しては、親子の状況に合わせて専門的視点から選ぶようにする。

⑬子どもの素因・年齢や周囲の環境は個々に異なり、また治療者側の立場も異なるので、治療や指導の教科書的・定石的方法はない。各自が基本にある者を理解し、知識と経験で自分なりに行う。

「不登校」という用語の時代的変遷
 初期には「学校恐怖(school phobia)」、次いで「登校拒否(school refusal)」と呼び、最近では「不登校(non-atteendance at school)」と呼ぶようになった。時代により社会が変わると、微妙に内容も変化することを表している。
 歴史的には「怠けて学校に行かない」子どもを「怠学(truancy)」と呼んでいたが、その後、彼らと正反対の「学校に不安や恐怖を感じて行けない」子どもが英米で気づかれはじめ、ジョンソンが1941(昭和16)年に「学校恐怖」と命名した。しかし「恐怖」以外の心理もあることが認識され「登校拒否」が登場した。ここでは具体的原因がなく、本人も「行きたい/行かなければならない」と思っているが、なぜか行けない心の状態を重視した。我が国で毎年増加していく現象は種々の論議を呼び、定義そのものも曖昧にされると共に、登校拒否が病名として使われていることへの反発も加わり、最近は「不登校」が好まれて使われるようになった。筆者は義務教育に不適応を起こしている現状に危機感を持つ名称として「学校不適応」が望ましいと考えている。

日本における不登校の現状
 1975年以来、不登校児は毎年増加し、2001年は約14万人。
 世界中で、我が国にのみ不登校が特異的に増加し続けて久しい

不登校肯定派の矛盾
 エジソンやアインシュタインなどの偉人が不登校児だったという内容の本が以前話題になった。私たち大多数の者にとっては、平凡で地味な生活がもっとも好ましいので、有名人がえらく、学校に行かないのがよいとの論理はおかしいと感じた。この本の著者は有名大学にこだわる学歴信仰は捨てるべきと論じながら、有名人がえらいとする意見に矛盾を感じていない点に違和感を覚えた。
 何よりも彼ら少数の成功者の陰に、今や百万人ともいわれる引きこもりをはじめ、不登校が続くために人生で不利を被った者や、社会に出られない者が多数いると気づかなければならない。
 現代日本社会の極端な民主主義の行き過ぎは、少数を殊更に取りあげ、それを肯定しないと良心的でないと糾弾する風潮があり、大多数の一般論が特殊な一部の意見で隠されていく。この結果、物事の本質が見逃される危険性が極めて高い。

どのような性格が不登校を起こしやすいのか
 対人関係にはある意味で少し「図太さ」が必要なので、繊細な子どもは苦痛を感じやすい。
 対人関係は融通が利く、あるいはよい意味での「いい加減さ」が必要で、それができない子どもは対人関係が拙くなり疲れる。この融通が利かない面は、些細なことを深刻に考え、からかいをいじめと受け取るような反応になり、不登校に繋がる場合も多い。
 他人の些細な反応にも過敏になり疲れて不登校になる。
 基本的には自分に自信がないからである。

思春期
 思春期は小学5年生頃から中学生の時期で、精神的には自立の時期である。自立とは、これまでの親に依存し「母性的な温かい抱き込み」状態に安住していた者が、「父性的な厳しい社会」に飛び立つ時期になる。「家庭の優しさ」から「学校の厳しい」場に行けなくなる子どもがいても不思議ではない。今までのように親に依存して「子どものままでいたい」気持ちを、一部の子どもは学校に行かないという形で表現する。
 小学校と中学校の差は母性社会と父性社会の差とも取れる面がある。
 運動会では順位をつけないで一緒にゴールに入るというような極端な結果平等(母性的)の「区別をしない小学校」から、中学校は何か特別が明らかになる。この格差が一部の子どもに不登校や荒れを引き起こしていると筆者は考える。
 ”優しい”治療者は、この「区別」を攻撃して、不登校児の側に立つが、社会に出れば区別や差は学校より大きくなるので、彼らにそれに耐える強さや克服する方法を教えていかなければならない。

自己像低下(自己像脅威論)
 親や大人の言うことをよく聞き、「大人からみてよい子」と高い評価を受けていた子どもが不登校になる場合は、以下のような心の動きがある。
 彼らは親や大人の言うことをよく守る従順な子どもだが、自律の時期(思春期)や自分だけで判断しなければならない時に、大人の助けがないと「どうしてよいかが判らなくなり」混乱し、不安になる。親の指示や判断に従ってよい子になっtので、自分一人ではよい子でいる自信がない。こうして虚像が崩れ、自分の実像を評価される学校から逃げることになる。

自尊心の乏しさ・認知のつたなさ
 自尊心があり、学校で自分の存在を肯定できれば、少々のことがあっても不登校にはならない。自尊心の基本は母親が育てる。不登校を起こしやすい「いじめ」も自尊心の問題に行き着く。
 自尊心と同じく、適切な認知力も母親が育てる。子どもが自分の生存を左右する母親を「信頼に足る」と認知するのが、社会を肯定的にみる出発点になる。

母性社会日本の家庭の問題
 世界で一番母性の働くのが日本で、母性優位の家庭がつくられ優しく情緒的・平和的な特徴がある一方で、父性の乏しさが厳しさや客観性を欠き、父親像を希薄にさせる。子どもを我が胸に抱きしめ離さない母性の強さは、そこから飛び出して厳しい社会に出るために必要な父性の弱さを生むので、子どもの社会化が遅れて不登校に繋がりかねない。我が国に不登校が多い最大の理由である。

「できちゃった婚」の功罪
 できちゃった婚は、社会的親になるための自覚や覚悟や儀式(通過儀礼)を書いている点に注意すべきである。通過儀礼を通じて親子共に成長していかねばならないのに、それが欠落しているために、動物が本能的に持つ母性や父性も発現しないことがあり、時には動物にも劣る雌雄でしかない。彼らに子どもの社会性など育てられないから、学校という小社会で子どもが困難を感じ、不登校になるのは自然の成り行きとも云える。

世界的に母親は母性が乏しくなってきている
 男女を対立的に捉えるフェミニズムイデオロギー(生物的性差は認めるが社会的性差は認めない思想)が、母性の欠落した母親を増やす作用が大きいのは、アメリカの家庭や子どもの惨状をみればすぐに判る。ただ種々の文化的要因があり、アメリカでは不登校は少なく、被虐待児・発達障害・子どものうつ病・自殺・少年凶悪事件が多くなっている。この点から考えれば、不登校の多い我が国の方が幸せとも云える。

日本は母子関係が強すぎる
 日本の母親は夫より子どもとの結びつきが強く、これが子育てに良くも悪しくも作用していく。よい面は、我が国の子どもは世界で一番かわいがられて育つので、アメリカで深刻な問題になっている被虐待児などが比較的少ない。
 しかし、父親が家庭から阻害され、父親と子どもの関係が希薄になり、その分母子関係が強くなると、子どもの自立が難しく分離不安が出現する。不登校は自立の障害・分離不安によるので、我が国で多くなって当然である。

日本の戦後教育の致命的三大欠点
1.母国の伝統・歴史・文化を断罪・蔑視・無視
 我が国では愛国心(patriotism)と国家(国粋)主義(nationalism)が混同して使われている。政府は国益を第一に考えた外交が求められるので国家主義をとらなければならないが、国民は自然に自分の国に愛国心を持つのが世界の常識で、人間の自然感情である。残念ながら我が国では、政府が戦前も戦後も冷徹な国家主義を持たないので、まともな外交ができず、戦後は愛国心を国家主義と混同して危険と叫ぶマスコミや知識人が多すぎる。
2.「教師は聖職ではなく労働者」なる宣言と実行
 教員組合がイデオロギー的に聖職を否定し「資本家(国家)から搾取される労働者である」と1951年に宣言し、「偉い人」から教わる教育の基本を崩壊させた問題も大きい。現在の、何かあればマスコミから叩かれ、親子から信用されない教師受難時代とも云える「学校や教師を尊敬しない困った風潮」は、実は教員組合自身が50年以上かけて作り上げたものなのである。
3.欧米の民主主義を絶対視する
 戦後教育の掲げる民主主義は本来、父性社会・個人主義の欧米で言われ始めたものである。「厳しく個を認めた上で、責任や義務、秩序に価値を置く」精神が、母性社会の日本に入ると「権利/自由」ばかりが強調され、秩序をなくした平等が言われ、「気に入らないと学校を休む」のが平気な社会になってしまった。

不登校は日本の文化
 基本に母性社会、勤勉な民族性、西欧発祥の民主主義の三者があり、そこから出現した物質文明の隆盛という現象が加わり、この四要因の複合が不登校を出現させ、我が国にのみ急増している。

■ 日本独自の「自然共存文化」
 日本の国土は基本生活を営むために必要な自然に恵まれ、外敵からは四面が海という強固な要塞で守られている。自然は恵みを与える一方で、台風や地震という天災ももたらした。これらが日本の民族性を造り、最大の特徴は自然共存文化となり、そこから母性社会が芽生えた。この特性が農耕民族をつくった。農耕は適当な土地があれば複数の家族が集団を造り生活するのに適しており、個人よりも調和が優先される集団主義になる。
 一方西洋では、自然は恵みを与えないが天災も少ない。これが自然征服・父性社会に向かい狩猟民族を作り上げた。狩猟は野山を駆けまわり、他人のいない、知らない場所を探して獲物を捕るので、全体の調和よりも個人の利益が優先される個人主義になる。

不登校初期の「行きしぶり」
 最初は登校に間に合う時間までに朝起きにくくなる。朝起きられない原因を起立性調節障害睡眠リズムの乱れといった身体病編に下人を求める意見もある。前者は確かに不登校とかなり結びつきが強いが、後者は不登校状態が引き起こした結果によるものである。

子どもには「学校に所属したい」という欲求がある
 子どもは最大の安心感を与える家庭に所属の欲求をもっているが、同時に学校の何年何組に所属する欲求も強く持っている。学校を休むことで失う所属の欲求を補填するために登校刺激を穏やかに与えていくのが基本的治療となる。

子どもの心を扱う医療体制
 ある精神科医は「診れば赤字になるので不登校は診ない」と正直に述べている。「全ての医師は心も診られるように」と叫ぶ割りには、我が国の医療制度は本質的には心因性疾患に何らの対応もしていないのが現状である。
 子どもに役立つ制度や人材は、長期的展望の上に立って整備していかなければならないが、政府が行う場合は、常に現場の生の声からではなく、マスコミや一般から「文句を言われないように」だけを考えて行うので「仏作って魂入れず」になってしまう。

根本的な解決が難しい場合には
 不登校の治療は親子を常識の世界に連れ戻す営みである。
 根本的問題が解決しなくても当面の問題が片付くと、不登校を脱して学校での生活を送ることにより、子どもは成長していく場合が多い。人生には解決しない問題を背負ったまま行く道もあり、実際にはその方が多い。

不登校の行く末
 引きこもり(不登校青年版)は160万人(2005年)、準引きこもりを含めると300万人以上(NHK福祉ネットワークの調査)。
 フリーター(和製英独語「フリーランス・アルバイター」の略称)は200万人強(2005年、厚労省調査)。
 ニート(NEET, Not currently engaged in Employment, Education or Training)はイギリスの内閣府社会的排除防止局が作成した調査報告書に由来する言葉。推定62万人(2005年、厚労省調査)。

子どものうつ病と不登校
 最近、子どものうつ病が増加していると一部で盛んに言われているが、筆者の臨床からは認められない現象で、新しいものを見つけたい学問の負の面と、文化差を無視したアメリカ追従思考に、製薬会社の思惑の三者が合体した困った現象と考える。
 いわゆる「落ち込んでいる」という神経症的鬱状態はあっても、内因性うつ病は我が国ではほとんどない。

心身症と不登校
 心身症は器官(臓器)がその人の気持ちを語っているので「器官言語」と呼ばれるように「学校へ行けない/行きたくない」悩みを器官(気管支・腸・皮膚・筋肉など)が病気になり表現していると考えられる。特に本人は、ストレスをあまり自覚していない失感情症の状態にあるので、本人も親も心の悩みに目が向かわず、身体に固執する。

精神病と不登校
 不登校の初期は一般に身体症状を訴える場合がほとんどであるのに、小学校高学年くらいで、「なぜか、学校へ行けない」と、当初から神経症的症状を訴える場合には、精神病の可能性も考え、子どもとの会話で何らかの違和感を持てば疑い、専門医の診療を受けるようにする。
 一方、閉じこもり・うつ状態・幻聴・幻覚など精神病を思わせる症状を訴えても、不登校状態が長引いた結果出現する場合も多い。この場合、了解できるような幻覚・幻聴(隣の人・級友が悪口を言うなど)の場合が多く、精神病による了解不可能なものと異なっている。

いじめと不登校
 学級でのいじめの始まりは、多くが「ちょっかいやいたずら」であり、加害者側には「ふざけや笑い」の要素が多い。仲間内のいたずらやふざけは、感受性の強い被害者にとっては苦しく、いじめと感じているが、教師や他の級友からは、ふざけ合っているように見えるので、適切に捉えられない。
 筆者は、いじめは加害者にも被害者にも自尊心が乏しいから出現すると考えている。自尊心のある者は、いじめのような卑劣な行為に喜びを感じなければじっこうすることはなく、仮にいじめられても自尊心があれば、適切に対応していく。

家庭内暴力と不登校
 家庭内暴力は「夫が妻に、親が子どもに加える暴力」を指すのが世界の常識であるが、我が国では逆で、子どもが親に暴力を振るう場合を指す。そのため、外国でいう家庭内暴力をわざわざDV(domestic violence)と英語で言って区別するおかしさである。このように「子どもが親に暴力を振るう」現象の多いのは我が国に特有であり、子どもを大事にしすぎる母性社会の特性が極端になり、迎合に行き着いた結果である。
 暴力は子どもの一つの表現方法であり、これまで子どもの表現を親が適切に受け止めてこず、子どもに表現能力が育たなかったのが基本的原因であり、暴力を振るう相手(多くは母親)に、子どもが強く依存していると気づかなければならない。
 小さい頃から子どもの表現に親は適切に対応してこなかった/無視してきたので、遅まきながらも「我が子の暴力なら痛くない」の覚悟をもち、真剣で揺るぎない毅然たる態度で「暴力で何を訴えているのか」を理解するように心がけ、治療者は親がそのような態度を取れるように援助する。

引きこもりと不登校
 不登校の初期に「自主性が育つのを待つ」「登校刺激を与えない」と、無為で怠惰な生活を家庭で送るのを肯定する二昔前の論が、心理・カウンセラー領域を席巻していることが引きこもりを増加させていると筆者は考える。未熟な子どものわがまま気ままを個性・自由・権利と尊重し、それぞれの年齢で備えるべき義務・責任や、守るべき秩序を教えなかった戦後教育の負の成果が根底にある。自分の思い通りにならないと我慢ができず、すぐに逃げる子どもが、暖かな母性的優しさに溢れた家庭に引きこもり、豊かな時代はそれを許し認めるので、その状態がいつまでも続き、気づけばそれが”普通”になって引きこもりになるのである。

欧米と日本の比較
 欧米に不登校も引きこもりも少ないのは、父性社会の厳しさに加え、家庭が冷たいからという推測が成り立つ。逆説的だが、不登校児や引きこもりの多い日本社会は、子どものうつ病、青少年の自殺、少年凶悪犯罪が桁違いに多いアメリカより、幸せなのは確かである。子どもが引きこもれる温かい家庭のない欧米は、子どもにとって不幸なのでは、とさえ思えてくる。

不登校の予防~強い心を育てる~
 不登校は「行けない/行かない/行きたくない」の違いがあっても、基本は「心」の歪みで出現する。少々のことに動じない、嫌いなことも我慢してできるような心を育てるのが究極の予防となる。
 不登校は「学校に行かない」行動で自分の心を表現していると考えると、この最初の表現に対応しなかった結果が、誤った表現を子どもがとる、とも解釈できる。
 学校で適切な対人関係を持てるようになるためには、母子関係がその出発点と云える。赤ちゃんの泣き声をおろそかにしてはならない。母の胸に抱かれ、哺乳する満足感・心地よさは情動(情緒)の芽生えに繋がり、「生まれてきてよかった」という自己肯定感、すなわち自信であり、自尊心に繋がっていく。これらは母子関係が親密であることから芽生え、相手を信頼する対人関係の基本となる。この信頼関係ができると、子どもは母親の存在を良いものと認知し、世界を肯定的に捉え、その後も物事をよいように見る認知力が育っていく。
 不登校は、自信がなかったり、級友や教師を信頼できなかったりすることから起こる対人関係の障害が主な原因なので、身辺の出来事を肯定的に捉えるよりも「歪んで」認知した結果と考えられる。
 学校で心の教育といったような意味不明の言葉を叫ぶより、母親による育児を軽んじるフェミニズムイデオロギーを学校教育に取り入れる愚に目を向けなければならない。

躾の重要性
 人が適切な社会性を得ていく必要条件は誕生直後から無条件にかわいがられることで、十分条件はその後の躾になる。子どもは、かわいがり、厳しく育てるという当たり前のことを、戦後教育や物の豊かな時代が焼失させた。
 昔の子育ては「お天道様がみていますよ」「そのようなことをすると『恥ずかしい』よ」が主流になっており、世界的にも日本の子どもへの躾は優れていた。しかし、義務や責任を伴わない個性・自由・権利だけを尊いものと教える戦後教育で育った親は、「自ら恥ずかしい」ことをしても平気で、子どもに教えるどころか、モンスターペアレントと呼ばれるまでになってしまった。



朝起きられない子ども~「起立性調節障害」の本2冊

2012年09月22日 19時25分18秒 | 小児医療
①「起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応」田中英高著、中央法規、2009年発行。

②「朝起きられない子の意外な病気」武香織著、中公新書、2012年発行。
 副題:「起立性調節障害患者家族」の体験から


 たまたま起立性調節障害(英語で Orthostatic Dysregulation、以降’OD’と略します)の本が手元に2冊あったのでまとめ読みしてみました。
 ①は日本小児心身医学会「小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン2005」の作成を担当した専門医による啓蒙書、②はライターでもある患者さんの母親が記した治療体験記です。

 感想を一言で云うと、
① → ふむふむ、なるほど。
② → えっ、そうなの?!

 云わんとする内容は基本的に同じなのですが立場が異なります。
 ①の著者はガイドライン作成者らしく、新しい診断方法を普及させようという意気込みを感じました。丁寧に病気を解説しようとする努力が垣間見えるのですが、どうしても言葉が硬くなりがちです。
 一方、②の患者さんの母親が書いた本は、その思いを直球勝負で投げてきます。こちらの方が読者のお腹にドスンと響き、かつ説得力がありますね。
 病気の解説とその実際、あるいは治療を提供する側と受ける側、と読み分けるとよいかもしれません。

 病気の生活指導の項目では、①で「規則正しい生活を」とは言われるけど、②では「医師にそう言われたけど、とても無理、それができれば苦労はしない」と本音がポロリ。

 それから思春期の悩みは必然的に「学校生活(とくにテスト)」「進学」とリンクしますが、その切実な悩みと解決法は患者と家族自身でないと、つまり②でしか書くことができません。学校の先生とのつきあい方、普通高校に行けない場合の選択肢など、参考になることがたくさんかかれています。中でも普通高校以外の選択肢が近年大幅に増えた状況を知り、私自身目を見張りました。

 ②の後半には、当事者家族の手記が紹介されています。せっかく病院を受診しても、医師の不十分な対応に失望した例がいくつもあり、身につまされるようでした。

 ②の最後には重症OD既往者の座談会が組まれています。とても貴重なコメントが多数ありました。
 朝つらくて学校へ行けないと親は「サボり」を疑いがち、一方子ども自身も最初のうちは「学校がイヤだから体がいうことを聞かないのかなあ」と感じ、その後の経過の中で徐々に病気を自覚するようになることを知りました。子ども自身も初期は自分の体に何が起きているのかわからないのですね。

 「ODって何なのだろう」と改めて考えさせられました。
 思春期の一過性の病気ではありますが、強敵です。
 ストレスを言語化することが下手な子どもから発せられるSOS信号、と捉えることもできそうです。
 子どもが思春期という荒波にもまれ、体力・精神力を試すために設定された試練かもしれません。虚弱系の子どもは波に飲まれてしまい、ときには座礁するケースも。
 その荒波を乗り越えるには、十分な時間と家族・周囲の強力なサポートが必要とされます。
 人間が一人前になるって大変・・・でも乗り越えたときは、本人の自信と家族の結束が強まること間違いなし。


メモ
 自分自身のための備忘録。

「起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応」より

■ ODは思春期に発症しやすい自律神経機能不全であり、本質的には心身症なので「体」と「心」の両面からアプローチする必要があります。一般に、ODの子どもたちは、細やかな心配りができて、周囲の人達にとても気を使う性格傾向(過剰適応性格)があり、先生達にも「よくできる子」と評価されるようです。

■ 頻度は小中学生の5~10%、日本に約100万人います。女子は男子よりも2割ほど多いです。平成になってから頻度が急激に増加しました。

■ ODは適切な治療を受けないと悪化の一途を辿り、長期の不登校から引きこもり、果ては二次的にニートやフリーターを生み出す温床となる可能性があります。

■ 朝は起きられないけど、午後になると元気になって夜更かしして翌朝また起きられず学校を休みがち・・・一見「ナマケモノ」のような状態も、医学的に説明可能です。
 診断のための検査に「起立試験」というものがあります。10分間横になって安定した状態から急に立ち上がり、その前後の血圧と心拍数を経時的に記録する方法です。健常者でも一過性に血圧が低下しますが、OD患者さんでは回復が遅れます。
 そしてこの検査を午前中と午後に行うと、午前中の方がより程度が強く回復までの時間が長く、これが症状の日内変動を証明しています。

■ 朝起きられない→ 夜寝付きが悪くなる→ 夜更かしをするから朝起きられない。
 このうちどれが根本的な問題なのかまだよくわかっていません。
 ただ、ODによる朝起き不良と夜の入眠困難は「少々無理をして生活リズムを強制したら治る」といった単純なものでないことは確かです。

■ OD患者さんが精神科を受診すると「うつ病」と診断されることも希ではありません。そこで抗うつ薬を使用されると副作用で起立性低血圧が起こることもあり、かえって悪くなることもあり得ます。
 ODとうつ病を見分ける方法があります(正確には専門医の判断が必要です)。ODでは午前中~昼過ぎまで元気がなく無気力ですが、夜になるとふだんのように元気になり、バラエティー番組を観たり好きなゲームに講じて笑ったりします。一方、夜になっても活気が回復せずぐったりして、意味もなく涙を流したりイライラが強う用ならうつ病の可能性が高くなります。

■ 人間は1日25時間周期の体内時計を脳内に持っています。ODの子どもは1日27~30時間の体内時計を持っているという報告があります。すなわち、毎日、自分の体内時計を数時間も時刻修正しないといけないことになり大変です。

■ ミドドリン塩酸塩(商品名:メトリジン他)の使用法:
 交感神経α-受容体刺激薬で、動脈や静脈の血管を収縮させて血圧を上げる作用を有します。
 小学生高学年以上では朝夕1錠(1錠が2mg)ずつ服用、
 中学生では1日3錠(成人では4錠)まで服用可能。
 服薬して薬1時間ほどで徐々に血圧が上昇し、数時間ほど効果が期待できます。効き目が緩やかなので、服薬を開始して効果がわかるまで1~2週間ほどかかります。
 最近、水なしで服用できる剤型もあります(メトリジンD錠口腔内崩壊錠)。この商品は口の中で自然に溶けるので、低血圧のために朝なかなか起床できない子どもでも、寝たまま布団の中で服用できるので便利です。

■ 親・周囲のサポートの第一歩は「心の平静を保ち、時期を待つこと」。

■ 学校にして欲しい具体的なサポート;
・登校目的のために教師やクラスメートが朝迎えに行くと、かえって心理的ストレスと成り逆効果となることがあります。担任が自宅訪問する際には、子どもが元気な夕方にしましょう。
・欠席が続く場合には、欠席する日に保護者が学校に電話連絡するのではなくて、登校できる日の朝に学校へ電話連絡するように切り替えましょう。

■ いつ頃治るのか?
 中等症以上のODは慢性的に症状が続きます。病院を受診した子どもを20年後に調査した研究結果では、男子では24%、女子では49%に症状が残るようです。しかしながら皆無治療であり、多くの人は症状があっても元気に生活しているのです。
 著者の調査では、日常生活に支障のある中等症では、1年後に治る率は約50%、2~3年後は70~80%です。不登校を伴う重症例では、1年後の復学率は30%であり、短期間での復学は困難です。重症例では社会復帰に少なくとも2~3年かかると考えた方がよいでしょう。


②「朝起きられない子の意外な病気」より

■ 不登校の原因の3~4割がODだと考えられています。もし体調不良を訴えながらも病名がはっきりしない不登校の子どもがいたら、ODを疑ってみてください。保護者にも「実は、思春期の子どもがこういう病気に罹ることが多いのだけど、一度検査をしてみてはどう?」とアドバイスしてあげてください。

■ 2006年に日本小児心身医学会から「小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン2005」が発行されました。ですが残念なことに、今なお「軽いうつ病」「心の問題」と診断する医者もいますし、「根性が足りない」「単なるわがまま」と決めつける教師がかなり存在するようです。
 悪いことに、ODは「夜はわりと元気になる」病気です。それゆえ、「ただ単に学校へ行きたくないだけの仮病」と捉えて、子どもの不満を「サボり」「怠け」と保護者が誤解してしまっても無理はないでしょう。
 現実には「サボってできない」のではなく「やりたいのにできない」のです本人にしてみれば、へろへろな体を引きずりながら必死な思いで登校しているのです。やりたいことをやるにも、頑張らないとできないくらいの体なんです。疲れやすいので、何かアクティブな行動を取った翌日は症状が悪化するのは仕方ないと思ってください。
 また、ODは心理状態によって症状が左右される病気です。ストレスを抱えた子どもの言葉を、何でも「うん、うん」と聞いてあげてください。決して指示や否定をしないでください。
 大事なのは、病気の早期発見と、親・教師・友人など周囲の人々の十分な理解、そして「大丈夫、焦らなくてもいいんだよ」と心の底から伝えてあげる姿勢です。

■ 人間は、朝になると交感神経活動が増えて体を活性化し、夜には副交感神経活動が高まり体を休養させるのですが、その自律神経の日内リズムがOD患者では5~6時間も後ろにずれ込んでいるため、深夜になっても交感神経の活性が下がらず、夜は体が元気になり、寝付きが悪くなるんです。よって、翌朝起きるのが益々つらくなります。

ODは体の成長期が終えた頃からよくなっていく傾向にあります。成人しても症状が残る場合もありますが、日常生活に支障のない程度に治まります。だから、焦らずにゆったりとした気持ちで、子どもの病気と向き合っていきましょう。

同じ境遇のママ友との会話より
・登校できたかできないかで一喜一憂しすぎると、登校しなくてはいけないという強いプレッシャーになるので控えてください。
・私は「学校へ行って、テストを受けてというふつうの生活を送って欲しい」と望みすぎていたのです。生まれたてのこの子を抱いた瞬間「健康であってくれさえすれば、バカでもトンマでもいい!」と願ったのは、いったいどこの誰でしょう。
・子どもは言われなくてもわかっている。でも、体が思うように動かず、うまく気持ちのコントロールもできない。だから、そこをつかれるとイライラが倍増して周囲に当たることもある。

■ 「このままいったら、死んでしまう」と思うくらい、子どもから生気が感じられず不安な日々を送っていたのです。自分に自信が持てずにいる息子は、命の灯が儚く感じ、どこかへふわりと飛んで行ってしまいそうでした。

患者達の座談会より
・はじめはただ単に、学校が嫌いだから朝つらくなるんだって思い込んでいたんだよね。
・友達とちょっともめていたときだったから、精神的なものだって決めつけて、無理して登校していたんだよ。
・お母さんもお父さんも「学校、やめたければやめてもいいんだからね。」って言ってくれたのは覚えている。すごく嬉しかった。
・この人たち(=両親)、俺の体の心配より、俺の学歴の心配をしているんだ、と感じた。でもそれって、親の価値観でしかないよね。でもこう考えて割り切るようにした・・・「親の価値観は、親のもの。仕方がない。
・母親が朝「今日も学校へ行けそうにない?」って聞いてくるんだけど、「今日も」の「も」がものすごく責めてくるんだよね。「またなの?」って感じで。学校へ行けなくなると、本当に先のことが不安になるのは俺自身十分感じているのに、追い打ちをかけられるんだ。
・学校へ行けなくなってから、家ではゲームばかりしていた。それ以外することが見つからなくて。ゲームって、次々と面が変わるでしょ? 明日はこの面をクリアするって決めることで、明日も生きられると思っていたところがある。楽しくてやっているわけじゃない、何かやっていないと「死にたい」という気持ちが噴出してくるから・・・。
・周りが受験の話一色になってからは、まったく学校へ行けなくなった。俺ってみんながふつうにこなせることが、まったくできない情けないやつなんだな・・・って思っちゃうんだよね。ただ、受験しなくても誰でも入れる通信制高校があるっていうことが心の支えだった。
・俺だって、まだ寝込むほどつらくなるときがあるよ。でも「夢」ができると、少しは強くなれるんだよね。
親には心配しすぎと放ったらかしの間くらいの姿勢でいてもらいたい。「つらいよね」とかあまり言われ過ぎるとかえって息苦しくなるし、かといって放ったらかしでも寂しくなるし。
・親には強くいて欲しい。親が参ってしまうと、子どもは逃げ場がなくなっちゃう。


「切ってはいけません!」(石川英二著)

2012年08月26日 12時38分23秒 | 小児医療
副題「日本人が知らない包茎の真実」
新潮社、2005年発行。

題名だけ見たら、何の本?・・・副題を見て初めてわかる珍しい本です。
そう、「切ってはいけない」のは「包皮」です。
著者は泌尿器科医で、男性の陰茎・亀頭の専門家。

数年前に購入してから本棚のインテリアと化していましたが、今回出張のお供に取り出して、往復の電車の中で読んでみました。

すると、目から鱗がぽろぽろ・・・いかに現在の包茎に対する認識が誤ったのものかが理解できました。
巷では「包茎は陰茎がん・パートナーは子宮頸がんになりやすい」「包茎は不潔で感染を起こしやすい」「包茎を手術すれば早漏が治る」・・・などなど「包茎を放っておくと大変なことになりますよ」的な情報が溢れていますが、これは医学的根拠がない、マスコミが作り上げた都市伝説のようなもの。

著者は包茎を巡る問題を紀元前のギリシャ、ローマ時代にまで遡ってその歴史を紐解くと共に、宗教における割礼習慣にも言及し、「包茎はよくない」という近代の認識が生まれた背景を考察しています。
さらに最新情報として、近年(この30年)包茎の生理的意義が見直され「アメリカでは包皮再生(出生後早期に割礼された成人男性が包皮を取り戻す手術をすること!)する人が増えてきている」という話題も提供し、読者に考えてもらうというスタンスを取っています。

医学的視点では、確かに真性包茎(包皮口が狭くて反転できない)は病的であり手術対象と思われますが、仮性包茎は日常生活に支障はないので病的とは思えません。包皮は亀頭を保護しているのに、悪者にされて切られてきた歴史にはなかなか興味深いものがあります。

世界には女性に対する割礼が行われている地域・宗教もあり、人間の罪の奥深さも感じました。

親からもらった人間の体に不必要なものなどないのです。
扁桃を取る手術もありますが、あれは大きすぎるとか、感染を繰り返すとか非常に希な病的レベルの話です。

この本を読み終わって、自信を持って「男性諸君、仮性包茎は正常です。手術が必要な異常・病気ではありません。」と云えるようになりました。著者に感謝します。

★ タイムリーにこんなニュースが流れました:

独で割礼めぐり大論議 宗教的慣習「傷害」か
共同通信社 2012年8月30日

 【ベルリン共同】男児に宗教上の割礼を行うことの是非が、ドイツで大きな論議になっている。医療目的でなく性器の一部を切除するのは「傷害罪」に当たると裁判所が認定したため、割礼が宗教上の慣習のユダヤ教徒やイスラム教徒が猛反発した。「ナチス以来のユダヤ人弾圧だ」との声すら上がり、政府は割礼を罰しないための新法を制定する方針を決めた。
 問題になったのは、西部ケルンの医師が2010年11月に当時4歳の男児に行った割礼。イスラム教徒の両親の依頼だったが、手術2日後に大量出血で病院に緊急搬送された。男児は回復したが、検察当局は傷害罪で医師を起訴した。
 一審は無罪。二審は今年5月の判決で、両親の意向だったため同様に無罪としたものの「子供の体の健全性は親の権利より優先される」と指摘、宗教上の割礼でも傷害罪と見なされるとの判断を出した。
 判決内容が報じられると、ユダヤ系の病院は割礼手術を一時中止。ロシアのユダヤ教のラビ(指導者)は「ドイツのユダヤ人に未来はない」と発言し、ナチスのホロコースト(ユダヤ人大虐殺)以来の暴挙だと激しく批判した。
 ユダヤ教では、男児の割礼は「神との契約のしるし」とされる。イスラエルの主席ラビ、ヨナ・メッガー師は今月21日にベルリンで記者会見し「ユダヤ教の割礼には4千年の歴史がある」と意義を強調した。
 事態を重く見たドイツ政府は、宗教上の割礼を罪に問わないための法案作成に着手した。ただ6月下旬実施の世論調査では56%が割礼に反対と回答している。
 ドイツにはユダヤ教徒が約10万人、イスラム教徒が約400万人いるとされる。

メモ
 自分自身へのための備忘録。

根拠のない思い込み一覧
・アメリカでは、生まれてすぐにペニスの包皮を切ることが男児の将来の幸福に繋がると信じている医師が大勢いる。
・アフリカや南太平洋の島々には、包皮を切り取ることではじめて男子は一人前になるのだと考える部族が数多く暮らしている。
・韓国ではなぜか、先進国の男性は皆包皮の切除手術を受けていると信じられている。
日本では、包皮がムケたペニスは皮かぶりのペニスより上等だという理念が今も生きている

包皮手術の失敗例
・包皮を切りすぎてエレクト時に包皮が足りなくなって痛くなったりひどいと出血を伴う。
・出生時に切除手術を受けた外国人男性のペニスを診察する機会があるが、手術によって見にくい傷跡が残ったとか、包皮と亀頭の皮膚が部分的に癒着したとか、包皮の切り方が左右均等でなかったためにペニスが曲がったとか・・・外見的になんかカッコ悪いなあとしか思えない。

包皮再生(foreskin-restoration)
 アメリカやオーストラリアでは、切除された包皮を再生して「ムケたペニスを包茎にする手術」が盛んになってきている。
 包皮が再生することでペニスが本来持っていた感覚が次第によみがえってくる。以前は亀頭の皮膚が乾燥してカサカサだったけれど、包皮に覆われることでしっとりしてきたし、セックスでの喜びも以前の何倍も強くなったという。

歴史上の包皮・包茎観
・古代ギリシャやローマの人々にとっては、包皮は価値あるものだった。包皮に包まれた亀頭こそ、ペニスの正しい有り様だと考えられていた。逆に亀頭が露出しているペニスは、汚らわしいものと考えられていたらしい。
・エジプト神話では、太陽神ラーが自分でペニスを切り、したたるその血から様々な神が生まれたとされている。

宗教的理由による割礼
・ユダヤ教徒イスラム教の信者達は、現在でも割礼を続けているけれど、その根拠になっているのは『旧約聖書』の創世記17章にある、アブラハムの割礼の記述だとされている。アブラハムは神と契約を結ぶため、一族全ての男子と一緒に割礼を受けた。このときヤハウェの神は、イスラエル人と神との契約の印として、全ての男子は割礼を受けなければならぬと命じたという。これ以後、ユダヤ教を信じるイスラエルの人々は必ず割礼を受けなければならなくなったというわけ。ユダヤ教の教えでは男児は生後8日目に割礼を受けることになっている。ユダヤの流れをくむ男性達は、ダヴィデもソロモン王もイエス・キリストもみな割礼をしたんだ。
・キリスト教もユダヤ教から分かれたわけだから最初の内は割礼を行っていた。けれども使徒パウロが「肉体の割礼」よりも「こころの割礼」が重要であると主張して、割礼の廃止を訴えた。代わりにキリスト教では「洗礼」が入信の儀式として重要視されるようになった。

医学的理由による割礼・・・「包皮性悪説
 アメリカやイギリスで割礼が盛んになったのは19世紀の半ば以降のことで、宗教的な理由ではなく、医学的な理由から始まった。その最大の理由はマスターベーションの防止だった。19世紀には、それこそありとあらゆる健康障害がマスターベーションのせいにされていた。記憶力を弱めるとか、子どもの注意力が散漫になるとか、怠け癖がつくとか・・・。
 さらに、19世紀半ばにはヨーロッパでも、女性のマスターベーションを”治療”するために割礼が行われていた。もっとも敏感な陰核(クリトリス)を切りとってしまう方法で、動機となる快楽の元を取り去ってしまえばマスターベーションをしなくなるだろうと考えた。
現在ではイギリスやフランスなどでは、女児への割礼は法的処罰の対象となっている。
 もともと包皮の切除は、マスターベーションという悪癖を直す「治療法」として医学に導入されたものだった。ところがその効能がだんだんに拡大していって、頭痛、精神障害、てんかん、体の麻痺、斜視、水頭症など、あらゆる病気に効く万能療法と見なされるようになり、習慣的なけいれんや夜驚症にも効くと考えられた。
 第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけて従軍したアメリカの兵士達は、軍医から切除を強制されたという。
 正確に云うと、医学的な割礼を行っていたのは英語圏の国だけだった。具体的にはイギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド。ヨーロッパ大陸の国々では行われていない。1950年代半ばのオーストラリアでは男性の9割が幼児期に包皮手術を受けていた(現在では1割強まで低下)。
※ 現時点では、包皮の切除には医学的メリットはない、という意見が医学界の大勢を占めている。

包皮は亀頭を守っている・・・「包皮性善説
 1949年、生まれたばかりの赤ちゃんの包皮切除には医学的なメリットがないという画期的な見解がイギリスで発表された。メリットがないだけでなく、合併症を起こしたり死亡する例もあるというショッキングな報告がBMJに掲載された(題目は「包皮の運命」by ガードナー)。小児科医であるガードナーは、包皮には亀頭を保護するという重大な役割があるんだということを、ペニスの発達プロセスに則して立証した。
 この論文が出た翌年、イギリスでは新生児の包皮切除術が保険制度の対象から外され、それ以後、手術の件数は減っていって、いまでは宗教的な割礼を除けば、きわめて少なくなっているという。オーストラリアやニュージーランドでも手術を受ける男児の比率は減ってきているけれど、アメリカだけはまだまだ高い。

ペニスの発達プロセス
 包皮ができはじめるのは受胎8週頃で、ペニスの成長と歩調を合わせて包皮も成長していく。妊娠16週頃になると、包皮は先端部までペニスを丸ごと筒状に覆って、亀頭はすっかり包まれてしまう。包皮の内側の亀頭に接している部分は、亀頭の表皮とぴったりくっついているのだけれど、この接合部分の薄い細胞層は、年月が経つにつれて少しずつ壊れていって、やがて包皮と亀頭の間には小さな隙間があちこちにできはじめる。この隙間が亀頭全体に広がっていき、すると包皮と亀頭の接合面積はどんどん小さくなって、ついには包皮をクルリと反転(リトラクト)させて、亀頭を露出させることができるようになる。
 反転(リトラクト)ができるようになる時期は人によってまちまちで、3歳までに可能になる人もいれば、20歳台まで反転しない人もいる。ガードナーは5歳までに90%以上が反転可能になると主張した(自然にムケるわけではなく、あくまでも「反転可能」です)・・・最近の報告では5歳時の反転可能率は25~30%とされている。
 日本の統計(秋田の藤原記念病院の報告)では、包皮が完全に反転できるペニスの率は、 
 6ヶ月児:0% →  11~15歳:62.9%
 1990年代に「ステロイド軟膏塗布法」が登場してから真性包茎の手術件数は減少し、現在は全体の0.07%まで下がっている。

アメリカ内での動き
 1971年、アメリカ小児科学会(AAP)が新生児の包皮切除には医学的な裏付けがないという声明を発表し、アメリカにおける包皮手術は1970年代前半をピークに減り始めたが、それでも2001年時点で55.1%が割礼を行っているというデータがある。

物心がついたら包皮がなくなってることに気づいた男性のつぶやき
 あるアメリカ人男性によると、「靴下をはいたら穴が開いていて親指が飛び出してしまっていることに気づいたときの感じに似ている」とのこと。

感覚器としての包皮
 1991年、カナダのマニトバ大学のテイラーが「生まれたときに切除される部分の包皮には、多数の神経終末がある」ことを報告した。
 包皮の先端の折り返し部分から少し内側に入ったところに「リッジド・バンド」という、小さなヒダがたくさん集まったシワシワの部分があって、そこから「Meissner小体」がたくさん見つかったという。Meissner小体は触覚小体とも呼ばれていて、圧力に敏感に反応する。解剖学的な所見からすると、包皮のこの部分は指先や唇と同じような触覚を備えていることになる。さらに包皮小帯と呼ばれる部分にも神経終末が密集していて、性的な刺激に大変敏感な場所として知られている。ユダヤ式の徹底した環状切除では、残念なことに包皮小帯もほとんど切り取られてしまう。
 包皮の先端を切り取ることは、人間が本来持っていた感覚を奪うことを意味する。包皮抜きのセックスなんて、色彩のないルノワールの絵を見るようなものだと語っている人がいるほどだ。さらに包皮を失ったペニスの亀頭は、下着の中で常に布地とこすられているうちに、表皮が角質化して厚くなり、当然刺激に対しては鈍感になると考えられる。

動物の多くは包茎
 イヌをはじめ、動物の多くは成熟後も包茎状態である。包皮で亀頭を保護していると考えられている。ちなみにチンパンジーのペニスには亀頭はない(海綿体はある)。

日本人のペニス観
 少なくとも江戸時代後期には、包茎は恥と思う日本男児のペニス観ができあがっていたようだ。華岡青洲の手術の記録には、ある僧侶の包茎を治してやったところ「これでもう包茎と謗られることもない」と大喜びしたという記録がある。「皮かぶりではないから御縁組」などといった川柳からも、江戸時代には包茎が不名誉だと考えられていたことが読み取れる。

ペニスの大きさ
 『性の人類学』(吉岡郁夫・武藤浩)によると、日本人のペニスの平均腸は8.29cm(4.2~18.5cm)と記載されている。ペニスがエレクトしたときの容積膨張率は3件の調査データによると2.8、3.0、3.5倍だった。弛緩時と勃起時の長さの差は、それぞれ4.5cm、3.4cm、4.9cmだった。つまり、ふつうにしているときに包皮がだぶついているのは当たり前ということになる。
 他に、中村亮という泌尿器科医の報告(1961年)によると、引っ張って伸ばした状態(エレクトしたときのサイズに近い)では以下のように報告されている;
 12歳:5.01cm
 14歳:7.51cm
 16歳:8.63cm 
 18歳:8.96cm
 20歳:9.50cm

包茎に関する統計
 日本では、完全にムケているのは約5%、仮性包茎率は30~80%、真性包茎は約3%。
 ロサンゼルスでは仮性包茎率は75%、ニューヨークでは79%、完全にムケているのは日本と同じく約5%。
 ちなみに、英語では「仮性包茎」は「包茎」のカテゴリーに含まれていない。ところが日本語では「包茎」も「仮性包茎」も同じ「皮かぶり」というカテゴリーに分類されてしまう医学的な見地からいくと、仮性か仮性でないかというのは重要ではなくて、包皮が反転可能かどうかってことが問題になる
 
韓国の包茎事情・・・極端に高い包茎手術率と極端に低い包茎知識
 韓国では大人になってから包皮手術を受ける人がものすごく多く、若い世代では90%を超えるらしい。この習慣は1950年代以降に始まった、まだ新しい習慣。
 第二次世界大戦後にアメリカ軍が駐留するようになって文化がアメリカナイズされていく過程で、包皮切除も盛んになっていったらしい。1971年に行われた調査では5%程度だったものが、1999年の論文では約80%が切除済み(+切除希望が7%)という数字が報告されている。
 韓国の男性は「仮性包茎は恥ずかしい」というより「包皮切除を義務と考えている」らしい。思春期の頃、夏休みか冬休みを利用して行うのがふつうで、包皮切除は、ほとんと通過儀礼のように韓国男性の人生サイクルの中に組み込まれている。
 2002年のBMJ論文では「韓国では男性の包皮切除は50年ほど前に始まったに過ぎないが、いまや世界で最も手術率の高い国の一つとなっている。包皮切除に対する韓国の医師達の誤った旧弊な理解と、包茎に関する知識不足が、この異常に高い比率の主要因とみられる」とまとめている。

恥垢の存在意義
 恥垢には発がん性があるという説も一時期合ったけど、現在ではほぼ否定されている。逆に恥垢にはペニスを無菌状態に保つ働きがあると主張する人も増えてきた。動物の多くは包茎だけど、彼らは風呂に入ったりしないから恥垢はたまったままだけど、それで病気になったりはしない。ウマの恥垢を石けんで洗うとかえって病原菌が増えるという調査結果もある。