小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「腸育をはじめよう!」(松生恒夫著)

2014年03月05日 06時49分52秒 | 小児医療
副題:子どもの便秘を放置したらダメ!
講談社、2013年発行

★ 帯のキャッチコピー
・約5割の子どもが「便秘」かもしれない!?
・「腸」のスペシャリストが教える、親子ではじめる「排便力」の身につけ方。
・親も子どもも一緒に、お腹丈夫で元気になろう。
・「賢い腸」を育てると、子どもの健康の不安がなくなる!
・排便は「腸」と「脳」の連係プレー! だから「腸」が元気になると「脳」も元気になる!



 たしか著者がTVの健康番組に出演した際、「便秘にはオリーブオイルがよい」と解説していたのを聞いて、この本を購入した記憶があります。
 買いためた手元の便秘関連本を読もうと一念発起、これが2冊目です。

 著者は消化器内科医で小児科医ではありません。
 しかし「便秘外来」を担当すると、親子そろって便秘に悩んでいる患者さんに多く出会い、安易に薬物治療を続けるより「薬を使わないで便秘を解消する方法」を模索した結論(腸育)がこの本になったと記しています。

 便秘のメカニズムやタイプの解説はそこそこで、具体的な食事内容とか、生活指導が中心に述べられています。
 「なぜそうなるのか?」にこだわる私には少々物足りないのですが、一般向け啓蒙書はこのくらいのスタンスの方がわかりやすいのでしょうね。

 乳酸菌に植物性と動物性があるなんて、知りませんでした。
 しかしこの本には「学術的分類ではなく、日本食のよさを再認識してもらうための方便」と記されており、専門家が使う言葉としては何だかなあ、という印象も受けました。

メモ
自分自身のための備忘録。

安易な下剤の服用が重症便秘を引き起こす!
 便秘の相談に小児科を受診すると「ピコスルファートナトリウム(商品名:ラキソベロン)」や「マグネシウム製剤(俗称:カマ)」や漢方薬が処方されることが多く、「腸の機能を復活させて自然の排便をさせよう」とする発想がありません。保護者の方にも、小さいうちから腸内環境を整えて排便習慣をつけるという発想が必要です。
 10代後半~20歳代の慢性便秘症の患者さんには、小さい頃から下剤を常用していた人が多いこともわかってきました。しかし下剤で便を出す習慣が身についてしまうと、自分で排便をする力が衰えます。大人向けに処方される下剤の70%以上はセンナ、大黄、アロエなどを主成分とした「アントラキノン系」です。これらは即効性はありますが副作用も大きく、常用しているとさらに便秘がひどくなることもあります。

ヨーグルトを食べると便秘が治る?
 まったくの嘘ではありませんが、ヨーグルトに含まれる動物性乳酸菌は実は腸に届きにくいので、ヨーグルトだけを食べ続けて便秘を解消するということはあり得ません。

朝食抜きが便秘の原因になる。
 朝食を食べて空っぽの胃に食べ物が入ってくると腸のぜん動運動が強まって「胃・結腸反射」が起きます。それに合わせて大ぜん動 (※)が起こり、大腸まで進んでいた便をさらに先(肛門)へと押し出すのです。朝食を抜くとこの胃・結腸反射が起こらないため、排便になかなか達しません。
 その上朝食を抜くということは、当然食事量も減りますので、食物線維の摂取量も少なくなります。
※ 大ぜん動は1日に数回しか起こらず、特に起こりやすいのは朝食後から1時間以内といわれ、通常は10-30分しか持続しません。

便秘にはオリーブオイル
 オレイン酸を含むオリーブオイルは一時的に比較的多めの量を摂った場合、小腸であまり吸収されずに小腸を刺激します。また小腸に残った食物と混ざり合うことで腸内の滑りがよくなることがわかっています。 
 オリーブオイルは生のオリーブのみを搾って作られますが、「バージンオイル」は生のオリーブのみを搾って濾過しただけのフレッシュなオイル。そのなかでも最高級品の「エキストラ・バージン・オリーブオイル」は香りもよくおいしいので初心者にお勧めです。
 オリーブオイルの摂取の目安は1日に15-30mlが理想的。
 イタリアでは子どもたちの便秘予防として、ティースプーン1杯のオリーブオイルを摂ることが推奨されているそうです。
 寝る前に飲む飲み物としてお勧めなのが「オリーブココア」。オリーブオイルとココア、お好みのオリゴ糖にお湯を咥えたもので、体を温め、腸の働きを改善する効果があります。

腸と腸内細菌
 腸には人間の免疫システムの60%が集中しています。
 成人の小腸は6-7m、大腸は1.6-1.8mで、この2つを合わせた面積は、テニスコート1面ほどになります。
 腸の健康を大きく左右するのが、腸の中に棲む約500種類、合計100兆個ともいわれる腸内細菌。
 腸内細菌は大きく3つに分類されます。
1.善玉菌・・・乳酸菌が代表。食べ物の消化・吸収を助けて体の免疫力を高めます。
2.悪玉菌・・・大腸菌が代表。腸内をアルカリ性にして有害物質を作り出すため、便秘の原因になります。
3.日和見菌・・・腸内環境によりいずれにもなりうる菌群。
 腸内では常に善玉菌と悪玉菌が勢力争いを繰り広げていて、それぞれの菌の腸内バランスは「善玉菌20%、悪玉菌10%、日和見菌70%」が理想的といわれています。

下剤の種類いろいろ
 下剤は大きく分けて「刺激性下剤」と「機能性下剤」に分けられます。
 「刺激系下剤」はさらに大腸の粘膜を刺激する「大腸刺激性下剤」と小腸を刺激して便を出す「小腸刺激性下剤」に分けられます。
 アントラキノン系下剤は大腸刺激性下剤に分類され、効果はあるものの副作用も大きい薬です。長期にわたって使用すると大腸黒皮症(大腸メラノーシス)という病気になります。これは下剤の代謝産物が腸の粘膜に入り込んでしまう状態で、具体的な自覚症状はありませんが、腸を動かす神経の層にも入り込むため、薬を飲んでいるにもかかわらずますます腸の動きが悪くなります。よく「下剤を飲んでいると耐性ができて効かなくなる」といわれますが、実はそうではなく」、このような大腸黒皮症になってしまっていることが多いのです。
 一方、小腸刺激性下剤は食用で使われるオリーブオイルやヒマシ油などが該当し、これらは副作用が少ないことからお勧めです。
 機能性下剤には副作用の少ない「塩類下剤」や、腸内の水分を増やして便を軟らかくする「糖類下剤」などがあります。

「宿便」「腸年齢」は医学用語?
 医学的には宿便と便秘は同義語です。宿便とは腸壁に古い便がこびりついたものだといわれていますが、ぜん動運動を繰り返している腸壁には、そもそも便がこびりつかないので、宿便がたまることはありません。
 雑誌やテレビでよく取りあげられる「腸年齢」についても、腸内の映像だけを見てわかる「腸年齢」というものも存在しません。

おとなとは違う子どもの便秘
 子どもにとって1歳までは排便は反射的な行為ですが、その後大脳が発達して排便の訓練が行われると、便意を自覚できるようになります。
 おとなの便秘は大抵S状結腸に便が溜まりますが、小さい子どもの場合は「直腸の中」に便が溜まるのが特徴です。
 子どもはお腹が痛くても上手く伝えられないので、日頃からチェックしていないと便秘に気づけません。
 週2回以下の排便が3ヶ月以上続いていたり、たとえ週に3回以上排便があっても痛みを伴うような場合は便秘を判断されます。

理想の便の状態
色:黄褐色~茶褐色
量:バナナ2-3本程度
硬さ:硬すぎず軟らかすぎない(練り歯磨き状)
回数:1日1-3回
におい:においはあれどキツイにおいではない。

便秘の分類
 大きく3つに分けられます。
1.弛緩性便秘
 腹筋の筋力が低下したり、大腸のぜん動運動が弱くなることで、スムースに便を肛門の外に出せなくなっている状態のこと。筋力の弱い女性や高齢者に多いとされています。
2.けいれん性便秘
 腸の働きが過敏になり、便秘と下痢を繰り返すタイプ。ストレスが大きな原因で、男性に多いのが特徴です。
3.直腸性便秘
 直腸までは便が下りてきているのに、便意が起こらないタイプ。
 ふつうは朝食を摂ると腸のぜん動運動と分節運動によって「胃・結腸反射」が起こり、その刺激が知覚神経を介して脳に伝わることで排便反射が起こります。便が直腸の中に進入すると、直腸の壁が伸びてその刺激で便意が起こります。便意を感じたときに便を出さないでいると、直腸の壁は伸びた状態のままなので、大脳へのサインも弱まってしまいます。こうして我慢が度重なることで、刺激に対する直腸の感受性が低下して、直腸内に便が入っても便意が起こりにくくなり、便はさらに溜まっていきます。
 溜まった便は硬くなるため、無理に出すことで肛門が切れて出血するようになると、排便がつらくなり、その痛みから便意を感じてもこらえてしまうようになります。またその状態が続くと便が溜まったことを脳に知らせるセンサー(知覚神経)の感度が鈍るので、ますます便が出にくくなります。この状態が長く続くと直腸が太くなるため、正常な排便感覚が失われていくのです。

母乳の中には善玉菌のエサになる「乳糖」が豊富。
 母乳に含まれる乳糖はビフィズス菌のエサになるので腸内にどんどん善玉菌を増やしてくれます。そのため授乳中の赤ちゃんの便はほとんど匂いがありません。

オリゴ糖は子どもの便秘に有効
 オリゴ糖は単糖(ブドウ糖など)が2-20個結合したもので、分解されることなく大腸まで届き、善玉菌であるビフィズス菌のエサになります。
 口から入ったオリゴ糖は大腸に到達し、腸内細菌に食べられます。腸内細菌には善玉菌の他、悪玉菌や日和見菌などもありますが、オリゴ糖を食べた善玉菌が乳酸などの酸を出すため、この酸を苦手とする悪玉菌は死滅し、善玉菌だけが増えるので腸内環境が整い、便秘改善に高い効果があるのです。
 オリゴ糖というと甘味料を連想する人が多いのですが、実は様々な食品に含まれています。
(例)乳糖(牛乳、母乳)、イソマルトオリゴ糖(ハチミツ、味噌、醤油など)、フラクトオリゴ糖(ヤーコン、玉ねぎ、バナナなど)、ラフィノース(ビート、キャベツ、アスパラガス等)、乳果オリゴ糖(ヨーグルト)
 善玉菌にはたくさんの種類があり、ビフィズス菌だけでもヒトの腸内には10種類以上あるといわれています。またそれぞれが好むオリゴ糖は違います。
 「モニラック」という下剤もオリゴ糖の一種。体への負担が少ないので、医薬品として服用するのであればモニラックが第一選択です。

食物線維の性質
保水性:便が軟らかくなり、かさが増える。
粘性:水に溶けるとゲル状になる。腸の内容物はゲル状になると腸管をゆっくり移動する。
吸着性:コレステロールや食べ物の有害物質を表面に吸着して便の中に排泄。
発酵性:一部は大腸内の善玉菌によって分解、発行する。結果的に大腸の中が酸性になって腸が健康になる。

日本人の食物線維摂取量
 1955年頃は1日22gほど摂取していたものが、現在では平均14g前後、特に朝食抜きなどにすると10-11gになります。
 便秘を解消するには1日20gが一つの目安です。
 日本人の食事摂取基準2010年版によると、1日に理想とされる食物線維の量は18歳以上の男性では19g、女性で17g以上であり、これは両手山盛り一杯の野菜の量です。
 レタスやキャベツといった葉物野菜をサラダなどでたっぷり食べているつもりでも、見た目ほどはたくさんの食物線維は摂れていません。これらは加熱し、できればスープなどにしてたくさんの量を摂った方が効率的です。

不溶性食物線維と水溶性食物線維
 不溶性食物線維は玄米やニンジン、ブロッコリーなどに含まれ、水を吸って何十杯にもお腹の中で膨らむことで便のかさを増やし、大腸のぜん動運動を刺激します。
 水溶性食物線維はなめこや海藻類に多く含まれ、水に溶けるとぬるぬるとしたゲル状になり、胃の中で食べ物を包み込んで消化・吸収を手助けします。また、腸の中にいる善玉菌のエサになって善玉菌を増やし、腸内環境をよくしてくれます。
 不溶性食物線維で便のかさを増やしたところに水をたくさん吸った水溶性食物線維の便がまざることで、便は水分を含んだ排出しやすい状態になり、排便がスムースになります。不溶性食物線維ばかりで水溶性食物線維の摂取が少ないと、お腹が張るばかりで便がスムースに排出されません。
 理想的なのは「不溶性2:水溶性1」のバランスです。
(例)キウイフルーツ・・・食物線維が豊富で、不溶性2に対して水溶性1という理想的バランス。
(例)プルーン・・・食物線維が豊富で、水溶性:不溶性=1:1。特に乾燥されたドライプルーンは栄養素がギュッと凝縮されており、体に有毒な活性酸素を中和する「フェノール」という抗酸化物質も含まれています。また食物線維の他にも便秘予防や腸の活性化に有効な「ソルビトール」という成分をはじめ、ビタミン群、カリウム、マグネシウムなどの栄養素も豊富です。

植物性乳酸菌の有用性
 ヨーグルトは動物性乳酸菌、発酵食品である味噌、漬け物、納豆、醤油、甘酒などは植物性乳酸菌に分類されます(実はこれは学術的分類ではありません)。
 植物性乳酸菌は栄養が少ない過酷な環境でも育つ菌で、酸度の高い胃液や腸液にも耐えられるという、「胃液や腸液で死滅することなく大腸まで届く力が強い」のが特徴で、生きたまま腸に届いた乳酸菌は腸内環境を弱酸性にし、善玉菌を増やします。


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