エスティマ日和

『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』2章まで収録の、エッセイ集です。独立しました。

沈金師

2006年02月01日 | CG

世の中、どこを見回してもホリエモン騒動ですが、
どうなんでしょうねー。あんなに祭り上げる事もないと思うのですが。
特にマスコミは、彼には、ずいぶんと視聴率をかせいでもらったはず。
確かに「はしゃぎすぎ」でしたが、ああいう人物。必要だったと個人的には思います。
まぁ、好き嫌いは別として。

さて本日ですが。以前、欧州の芸術作品である『ロートアイアン』をとりあげましたが
ひさびさの和の芸術をとりあげたいと思います。
その名も「沈金」。
これもロートアイアン同様、どなたもさんざん目にしているのですが
やはり同様に、それが「沈金」というものである、ということが知られていません。

「沈金」とは、簡単に言いますと、漆器に、ミゾ(キズ)をつけ、そこに金箔やら銀箔を貼りまして
上からなでて金銀部分を残す、という、まぁ、絵画や彫刻の手法みたいなものです。
よく黒い漆器のお椀やらおぼんに、金色の奇麗な模様がほってありますが、あんなものです。

「あんなもの」と言うのには、理由がございまして、金色の模様の入っているものが必ずしも沈金とは限りません。
もうひとつに「蒔絵」という手法もあり、どちらもたいへんに美しいのですが、言われるまで素人はどちらかわかりません。
蒔絵のほうは、まぁ、砂絵みたいなもの、と考えていただければわかりやすいと思うのですが、
ノリで絵を書きまして、そこに金箔やら金粉を貼って、残りをはがす、という手法です。

ちなみに、水戸のご老公の印籠。あれは蒔絵でしょうね。
私、その都度、ひれふしておりましたのでよく見ませんでしたが。
あと由美かおるのキックにすっかり気をとられていた、というのもございます。

いずれも輪島あたりでさかんになりまして、現在もたくさん沈金作家=沈金師がおられます。
発祥は中国。明王朝の時代です。
日本には江戸時代に伝わりました。

沈金のすごいところは、はるか江戸時代から続いている「伝統工芸」であるにもかかわらず
日本画みたいに「進化」していることです。
「名工」とよばれる方々は、いずれも、いい「じーさん」なのですが、常に新しいことを試みていて、たんに「伝統」にしがみついていません。これってすごいことです。
新しい色や、新しいグラデーションの描き方など、実は、毎年新作や新手法が登場しています。
ほんとに地味な世界なので、あまり知られていませんが。

まずはごらんください。


こちらは金粉だけを使った「現代作品」の中でもオーソドックスなものです。
言われないと忘れてしまっていますが、これが「単色」で表現されているということのすごさ。

あたりまえですが、沈金は彫り物ですから、ほぼ一発勝負です。
このデッサンやグラデーションを頭に描けているだけでも、素晴らしいですよね。
我々、CGなどという「やりなおし」のきく、やわな世界(笑)におりますと、本当に尊敬してしまいます。

もうひとつ。



これを芸術と言わずしてなんと言いましょう?

これを70、80歳近いじーちゃんがやっていることにただただ驚くばかり。

もっとも、こちらに「無断転載」しました作品は、さすがに国も認めているもので、
作家の先生は、日展の審査員などもつとめられています。
ただのじーさんではありません。

それにしても「モナリザ」も「考える人」も、ピカソの「ゲルニカ」や、ゴッホの「ヒマワリ」も、日本人でもたいていの人が知っています。
比較対象はおかしいかも知れませんが、まだまだ脚光をあびてもおかしくない。
しかも、多くの後継者たちは、この道では食って行けない、というのがどうにも・・・
なにしろ、この芸術は、東洋にしかありません。
もったいないことです。

株の操作だけで食ってる若者は、いっぱいいるのに。

「勝ち組」とか「負け組」とかでは決められないもの、たくさんあるのに、なにかを忘れかけている日本が嫌いです。