エスティマ日和

『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』2章まで収録の、エッセイ集です。独立しました。

俺たちは風(前編)

2006年03月08日 | 連載

「俺たち、つかまっちまうのかな」

「つかまるわけがないさ。だって、俺たちは

 風なんだぜ。

 誰にもつかまえられないさ」

『靴の墓場』『キューピー騒動』からのお約束でございました「はじめて警察にごやっかいになった」話です。
もう、みーんな時効なんで、なんだって書いちゃいますよ。


その時。俺たちは確かに風になった。

時速30キロメートルの壁をめざして。

「捕まるかな?」

「つかまんネーよ。


  だって、俺たち


    自転車だもん


そうです。これはあまりにしょーもない実験でした。

その日、友人のひとりがバイクで捕まりました。
速度測定レーダー、いわゆる「ねずみ獲り」です。
制限速度30kmのところを、彼は「原付バイク」で50km出してしまったのです。
これが事の発端でした。

そこは下り坂であったため、原付バイクでも容易に速度を超過してしまいます。
彼にはそれがたまらなく不愉快だったのです。

彼の不平不満を聞いているうちに、ひとりが言いました。

「なぁ、自転車もレーダーに捉えられるのかな?」

つまらない、しかも、実に興味のある疑問です。

「金属だから捉えられるんじゃない?」
「でも、自転車ってスピードメーター、ないよね?」

確かに。

「だいたい免許がないだろ?」

確かに。

この話に、みんな身を乗り出しました。
ここはひとつ「実験」するしかない。

そこは、いつもネズミ獲りを行う、言わば定番のような場所でした。
突然30km制限になる下り坂は、警察にとっても、とってもおいしいスポットなのでしょう。

下見が、報告に来ました。
「まだやってる!今ならできるぞ!」
そうです。彼がつかまって1時間ほど。まだ速度取締は終わっていませんでした。

「よし!出動だ!」

我々は、20人近くの仲間で、この実験に挑みました。
まるでこの日のための5段変速。私だけが、なぜかママチャリでしたが。

レーダー、つまりねずみ取りのはられる直線道路のちょっと手前に同級生の家がありました。
そこが我々の前線基地です。
向こうも死角に隠れていますが、こちらも向こうからは死角にあたる場所でした。

ああ、あの胸の高鳴り。

作戦はこうです。

この道路は30km制限。
そこにちんたらした車が来た時に、合図とともにスタート!
車の前を自転車で全速力で走る!
もし、車に負けてしまいますと、元も子もない実験ですので、車に対し、50mほどのハンディを持って走り出す、という算段。

あとはひたすらペダルを漕ぐのみ。
レーダー測定の目前を、ただただ全速力で通り過ぎる、というものです。


「俺たち、つかまっちまうかな?」


おそらく、みなさんも興味しんしんの結果は続編へ!
そこには、とっても意外な結末が・・・・
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