『悪魔が夜来る』 Les Visiteurs Du Soir (仏)
1942年制作、1948年公開 配給:東宝 モノクロ
監督 マルセル・カルネ
脚本 ジャック・プレヴェール、ピエール・ラロシュ
撮影 ロジェ・ユベール
音楽 モーリス・ティリエ
主演 ドミニック … アルレッティ
悪魔 … ジュール・ベリー
ジル … アラン・キュニー
アンヌ … マリー・デア
ルノオ … マルセル・エラン
ユーグ男爵 … フェルナン・ルドウ
十五世紀のフランス。ユーグ男爵の城でアンヌ姫と騎士ルノオの婚約の披露宴があり、その余興に芸人も多勢集められ、
ジルとドミニック兄妹の吟遊詩人も呼ばれていた。しかし、二人は実の兄妹ではなく、かつては恋人同志であった男女で、
悪魔に魂を売り、その悪魔の命令によって紛れ込んでいたのです。二人の仕事は幸福な人間を誘惑し堕落させ絶望に
追いやることでした。悪魔の思惑通り、ルノオはドミニックに心を奪われ、アンヌはジルの虜になってしまった。そのうち、
ジルは悪魔の命令に背いて本気でアンヌを愛してしまう。悪魔は怒ってジルを牢屋に閉じ込めて、アンヌにジルを自由に
してほしければ悪魔の仲間に入れと強要する。アンヌはジルを自由の身にするために悪魔の申出でを渋々承知した。
やっと解放されたジルが泉のほとりに佇んでいるとそこにアンヌが追いかけてきて二人の愛が再燃する。これに腹を立てた
悪魔は抱き合っていた二人を魔力で石像にしてしまった。しかし、抱き合った石像の内部から心臓の鼓動が聞こえてくる。
怒った悪魔は狂ったように石像を鞭打つがその心音はいつまでも消えることはなかった。
この作品は次作の『天井桟敷の人々』と同様にドイツ占領下のフランスで撮られたもので、正面切ってのレジスタンスは
弾圧や銃殺をも覚悟をしなければならないため、時代を中世に設定して表向きは恋愛物語を装いながら作品の裏に
フランス人としての誇りを盛り込み、ナチスによるフランス支配に抗議の意を示したものです。映画における悪魔はズバリ
ナチ・ドイツであり、映画のラストシーンにおける石像にされても鼓動を止めない心音は、占領下でも消えることのない
フランス人の自由への心を表しており、テーマは愛であり、自由であり、何物にも負けない不屈の精神となっています。
カルネと言えば、リアリズムとペシミズムによって戦前のフランス映画の黄金期を支えた監督なのですが、これまでの彼の
作風とはガラリと変わって中世幻想譚的な作品になっています。ナチ・ドイツ占領下という異常事態の下でやむを得なかった
といったところでしょう。しかしながら、映像、特に美術の素晴らしさは、さすがカルネと言わしめる出来栄えであり、また、
カルネ作品を支えているジャック・プレヴェールの脚本がまことに見事、まるでプレヴェールの書き下ろした絶品の文学を
映像で読み通すといった表現がぴったりで、さらにカルネはこれを「ロマンスのロマンス化」として格調高く撮り切っています。
人間は自己の利益追求のため悪魔に魂を売ってはならない、真心を失ってはならないと、この中世寓話が警鐘を
鳴らしているようにも思えてなりません。
どこかの国の戦争大好きで自己利益優先の一強独裁政府に弾圧されているマスコミにも不屈の抵抗を期待したいのですが… (涙)