首すじの青きひかりを眼に追えば鳩は鳩らにまぎれて歩む
光りつつ<昭和>へ延びる廊下あり松の風吹く小学校に
乳母車白鳥(しらとり)神社の階段を落ちゆく刹那みどり児の笑む
四、五日を机の上にひろげおくプリンス・エドワード島の青空
プラタナスの樹下にたたずむ写真あり二十歳(はたち)の頃かそこからの風
父母(ちちはは)と住みいしころの夜のふかさ箪笥の中にこおろぎが鳴く
たいせつに使われながら減ってゆくしろい牛乳石鹸がんばれ
ほそく垂るる蛇口の水をひきよせて盥の桃はしずかにまわる
草ぶえを鳴らして少年すぎゆけりテオとゴッホのとおきゆうぐれ
千日紅ちいさく束ねて壜に挿すこの安らぎはいずくより来る
(木曽陽子 夏時間の庭 本阿弥書店)
********************************
短歌人の先輩、木曽陽子さんの第二歌集。穏やかで垢ぬけている。ご両親との別れを思わせる歌も、ほのかに暗示するだけ。庭を愛し人を愛しながら、それは前面に出さない。抑制が効いている。
光りつつ<昭和>へ延びる廊下あり松の風吹く小学校に
乳母車白鳥(しらとり)神社の階段を落ちゆく刹那みどり児の笑む
四、五日を机の上にひろげおくプリンス・エドワード島の青空
プラタナスの樹下にたたずむ写真あり二十歳(はたち)の頃かそこからの風
父母(ちちはは)と住みいしころの夜のふかさ箪笥の中にこおろぎが鳴く
たいせつに使われながら減ってゆくしろい牛乳石鹸がんばれ
ほそく垂るる蛇口の水をひきよせて盥の桃はしずかにまわる
草ぶえを鳴らして少年すぎゆけりテオとゴッホのとおきゆうぐれ
千日紅ちいさく束ねて壜に挿すこの安らぎはいずくより来る
(木曽陽子 夏時間の庭 本阿弥書店)
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短歌人の先輩、木曽陽子さんの第二歌集。穏やかで垢ぬけている。ご両親との別れを思わせる歌も、ほのかに暗示するだけ。庭を愛し人を愛しながら、それは前面に出さない。抑制が効いている。