気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

短歌人6月号 6月の扉

2015-05-30 21:57:18 | 短歌人
初夏(はつなつ)といふは今ごろ たばこ屋のわかば、エコーのパッケージ美(は)し

午後からの雨となりたり傘持たぬ燕は空に、蝶は木の葉に

(大越泉 燕は空に)

降る雨に池に生(あ)れゆく水の輪はしどけなきさまにひろがりゆけり

大使館前の守衛は雨のなか蝙蝠傘を手に仁王立ち

(取違克子 雨滴)

大過なく定年退職したりけり母に手料理つくらむと思ふ

車椅子を押しつつ傘を開きたり「わたしが持つよ」と言ひたまひけり

(野村裕心 車椅子に傘)

傘さして一歩前への気概にてざんざか雨降る庭に出で立つ

強風にのけぞる傘をなだめつつ身体も風に煽られている

(おのでらゆきお ざんざかと雨)

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短歌人6月号、6月の扉。題詠*傘をさしながら詠む歌




月の陰翳 柘植周子 

2015-05-27 14:33:59 | 歌集
ほのかなる香りまとへるゆりの花おのれ視るべく薄暮をひらく

嘴あかき折鶴の胸さし貫くは紙縒なりけり夜の鋭意に

深鉢の縁(へり)にたまごを打ちつけて割ればそこひに潤沢の月

水底に沈みて切手ずぶ濡れの小野小町と藤原定家

食卓の昼の閑疎を吸ふごとく缶より出でし海苔湿りそむ

いまのいまかうであらねば生きられぬ水引草の赤き点綴

春の潮匂ふ鹿(ひ)尾(じ)菜(き)のひとつかみ水に放てばしばらくの閑

いちまいの縹色なる天蓋に三日月型の空隙ありぬ

ころがりし鉛筆ゆかにとどまればみどり深沈そこより歌ふ

秀の朱き酸葉が道に落ちてゐる 父が恋しと振る尾が欲しい

(柘植周子 月の陰翳 六花書林)

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短歌人同人の柘植周子(つげ・ちかこ)の第四歌集『月の陰翳』を読む。

毎月の短歌人誌で、柘植さんの歌は読んでいたが、一冊の歌集になってみると、歌の巧みさに感心させられた。熊本で安永蕗子のもとでしっかり研鑽を積んできた方なのだ。経歴を読んで、はじめて知った。
だから、どうということもないのだが、作品の質の高さは紛れもない。

一首目。上句美しく、下句ではっとさせられる。ゆりの花は「おのれ視るべく」咲くという把握。そとから見るのではなく「視」の字に自らを思うことかと想像させられた。ゆりの花は筒とまでは行かないが、中は薄暗いだろう。
二首目。折鶴を千羽鶴にするために紙縒を通している場面か。なんとなく残酷なものを見たような気になる。「あかき」「胸さし貫く」という言葉のせいだろう。結句、「夜の鋭意に」がうまい。三首目では割った卵を「潤沢の月」と言っている。なるほど。四首目は、使った切手を茶碗にでも入れて再利用しているのだろう。小野小町と藤原定家がずぶ濡れというのが、なんとも可笑しい。上手い歌の途中にこういうユーモアの歌があると、なおさら笑いを誘う。十首目は、亡くなった父を偲ぶ歌だが「振る尾が欲しい」がユーモラス。上句の写実との距離がいい。五首目の食卓の海苔、七首目のひじきも、日常の食材から、こんな素敵な歌になると感心する。六首目の水引草。これが出てくるまでのひらがなながら切羽詰まった内容。この対比は、なんだ!と思って読んだ。九首目も好きな歌。鉛筆というのも、いまや懐かしいアイテム。「みどり深沈」だから、三菱鉛筆なんだろうな。結句「そこより歌ふ」で作者の覚悟が見えた気がした。
ここには、十首を挙げたが、ほかにも挙げたい歌はたくさんある。歌集全体から、そぎ落とす歌はないと思うほど完成度が高い。
勉強させていただいた。ありがとうございます。

余談ですが・・・

2015-05-25 18:35:33 | 日記
前のブログに入ることができなくなって、ほぼ一年が過ぎました。
しかし、まだあちらを見て、コメントをつけてくださる方がありました。公開できないので、こちらで公開しますね。
いまさらながら古い記事ですみません

雲ケ畑まで 発売中

特急の電車シートの沈みつつ夜に紛れる ひとりが好きだ

ああ、また、ほら、喋つて止まぬ人が居るあれはさう、もうひとりの私

手をふつて別れたときの表情をおもふのだらう つぎに逢ふまで

(近藤かすみ 『雲ケ畑まで』)

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短歌人2月号では『雲ケ畑まで』の批評特集を、3月号では表紙ウラのページで、紹介をしていただきました。
2月号の執筆者は、魚村晋太郎さん、田中教子さん、内山晶太さんのお三人です。

3月号には紹介文が付いているのですが、これがなかなか褒めていただいていて、ありがたいことです。署名はKと書いてあるだけ。編集委員の中でイニシャルKは三人。どのKさんかは知りませんがありがとうございます。

鱧と水仙40号でも、書評を小島ゆかりさん、中津昌子さんに書いていただきました。

『雲ケ畑まで』絶賛発売中です。コメント欄に書きこんでいただければ、販売いたします。

(画像は、去る2月9日の批評会で、香川ヒサさんから花束をいただいているところ)


・コメントを書いた人
よいこ

・タイトル
はじめまして

・コメント
現代短歌雑誌をさぐっていたら、いい歌に出会えました。
ドラマの一シーンのようなさりげなさがいいいです。
なん度も読み返しそうな予感がします。




短歌人5月号 同人のうた その3

2015-05-20 16:01:06 | 短歌人
あるいてあるいて探すひとりのみつからぬ揺れることなき蠟梅にほふ
(山下冨士穂)

みんなみの繁みがくれに下がる実が誰をも待たず太りいるなり
(梶田ひな子)

三月の雨にはわけがある今日も明日も雨でありますように
(高田薫)

断崖(きりぎし)にすみれの花置き多田智満子詩魂の人も杳き世のひと
(佐竹田美奈子)

シロウオを飲まむとすれば一斉に並びし眼(まなこ)みな我をむく
(藤本喜久恵)

感傷にとらはれてゆく快感のぶらんこ揺らす春の日の暮れ
(高田龍子)

人生の最後の転居は身ひとつと君の訃報に鳴く百千鳥
(大森益雄)

ゆきずりの鉄砲火薬店のぞきたれどストーブ燃えて人かげはなし
(小池光)

特急にぬかれる暗いよろこびの京浜急行各駅停車
(藤原龍一郎)

廃炉いまだ成らざるものをたがための帰還ならむか五年目に入る
(紺野裕子)

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短歌人5月号、同人1欄より。