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小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「子どもに薬を飲ませる前に読む本」(山田 真 著)

2012年01月15日 14時04分14秒 | 小児医療
 講談社、2010年発行。

 子どもが風邪を引くと小児科へ行って薬をもらって一安心・・・これが平均的な日本人の親の感覚です。
 しかし、著者はこの感覚に疑問を呈します。
 「その薬、ホントに必要?」

 著者は町医者40年選手のベテラン小児科医で、長年の経験に基づいた珠玉のコメント群が詰め込まれた本です。ちょっとクセのある毛利子来氏(予防接種反対派)と共に行動している方なので話半分で読もうかと思いきや、至極まともな内容でした。西洋医学で限界を感じる分野(過敏性腸症候群など)には漢方を取り入れているのも自分のスタンスと似ていると感じました。
 ただ、あとがきにも書かれていますが「ぼくは自分が実際に経験したことについてしか書けない性格」という点が本書の魅力である一方で、短所にもなってます。一人の小児科医の経験することは自ずと限定され、それにこだわると「科学的」ではなくなってしまうのです。客観的データに基づかない判断が散見され、そこは残念でした。
(例)タミフルを含めた抗インフルエンザ薬、アトピー性皮膚炎におけるステロイドの使い方、等

 気になった箇所をメモメモ(同じ小児科医である私が得た情報と少々異なる箇所が散見されましたので、そこには灰色でボヤキが入ってます)

薬を乱用していませんか?
 薬の乱用に拍車をかけているものに乳幼児医療の無料化ということがあるのも残念なことです。いつでも気軽に医療が受けられるという日本の医療のアクセスの良さが逆に医療の受けすぎという弊害を作り出してしまったわけです。日本では病院へ行くことと薬をもらうことがほぼイコールで繋がってしまうこともあって、不必要な受診が不必要な薬を使用することに結びつくのです。
 「お薬はいりませんよ」とぼくが言うと、
 「えー、おみやげなしなの」という顔をされることがよくあるのです。
 不必要な薬を使えば弊害があります。乳幼児期に抗生物質をたくさん飲むと、後年ぜんそくなどアレルギー性の病気になる率が少し高くなるという報告もあります。

「こなぐすり」の種類について
 粉薬は正式には散剤といいます。粉末の粒子が細かいものを細粒といい、細粒よりも粒子が粗く匂いや苦味をおさえてゆっくり溶けるようにしたものは顆粒とかドライシロップとか呼ばれます。ドライシロップは水に溶けてシロップ状になります。

子どもの飲み薬の種類と使い分け
 3歳以下の子どもの場合、錠剤は咽に詰まらせてしまう危険もあるので使わないことになっています。3歳以上の子どもでも錠剤を上手く飲み込めないことが多いので、小学生になるくらいまではシロップや粉薬を使う方がよいと思います。

苦い抗生物質の飲ませ方
 薬の種類によってはジュースなどと混ぜるとかえって苦味が出てしまうこともあることを知っておいてください。
 特にある種の抗生物質では要注意です。クラリス(=クラリシッド)、ジスロマック、エリスロマイシンなどの抗生物質は、酸性飲料と呼ばれるオレンジなどの柑橘系ジュース、スポーツドリンク、乳酸菌飲料、ヨーグルトなどと混ぜると苦味が生じるので子どもは嫌がります。
 ぼくが実際に試したところでは、ここに挙げた抗生物質はウーロン茶麦茶とまぜると味が無くなって飲みやすくなりました。

熱性けいれんの頻度
 子ども100人のうち3~4人はひきつけを一度は経験すると云われますから決して珍しいものではありません。初めてひきつけを起こす年齢としては1~2歳が多いです。
 一度ひきつけた子どもがその後また高熱になったときにひきつける確率はかなり高く40%ですが、90%の子どもは一生のうちひきつける回数が2回以下です。そして6歳くらいになるとひきつけなくなるのがふつうです。5回以上ひきつける子どもも数%いますが、回数が多くても後遺症が残ったりはしません。

ひきつけ予防薬(ダイアップ坐薬)の考え方
 ひきつけを3回起こした子どもはさらに何回か起こす可能性があるので予防措置を行います。体温が37.5℃以上になったらダイアップ坐薬を肛門から挿入します。そして8時間後に38℃以上の熱があればもう一度坐薬を挿入します。これで終了です。
 それ以上使う必要がない理由は、ひきつけがふつう最初に発熱してから48時間以内に起こるからです。ダイアップ坐薬を上記の方法で2回使うと、効き目が48時間持つのです(注:メーカーの説明では24時間です・・・)
 ダイアップ坐薬を使用するか否かは保護者の選択でよく、「使わなければいけない」と考える必要はありません。
 ダイアップを使うことに医学的な意味はないのです。ひきつけが起こっても後遺症の心配はない、ただあのけいれんをもう絶対見たくないという人は使ってもいいし、ボーッとしたりふらついたりするのがいやなら使わなくてもよいのです。
 結局、ダイアップ坐薬は「またひきつけるのではないか」と不安になっているお母さんやお父さんを楽にするための薬だと考えてください。ですから「ひきつけが起こってもかまわない」と考えるお母さん、お父さんは使わなくてよいのです。
 解熱剤を使うと、熱は一旦下がっても解熱剤の効き目が切れる時間になるとまた上がりますが、この時またひきつける可能性があります。解熱剤で体温を上げ下げするより、上がりっぱなしにしておいた方がひきつけも起こりにくいと考えられるので、ひきつけやすい子にも解熱剤は使うべきではないと考えている医者が多いようです(注:医学書には「解熱剤を使っても熱性けいれんの頻度は変わらない」と書いてある方が多いのですが・・・)

腸内細菌という名の常在菌
 小腸には1mlあたり1億個の細菌細胞がひしめき合っていて、大腸には1mlあたり1000億個もの細菌細胞がいるのです。これらの腸内細菌の総重量は900gを超えます
 そしてこの膨大な細菌達は僕たちの体にとても役に立っています。
 ジェフリー・ゴードンという学者によると、人間の腸の中に常在菌がいないと腸が正常に成長しません。腸は自然の毒素や胃が分泌する強力な酸から自らを守るために、1週間から2週間に一度、腸壁を入れ替えます。成長するにつれ、新しい細胞が腸の下層から上層の方へ移動することで新しくなるのですが、この移動を促しているのは細菌が発する信号で、この信号がないと腸は正常に成長しません。
 さらに腸内細菌はビタミンを作る手助けをし、栄養素の吸収を助け、傷ついた腸細胞を修復する働きもしています。
大腸菌いろいろ
 健康な人の腸の中にふつうに存在する常在菌で、便1gの中には大腸菌が10の6乗個から10の8乗個くらい含まれています。この大腸菌は腸の中にいる間は無害だけれど、腸以外の場所、例えば胆道、尿路(尿道、膀胱など)、呼吸器などに入り込んでしまうと病気を引き起こすと云われてきました。
 しかし最近では、ふつうの大腸菌は腸以外の場所に入り込んでも病気は起こさず、病原因子と呼ばれる特別な構造を持った大腸菌だけが病気を起こすと云われています。
 また、それとは別に、腸の中でも病気を起こす病原性大腸菌と呼ばれる特殊なものも存在し、有名な出血性大腸菌もその一つです。

抗生物質を飲むと下痢するわけ
 ヒトの腸の中には無数の常在菌と呼ばれる細菌(腸内細菌)が存在しています。この中でビフィズス菌、酪酸菌、乳酸菌などは腸の調子を整え、消化を助けてくれています。
 ところが抗生物質を飲むと、腸へ到達した抗生物質が腸内の「良い常在菌」の一部を殺してしまいます。常在菌が減ると腸の調子を整える力が低下しますし、常在菌が十分存在する間は腸内に入り込めなかった病原菌が、常在菌が減ったのをチャンスばかりに入り込み、その結果として下痢が起こるのです。

健康な子どものノドにも細菌はいる
溶連菌
 健康な人100人のノドを調べたら5人くらいの人に溶連菌がいたという報告、いや20人の人に溶連菌がいたという報告があります。溶連菌は多くの場合、のどにくっついても病気を起こさないのですが、たまに病気を起こすことがあって、それは咽頭炎、扁桃炎という形になります。
肺炎球菌
 肺炎の原因になる菌ですが、もともと健康な人の鼻とノドにいることが多い常在菌です。幼児では25~50%と高率にいます。ウイルス性の風邪を引いて抵抗力が落ちているようなときにこの菌が増えると、肺炎になることもあるのです。

インフルエンザはウイルス?それとも細菌?
 実は両方存在します。
 冬に流行するインフルエンザはウイルス、乳幼児に接種するヒブワクチンのターゲットはインフルエンザ菌です。
 ややこしいですね。
 最初、インフルエンザの患者さんからこの菌が見つかったので、これがインフルエンザの原因だろうということになってインフルエンザ菌と名付けられました。
 しかしその後、インフルエンザはインフルエンザウイルスによって起こることが分かり、インフルエンザに罹っている人にインフルエンザ菌が二重に感染することがあるということもわかりました。
 その時点でこの菌の名前を別の名前に変えればよかったのですが、なぜかそのままになって今に至るものですから混乱を招くわけです。

抗生物質長期内服の危険性
 メイアクト、フロモックスなど、第3世代セファロスポリン系と呼ばれる抗生物質を長期に使うと低血糖(血液中の糖分の量が異常に低下すること)を起こすことが報告されています。
 中耳炎になってメイアクトを34日間、フロモックスを19日間飲み続けた1歳児が低血糖になりけいれんを起こした例、のどかぜでフロモックスとメイアクトを50日間飲んだ1歳児が低血糖となりやはりけいれんを起こした例などがあります。
 強力な抗生物質を長期間飲むということの危険性が広く認識される必要があると思います。

 医者の側としては、細菌感染症の患者さんに出会ったらまず原因になっている細菌は何かということを考え、最初に「その細菌には効くがその他の細菌には効果が弱い」といった抗生物質を使うようにして、広範囲に効く抗生物質は他の抗生物質が効かないときの2番手として使うことにするべきでしょう。
 また患者さんの側としては「なるべくよく効く強い抗生物質をください」というふうに医者に求めないことが必要だと思います。
 乳幼児期にたくさん抗生物質を飲むと、将来アレルギー性の病気に罹りやすくなるという事実も報告されています。抗生物質信仰をみんなで改めていくことが大事ですね。

とびひ(伝染性膿痂疹)の治療の変遷
 以前は塗り薬としてはゲンタシン軟膏、飲み薬としてはセファロスポリン系の抗生物質が多く使われていました。しかしMRSA等の耐性菌の増加によりこの組み合わせでは治りにくくなってしまいました。
 最近は塗り薬ならアクアチム軟膏、飲み薬はホスミシンが用いられる傾向があります。
 耐性菌対策としては、軽症例ではまず塗り薬だけで治療し、よくならないときに飲み薬を使おうという方法が勧められています。

中耳炎は抗生物質なしでも治る?
 急性中耳炎の自然治癒率は約80%と高いことが分かってから、欧米では「高熱があって痛みが強い」急性中耳炎でも3日間は抗生物質を使わずに自然経過を見るというのがふつうになって。きていますそして4日目になって軽快してくる様子が見えなければはじめて抗生物質を使うのです。

突発性発疹は2回罹ることがある
 突発性発疹はウイルス感染症であり、その原因はヒトヘルペスウイルス6型(発見されたのは1986年と比較的最近のこと)とヒトヘルペスウイルス7型の2種類が知られています。
 実際、突発性発疹に2回罹る子どもがいます。そのような例では、1回目の方が2回目より高熱のことが多く、この場合、1回目がヒトヘルペスウイルス6型によるもので、2回目がヒトヘルペスウイルス7型に夜ものだろうと考えられています。
 6型も7型も乳幼児期に感染した後、ずっと体の中に残っているようで、乳児が突発性発疹に罹るのは周りの大人が時々ヒトヘルペスウイルス6型、7型を外に出すため、そこから感染するらしいのです。

タミフルは危険、抗インフルエンザは必要ない?
 ・・・と著者は記していますが、その根拠は著者の経験のみであり、科学的データの基づいたものでないのが残念です。
 例えば「タミフルやリレンザが登場する以前、何十年もの間、ぼくは毎年冬にはインフルエンザの患者さんを多数診察してきましたが、重症になった人はほとんどいませんでした。インフルエンザ自体、恐い病気とは思いません」という記述があります。
 インフルエンザ脳症で目の前の患者さんが為す術亡くなっていくという経験をした私にとっては受け入れがたいコメントです。


下痢止めの種類
 塩酸ロペラミド(商品名:ロペミン)は下痢止めとしてもっともよく使われるものですが、2歳未満の子どもに対しては「原則禁忌」(よほどの場合を除いて使ってはならない)ということになっているくらい強い薬ですから、子どものウイルス性胃腸炎や細菌による食中毒の場合の下痢には使うべきではありません。
 抗コリン薬と呼ばれる下痢止めがあります。ロートエキス硫酸アトロピンなどがその仲間ですが、昔は良く使われたけれど最近はあまり使われなくなりました。
 天然ケイ酸アルミニウム(商品名:アドソルビン)は吸着薬と呼ばれ、これは腸を刺激するような有害物質や過剰な水分を吸着して腸の動きを抑える薬です。短期間使うなら副作用の少ない薬と云えます。

 ・・・私は子どもの下痢の治療に整腸剤とアドソルビンを組み合わせて使用しており、著者の意見に賛成です。それでも治りが悪いときは漢方薬を併用しています。

経口補水液(ソリタ-T顆粒、OS-1等)の飲ませ方
 経口補水液を飲ませる場合、液体であっても一気にぐいぐい飲むと吐きますから、おちょこに1杯ぐらいの少量を1回分としてほんの少しずつ与えます。ストローを使える年齢ならストローで少しずつ吸わせます。
 吐き続けているときでも少量ずつの水分補給は行います。5~6時間もすれば吐くのも自然に治まってくるのがふつうですから、薬は必要ではありません。



「チックをする子にはわけがある」

2010年01月14日 11時15分09秒 | 小児医療
NPO法人日本トゥレット協会 編、大月書店(2003年)

小児科で診療をしていると、時々チックの相談を受けます。
軽いものは環境整備を指導して様子を見ていると治まってくることが多いのですが、声を出す音声チックや複雑な動きが組み合わさるトゥレット症候群は専門医を受診するよう誘導しています。

今回、一般小児科医である私ができることはないかと以前購入したこの本を読んでみました。
著者は複数で、専門の医師から患者さんまで分担して執筆されています。
トゥレット症候群の現況を知るには偏りがなく適切な本だと感じました。

内容は、病気の一般的説明の他、経験談、専門家からの解説が順番に並んでいます。
経験談では、患者さんを抱える家族の大変さがつらくなるほど伝わってきました。
専門医の解説では、私自身の知識がいかに少なかったかを反省させられました。
特に、その病態をドーパミンとセロトニンのアンバランスで説明できることは目から鱗が落ちる思いでした。
待てよ・・・ドーパミンとセロトニン・・・この2つの物質で思い出される専門家の名前があります。
それは瀬川昌也先生。
と、思ったら、なんとこの箇所はその瀬川先生の執筆でした。
私は以前、小児神経学会へ数回参加した経験がありますが、彼はその学会の重鎮です。
先輩から聞いた話では「水戸黄門のような存在」だそうです。

治療について。
単純なチックは様子観察でよいことは頷けます。
トゥレット症候群では薬物治療を行う必要ができてますが、従来使用されてきたハロペリドールは両刃の剣で、使うタイミング・年齢を間違えると長期的に見てマイナスにもなり得ることを知りました。
そのさじ加減は、やはり専門医の診療が必要であることを痛感しました。

印象に残ったところをメモ書きしておきます;

■ 定義
1.単純チック(単純運動チック、単純音声チック)
 不随意的、突発的、急速、反復性、非律動的、常同的に起こる運動、または発声
2.複雑チック(複雑運動チック、複雑音声チック)
 比較的緩徐な、合目的的動作、または短い有意味語、短文、卑猥な言葉、動作

【分類】
・一過性チック障害:持続期間4週以上1年未満
・慢性運動性チック障害:持続期間1年以上
・慢性音声チック障害:持続期間1年以上
・トゥレット症候群:(運動チック+音声チック)持続期間1年以上、汚言症(コプロラリア)の頻度は1/3以下

■ 原因・病態
 本来必要である脳のドーパミン神経系活性の早期低下とそれに続発したと考えられるドーパミン受容体の過剰活動

■ 疫学
・頻度:学童期に約5%の子どもが体験する(トゥレット症候群は1万人に4-5人)
・発症年齢:2~13歳(平均6~7歳)
・性差:男児に多い(男:女=3:1)

■ 症状
 発症が年齢に依存することが特徴:単純チックは年少時から、複雑チックは年長になり発症する傾向がある
 知能指数は大部分正常

・単純チック:幼児期はじめに出現
  運動チック:(肩から上)まばたき、顔しかめ、首振り、肩すくめ
  発声チック:咳、咳払い、うなり、鼻鳴らし、発声
・複雑チック:多くは10歳以降
  運動チック:(手足、全身)顔面、打つ、叩く、跳ぶ、触る、臭いをかぐ、反響動作
  発声チック:単語、文節、汚言、同語反復、反響言語

<症状の特徴>
・リラックスした際に出現、ストレスや精神的緊張時に増強。集中により減弱。
(例)不安や精神的緊張があるときに増強、何かを夢中になってやっているとき、学校で勉強に集中しているときには減少し、気楽にテレビを見ているときには出現しやすくなる、等。
・その発言は抵抗しがたいが、しかし自分の意志で短時間出現を止めることも可能。
・チックが起こる部位にムズムズ感のような感覚の異常が起こることも少なくない。また、動かしたい、声を出したいという衝動、それらをせねばならないという強迫観念が先行することもある。

【併発症】
・AD/HD(注意欠陥/多動性障害):年少児に目立つ
・OCD(強迫性障害):年長児以降に目立つ
・LD(学習障害)
・睡眠覚醒リズム障害:睡眠位相後退現象を示し、夜寝る時間・朝起きる時間が日に日に遅くなり、昼夜逆転を起こすこともある

<一般身体症状および臨床神経学的症状>
① キラキラ星の手の動きが上手にできない(交互変換運動の障害):スポーツの際、野球のピッチャーではコントロールが定まらず、サッカーではPKのコントロールが上手くできない
② 筋緊張異常(猫背、側湾など):背骨の両側にある筋肉の緊張に左右差があるため
③ 閉眼足踏みでは上肢の振りに乏しい
・・・①と②の原因は「大脳基底核の異常」、③の原因はセロトニンあるいはノルアドレナリン神経系の異常。セロトニンとノルアドレナリン神経系は重力に抵抗する菌の緊張と歩行運動の制御に関係している。

■ 診断
 ミオクローヌス、バリスム、溶連菌感染による自己免疫性神経精神障害(PANDAS)との鑑別が必要

■ 治療
 専門家の間でも方針に差があり確立しているとは言い難い。

1.薬物療法
 ドーパミンが足りないがために悪循環となっている病態に蓋をするのが①、本来の循環に戻すのが②の薬ですが・・・

① ドーパミンD2受容体阻害剤(ハロペリドールやピモジド):
 効果は必ずしも一定していない、またその作用がドーパミン神経系の活性を抑制することから、副作用としての大脳基底核の機能障害を増悪させる可能性がある。ドーパミン神経系は10歳代半ばまでの発達過程に於いて大脳の発達に重要な役割りを持つため。思春期以降は問題なし。

② l-Dopa(エル-ドーパ):
 病態の肝である「ドーパミンが足りない状態」を補充する根本療法薬。極めて少量(治療量の40分の1)を使用。しかし、ドーパミン受容体が過敏になっているためチックが増悪する可能性がある。

2.カウンセリング
 環境整備によりチックは軽減するが、後に対人関係障害やOCDほか、常同行動面の障害の発言に繋がる可能性もある。
 「やさしく扱う」ことによりチックは減るが、長期的に見ると社会性が育たないのでよいことなのか悩ましい。

3.併発症の治療
・OCD:原因であるセロトニン神経系活性低下を改善させる→ 日中に覚醒レベルを上げる「日光浴」「上下肢協調運動(歩行、ランニング)」、薬物療法ではセロトニン再取り込み阻害剤(SRI)

■ 予後(長期経過)
・トゥレット症候群:通常6歳頃発症、その後チックはその程度と種類を増し、複雑チックも加わり、10歳代前半にそのピークを迎える。チック症状はその後も持続する場合も少なくないが、概して10歳代後半になると軽減または消失する。進行性の病気ではなく、予後は当初考えられていたより良い。しかし、初期治療・対応が不適切であると10歳代後半以降にもチック症状が残ることも少なくない。


書けば書くほどよくわからなくなってきますが・・・ポイントは「大脳基底核」「ドーパミン神経系」の理解だと気づきました。まとめとして以下の文章を引用します;

 子どもの脳ではドーパミン神経系とセロトニン神経系は、共にそれがコントロールする神経系を発達させる役割を持っている。したがって、乳幼児の脳ではその活性は成人より高く、ドーパミン神経系は成人の6倍以上の活性を有する。この活性は10歳までに急速に低下、15歳までかなりの速さで低下するが、その後の低下はゆっくりとなり、20歳代前半で成人のレベルに達する。
 チック症ではこのドーパミン神経系の年齢変化が健常児より早期(約3年)に進むため、幼少時期で脳を発達させるために必要なドーパミンの量が足りない状態にある(健常者の30~40%)。これが運動系および非運動系大脳基底核の機能的発達を変調させ、大脳基底核が子どもの行動の上に重要な役割をする6歳前後に、その機能的発達の障害をもたらし、運動系では巧緻運動障害、筋緊張亢進を発症、非運動機能の異常は対人関係障害を主体とした異常を発現する。しかし、非運動系大脳基底核の機能の異常は、受容体の過剰出現により大脳基底核の発達に必要なドーパミンが取り込まれたことで軽減される(あるいはその発現が抑えられる)。だが、受容体の過剰発現はチックの出現に繋がる。チックはドーパミン神経系の発達過程に従い10歳前後までは増悪するが、年齢によるドーパミン神経系の活性低下が少なくなる思春期以後は、軽減また巧緻運動障害も軽減する。
 単純チックは、ドーパミン神経系の減少が1年程度早くなった状態と考えることができる。生体にとって1年のずれは補正可能であり、治療を要しない。

 つまりチックの出現は、ドーパミンの活性が足りない状態で幼児期に動かしておくべき非運動系大脳基底核・支障サーキットを駆動させるための脳の防御反応であり、これが「チックをするわけ」である。
 根本的治療は足りないドーパミンの補充につきる。


「発達障害の子どもたち」

2009年12月13日 21時17分49秒 | 小児医療
杉山登志諸著、講談社(2007年発行)
しばらく前に「虐待という第四の発達障害」という本を紹介しましたが、今回は第四以外の第1~3の発達障害を扱った本です。
著者は「発達障害に関する誤解と偏見を減らすために書いた」とあとがきに記しています。
小児科専門医である私が読んでも役に立つ内容ですし、一般読者にもわかりやすい優れた啓蒙書だと思います。

■ 発達障害に関する13の偏見;
① 発達障害は一生治らないし、治療方法はない。
② 発達障害児も普通の教育を受ける方が幸福であり、また発達にも良い影響がある。
③ 通常学級から特殊学級(特別支援教室)に変わることはできるが、その逆はできない。
④ 養護学校(特別支援学校)に一度入れば、通常学校には戻れない。
⑤ 通常学級の中で周りの子ども達から助けられながら生活することは、本人にも良い影響がある。
⑥ 発達障害児が不登校になったときは一般の不登校と同じに扱い登校刺激はしない方がよい。
⑦ 養護学校卒業というキャリアは、就労に際しては著しく不利に働く。
⑧ 通常の高校や大学に進学ができれば成人後の社会生活はより良好になる。
⑨ 発達障害は病気だから、医療機関に行かないと治療はできない。
⑩ 病院へ行き、言語療法、作業療法などを受けることは発達を非常に促進する。
⑪ なるべく早く集団に入れて普通の子どもに接する方がよく発達する。
⑫ 偏食で死ぬ人はいないから偏食は特に矯正をしなくて良い。
⑬ 幼児期から子どもの自主性を重んじることが子どもの発達をより促進する。

 以上の項目の是非は如何に?
 著者によると、上記事項はすべて誤った見解であり、それをかみ砕いて解説したのがこの本の内容です。答えの一部を抜き出しました;

① 医療機関での診断がなされなくとも、「良い生活を送る」ことこそ、健常児にとっても発達障害を抱える子どもにも必要なことであり、すぐに取りかかることができる。
② 「参加できる授業」を用意するのが基本である。あなたが、自分が参加しようとしても半分以上は理解できない学習の場にじっと居ることを求められたとしたらどのようになるだろう。自尊感情が傷つけられてしまうに違いない。
(例)理解できない外国語のみによって話し合いが進行している会議に、45分間じっと着席して、時に発言を求められて困惑すると云った状況が、一日数時間、毎日続く・・・あなたは耐えられますか?
③ 多くの親は、また学校の教師も安易に「通常学級でやってみてダメなら特殊に移せばよい」と言う。このアイディアに私は賛成できない。ダメだったときは自己尊厳を著しく傷つけてしまい、子どもの心はボロボロになっているからである。
⑤ 良い影響があるのは、実は本人以外のクラスの同級生であり、発達障害の子ども自身にとっては何らメリットがない。
⑥ 広汎性発達障害のグループの不登校に対しては登校刺激を行わないという一般的な対応は完全な誤りである。対応を誤ればその一部が「引きこもり」の高リスク要因となる。
⑦⑧ 広汎性発達障害では、小学生のうちに診断を受けた者の方が成人した後の適応がよく、良好な転帰の割合が最も高いのは「養護学校卒業者」であった。
⑩ これらの医療モデルの治療は「習い事」「稽古事」と同じである。
⑪ 他の子どもの良い行動を積極的に取り入れるようになったときのみ有効である。そのレベルに達していないときは効果が期待できないばかりか逆効果(真似て欲しくない行動を取り入れ、真似て欲しい行動は無視する)となってしまう。
⑫ 比較的重度の発達の問題になる可能性がある場合には誤りである。
⑬ 最悪の対応は「放置」である。しばしば自主性の名の下に発達の凹凸を強烈に持つ子どもが放置されている状況を目にする機会があり、自由保育の大きな弊害である。

 他にも気になった部分を抜粋します;

■ 知能検査法解説:
 知能検査にはビネー系とウェクスラー系という二つの標準化された知能検査法がある。
【ビネー】知能検査によって示された精神年齢を算出し、それを暦年令で割ることによって知能指数を計算する。
【ウェクスラー】言語を用いた知能検査と言語を用いない知能検査(動作性と呼ぶ)に分かれ、それぞれはさらに、知能を支える様々な能力、知識のレベル、視覚的認知の正確さ、常識の有無、記憶の正確さなどなどの項目に分けて計ることができるしくみになっている。
 一般的にIQ85以上を正常知能とし、IQ69以下を知的な遅れありとする。IQ70~84は境界知能と呼ぶ。
 知能検査の値は絶対ではない。その時のコンディションでプラスマイナス15くらいは変動してしまう。

■ 動物学者ポルトマンによる高等動物の分類:離巣性と就巣性
【離巣性】生まれた直後にすでに五感の機能と運動機能がある程度備わっており、移動が可能である動物。
 (例)馬、牛など。
【就巣性】生まれた直後には五感の働きも運動能力もなく、巣の中で親の濃密な世話を必要とする動物。
 (例)猫、犬など。
 ヒトが属する猿類は、分類上実は「離巣性」となっている(サルは母親にしがみついて移動可能)。しかしヒトは究極の就巣性とも云える存在である。独歩まで1年、親の世話が必要なくなるまでなんと20年!(それ以上?)

■ 家族とは子育てのための単位である:
 ヒトと鳥類は一夫一婦制という点で共通している。非常に未熟な子どもを抱えての子育ては、夫婦の共同作業を要求するのである。つまり家族とは、本来子育てのための単位である。
 特に生後3年間は、できるだけ親は子どもの側にいて欲しいと思う。筆者としては女性の自立は必然でもありまた必要でもあると思うが、誰かが子育てを担わなくては被害を受けるのは子どもの側であり、それは社会全体に十数年後に跳ね返ってくる。

■ PTSD(外傷後ストレス障害)
 心理的外傷(トラウマ)を負った後、数ヶ月経ても不眠やフラッシュバックなどの精神科的異常が生じる病態。
 この疾患において、脳の中の扁桃体や海馬という想起記憶の中枢と考えられている部位に萎縮や機能障害など、明確な器質的な脳の変化が認められることが明らかになった。
 しかしその後の研究により、強いトラウマ反応を生じる個人は、もともと扁桃体が小さいらしいことが明らかになった。
 そして「小さい扁桃体」が作られる原因は被虐待体験らしいということが現在有力な説となっている。つまり先に慢性のトラウマに晒されて小さい扁桃体の固体が生じ、その固体が成長した後、トラウマに晒されたときにPTSDという精神科疾患を高頻度で生じるというのが結論である(現在のところ)。

■ 自閉症
<ウィングの三徴>
1.社会性の障害
・「逆転バイバイ」:ふつう乳児期後半からバイバイの真似をして手を振るようになるが、自閉症児は手のひらを自分の方に向けてバイバイする。
2.コミュニケーションの障害
・自閉症児の言葉の遅れとは単なる遅れではなく、自閉症の社会性の障害の上に、言葉が発達した形を取っている。
3.想像力の障害とそれに基づく行動の障害(こだわり行動)
・ごっこ遊び・見立て遊びが苦手である。

それ以外に、知覚過敏性、多動、学習障害、不器用など、広い発達の領域に一度に障害を生じるので「広汎性発達障害」と呼ばれている。また、自閉症には最重度の知的障害を持つものから、全くの正常知能のものまでいる。
近年の脳科学の研究により、その病態は「セロトニン系の神経の機能不全とドーパミン系の機能亢進」であることが報告され、治療薬としての選択的セロトニン再取り込み阻害剤(つまりセロトニン系の神経を賦活させる)と抗精神病薬(ドーパミン経神経を抑制)の理論的根拠が示された。

ふつうの子どもは、既に生後2ヶ月にはヒトの出す情報と機械音とを識別しているが、自閉症児ではこの選択性が働かず、お母さんの声も機会から出る雑音も同じように聞こえてしまう。いわば情報の洪水の中で立ち往生している状態である。

自閉症の認知の特徴「視覚で考えるヒト」;大まかで曖昧な認知がとても苦手で、細かいところに焦点が当たってしまう傾向がある。抽象的な概念はすべて視覚的なイメージに転換しなくては理解ができず、逆に視覚的イメージであれば、さまざまな操作も可能であるようだ。


■ 高機能自閉症・アスペルガー症候群
(・・・多くの複雑な、そして重要な問題を含んでいるので要約不可能です。興味のある方はこの本を購入してお読みください。)
 結論だけ記します;
 国際医学雑誌に掲載されたアスペルガー症候群による殺人の報告は3例に過ぎず、毎年のように生じている現在の日本の状況は異常である。この事実は、日本においてこのグループへの医療的、教育的対応が立ち後れていることを何よりも象徴しているものと思われる。
 早期に診断が可能となるシステムを構築し、虐待やいじめなどの迫害体験から児童を守り、現在の適応を良好に保つことで、このグループの触法行為は予防が可能であるのだから。

■ 自閉症グループの治療:「早期発見による早期療育」
・幼児期:集団行動の練習と養育者との愛着形成促進
・学童期:非社会的な行動の是正と学習の補助、いじめからの保護
・青年期:自己同一性の混乱に対する対応、対人的な社会性の獲得、職業訓練など

■ 注意欠陥多動性障害(ADHD)
・「多動」「不注意」「衝動性」の3つを特徴とする疾患である。それ以外に「不器用」なことが多い、知的能力に比べて「学力の遅れ」が生じることが多いことなどが主な症状である。また成長するとしばしば一緒に認められることに、情緒的なこじれ(反抗挑戦性障害など)がある。
・日本における子どもの罹患率は3~5%。
・その病態はドーパミン系およびノルアドレナリン系神経機能の失調であることがわかってきた。治療に用いられるメチルフェニデート(商品名『リタリン』、徐放錠として『コンサータ』)はこれらの神経経路を賦活する薬剤である。
・多動そのものは9歳前後に消失する。その後も不注意は持続するが、適応障害に結びつくほどの行動の問題はこのあたりから急速に改善することが多い。また不器用も一般的に10歳を越えた頃から急速に良くなる。
・ADHDの小学校時代の治療は「低学年でのハンディキャップをいかに減らすか」が焦点となる。環境調整としては、学習に際して周囲の刺激を減らし、注意散漫を治める工夫を行うこと、叱責をなるべく減らし情緒的な不安を減らすことが大切である。両親や教師など子どもを取り巻く周囲の人間がADHD児に対して「おだてまくる」覚悟が必要である。
・著者のリタリン使用法;「覚醒剤」の一種であるため使用に際しては注意が必要である。学校にいる間だけ効けばよいと割り切って、土日祝日は休薬とし、夏休みなどの長期休暇も登校日以外は休薬としている。思春期に入る前に離脱するようにしている。小学校中学年以降、多動が軽減した段階でテストなどの行事の日のみの頓服服用に切り替え、中学校年齢になれば中止する。青年期以後には原則として用いていない。

 
(・・・たいへん勉強になりましたが、1回読んだだけでは理解しきれません。今後何度も読み返すことになりそうです。)

「子育てハッピーアドバイス もっと知りたい 小児科の巻2」

2009年11月23日 21時04分46秒 | 小児医療
人気シリーズの最新刊です。
今回は小児科以外で子どもがお世話になる「耳鼻科」「皮膚科」「眼科」「歯科」の先生方が登場し、専門領域の子どもの病気についてわかりやすく解説しています。イラストも秀逸。
さすがに「餅は餅屋」で、小児科医である私でもちょっと勉強になりました。
ちょっとコメントを。

■ 耳鼻科
 「急性中耳炎」を「耳の風邪」と表現するのはうまい(座布団一枚!)。
 急性中耳炎の軽いものは小児科で治療可能ですが、長引くタイプや慢性化した滲出性中耳炎はお願いしています。
 保育園通園児が一旦中耳炎になると繰り返す傾向があり耳鼻科通院がなかなか終わらずお母さんも大変です。3歳くらいまでは免疫能未完成なのでバイ菌を排除できないからです。
 しかし、耳鼻科通院中ず~っと抗生物質を飲んでいる子どもがいて、耐性菌のことを考えると私的(小児科的)には考えられない使用法です。
 漢方薬で何とかならないかなあ、と希望する方には子どもの健康を底上げするタイプや喉周囲の炎症に効くタイプのエキス剤を処方しています。

■ 皮膚科
 勤務医時代は仲のよい皮膚科の先生に色々教えていただき勉強になりました。
 でも、アトピー性皮膚炎は悩ましい。
 他の科では「よくならないので小児科に来ました」と相談されることはないのですが、アトピーでは「いくつか皮膚科に行ってみたけどよくならず、アレルギー科のここに来ました。」という患者さんが時々受診されます。
 「いやあ、皮膚の病気は皮膚科が専門ですから・・・」と内心言いたいところですが、スキンケアや軟膏療法について一通り説明します。すると「こんな話は初めて聞いた」という方が少なからずいらっしゃいます。皮膚科の先生は忙しくて説明する時間がないのでしょうか・・・。
 皮膚科の本を読むと「スキンケアを欠かさずによい状態を保てば思春期までには落ち着きますよ」とお約束のように書いてありますが、その日々のスキンケアにかかるエネルギーは膨大なものです。軟膏治療に疲れた患者家族を見ると、つい「漢方を試してみませんか?」と言ってしまいます。合う漢方薬が見つかると、体の中から効いて皮膚の状態が落ち着いてきます。

■ 眼科
 「学童の近視は病気ではない!」という記述に目から鱗が落ちました。
 小中学校時代は眼球が前後に成長するので、近視になりやすいそうです。しかし近視とは「近くはよく見えるが遠くは見えない」状態であり、視力全部が落ちるわけではありません。「メガネ」という道具を使えば日常生活には支障が出ないし、20歳くらいになると進行が止まるから、まああまり神経質にならずともいいんじゃないですか、という言葉に安心しました(実は私の子ども達が近視進行中)。

■ 歯科
 虫歯菌であるミュータンス菌が砂糖を分解して酸を作り、その酸が歯を溶かすことは知っていました。
 私が医学生の時は「キシリトール」も「フッ素」もなく、現在はしっかり予防すれば虫歯がない一生を送れることが現実味を帯びているのですねえ。あと20年くらい後に生まれてくれば、私の虫歯の数も減っていたかも(苦笑)。

 ここまで書いてきて気づいたのですが、他の科との境界領域に私は結構漢方薬を使っていますね。「○○科へ行ってね」という前のワンステップになってくれています。

 「こんな症状のときはこの科を受診」する目安となるこの本は、きっとお母さん方の役に立つでしょう。
 早速待合室に置くことにしました。

「子ども虐待という第四の発達障害」

2009年09月06日 16時11分54秒 | 小児医療
著者:杉山登志郎(あいち小児保健医療センター心療科部長兼保健センター長)
発行:学研(2007年)

先日、NHKで「追跡 A to Z, 虐待の傷は癒えるのか?」という番組を見ました。
被虐待児の中でも発達障害をきたした子ども達を収容する情緒障害児短期治療施設(略して”情短”)の日常を紹介する内容ですが、そこにはどうしようもなく混乱し、問題を抱えた現場が映し出されていました。
この本を購入したあったのを思い出し、本棚から取り出して読んでみました。

本の内容は、虐待の現場で子どもとその親をチーム医療で支える医師から見た「虐待の病理」です。
仕事柄、私も虐待事例を扱ったことはありますが、その子達が5年後、10年後どうなっているかまでは一般小児科医は知る術がありません。この本を読んで、その厳しい現実に今までの認識が一変する思いでした。

ただし、一般書ではありますが、専門用語が飛び交うので一般読者には敷居が高いと思われます。「わかりやすく書いた」と著者は述べているものの、例えば「反応性愛着障害抑制型と広汎性発達障害の鑑別」と小児科医の私でさえピンとこないような項目があります(!?)。

 ショックだったのは、虐待は確実に脳を侵し、脳のある部分の容積が減ってしまう器質的疾患を引き起こすという事実。脳に変化が起こるということは「治らない」ことを意味します。それから、被虐待児の終末像としての「多重人格」。被虐待児はあまりにも悲惨な現実を受け入れることができず、他の人格を造って逃げることにより自分を守るという術を獲得せざるを得ない、壮絶で悲しい戦い。現実を受けとめるよりも壊れてしまった方が楽なのです。
 もしかしてオカルト映画の「エクソシスト」は虐待が裏にあったのかもしれないな、とさえ思いました。
 そして結論は、虐待は「家族の病理」であり、「社会の病理」が端的に現れたもの・・・これは予想通りでした。

気になった部分を抜き出してみます。

■ 「虐待は第四の発達障害」と認識すべきである
1.精神遅滞、肢体不自由群
2.自閉症症候群
3.学習障害
4.発達障害としての子ども虐待

■ 子ども虐待の影響は年齢による症状の推移がある。
・幼児期:反応性愛着障害(TVでも出てきた病名です)
・小学生:多動性の行動障害
・思春期:解離障害、外傷後ストレス障害、一部は非行へ
・最終的には「複雑性PTSD」(子ども虐待の終着駅症候群)に至る。
 解離が常在化して意識状態は容易に変異し健忘が生じ、多重人格を呈することが少なくない、未来への希望を持たない重度のうつ病状態となる。さらに「意味の混乱」が起きる。つまり、「自分は何のために生まれてきたのか?」という問題が吹き出してくる。答えを見つけられずに自殺未遂を繰り返すことも希ではない。

 TVの「情短」では多動性行動障害を呈するものが非常に多く、衝動コントロールが不良で、些細なことから相互に刺激をし合い、時にはフラッシュバックを起こし、大げんかになるかフリーズを生じるかといった状況を、毎日のように繰り返していました。

 実はこれとおなじような状況をTVで見たことがあります。

 内戦が終了したばかりのアフリカ某国。少年兵としてかり出された子ども達が小学校へ帰ってきました。しかしそこではケンカばかりで全然授業になりません。なぜなのか、原因を追及してみると・・・
 彼らは少年兵として数日間銃の扱い講習を受けるとすぐに前線へ送られました。そこは敵を殺さなければ自分が殺される極限状況。恐怖で身動きできなくなるのを防ぐために日常的に麻薬を使って不安を沈めているという恐ろしい現実がありました(「ブラッド・ダイヤモンド」という映画にも危ない眼をした少年兵が出てきました)。そんな体験をすると、感情のコントロールができなくなってしまうのでしょう。会話ではなく、すべて暴力で解決するようたたき込まれたのですから。

■ 子ども虐待は脳自体の発達にも影響を与える
 被虐待児の脳を調べた報告では、前頭前野および側頭葉の体積が減少し、さらに早期から虐待を受けた方が大脳が小さく、虐待を受けていた期間が長いほど脳が小さい。また、左右の大脳半球をつなぐ脳梁も小さく、小さいほど強い解離症状を認めた。元被虐待児の大人の調査では、記憶の中枢である海馬と扁桃体の体積が10~15%減少している。

<被虐待児で異常が指摘されている脳領域>
  脳梁、(島)   →  解離症状
  海馬、(扁桃体) →  PTSD
  前頭前野     →  実行機能の障害
  前帯状回     →  注意の障害
  上側頭回、眼窩前頭皮質、扁桃体 →  社会性・コミュニケーションの障害

・・・これだけ解析されている事実に驚くばかりです。なお、広汎性発達障害や一般的なADHDではこれほど明確な器質的変化は認められていないと報告されているそうです。

■ 反応性愛着障害とは?
 生後5歳未満までに親やその代理となる人と愛着関係がもてず、人格形成の基盤において適切な人間関係を作る能力の障害が生じるに至ったもの。愛着の未形成により乳幼児は無反応となり、たとえ十分な栄養が与えられていても、心身の発達の著しい遅れ、さらには免疫機能の低下までが生じ、時として死に至ることもある。
 愛着障害の症状で気になった単語を抜き出してみます:孤独感、疎外感、未来に絶望している、自分自身のみならず人間関係や人生に否定的、自分を悪い子だと思っている、愛することができないと思っている・・・等(悲しすぎます)。

・・・結果的に世紀の大実験となった「チャウシェスク・ベビー」を思い出しましたが、この本でも詳しく取り上げられていました。

■ 「しつけ」について
 「しつけ」などの社会的な練習は、こどもの欲求を抑えつけることに他ならない。愛着者の優しいまなざしが内在化されることによって初めて、愛着者の喜びを自らの喜びと重ね合わせ、社会的な規範が抑圧ではなく倫理や道徳へと転ずるのである。

・・・わかりやすい例を挙げると、尊敬する人に叱られると「気にかけてもらって嬉しい」と自己反省するけど、イヤな人に叱られるとウザイだけ、という現象です。

■ 被虐待児における傷ついた愛着の修復は、ゼロからの出発なのではなくて、マイナスからの出発なのだ。そして愛着の修復は多大の努力にもかかわらず、限定的である。傷が治癒したとしても瘢痕を残すように、一度受けた深刻な心の傷が跡形もなく消失することはもとより不可能である。我々の行っていることは「敗戦処理」であると感じることも少なくない。次世代の連鎖を完全になくすことは無理であっても、軽減させることは可能である。
 治療の困難さを考えると、第一に考えたいのが予防である。できるだけ3歳までに(特に1歳未満の子どもを抱える母子に対しては)、母子の愛着を形成するための絶好の時期であるので愛着形成をサポートすべきである。

■ 解離現象
 脳が目に見える器質的な傷を受けたわけではないのに、心身の統一が崩れて記憶や体験がバラバラになる現象(わかりにくい!)。
(例)母親から殴られる虐待が日常化していた7歳の少女。彼女は殴られるときにいつも意識を飛ばして幽体離脱をしていた。天井に上がってそこから殴られる自分を見ていたので全然痛くなかった言う。

・・・現実を受け入れられず自己防衛のため、生き残る戦略としてこのようなシステム(解離)が働くのでしょう。まるでオカルト映画の一シーンのようで、ゾッとしました。

■ 非社会的な様々な行動が生じると、周囲から「しつけの悪い子」という誤った判断を下されがちであり、両親がしつけによって子どもの身勝手に見える行動を修正しようとすると、さらに愛着の遅れが生じ、社会的な能力は遅れることになる。加えて、激しい叱責や突き放し、体罰に発展することも少なくなく、心理的虐待、身体的虐待に至ってしまう。

■ 一般的なADHDと虐待によるADHD様症状の鑑別
 多動の生じ方が異なる。ADHD様症状の方はムラが目立ち、非常にハイテンションの状態と、不機嫌にふさぎ込む状態とが交代で見られることが少なくない。一般的なADHDは眠くなると多動がひどくなるが、日内変動は少ない。
 メチルフェニデート(商品名:リタリン、コンサータ)は虐待系の多動にはほとんど無効である。
 また、反抗挑戦性障害や非行への移行は虐待系の多動は非常に多いのに対して、一般的なADHDでは比較的少ない。
 最も大切は鑑別点は、虐待系では「解離」の存在があることである。米国精神医学会の診断基準では解離性障害が認められる場合にはADHDから除外されることが規定されている。

■ 子ども虐待は「家族の病理」であり、家族というある種の閉鎖システムに穴を開ける作業が必要となる。さらに治療を行っていけば、親とその親の関係、すなわち一世代前の親子関係に必ずたどり着く。
 暴力にさらされた子どもは、治療をきちんと受けない限り暴力にとても親和性が高い大人に育ち、DV夫となる暴力的な男性に引き寄せられ、さらに自らも子どもに何らかの虐待を行う危険性が高くなってしまう。

■ 愛着障害(あるいは「虐待的きずな」というゆがんた愛着)を起こしている被虐待児に、愛情をもって接すれば子どもの心が癒されるかというと、そう単純なものではない。愛情が注がれればそれだけ逆に問題が噴出するというパターンになる。

 なぜ虐待が増えたのか? 
 結論として、著者は日本文化の変容を挙げています。
「弱者は社会が保護する」という文化がいつの頃からか無くなりつつある。家族・家庭の意味が子育ての単位から自己実現の単位に変わったとき、子どもの育ちは危機に瀕する。

・・・「虐待の連鎖」とはマスコミでよく使われる言葉ではあります。私は以前から「親子関係だけではなく、3世代、いやもっと連鎖は続いてきているのではないか?」と感じていました。それは結局「社会のゆがみ」が弱者である子どもに押しつけられた危機的状況を警告しているのでしょう。
 子どもがまともに育たない社会・・・50年後の日本は自滅しているかもしれません。

「子育てハッピーアドバイスー知っててよかった小児科の巻ー」

2009年07月05日 20時06分54秒 | 小児医療
吉崎達郎、明橋大二著、1万年堂出版、2009年発行。
大ヒットシリーズ「子育てハッピーアドバイス」シリーズ最新刊で、待っていました小児科の巻。
マンガをまじえて平易な文章で子どもの病気について説明する内容です。
今までの著者は児童精神科医の明橋先生単独でしたが、今回は小児科医の吉崎先生が共著者となっています。

ほんと、感心するほどこのシリーズは読みやすい。
そして、お母さんたちが知りたいことをピンポイントでバッチリ解説。
「子育てハッピーアドバイス」シリーズのヒットの後、雨後の竹の子のように類似本が出回りましたがオリジナルを超えるものは皆無でした。

数年前に「よくわかる、子どもの医学」(金子光延著、集英社新書)が出版され、「自分が毎日説明している内容そのものだなあ」と感じましたが新書版なので子育て中のお母さんが読むにはちょっと敷居が高い(時間がかかるという意味で)、今回のこの本はそれをさらにかみ砕いたもので一晩で読み終わる程度のボリュームです。
両方読むと、現在の若手(40歳代まで)小児科医のスタンダードな診療が理解できると思います。

風邪=抗生物質で治療は×。
解熱剤を1日3回使うのは×。
嘔吐すればすぐ点滴も×。
などなど。

早速待合室用に3冊購入しました。


「イギリスの医療は問いかける」

2009年06月22日 06時44分27秒 | 小児医療
副題 ー「良きバランス」へ向けた戦略ー
森 臨太郎 著、医学書院、2008年発行

日本の医療行政が迷走を続けています。
何が問題でどう変えればいいのか?
そんな疑問に海外での臨床経験のみならずイギリスの医療行政にも関わった経験のある小児科医が「外から見た日本の医療」という視点で答えた本です。

新聞・マスコミは医療の質を比較するのに数字をよく使います。
しかし、各国の医療システムが随分異なるので数字による単純比較は必ずしも真実を伝えないのかな、とこの本を読んで感じました。

<イギリスと日本の医療の違い>

■ イギリスでは「内科」「小児科」「外科」と同じレベルの専門科として「家庭医」「救急科」が存在する。
「家庭医」は日本の「開業医」と同じような役割を担っているが、成り立ちが違う。医師になり一定の研修後に「家庭医コース」を選択して研修を積み、資格を取って初めて「家庭医」として働くことができる。
日本のように勤務医時代は内科医として働いていた医師が開業するときに「内科・消化器科・小児科」などと専門外を標榜することはあり得ない。さらに「家庭医」は国家公務員であり、地域に何人と人数が決まっているので過剰・過疎はあり得ない。日本のように自由に開業できるわけではない。
 なお、イギリスでは医学校を卒業したらそのまま医師登録ができる。医師国家試験というものはない。

■ イギリスでは患者が医師を選択できない。
 いかなる病気でもその地域の「家庭医」(国家公務員)をまず受診しなければならない。専門科を受診したくてもできない。家庭医が必要と判断すれば紹介状を書き、そこで初めて専門科の診療を受けることができる(しかしアトピー性皮膚炎患者がアレルギー専門医の診察を受けるには予約して3ヶ月待ちと聞いたことがある)。当然、ドクターショッピングなどあり得ない。
 救急疾患は例外で、大病院がそれを担う。真の救急疾患には迅速な対応と集中治療が施されるが、軽症例はトリアージによりひたすら待たされる(ロンドンで救急外来に行くくらいなら、ユーロトンネルを通って電車でパリに行った方が早く見てもらえるというジョークがある)。
 近年「NHS Direct」と「NHS Walk-in Care」という2つのサービスが導入された(国営です!)。
① NHS Direct:24時間の電話サービスで、ちょっと心配なことがあれば、電話でベテランの看護師さんに相談に乗ってもらえる。
② NHS Walk-in Care:大きな病院にくっついた形で行われる外来。予約なしで看護師に診察してもらい、多少の薬の処方や傷の手当てくらいならしてもらえる。
(・・・日本もこのシステムを導入すれば小児科医の負担が減って医療崩壊に歯止めがかかるのになあ)

■ イギリスでは中小病院が存在しない。
 日本のように「市」単位で総合病院は存在しない。県レベルの広さに5個くらいの大病院があるのみ。そこに医師が集中している。
 これは「病院における小児科医の数の平均」に表れる。
 日本では1.8人、イギリスでは20人!
 ではイギリスには小児科医が多いのか?・・・否である。
「人口10万人当たりの小児科医の数」は日本80人、イギリス28人。
 なぜこういう数字になるのか?
 病院の数が違う。小児科のある病院の数は、
 日本:3528、イギリス:204。
 つまり、イギリスでは大病院に多数の小児科医が勤務し、中小病院に数人勤務する日本とは大きく異なる。
 近年、日本でも「医療崩壊」という名の下に中小病院小児科が消滅してきている。これは自然淘汰とも言えるかもしれない。

■ 労働条件が異なる。
 日本では労働基準法を守っている小児科医など見たことがない。労働基準法を守ったら医療そのものが成り立たなくなるというのも変な話である。一人ひとりの医師たちの超人的な頑張りで支えられてきた日本の医療の質ではあるが、医師本人の健康(肉体的にも精神的にも)が守れないのが現状である。
 医師は良心を失ってはならないが、国民は医師の良心にこれ以上頼ってはいけない。
 イギリスの医師の勤務時間は日本と比較するとかなり少ない。救急科や周産期医療ではシフト制を取っており、一次医療と二次・三次医療の棲み分けがはっきりしている。さらに現在、EUの標準勤務時間に合わせるための努力がなされており、2009年までに週48時間という目標が設定され実現に向けて努力がされている。

■ 医療にとって市場主義と社会主義はどちらがよいか?
 イギリスでは第二次世界大戦後社会主義的医療となった。医療を国営としNHS(National Health Service)を設置し、NHSの財源を税金とし、医療の無料化を実現した。
 その後競争のない社会主義的医療は制度疲弊を起こしはじめ、効率・サービスの質が低下した。
 1979年に首相となったサッチャー女史は「新自由主義」を唱え、医療を民営化しようとした。しかし国民の抵抗に遭い、市場主義原理の導入にとどまった。
 1997年に首相となったブレア氏は「第三の道」(完全な社会主義政策でもなく完全な自由主義でもない第三の道)をキーワードとしバランスの良い医療を模索した。完全な社会主義では理論的に平等に富が分配されるが、結局は効率の低下と社会の停滞、生産性の低下を招く結果になる。完全な自由主義政策では弱肉強食の世界となり、社会に格差を生み、結局は社会全体の治安や健康指標を落とすことになる。
 日本の医療制度は社会主義的だという人も多いが、その多くは個人保険中心の米国との比較である。診療報酬は統一価格であり社会主義的側面を持つが、どのような場所にも自由に開業を許され、医師の給料も自由に変えられるのは自由主義的側面であるといえる。また国民皆保険の財源は税金ではない。日本はイギリスと米国の間くらいに位置する医療制度と言える。

■ 日本の開業医とイギリスの家庭医の違い
①イギリスの家庭医は家庭医としての研修が必須であるが、日本の開業医はそのような研修を受けていない。
②イギリスの家庭医は国家公務員であり給料は一定である。ポストの数も限られている。
③イギリスの家庭医は余分な検査・投薬が行われない。収入に結びつかないからである。一方日本の開業医は借金をして土地を買い医院を建てて開業するので「商売」的側面がある。検査・投薬によりある程度「儲ける」ことができるシステムである。

<日本の医療への処方箋>

■ 日本の医療費は対GDPにおいて先進7カ国で最低である。最小限のお金しか払わないのであれば、それに値するサービスしか受けられないのはこれまたものの道理である。
 すべての機能が揃っている大きな病院が自宅近くにあり、ふだんの診療から入院加療が必要な高度な医療まで診てもらえれば、それがベストかもしれない。そのためには当然、医療費を上げなければならず、国民の財政的負担も大きくせざるを得ない。

■ 完全な医療費の無料化は避けるべきである。医療の無料化が進んだ部分は過剰医療が顕著である。
 例えば、老人医療が無料化されて、どれだけ余分な薬が処方されたか、小児医療が無料化されて、どれだけ非常識な時間帯に非常識な理由で救急外来を受診する例が増えたか、医療従事者の間ではよく知られていることである。夜中の2時に受診しても朝の10時に受診しても、同じ値段で同じ質の医療が受けられるのであれば、自分の行きたい時間に行くのが当たり前であるが、提供する医療に要する費用は何倍も違う。

■ 小児救急で当直をしていると、休みなく夜が明けるまで診療を続けることになるが、これを「宿直」扱いとしている病院は多い。宿直というのは学校の先生の宿直と同じで、不測の事態のために一晩そこに泊まっている当番のことである。その時間帯ずっと仕事をしていることを想定して給料は設定されていない。
 医師の労働条件に関しては、労働基準法の中にいくつもの抜け穴が許されていることであり、全くざるのようになっている。改善なくして医療崩壊を止めることはできない。
 

以上読んできて、日本の医療行政の大きな失敗は「家庭医科」と「救急科」を育ててこなかったことに尽きるような気がしてきました。現実に困っているのはこの2点でしょう?
 イギリスも一時医療費が先進国の中で日本と同じく低い部類でしたが、両国を比較するとだいぶ内容が違うことに気づきます。イギリスは不必要な診療を排除するシステムを構築して医療費を抑制しましたが、日本は患者側の希望を優先してフリーアクセスはそのままに、単価(診療報酬)を抑えて医療費を抑制する方向、つまり薄利多売状態へ持っていったのです。その結果が現在の「医療崩壊」ですね。
 小児救急医療を救う処方箋として、まず「NHS Direct」レベルの24時間電話相談サービスを是非実現していただきたい。そこで必要と判断された患者さんのみが病院を受診するようになれば小児科医の負担は1/3に減ることでしょう。
 小児科医を増やす必要はありません。現在、大学医学部の定員を増やしていますが、労働条件を改善しなければザルに水を流すだけで何の解決にもなりません。

<余談> WHOのシンボルマークに蛇がいる理由・・・ギリシャ神話に出てくるアポロンとコロニスの子、アスクレピオスは死者でさえ蘇らせたといわれ、医学の象徴となっており、そのためアスクレピオスの持つ蛇の巻きついた杖は多くの医学校の紋章に使われているそうです(WHOも)。