エスティマ日和

『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』2章まで収録の、エッセイ集です。独立しました。

【連載】ぼくたちと駐在さんの700日戦争 2章-第4話

2006年05月22日 | 連載
20日のお約束でございました連載 2章-第4話。が、コンピューターのない世界におりました。すみません。
大慌ての4話アップでございます。

前回までのお話。
1章 第1話 第2話 第3話 第4話 第5話 
1章 第6話 第7話 第8話 第9話 第10話 第11話
2章 第1話 第2話 第3話

2章-第4話 大応援団

我々が駐輪場でうだうだしていると、さらに下校してきたメンバーが加わり「うだうだ」は、9名に膨れ上がっていました。

そこにバレーボール部の連中がランニングからもどってまいりました。
そこには2名ほど我々の「メンバー」がいたのですが、彼らはランニングの列からはずれると、すぐさま報告に来ました。

「あのさー、駅に駐在さんがいたぞ。なにやら私服だった」。
「え!ほんとか??」

これは聞き逃せません。速攻逆襲のチャンスです。

「間違いないだろうな?」
「ああ、たぶん、電車に乗るんだと思うよ」

我々は顔を見合わせました。そして言うまでもなく、即逆襲の準備にとりかかったのです。

「次の電車までは?」
「まだ30分以上はあるぜ」。

田舎のことなので、電車の間隔は非常に長く、また行き先も「上り」以外は、ほぼ考えられません。

僕たちは、30分以内で一旦校内にもどり、「大道具」を用意する必要がありました。
しかし、僕たちには、シチュエーションごとにイタズラの「定番」がありましたので、その要領のいいこといいこと。これをもっと他のものに向ければ、きっと全員大成したに違いありません。

「あと10分だ!急げ!」

準備した大道具をかかえ、駅へととばす僕たち。
駅は、学校からは近く、自転車では、わずか5分もかからないところにあります。また、駅まではずっと下り坂であるため、2人乗りを混じえた僕たちには、実に便利でした。

駅前にすべりこむように到着すると、なにやら怒鳴り声が・・・。

「こらぁ!二人乗りはいかんぞ!」
「・・・・・って、またお前らかぁ・・・・・」。

駐在さんです。
駐在さんは、2人乗りをしていたのが僕たちだとわかると、かなり落胆したように肩を落としました。

「おまわりさん、今日、非番なんですか?」
「当たり前だ。あんなこと公務中にできるか」。

あんなこと、とは、自転車にエロ本を縛り付けたことでしょう。
私服でやってたとなると、もっと怪しいおっさんですけど。

「お?お前、西条!」

どうやら西条くんと駐在さんは初対面ではないようです。もちろん、原付での速度違反では面識があるはずなのですが。
それ以外にも、警察関係者とどういう面識があっても、まったく不思議じゃないやつでした。

「お前、死んでたんじゃないのか?」
「え?そうなんですか?」

西条くんは、我々が言い訳の為に彼を殺したことを知りません。

「そうなんですかって、お前、本人なのに知らないのか?」
ふふんと、にやつく駐在さん。
「おまわりさんも馬鹿だなぁ。本人だから知らないんじゃぁないですか」。
「う・・・・」。

西条、一本!

「おまわりさん、電車でどこかいかれるんですか?」
「あ?ああ。ちょっとヤボ用があってな。○○市までな」。

○○市は、県庁所在地。電車では1時間以上もかかります。
我々は、おまわりさんがこの「長時間電車に乗る」ことに歓喜しました。なぜ?
すぐにわかります。

「ところでお前ら、せこいいたずらしてんじゃねーぞ!」。
「おまわりさんこそ!僕はおかげで、学校じゃ変態扱いされそうなんですからね」。

この時、駐在さんは、確かにニヤリとしました。
おそらく、自分の作戦が的を得たことがうれしくてしかたないのでしょう。

「お、ママチャリ。お前、トランペットなんかふくのか?」
僕の自転車のカゴのトランペットのケースを見つけて、話をそらす駐在さん。

「ええ。すぐにわかります」。
「すぐ?」
「いえ」。
「ふーん。どんなやつもひとつくらい芸があるもんだな」。

カチーン。でも今はがまんがまん。西条くんが僕の肩をポンポンとたたきました。

そこにのぼりの電車が到着し、話は中断。駐在さんも僕らもホームへと入りました。

「なんだ。お前らもどっか行くのか?」
「いえいえ。僕らは、ホームまで見送りだけです」。
「ふーん。見送りねぇ」。

実は、ホームに入る時、僕たちは駅員さんとひともんちゃくがありました。
手荷物が大きすぎる、という忠告です。
が、これはホームまでで電車には乗らないことを伝えて一件落着。
もちろん、駐在さんは、そんなことは気にもとめませんでした。

やがて駐在さんは、僕たちにさんざん小言を残して電車に乗りました。
僕たちは、ホームから電車の中の駐在さんにさかんに声をかけました。
実は大声を出しているフリだけで、たいしたことを話しているわけでもないのですが、さかんに指などをさして、駐在さんの気をひきました。

駐在さんは、電車の窓際にきて、窓を開けました。

「あ?なんだって?」

「おまわりさ~ん。こっちこっち~!!」

「だからなんだってんだ?あ?」

窓から身を乗り出す駐在さん。
そして発車のベルがホームに鳴り響きました。

それは逆襲のベルでした。

僕たちは、用意してきた横断幕を広げました。その長さ6m!
これは高体連用の応援団のものを拝借してきたものです。

そしてシンバルを高らかにならし、トランペットでファンファーレをおもいっきり吹き鳴らしました。
電車の中のひとたちがいっせいにこちらを見ています。

そして全員でエール!

「がーんばれ、がーんばれ、駐在さん!」

横断幕にはこう書いてありました。


おまわりさんガンバレ!エロ本ありがとう!

直後、電車は扉を閉じ、驚きで声も出ない駐在さんと、爆笑する乗客たち、そして1時間にも渡る「恥ずかしさ」をつんでホームを後にしたのでした。


       2章-第5話へと続きます