スーパーの袋一つの手応えを提げて帰り来冬枯れの道
「次に生かす気持ちがあれば何一つ無駄なことはない」子は卒業へ
一つの目の緩さに崩れしドイリーをほどく新たに編み出す一目
十字架の見えざる重さ最後まで我も歩いて行かねばならず
「ひとつぶのしずくがなければ海もない」一斉音読窓を震わす
土産店軒下に「津波ここまで」の変色したる張り紙残る
「困った子は困っている子」ぷくぷくのAのほっぺを今日もなでやる
脈拍も呼吸も零(ゼロ)になるからだを父はしずかに脱いでしまえり
教師としてのプール指導終え横たわる水やさしくて深き青空
朝夕に子が住めるあたりをながめては病棟の窓になごむひととき
(東海林文子 しずくのこえ 六花書林)
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短歌人同人の東海林文子の第二歌集。秋田県で小学校教師として勤め上げた日々をまとめた歌集で、自分史としての色が濃い。子供の自活、父親の看取り、自身の退職と病が淡々と描かれる。会話文をうまく取り入れることで歌がいきいきしてくる。人の中で役にたつ人生ということを考えさせられた。