からんからんすっからかんに音はなし陽射しの中に壜があるだけ
上澄みを生きているのはつまらないアメンボ飛び出すときの脚力
本の背に指かけ斜めに引きだせば子規も斜めに後頭部見す
論文の小舟を乗り継ぎながら往く研究生活十六年目
親指と人差し指のあいだにて「いま二センチ」の空気を挟む
病院に兄持ちくれし無花果の皮剝けば白き粒の乳湧く
いつもいつも仕事している祖父ならむ祖母は空色の着物のままで
柳とは馬繋ぐのに良き木らしそのような訳で出町柳は
川の字の一画目なるわたくしのはらいの脚が布団より出る
海口とよばず河口と名づけたるこころは真水に身体与えき
(いま二センチ 永田紅 砂子屋書房)
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塔短歌会、永田紅の第五歌集。2012年から2015年までの作品を収める。妊娠、出産、育児、研究者としての仕事。京都での暮らしがいきいきと描かれる。歌には発見があり、芯があり、すんなり読ませるための工夫がある。生活の場の重なるわたしはどれも頷きながら、楽しみながら読んだ。