感触を両手はずっと覚えているぱふっと潰した紙風船の
大楠のはばたく枝に抱かれよう生まれる前に戻りゆくとき
(佐々木佳容子)
土を掘るわがかたわらの草むらの中よりのぞく曼殊沙華の眼
八分の一の西瓜を買い求めふたり食べたり夕餉のあとに
(松村正直)
七十五年経ても絵の具はつややかに濡れて光れり画学生の絵に
戦地にて食べものばかり書きつづる手帳もありて無言館には
(木村敦子)
春からは東京へ行く子の皿に乳白透ける蟹刺しの花
海を刺す竜巻雲ひとつ沖に見ゆ予報にはなき黒雲は湧く
(升本真理子)
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「パンの耳④」から。参加者のエッセイ「好きな相聞歌」が収録されている。
そこで、わたしの好きな相聞歌は何か?と考える。松村さんの歌なら、最近読んでいる『駅へ』のこんな歌。
ゆうぐれに君は女の人なれば女の人のように手を振る 『駅へ』
男女の、初々しい頃の距離感が出ていると思う。しかしいまの世の中、突っ込まれそうな歌でもある。そんなこと気にしない。読みたいように読む。詠みたいように詠む。