気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

アルゴン 斎藤寛 

2015-07-27 00:50:30 | 歌集
一枚の硝子を背負ふ人の来て一人に負はるる硝子が行けり

芋版に押されてねこは笑まひゐき熊澤醫院「よいこのくすり」

こころより数倍広い肩幅を押し通しゆく 中年と謂ふ

わたくしを展開すれば不可思議な糊代ありてぴろぴろと揺る

ひんがしのはたての部屋にくれなゐの残務一袋(いつたい)置き忘れ来ぬ

紙飛行機と紙ヒコーキの飛ばしつこ そりやあヒコーキだらうつて?ふふ。

「血も涙もありすぎつてのも困るのよ」沼津の姉の梅雨のぶつくさ

茶も出さず金も返さず百五十円飲み込んだまま自販機の黙(もだ)

傘を使ふ動物を人間といふ見よくさぐさの自己愛の花

短歌とは厄介者の子守唄、だらうか雨はほどなく止まむ

(斎藤寛 アルゴン 六花書林)

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短歌人同人の斎藤寛第一歌集『アルゴン』を読む。

斎藤寛さんとは先日紹介した短歌人会内の勉強会でご一緒していたり、校正作業のコンビを組んでいた時期もあり、と何かと縁がある。非常に真面目に短歌に取り組んでおられる。このブログに誤字脱字があれば、すぐにメールでこっそり教えてくださる。短歌関係のデータをしっかり整理してられるらしく、いざと言うとき、さっとそれが提出されるという具合だ。誠に信頼できる方である。
しかし、歌集に普通あるはずの作者略歴もなく、謎の男を演じるお心算のようだ。
集題の『アルゴン』は、およそ何の役にも立たない気体という、そのありように親近感を抱きタイトルにされたとのこと。

理屈っぽいところもありながら、自分を客観視する視点があり、それがそこはかとないユーモアを醸しだしている。表紙のもやもやは何だろう。カエルの目のように見える部分もありながら、全体像は模糊としている。これもポーズなのだろう。
何はともあれ、歌集を持たれたことは目出度い。この歌集を名刺として、歌壇に乗り込んでやろうという気迫を・・・感じてよいのかどうか、これまた迷うところ。周りが「ああだこうだ」と言うのを、含み笑いしながらそばに佇む斎藤寛の姿が目に浮かぶ。