気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

ここからが空 春野りりん 

2015-07-22 19:41:50 | 歌集
やまももと口にするときやさしくていくたびも声にいだす やまもも

幼稚園受験願書にひろびろと長所欄あり花の種をまく

われは「うを」息子は「うお」と仮名振れり夕べの卓に辞書を並べて

運命は馬のたてがみ 撫でながらひきよせて乗る春近き朝

認め印雛菊のやうに咲きさかる回覧板をいだく 朧夜

やまぼふし、えごのき、ひめしやら、なつつばき 郵便バイクはゆつくりめぐる

夏は夜 子の音読をききながら剝けばかがよふグリーンキウイ

あさがほの黒くしづもる種のなかうづまき銀河は蔵はれてあり

十八時間ねむるあひだに饂飩屋のおかみとなりてわれは立ち居す

幼子と白きみぎはに降り立てば沖へ沖へと子は行きたがる

(春野りりん ここからが空 本阿弥書店)

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短歌人の春野りりん第一歌集『ここからが空』をよむ。

りりんさんとは、短歌人内の勉強会でご一緒させていただいている。私はさぼっていて幽霊会員状態であるが、その間にどんどん巧い歌を作るようになられて、この度第一歌集を上梓された。心よりお祝い申し上げたい。

歌集は三つの章に分かれている。一章目では、お子さんが幼い様子なので、初期の作品だろう。二章目には、睦月から師走まで、季節の流れに合わせた歌が集められている。三章目は、最近の歌か。
最初から、歌は詩情にあふれて巧い。センスが光っている。また、何も説明を必要としないわかりやすい歌でありながら、深いものを感じさせる。ひとり息子さんとの関わり、年齢に応じた温かい接し方を、学ぶような気持ちで読んだ。私が短歌を始めたとき、子どもたちはほぼ成人していたので幼いころの歌はないが、けっこう酷い母親だったと思う。短歌は現実そのものではないので、これらの歌が現実と重なるかどうかは、問うべきものではないけれど・・・。

歌集になって、りりんさんの眩しいような名前と作品が多くの人に読まれ、愛されることを嬉しく思う。ますますのご活躍を!