気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

田丸まひる ピース降る 

2017-05-22 00:37:44 | 歌集
次に目が覚めたら言うよそれまでは一葉の舟に満たすあかるさ

図書館の出窓に重ねられたまま眠る楽譜のよう春の日は

祈りとは家族映画に怯むときゆびのすき間に挟まれるゆび

菜の花を食めばふかぶか疼くのは春を紡いでいる舌の先

見なかったことはなかったことですかシャンパングラスの花の彫刻

書きかけの手紙に伏せて眠るときだれかを待っている雨後の森

夏帽子いつか呼ばれて振り返る向こう側には来世があるの

半年は死ねないように生き延びるために予定を書く細いペン

生活の中に輪ゴムを拾うとき憎しみのほんとうにかすかな息吹

若いひとと軽くくくられクロッカスわたしはわたしのために笑った

(田丸まひる ピース降る 書肆侃侃房)

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未来短歌会の田丸まひるの第三歌集『ピース降る』を読む。

書肆侃侃房のユニヴェールというシリーズの一冊。
感覚的で繊細なことばに込められた詩情を愉しむことのできる歌集、とでも言おうか。歌そのものを読んで楽しむ歌集である。お洒落で切ない。作者の経歴や実人生などを歌から想像するのは、野暮というものだろう。ざっと読んで、十首を選んだが、もう一度読むとまた新たな発見がありそうだ。

http://www.shintanka.com/univers


晩夏の海 岩崎堯子 

2017-05-09 18:40:33 | 歌集
精妙な縄縒るごとき足さばき「競歩」とはそも何のためなる

「<不苦労>のふくろうです」と貼り紙ありつまらなくなり土産店出づ

孤独死でない死がこの世にあるやうな言ひかた 月下美人が咲きぬ

順序よく頭痛、悪寒に発熱来 おもひのほかに素朴なからだ

念のためと言はれ膠原病の検査受く 少しづつ病気にしてゆく病院

足の甲に七つのわれをひよいと載せワルツ踊りし父をおもへり

ダンボールの箱の底にて蜜柑ひとつ黴に覆はる たふとからずや

玉子もて洗ひきたりしわが髪はいまだに黒したまごは偉し

このヤモリはこぞのヤモリか確実に一年老いしわれが見てゐる

救急車待ちつつ意識なき母を抱きをりしことわれを支ふる

(岩崎堯子 晩夏の海 六花書林)

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短歌人会員、岩崎堯子の第一歌集『晩夏の海』を読む。

岩崎さんとは何度か全国集会でお会いした気がする。わたしと同年代かと思っていたが、どうもお姉さんらしい。
ご両親、お兄様、娘さんの歌があり、家族の繋がりの中で生きてきた人と感じる。しかし、ここでの一首目、四首目、五首目にあるような冷めた視点の歌にこころを惹かれる。三首目も、人間の死はすべて孤独死という冷めた目が芯にあり、月下美人という結句の飛び方がよい。二首目は、激しく共感した歌。こういう土産物屋、いかにもありそうだ。七首目は、ダンボール箱の底の黴だらけの蜜柑への注目。八首目は、本当だろうかと思う。髪は玉子で洗うと白髪が防げるのだろうか。わたしは手遅れになってしまったが、すこし前なら、試してみたかもしれない。
装丁の青い水面の様子が美しく、楽しく読ませていただいた。ますますのご健栄を祈ります。

短歌人5月号 5月の扉

2017-05-02 20:42:15 | 短歌人
理髪業のサインポールと定休日つつうらうらに遍し昭和
定まらぬ客に向ひて定むる日ほかに休めば客去る定め
(針谷哲純)

通り過ぐるヘアーサロンにひとはなく鏡はならび鏡をうつす
春のきて公設市場の定休日ひだまりひろく鳩らあゆめり
(村山千栄子)

シャッターに「定休日」の紙貼られ盛り塩あれば食べ物屋と知る
大企業に若き命を捧げたるあなたに定休日をあげたかった
(謝花秀子)

火曜日の朝の鏡に映りたる女の顔に軽くウインク
火曜日の夜の鏡に映りたる女の顔に「好きだよ」と言ふ
(高田流子)

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短歌人5月号、5月の扉。題詠*定休日を詠む