気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

月と海 松尾祥子 

2015-07-09 22:50:02 | 歌集
病院に夫をあづけてひとりの夜バラバラのからだあつめて眠る

夫のため押す保護者印その夜の夢にいちりん紅梅咲きぬ

星月夜立つ力失せ横たはる父にしづかに犀が来てゐる

原発を止めぬ愚かさこの空は一切承知 青ふかみかも

気力なき身体に載りて冴えわたる頭あるなりわがものとして

死ぬ日まで生きねばならずさらさらと胃の腑にこぼれゆく粉薬

ここでないどこかはどこにもあらざれば回転木馬にわたしを乗せる

髪洗ふ泡によぢれて混じるもの流れゆくなり夜の暗渠に

わが裡の開かざる扉ぎいと鳴る芯へ芯へと白菜剝く夜

喜びはゆつくりと来よ焼きそばの鶉の卵さいごに食べる

(松尾祥子 月と海 柊書房)

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コスモス短歌会所属の松尾祥子の第四歌集『月と海』を読む。

あとがきには、52歳から55歳の四年間の歌を収めたとある。この間、お父さまを見送り、ご夫君を見送り、大変な暮しをしておられたことが歌からわかる。これを現実と読んで間違いないのだろう。娘さんの働く姿に接したり、婚約されたりという良いこともあるが、本当だと読むと辛い歌集だ。また、ここまで歌にされる覚悟と、それを読むことに何か罪のようなものも感じてしまった。その反面、これだけ濃い関係の家族の有り様を羨ましくも思う。
上句か下句のどちらかに、意外な具体が出た歌に魅力を感じた。