気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

2月の扉

2017-01-30 19:09:54 | 短歌人
夕焼けが闇と攪拌されてゆくさま屋上にひとりみている

上弦の月をぼんやり映しつつ青い目薬落しておりぬ

(鶴田伊津)

高い所を怖がるわれをむかしから許して回る大観覧車

四十八年重ねし日々の頂上に仲よくをれどあやしくなりぬ

(竹内光江)

地図のかたちと同じ半島見ゆるなりなにもそこまでと思い見つるも

スチュワーデスこの音韻の格別にわれら昭和の男は恋す

(松村威)

幾つもの頂に立ちわたくしはいったい何を見たのだろうか

わが世界せまくなりしと裏山に登りて棲みいる町を見ている

(谷口龍人)

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短歌人2月号。題詠*高い所からを詠む

短歌人1月号 同人のうた その3

2017-01-11 11:44:04 | 短歌人
「じさつした嫁とそつくりのべつぴんさん」京都駅前広場でいはれる
(西橋美保)

人の死はすべて孤独死今日も船消ゆるバミューダトライアングル
(八木博信)

三万日超ゆるあゆみか脹脛揉みほぐしをり冬至の柚子湯
(小川潤治)

晩年に入りしよろしさ足一本ふやして初冬の街に出でゆく
(古川アヤ子)

灯油の匂ひふいに過ぎりぬ夕べの道あなしづやかに冬が来てゐる
(小島熱子)

箱根蔵王湯布院別府 袋より取り出だしては湯の花さかす
(榊原敦子)

ねむるのが下手な母の血だんだんとわれに濃くなる木犀にほふ
(佐々木通代)

隣人は鈴好むらし鍵束の鈴は鳴りつつドアを開けいる
(村山千栄子)

いづこからいづこへ渡る鳥ならむ小さき形が群れなし過ぐる
(三井ゆき)

スーパーに買いてつましき秋刀魚二尾家近づけば銀とがりゆく
(川田由布子)

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短歌人1月号。同人1欄より。
西橋さんの一連、面白く読んだ。同人は七首掲載なので、何首かは載らなかったのだろうか。この人の歌にある毒に惹かれる。八木さんも毒のある歌を詠む人で、注目している。

右手より左手冷ゆる不可思議に文(ふみ)を書かむと便箋ひらく
(近藤かすみ)

短歌人1月号 同人のうた その2

2017-01-08 00:39:49 | 短歌人
文法の間違ひ指摘するときに薄皮ほどの恥ぢらひのあり
(宇田川寛之)

上州の熟るる麦畑を旅せしも人に告げねばおぼろになりゆく
(斎藤典子)

いろいろのことはあるかとおもへども山寺修象歌なきは淋し
(小池光)

「おことば」といふ不思議なる日本語に耳慣れてゆく日本の秋
(高田流子)

ひと夏を励みくれたる無花果の枝剪り払ふ来る年のため
(武下奈々子)

真闇なす冬の杜よりひとつづつ言葉取り出す人に逢ふため
(大谷雅彦)

秋風の気配に触れてベビーカー押しゆく先に海が見えたり
(倉益敬)

副作用抑うる薬に副作用ありてまた来しこのファーマシー
(宮田長洋)

アールグレイの缶をあければいつの秋 子らとあつめし銀杏の出づ
(和田沙都子)

父のしるす候文などまねたるは前髪いまだあげ初めし頃
(宮本田鶴子)

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短歌人1月号、同人1欄より。

1月号に載るのは、11月12日〆切の歌。季節がずれるのは仕方がない。
3月号の詠草を原稿用紙に清書して、投函した。また、来月に向けて作りはじめる。


短歌人1月号 同人のうた

2017-01-04 12:00:36 | 短歌人
モノレールは意外と揺れて空想をまた取り落とす秋晴れの日に
(猪幸絵)

蛾のねむり知らざりし四十年、ながき絵巻の空のそこここに飛ぶ
(内山晶太)

身支度の鏡のなかに降る雪は着地をなさずのらりくらりと
(阿部久美)

水流が馬の筋肉に見えるとき力が力を征す気配す
(生沼義朗)

ごきげんな秋のわたしをタバコとかくちぶえな気分に巻き込むな
(斉藤斎藤)

顔のなき茹で玉子のから剝きゆけば顔のなきゆで玉子あらはる
(真木勉)

コスモスの庭にたたずみ見わたせば風の抜け道あの世への道
(杉山春代)

朝のゆかより拾ふごきぶりの肢(あし)二本ほか何もなしこの死をよみす
(酒井佑子)

一つずつ終わらせてゆく些事・大事 冬空晴れる東京の街に
(西勝洋一)

渡り来て冬のいそぎに鳴きかはす水鳥のこゑは枯葦のなか
(渡英子)

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短歌人1月号、同人1欄より。